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作者の気持ち

今週分の更新です。

楽しんでいただけると幸いです。

よろしくお願いします。

やればできる、やらないからできないだけだ。

そんなことを言う大人がいた。その言葉が間違いではないと思うが、それでも、それでも、どれだけ頑張ったとしても出来ないことはある。


だってそうでしょう――。

翼のない人に、精霊術を使わずに空を飛べと言って飛べるかしら。

いいえ飛べるわけないわ――。

だって、人の体は空を飛べるような作りになっていないのだもの。


そんなことを考えながらニーニャはテーブルに顎を置き、両手で支えている教科書を眺めていた。


2人1組で小説を書いて文化祭で公開するという話を聞いてから1月程経った本日。

文化祭で公開する小説の設定もままならない中、ニーニャは現代文を勉強を強要されていた。

「ねぇ、明人……そろそろ私たちも文化祭に出す小説の設定とかを考えないといけないと思うのよ」

教科書の向こうに見える明人にニーニャが話しかける。


「そうだね、僕もそう思うよ」

「でしょ! だから今はこんなことをやっている暇はないと思うのよ!」

テーブルから顎を上げ、ニーニャは目を輝かせる。

「でもね……」

そう明人が続けた瞬間、ニーニャの瞳から光が消え、教科書を支えていた両手は自然と耳を塞ぐ。

「期末試験が近いんだから、それまでに苦手な現代文を勉強しないといけないだろ」

「聞こえないー! そんなの聞こえないんだから!」

テーブルを挟んで対面にいる明人の言葉はニーニャの両手を通り越し、微かながらでもニーニャの耳に聞こえている。

しかし、そんな言葉は聞きたくないと、ニーニャはブンブンと頭を振りながら明人の言葉が聞こえないふりをしていた。


「ニーニャ、聞こえないふりをしたって、期末テストはやってくるんだ。それとも、文化祭に不参加でもいいのか?」

「うぐっ……」

明人は的確にニーニャが気にしている点を指摘する。

中間試験の結果が悪く補習を受けたニーニャであるが、この度文芸部の顧問であり、現代文の教員である緑から今回の試験で赤点を取った場合、文化祭へは参加させないと言うお達しを受けていた。


「こうなったら、補習の時と同じく丸暗記をするしかないわね」

ニーニャが顎に手を置き、目を細める。

「補習の時は事前に問題と解答がわかってたから出来たけど、今回はどんな問題が出るかわかってないんだよ。どうやって暗記するの?」

明人から事実上の暗記不可能宣言を宣告される。

「じゃあ、職員室からテストを盗むって言うのはどう!」

名案と言わんばかりに明人にいいよるが――

「それ、先生に見つかったら文化祭への参加どころか、部活を退部させられるかもよ。そういうところ、森山先生は厳しいから」

がっくりと肩を落としたニーニャはテーブルに頰を乗せ、両手で支える教科書をまた眺め始める。


「とはいえ、このまま教科書を眺めてるだけじゃニーニャのモチベーションも下がる一方だろうし」

そう言って明人は問題集を取り出した。

「この問題集をやっていこうか」

明人が取り出した問題集を教科書越しに見たニーニャは、すっと教科書に目線をそらした。


ニーニャの持っていた教科書を掴み、取り上げようと明人は力を込める。

「だめ……明人……そんなに強くしたら……破れちゃうわ……ぽっ」

教科書を取り上げようとする明人に負けじと、ニーニャも教科書を持つ手に力を入れる。

「何が、ぽっだよ、ただ眺めてるだけじゃ勉強って言わない――」

明人がさらに力を強め、ニーニャから教科書を取り上げ――

「んだよ!」

取り上げた教科書の代わりに明人はテーブルの上に取り出した問題集を置いた。


「ぐうぅ」

ニーニャは恨めしい目で明人を睨め付ける。

「まぁ、ただ問題集を解けって言っても、ニーニャだって辛いだろうから、問題を10問解けたら今日の勉強は終わりにしよう」

「ほんと!」

「うん、嘘は言わないよ」

「じゃあ、終わったら小説の設定を考えていいのね!」

そういってニーニャは勢いよく問題集を開き、問題を解き始める。


数分後――


「だめ、やっぱりだめよ、こんなの、こんなのできるわけがないわ」

そう言いながらニーニャは頭から煙を上げながら、問題集に頭を落とした。

「んー、ニーニャはさ、何がわからないかはわかる?」

「なによ、明人は私をなんだと思ってるのよ。自分がわからないところはわかるに決まってるじゃない」

問題集の上に頭を置いたままニーニャは答えた。


「いやいや、本当にわからない人っていうのは、何がわからないのかわかってない事があるからさ」

明人は遠い目をしながらそう語った。

「そこから考えたら、ニーニャはわからないところがわかってるぶん教えやすいよ」

「えっ答えを教えてくれるの!」

ばっと問題集から頭を上げて嬉しそうな表情で明人を見る。


「いや、答えは教えないよ。考え方を教えるだけだよ」

「えー……うーん、まぁ、それで手を打ってあげるわ」

一瞬嫌そうな顔をしたが、何も教えて貰えないよりはマシと思ったニーニャはすぐさま明人の隣に問題集を持って移動した。


明人に解き方を教えて貰いながらなんとか問題を解いていき、8問目に到達した。

「この問題見るたびに思うけど、“この時の作者の気持ちを答えよ”って何よ。私が書いた物語じゃないんだから、分かるわけないじゃない」

ニーニャはしかめっ面をしながらブツブツと文句を言う。

「ぷっ――」

昔は試験でその問題を間違えるたびに、言い訳がましくニーニャと同じ文句を瑞波や健人に言っていた物だと思い出し明人は思わず吹き出していた。

「今笑ったわね! 明人だってそんな風に思ったことあるんじゃないの!?」

「まぁね。僕もその問題を間違えるたびにニーニャと同じことを言ってたよ」

「ほら、明人だって同じじゃない! やっぱり他の作者の気持ちなんてわからないわよ!」

手に持っているシャーペンを明人の方に向け、ニーニャが問題に対して抗議する。

「うーん、じゃあさ、1つ質問」

「なによ?」

「ニーニャは小説を書く時、どんな気持ちで書いてるの?」

「楽しいシーンを書く時は楽しく、辛いシーンを書く時は自分の辛い経験を思い出しながら――」

ニーニャはスラスラと自分が小説を書く時にどんな気持ちで書くかを説明した。


「きっとこの問題で出された物語の作者も、同じような気持ちを持って書いてるんじゃないかな」

「うーん、そうかしら。だって、その人の性格や経験によって書いてる時の気持ちなんて全然変わるんじゃないの」

「まぁ、そうかもしれないけど、でも根本的な部分はやっぱり同じだと思うよ。人間だもん」

明人がそう言うとニーニャは難しい顔をして黙り込んだ。

「うーん、そっか、私が人間じゃないからこの気持ちがわからないのか!」

閃いたと言わんばかりにそう言ったので、明人はニーニャの頭の上に軽くチョップを落とした。

「何するのよ! だってそうでしょ、私はエルフだもん! 人の気持ちなんてわからないわよ!」

「いや、今までの行動を見てると意外とエルフと人間の感情表現はほぼ共通してると思うよ。恋愛感情以外はね」

「チッ!」

明人からの的確なツッコミにニーニャは自然と舌打ちをしていた。


「そんなことしてる時間はあるのか?」

ちょいちょいと明人が時計の方を指さす。

「うわっ、もうこんな時間なの……早く解かないと」

再度問題に目を落とし、とりあえず明人に言われたことを参考に8問目を解いた。

それから30分後、なんとかニーニャは問題集の問題を全て解き切った。


「さぁ、さぁさぁ! 問題を解き切ったわよ!」

「お疲れ様。それじゃあ約束通り、文化祭の小説の設定を考えようか」

問題集を片付け、明人がこれまで考えた設定を書き取ったノートを取り出した。


「で、キャラクターの設定についてなんだけど――」

と明人が話し始るのとほぼ同時に部屋の扉が開いた。


「ただいま戻りました」

開いた扉の前には健人の家での打ち合わせに行っていたレフィアが立っていた。

「レフィアさん、おかえりなさい」

「おかえり、レフィア」

レフィアが部屋の中に入ってくると、イソイソとタンスから服を取り出す。

「打ち合わせどうでした?」

明人がレフィアに尋ねると――

「やはり物語を作るというのは難しいですね。健人さんと一緒に色々考えているのですが、考えがなかなかまとまらず……」

困った顔をしながらも声音は楽しそうであった。


「さて、それではニーニャ様」

タンスから出した服を手に持ち、レフィアがニーニャの方に向き直る。

「なに? レフィア。今明人と小説の話をしてるんだけど」

「お風呂に行きますよ」

「へ? 私もうお風呂に入ったわよ」

ニーニャが上擦った声で応えながら、明人の方に視線を向ける。


「そういえば、ニーニャ、レフィアさんが戻ってくるまでお風呂に行かないって言ってたよね」

「ちょっと、明人、そこは話を合わせてよ!」

ニーニャがワタワタと焦りながら明人に抗議する。


「つまり、まだお風呂には入っていないと言うことですね」

「うっ……うん。でも、今まで勉強してて小説の話が一切できてないの。だからもう少しだけ時間を頂戴!」

懇願するニーニャを見たレフィアが思案する。

「うーん、それでは明人さんにもお風呂場まで来ていただきましょう」

「へ?」

レフィアの提案に明人が変な声を出した。


「いやいやいやいや! どうしてそうなるんですか!」

「流石に今まで勉強を頑張っていたニーニャ様に、小説の設定を考える時間をあげられないのは心苦しいです」

「はい、それはそうでしょうね」

明人は1つ頷く。

「しかし、お風呂には入らないと就寝時間も近いです」

「はい、それも承知です」

明人は1つ頷く。


「であれば、私たちがお風呂に入り、明人さんは脱衣所からニーニャ様と会話していただき、小説の設定を書いて貰うしか手がないじゃないですか」

名案と言わんばかりに、レフィアが力強く握りこぶしを作りドヤ顔をする。

「いや、それおかしいですよ! 明日にするとか色々手はあるでしょ!」

「レフィア! その案いただき! ってことで、明人も脱衣所に行くわよ」

「いやいやいやいや、ちょっと待って、ちょっと冷静になろうよ」

明人が両手を振るが、ニーニャとレフィアはやる気満々であった。


「レフィア、明人をお願いね」

「わかりました。ニーニャ様」

ニーニャはレフィアから服を受け取り、レフィアは企画ノートと筆記用具、明人をホールドし脱衣所へと向かう。


「何してんのよ明人、レフィアちゃん」

脱衣所の前で春奈と遭遇し、明人が助けをお願いしようとする前に――

「春奈様、明人さんが逃げないようここで見張っててください。私たちがいいと言ったら明人さんを脱衣所に入れてあげてください」

とレフィアは春奈に伝言を残し、明人を廊下に置いて脱衣所に入って行った。


「いやいや、どういうことよ」

「えっとですね――」

明人が春奈に事情を説明する。


「なるほどね、それは明人が脱衣所に入るべきね」

「うそでしょ!? 春奈さんなら許さないと思ったのに!」

春奈からの予想外の回答に明人は声を荒げる。


「ニーニャちゃんが勉強を頑張ってたのは付き合ってた明人が一番よく知ってるでしょ。その頑張りにご褒美をあげないとね」

春奈がそう言うと、お風呂場から――

「春奈! 明人を入れていいわよ」

少し反響した声が聞こえてきた。


「まっ、ガラス1枚を隔てて女の子の裸を意識する経験なんて中々出来ないんだから、ラッキーと思って頑張りなさいな」

そう言って春奈は明人を脱衣所に入れる。


「明人、入ってきた?」

「うん、入ってきたよ」

明人は緊張して声が上ずり、変な声でニーニャに応えた。


この状態のまま30分以上か――

そんなことを考えながらも明人は懸命に煩悩を抑えながらニーニャと小説の設定を詰めていったのであった。

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