覗いていいのは覗かれる覚悟のある奴だけだ
今週分の更新です。
楽しんでいただけると幸いです。
よろしくお願いします。
ニーニャと打ち合わせた覗きのタイミングは、体力測定と身体測定が終わった後の着替え時ということになっていた。
方法としてはいたって単純。ロッカーに身を潜めて覗くという方法だ。
現在、女子更衣室は水漏れの影響により使用不可とおり、男子は男子更衣室で、女子は家庭科室で着替えることとなっていた。
本来体育の時間ではクラス全員での移動となるが、今回の体力測定と身体測定では測定内容を全て終わらせた生徒から順にクラスに戻って良いことになっている。
「さて、そんなわけで、僕と健人でチームを組んだわけだけど」
「そうだな、とりあえず、サクッと測定をまわっちまおうぜ!」
「そうね、サクッと回りましょうか!」
「ニーニャ様、どこから回りますか?」
測定は二人一組で行うため、明人は健人と、ニーニャはレフィアとチームを組んでいた。
各人体操着を着て、体育館の入り口に立っている。
体操着は白の半袖に短パンで、白の半袖の右胸あたりに名前が刺繍されている。
短パンは女子が赤色で、男子が紺色となっており、ポケットのあたりに名前が刺繍されている。
「なぁなぁ、明人」
「なんだよ、急に小声になって」
「いやな、レフィアちゃんのあの胸……なんていうか体操服なのに、いや、体操服だからこそ胸が強調されて……なんかもう俺、ヤバイかも……」
健人の言っていることを明人はよく理解できた。最初の頃は明人も同じようにレフィアの胸に翻弄されることが多々あった。しかし、慣れとは恐ろしいもので、すでに明人はあの胸に慣れていた。そのため、レフィアの胸を見たところで、健人ほど興奮することはない。
「あぁ、なるほどな、確かにあの胸は高校生には目の毒だよな……慣れた僕でも気を緩めるとヤバイからな」
慣れた明人ですらレフィアの胸が視界に入ると、数秒間は視線をそらすことができなくなる。
「やーっぱり、いつもの組み合わせね」
レフィアの胸に視線が釘ずけにされていた後ろから、瑞波の声が聞こえてきた。
「よっす!」
「よっす、瑞波。僕が健人以外とチームを組むわけないだろ」
「そりゃーそうよね。一部の女子からは明人と健人がデキてるんじゃないかって話が上がるくらいいつも一緒だもんね」
「うっせーよ、そっちこそ、秋音といつも一緒だろうが。一部の男子ファンの中には瑞波と秋音の百合物語が語られてるくらいだからな」
「うぐっ!」
「見事にブーメランね、瑞波」
瑞波は胸に何かが刺さったようなリアクションをとり、そのリアクションをみた秋音が瑞波の方に手を置き、首を左右にゆっくりと振る。
「おい、明人、しゃべってねーで、早く測定回ろうぜ。早く行かねーと並ぶことになっちまう」
「それでいいんだよ」
急いで測定を回ろうと明人に呼びかける健人の近くに行き、明人は小声でそう言った。
「あれ、そうだっけ?」
「じゃなきゃ、覗いてる間に他の生徒が家庭科室に帰っちゃうだろ」
「なーに、2人でこそこそと話してるのよ……はっ、まさかレフィアちゃんの胸のことを」
瑞波の後ろに殺気が揺らめき出し、健人を睨みつける。
「まてまてまて、なんで明人もいんのに、毎度毎度俺なんだよ!」
「そんなの、身内の恥は私の恥になるからに決まってるじゃない」
当然でしょと言わんばかりに肩を竦める瑞波に健人が――
「いや、でもお前明人のこと……」
ドスンッ――
何かを言おうとした健人が音とともに明人の目の前から姿を消した。
「いつつ、何が……」
「大丈夫? 兄さん……1つだけ注告ね。口は災いの元よ……兄さん」
お尻をさすりながら床に座っている健人に手を貸す瑞波を見て、健人が急に床に座り込んだから姿を消したように見えただけだったのかと納得した。
「ん? どうしたんだよ健人、青い顔して」
「いや、なんていうか妹の怖さを再認識したよ」
「まぁ、大方健人がまたいらんこと言ったでしょ」
そんなことをしていると、体育館の奥の方から――
「おーい、お前ら、そんなとこでくっちゃべってないで、さっさと測定はじめろー。お前らが最後だぞ!」
と教師の声が聞こえてきた。
「よし、行くぞ健人!」
「おうよ!」
そういって、健人、明人ペアは身近な測定から始めようと歩き出す。
「明人、私たちも一緒に行っていい?」
後ろからニーニャの声が聞こえてきたので、”いいよ”と返答した。
「それなら、私たちもニーニャちゃんや明人と一緒に回ろっか。秋音」
「そうね。最終組同士一緒に回るのがいいよねー」
いつも昼食を取るメンバーで行動を開始した明人たちだが――
「なぁ、明人」
「どうしたんだよ、健人」
「なんか、いつも以上に周りからの視線がきつくないか?」
「そりゃね。思春期の男子でレフィアさんのあの胸に注目しない男はいないでしょ」
「あぁ、そうだな目に焼き付けたくなる胸だもんな」
健人は明人の言葉にウンウンと頷きながら納得した。
そんな男子の視線を受けながら、明人たちは測定をこなしていく。
その上で一つわかったことがあった。
それは、ニーニャの運動能力が非常に高いということだ。
明人はニーニャから冒険をしていたという話しは聞いていたが、それ以上に引きこもって小説を書いている方が長かったとも聞いていた。
そのため、体が鈍り、運動能力も低下しているだろうと考えていたが、どの種目も平均以上。
こと、反復横跳びに関しては運動部男子の全国平均を大きく上回っていたらしい。
レフィアはといえば、各項目をこの学校の男子の平均を上回る数値を出していた。
ただ、レフィアは徐々に力を発揮して行くタイプのようで、短距離走は他の種目に比べるとタイムが遅い。
それでもこの学校の女子平均は大きく上回っていた。
「うーん……」
「ふむ……」
測定結果の用紙を見てニーニャとレフィアが浮かない顔をしている。
「どうしたの? ニーニャ、レフィアさん」
「明人……あれ、健人は?」
「いま瑞波に捕まってるよ。で浮かない顔してどうしたの?」
「えっとね、体が鈍ってたと思ってね……」
「私もです……」
2人はがっくしと肩を落とし、表情も幾分暗くなっている。
「いやいや、その数値で鈍ってるって……全力でそれだけの数値が出れば申し分ないでしょ!」
「明人、何かを勘違いしてるみたいだけど、私たち、どの種目も全力でやってないわよ」
「へ?」
「そりゃそうでしょ。私たちが全力を出したら、世界記録を大いに上回るわよ」
「そうですね。そもそも私たちは人間と身体の作りが違いますからね」
「まぁ、私たちは精霊の力を借りて初めて本当の全力を出せるわけだから、こっちじゃ本当の全力は出せないんだけどね」
はぁ、とため息を付き、ニーニャはまた測定結果に目を通す。
「こらー、結果を見るのは自由だが、そろそろ着替えろよ。もう家庭科室には誰もいないぞ」
体育館に入ってきた教師が、明人たちに着替えを促せる。
「わかりました」
明人が応えた後、目があった健人がコクンと頷く。
明人がニーニャの方を見ると、ニーニャもコクンと一つ頷いた。
「じゃあ、僕と健人は先に出るね」
明人と健人がそそくさと体育館から退散し、一目散に家庭科室に向かった。
「それじゃあ、私たちも行こうかニーニャちゃんや、レフィアちゃん」
「その前に少しだけいいかしら瑞波?」
「ん? どうしたの?」
「ちょっと計測結果の見せ合いっこしましょうよ!」
■
明人と健人に与えられた時間は5分。
体育館から家庭科室まで普通に歩いても2分程度で着く距離なので、5分もあれば十分なはずだった。
しかし、家庭科室の前には女性の体育教師が立っていた。
「どうするよ、明人、時間がないぞ……」
「仕方ない……お前のために人肌脱いでやるよ」
「明人……」
「ここからはお前一人になる。だけど、後ろを振り向くなよ健人」
バタン――
「つっ……あっ、先生」
「どうしたの?」
「普段運動しないせいか足がつっちゃって……」
一瞬視線をずらし、健人の方に行けと合図をした。
健人は明人と教師の後ろを音を立てず進んで行く。
それを横目で確認した明人は、つった足の処置方法を聞きそれを実践するフリをし、ある程度緩和されたフリをして、着替えた後に保健室へ行くといい、その場を去った。
「さてと、大丈夫かな?」
■
家庭科室――
健人は家庭科室のロッカーに息を潜め、入っていた。
かすかに空いている隙間から溢れる光だけが唯一の光である。
ロッカーに身を潜めて数分後、レフィアたちの声が聞こえてくる。
そして、家庭科室の扉が開かれ、ニーニャ、レフィア、瑞波、秋音の4人が家庭科室へと入室した。
先ほどの測定の話を続けていた4人が着替えを始める。
各人体操服を脱ぎ、そこに現れるはそれぞれの可愛らしい下着である。
ニーニャは白いキャミソールで胸元にピンクの小さなリボンがあつらえてある。
瑞波は白色のブラをしており、胸の大きさも大きすぎず、小さすぎずと言ったところだった。
秋音は真っ赤なブラをつけており、冬服でなければシャツを透けて色がはっきりわかってしまうだろう。
レフィアは、シンプルな白色のブラをつけているが、その溢れんばかり胸を収めるには少し小さいようにも思える。
「レフィアさん、それ、ブラのサイズあってる?」
「いえ、少し小さいのですが、これ以上のサイズとなると特注だったので、今注文しているところです」
「あー、なるほどね。大きいってのもなかなか大変そうね……」
そう言いながら、瑞波は上着を着て、短パンに手をかける。
健人はロッカーの中からその様子を伺っていたが、このまま見ていては興奮しすぎてしまうと思ったのか、一度目を閉じ呼吸を整える。
そして、何度か深呼吸をした後、再度ロッカーの隙間から家庭科室の中を覗こうと目を開ける。
その目には血走った眼が写った。
「っ!!!!」
「にいさぁん、何してるのかしら?」
「ひっ!!!!」
「ねぇ、何してるのかって……聞いてるのよ!!!」
ガゴン――
勢いよくロッカーの扉を開けられ、家庭科室にいる全員の視線がロッカーに注がれる。
「はぁ、まーたたけとんは、そんなところに隠れて」
「これが俗に言う覗きというやつですか」
殺気だった視線と冷たい視線が健人を襲う。その二つのプレッシャーに負けた健人は――
「し、師匠! 助けてください!」
と叫ぶが、ニーニャは知らぬ存ぜぬを通し、他の二人と同じく冷ややかな視線を送った。
「し、師匠、そりゃないですよ! 覗かれた時のレフィアちゃんの反応を見たいって言ったの師匠じゃないですか!」
その叫び声を聞いたレフィアは――
「にぃにゃさまぁ」
その言葉には怒気が含まれており、怒られていないはずの秋音ですら顔が引きつっている。
健人に対して殺気を放っていた瑞波ですら、レフィアの怒気にあてられ、心配そうな目でレフィアやニーニャの方に視線を送る。
「いや、その、えっと……」
脱兎のごとく逃げようとしたがレフィアはニーニャの行動を完全に把握していた。
その瞬間ニーニャのわき下を掴み高い高いするように持ち上げる。
「で、ニーニャ様、言い訳などはございますか?」
「……レフィア、もうちょっと女の子らしく『キャー』とか『えっちぃ』とか叫んでもよかったんじゃない?」
「この後、少々お時間を頂戴します。逃げた場合わかってらっしゃいますねぇ」
もうどうしようもないと悟ったニーニャは両手を重ね神に祈るポーズをしながらその場に座り込んだ。
「にいさん、こっちも後で話があるから、逃げても家でもっと辛いことになるだけだからね」
健人は健人で、もう逃げることができないと悟ったため、その場で正座をし、瑞波の未使用のタオルで目隠しをされていた。
その後、ニーニャは説教モードのレフィアに長時間の説教を受けた後、その日の夕食が抜きとなった。
健人は瑞波からのいつもの鉄拳制裁を受けた後、数時間の説教を、さらには教師からの反省文提出を言い渡された。
幸い、見られた側も別に気にしていないとのことで、教師からの両親に連絡が行くことはなかったが、瑞波から両親に報告され、夕食が抜きとなったらしい。
■
次の日――
瑞波と健人が家を出ると、外にはニーニャ、レフィア、明人が立っていた。
「おはよう、明人」
「おはよう、瑞波」
瑞波が明人の近くへ行き、小さな子で話し始める。
「そうだ、女子の短パンのポケットに紙を忍ばせるのは良くないと思うな」
「あー、それな、お前じゃなきゃやらないよ」
「はぁ、まぁ、兄さんに制裁を下せたから今回は大目にみるけど、本来だったらもっと早く連絡が欲しかったわ」
「事前に言うと健人にバレるからなー。お前演技とか下手だし」
「うぐっ……まぁ今回はお礼を言っとくわ。ありがとね! 明人」
こうして、昨日の覗き騒ぎは終わり、平和な一日が今日も始まるのであった。
「師匠、次はどうしましょうか!」
「そうね、新しいレフィアの表情を見るにはどうすればいいのか、また考えるわ!」
そんなコソコソ話が明人の耳に届いてきたが、何も聞かなかったことにした。




