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ゴールデンウィーク初日の悲劇

新年明けましておめでとうございます。

本年もよろしくお願い致します。

少し更新が遅れましたが、今週の更新です。

楽しんで頂けると幸いです。

よろしくお願いします。

ゴールデンウィーク__

休日が数日間連なり、4〜5日間の連休が得られる学生からすればありがたい習慣である。

そんなゴールデンウィークが明日から始まろうとしている最中、とあるイベントが水面下で進められていた。


少し薄暗い街の寄り合い所にて、複数人の影が揺らめく。その中には、春奈の姿も見受けられた。

「天城さん、今年もよろしくお願いしますね」

「当然ですよ。それで、報酬の方なんですが……」

「わかってますよ、今回もいつも通りの報酬をご用意させていただきます」

「いやぁ、いつもありがとうございます」

「いやいや、こちらこそ、毎年助かってますよ。あっ、それと」

影の一つがゴソゴソとカバンを漁り、中からビニール袋を取り出した。


「これ、昨日家で取れた新じゃがと春キャベツです」

そう言いながら取り出したビニール袋を春奈に手渡す。

「うわっ、ありがとうございます!」

ずっしりとしたビニール袋の中には新じゃがが10個に春キャベツが2玉入っており、中を見た春奈は__

「うわっ、こんなに貰っちゃっていいんですか?」

「家内とワシだけじゃ食べきれんので、持って行ってくださいな」

「ありがとうございます! 明日は頑張ります!」

そう行って春奈はガッツポーズをして影の1人ににこやかな笑みを向ける。


そうして、本日行われた集会はお開きとなった。


◼︎


「ってことで、明人、明日はアレ! やるわよ!」

野菜の入ったビニール袋をテーブルに置き、対面に座る明人に向かって春奈はそう言った。

毎年恒例のイベントのため、明人は驚くことなく__

「あー……わかりました。じゃあ、今から準備しますね」

そう言って椅子から立ち上がり、明人は玄関へと向かった。


「明人、アレってなによ」

何かの準備をするとわかったニーニャは明人について行き、春奈の言っていた”アレ”について明人に質問する。

「ああ、アレっていうのは、田植えのことだよ」

「田植え?」

「そう、田植えだよ」

玄関で長靴を取り出しながら明人はそう答えた。


◼︎


雲ひとつない快晴、周りに見えるのは田んぼと、その周りを囲う小さな土手、そして近くには水路が通っており、そこには透明な水が流れていた。

その周りに見える田んぼの一部にはすでに緑生い茂った苗が等間隔で植え付けられており、時折吹く風がその葉をゆらりと揺らしていた。

春先に比べると幾分暑くなってきたゴールデンウィークではあるが、吹いてくるそよ風は未だにまだ冷気をおびており、照りつける太陽とで丁度いい具合の気候となっている。


「朝方だからまだ風が涼しくて丁度いい気温だね」

「明人、目の前に広がるこの泥の池はなんなの……」

麦わら帽子を首に引っ掛け、髪は田んぼに付かないように耳元までのもみあげを残し、あとは頭の上でお団子にし、汚れて良い服ともんぺを身にまとい、田植え用の長靴を履いたニーニャが田んぼを見てたじろぐ。


「ニーニャ様は昔、底なし沼にはまったことがありまして、こう言った泥の池には少しは抵抗感を覚えているのですよ」

そう言って、たじろぐニーニャの後ろに、ニーニャと同じような服装をしたレフィアが立っており、補足説明をしてくれている。


「まさか、この魔の沼地で作業をするってんじゃないでしょうね……明人……」

「そのまさかだよ、この田んぼに僕らは足を踏み入れるんだよ」

「いやいやいやいや、自殺行為よ! 明人はなんだってそんなに死に急ぐのよ!」

ブンブンと首を振り、少し涙目になりながらニーニャは明人の服を掴んだ。


「ニーニャ様、明人さんが大丈夫だとおっしゃっているんですから、きっと大丈夫ですよ」

ニーニャとは打って変わって冷静さを保っているレフィアは、明人の大丈夫という言葉を信じて、ニーニャを説得するが。


「いくら明人が大丈夫って言っても、こればっかりはダメよ! もう2度とあんなことになりたくないの!」

ユグドで辛い思い出があったとしても、それほど気にしないニーニャがこれほどまでに取り乱すのは珍しいと思った明人は__

「ニーニャにしては珍しいね、なんでそんなに嫌がるんだよ」

「いや、えっと、それは、その……」

いいよどむニーニャの後ろでレフィアが__

「ニーニャ様、沼にはまって近隣の子供達に『うんこ漏らし』と言われたからといってそこまで取り乱す必要はないと思うのですが」


「あー、なるほどね」

レフィアの話を聞いた明人はニーニャがどうしてそこまで取り乱していたのかを理解した。

「子供の頃ってそういう時期あるよね。その辺りはこっちの世界もユグドも一緒なんだね」

そうフォローを入れたが、ニーニャは恥ずかしさのあまり、穴があったら入りたいとでも言わんばかりに耳まで真っ赤にして、両手で顔を覆い隠し、その場にしゃがみ込んでいた。


「おーい、そんな道のど真ん中でしゃがんでると危ないよー」

声の聞こえる方に視線を向けると、春奈が田植え機を運転しながらこちらに向かってきている。


しゃがんでいるニーニャをレフィアと持ち上げ、道の脇に移動して、田植え機が到着するのを待った。

「っしょ、到着っと……って、ニーニャちゃんはどうしてそんなことになってるの?」

「春奈さん、ちょっと……」

そう言って明人が春奈を連れて少し離れたところへ行き、春奈に事情を説明する。


そうして、すぐに戻ると__

「ほら、ニーニャちゃん、田植え機借りてきたから、苗箱から苗を外して、田植え機に乗せちゃって、ほらほら」

そんな風に言うが、ニーニャは沈黙を顔を隠したまま沈黙を通している。


「レフィアちゃんは手伝ってくれるわよね」

「はっ、はい、お手伝いします」

そう言ってレフィアは苗箱を持って田植え機の後部にある苗を置く場所に移動した。


「あー、ニーニャちゃんは可哀想ねー。こんな経験ユグドじゃ絶対できないのに」

レフィアが1つ目の苗を田植え機に移動させたタイミングで春奈は少し棒読みぎみにそう言った。

その言葉を聞いたニーニャはピクリと肩を動かす。

「そ、そうですねー、ニーニャ様の小説のネタにもなったかもしれませんが、塞ぎ込んでいては仕方ありませんねー」

春奈の棒読みにつられたのか、レフィアも棒読みになっていた。


しかし、そんな棒読みにもかかわらず、ニーニャは勢いよく顔を上げ、周りを見回し、レフィアと春奈がいる方向に走り出した。

「そんな貴重な体験私が見過ごせるわけないじゃない!」

そう言ってニーニャは苗箱から田植え機に苗を移動させる手伝いを始めた。


半分くらいの田植え機に移動させ終わったところで、機械の苗を置き場が一杯になった。

「よし、それじゃあ、第1陣出発ね!」

春奈がそういうと、田植え機に乗り、エンジンをかけて田んぼの中に入り苗を植え始める。


「ねぇ、明人」

「どうしたの、ニーニャ」

田植え機が苗を植えるのをぼーっとみながらニーニャは再度口を開き__

「私たちいらなくない?」

淡々とそう言ったのであった。


「いや、この後が大変なんだよ。とりあえず、春奈さんが戻ってくるまで苗箱をそこの水路で軽く洗おうか」

苗の入っていた苗箱には泥が付いており、それを肢付きのタワシでゴシゴシと擦り、泥を落としていく。

水路がそれほど深くないため、ニーニャの身長ですら腰を折り曲げる必要があり、長時間その体制を維持していると、いざ折り曲げた腰を元すと多少なりと腰に痛みを感じる。


「これ、結構きついわね……」

「そうですね、予想以上に腰が……」

いかに様々な冒険をしてきた異世界の住人であるニーニャとレフィアでも長時間腰を折り曲げて腕だけで作業をすることはなかったらしい。


ポンポンと腰を叩き、洗い終わった苗箱を土手に干していると、春奈が田植え機を対面の土手に止めて戻ってきた。

「苗がきれちゃったから、田植え機の止めてるところまで苗箱を運んで、田植え機に苗を移動させて。あっ、1箱だけこっちに残しといてね」

その言葉を聞き、明人とニーニャとレフィアは苗箱を持って田植え機の方に歩いていった。

苗の補充が終わり、田植え機が田んぼに苗を植え付けながら、ゆっくりと動く。

その間に明人、ニーニャ、レフィアは先ほどと同じように水路で苗箱を洗い始める。


全ての苗箱を洗い終え、土手に置いてしばらくすると、春奈が田植え機に乗って戻ってくる。

「よし、それじゃあ、ここからは手作業だよ」

そう言って、春奈は作業の手順をニーニャとレフィアに説明した。


やることは単純である。田植え機で植える際、基本的には等間隔で苗が植えられるが、たまに歯抜けのように苗が植えられていない箇所ができる。

そこを補填するため、残した1箱から苗を手に取り、田んぼに入り植えるのである。


ニーニャとレフィアは初めての作業のため、説明の後、明人がお手本を見せることになり、その手本を見よう見まねで、ニーニャとレフィアも苗を植え始める。


レフィアは最初のうちは泥に足を取られ、何度か転けていたが、だんだんと慣れてきたのか、こけることもなく安定して歯抜けを補填している。

なお、転けた際に倒れた苗はちゃんと整えてから歯抜けを補填する作業に戻っている。


ニーニャは、泥に足を取られることなく器用に歯抜けを補填している。

「ニーニャ、うまいね」

明人も最初の頃は泥に足を取られ何度も転ぶことがあったので、初めての挑戦するニーニャがここまでうまくできるとは思っていなかった。


「ふっふーん、これくらいの泥だったら全然大丈夫よ! だって、私はあの……深い泥沼を……うっうぅぅ」

話している途中で目から光が消え、ニーニャの纏う空気が重くなった。


「あの沼、本当に大変なのよね、足を止めるとこう、ズブズブっとね……」

そう言いながらニーニャは体全体で沈んでいく様子を再現していた。

「いや、大丈夫だから、そういうの再現しなくても大丈夫だから!」

明人が大声で叫び、ニーニャの再現を止める。


そんな一幕もあったが、とりあえず、歯抜けを補填する作業が終わった。

「おわったー! 思ってたより大変だったわね。腰が痛いわ」

「そうですね、泥の沼はこれ以上にひどかったのですね……私は一生近づかないとここに誓います」

「んー、お昼にはまだ早いね」

明人が時計をみながらそういうと__

「おーい、ニーニャちゃん、レフィアちゃん、何終わったような空気出してるのよ」

そう言って春奈は隣の田んぼに田植え機をセッティングしていた。


「ちょっ……ちょっと待って春奈……これあといくつあるのよ」

1枚目の田んぼですでに根を上げようとしていたニーニャが春奈に聞くと__

「ちょっと待ってね」

そう言って春奈が植えるべき田んぼを数え始める。


「あと、5枚ね!」

「「「5枚!!!」」」

慣れているはずの明人ですら残りの数に驚きを隠せなかった。


「春奈さん、いつもなら後3枚くらいだったような……」

「うん、今年は人手が多いから、少し多めに依頼を受けたのよ!」

春奈が爽やかに笑顔を作る。


その笑顔を見た、明人、ニーニャ、レフィアは青空に向かって__

「「「ちっくしょー!」」」

と叫んでいた。


そうして、1枚目の田植えと同じように苗箱を洗う作業と歯抜けを補填する作業を残りの5枚も行い、ゴールデンウィーク初日の地獄は終わったのであった。

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