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悩み悩んで相談会

更新が遅れて申し訳ありませんでした。

今週分の更新です。

楽しんで頂けると幸いです。

よろしくお願いします。


※2017/12/05 一部表現を修正しました。

森川家――

ニーニャの部屋にて明人とニーニャがテーブルを挟んで座り、真剣な表情で互いの顔を見つめあっている。

「明人、私、私ね……あなたのことが好きなの! いえ、こう言ったほうがいいのかしら。私ね、明人のことを愛しているの!」

体温が上昇しているのかニーニャの頰は少し赤みを帯びている。


ニーニャの愛の告白から1分ほどたったところで、明人が口を開いた。

「ありがとう、ニーニャ、僕も……君のことが好きだよ!」

明人は頰を人差し指で掻きながら笑顔で、ニーニャの愛の告白を受け入れた。


「明人……私、私、本当に嬉しいわ!」

そう言いながら、ニーニャはめいいっぱいの笑顔を明人に向けた。



遡ること2時間前――


「うーん……あー……なんにも思いつかない……」

明人は自室の机の上で唸り声をあげながら一枚の紙に視線を落とす。

新学期初日の部活にて緑からもらった春休みの宿題へのコメントであり、そこには――

『世界観などの設定は面白いと思います。しかし、登場人物の冒険の目的や冒険についていくヒロインの動機などが曖昧であり、このままでは作品としてフワッとしたものになりかねません。そのため、登場人物の冒険の目的をより詳細に書いてください。それが難しい場合は、目的自体を変更したほうが良いかもしれないです』

と書かれていた。


「冒険する動機なんて、そこにファンタジーがあれば冒険をしたくなるのは当然だと思うんだけどな……」

コメントの書かれた用紙から視線を外し、ファンタジー小説が並べられている本棚の方に視線を向ける。


「うーん……」

そのまま机に突っ伏し、また唸り始めるが、答えが出るわけもない。

「ダメだ、これは1人で考えてると答えが見つからない感じのやつだ……あんまりやりたくなかったけど、ニーニャに話を聞いてもらおうかな」


そうと決めた明人は、ノートと筆記用具、コメント用紙を携えて、ニーニャの部屋に向かった。


コンコン――


「ニーニャ、部屋にいる?」


ガチャ――


「どうしたのよ、明人……」

「ちょっと聞きたいことがあって……ってどうしたんだよニーニャ」

開いた扉からおでこに冷えピタを貼ったニーニャが姿を現した。

「ちょっと緑先生からのコメントについて色々考えてたら。熱くなっちゃって……丁度いいわ。私も明人に相談があるの」


部屋に入って直ぐに見えたのは部屋の中央に置かれているテーブルの上の真っ白なノートと緑のコメント用紙であった。

ニーニャも森山先生のコメントで頭を悩ませていたんだな。と思いながら明人はニーニャの対面に座る。


「で、明人が私に聞きたいことってなに?」

「うん、ニーニャはさユグドで冒険に出たことってある?」

「冒険? そんなの、何度もあるわよ」

「じゃあさ、冒険に出る時って何か目的を持って冒険に出てた?」

「うーん、私の場合は冒険に出るって言っても師匠についていく冒険だったから、私自身が目的は持ってなかったわね。というか、質問が回りくどいわね。ちょっと緑先生からのコメントで見せて」

ニーニャの言葉を聞き、明人はニーニャにコメント用紙を渡す。


「なるほどねー。で、明人は登場人物の冒険の動機をどう書いていたの?」

「『ファンタジー世界だから冒険に出る』って書いたんだよ」

「なるほどね、このコメントに納得がいったわ。じゃあ、私から逆に聞くけど、明人は。現実世界だから学校に行くの?」

「え?」

ニーニャの言葉を聞いた明人は最初ニーニャが言っている内容の意味を理解できず、考え込んだが、暫くすると――

「そっか。僕が学校に行くのは、勉強したり、友達と会うため。現実世界だからじゃない。そうだよ、だから、登場人物だってそこがファンタジーの世界だから冒険に出るんじゃない。世界を見たい、敵を倒したい、宝を手に入れて世界に認めてもらいたい。そんな思いを持って冒険に行くんだ」

考えてみると当たり前の事であるが、一度考えが詰まると視野が狭くなり、そう言った答えが出にくくなっていたようだ。


「ありがとう! ニーニャ。これで先生のコメントにあったよう修正ができそうだ。それじゃあ、僕は部屋に戻るよ!」

テーブルから立ち上がろうとした明人の肩にニーニャが手を置き――

「ちょっと待った。明人。私の相談がまだ終わってないわよ」

「……あっ、ごめん、なんかすごくスッキリしちゃって完全に忘れてた」


明人は再度腰を落ち着け――

「で、ニーニャの相談って……やっぱり森山先生のコメントについて?」

「そうなのよ。私も明人と同じ登場人物の設定について色々書かれたんだけど……とりあえず読んでみて」


そう言ってニーニャはコメント用紙を明人に差し出した。

コメント用紙には――

『恋愛ものというテーマは非常に良いと思います。ただ、この設定を読む限り、登場人物の心の機微が全然なく、告白シーンも薄っぺらく感じられそうです。なんというかキュンキュンしないです。なので、もう少し心の機微を考えて書いてもらえるともっと良くなると思います』

と書かれていた。


「あれ? ニーニャも設定を持って行ってたんじゃなかったっけ?」

「設定を持って行ったわよ。ただ、私の書いた設定って簡単な話の流れとか登場人物の会話の一部なんかも思いついた時に書いてるから、設定と下書きの間くらいの位置付けのものね」

「あー、なるほど、だからこの書かれ方か……キュンキュンしないって……」

「もうね、どうすれば良いのかわからないのよ……そもそも恋愛ってそんなもんでしょ」

ニーニャは頭を抱えながらテーブルに置かれた白いノートに視線を移す。


「ニーニャに1つ聞きたいんだけど、ユグドって自由恋愛とかじゃないの?」

「ユグド自体は基本的に自由恋愛よ。ただ、国によってはそうでない国もあるの。というか、まさにミルストリア王国はその典型で、自由恋愛なんて存在しなかったの」

「じゃあ、どういう恋愛なの?」

明人の質問に"うーん"と唸りながらニーニャが数分間考え――

「考えてみれば、ミルストリア王国において、恋愛って感情がほとんど存在していないかも……」

「え? どういうことだよ」

「エルフって長命なのよ。それこそ王国には1000歳とか軽く越えるエルフなんかもいるわ。そういった長命な種族は恋愛感情がなく、なんとなく長い付き合いだから一緒に暮らしてるって人が多いのよ。あの子が好きだから付き合い、一緒に暮らしたいってならないのよ。だから、ミルストリアでずっと暮らしてるエルフに関して言えば、恋愛感情っていうものを持っていないかも……」


「それって……つまり、ニーニャも恋愛感情が全くわからないって……こと?」

明人は目を見開き、驚きの感情を隠せなかった。

「うーん、私に限っては恋愛感情が全くわからないってことはないわ。ただ、他の人よりも恋愛感情に鈍感だったり、恋愛に関する心の機微があまり表現できないくらいで……」

「ニーニャに限って言えば?」

「うん、私は子供の頃にお父様の友人である師匠に連れられ、ユグドの様々な国を旅していたことがあったの。だから、多くの国のあり方を見てきたし、様々な国で友達になった子供達の恋愛話なんかも良く聞いたわ。それに、子供ながらの恋愛っていうのに巻き込まれたこともあるしね。それに、私の持つ恋愛小説(バイブル)も読み込んでるし。そういうわけで、私に恋愛感情が全くないってことはないのよ」


「なるほどね、てっきり、お姫様だから王国から出たことが無いと思ってたよ」

「明人、私さっきも師匠と冒険してたって言ってたと思うわよ……」

「そういえばそうだったね、ここまでの会話の流れに驚きすぎてさ……あはは」

「まっ、それはどうでもいいわ。そんなことより、恋愛感情に理解を深めるにはどうすれば良いかよ」

忘れていたことにツッコミが来ると思っていた明人は何もなかったことに内心ホッとして、ニーニャの相談に対して真剣に考え直す。


「恋愛感情か……うーん、それじゃあさ、一回ニーニャの持ってるバイブルの告白シーンを演じてみたら良いんじゃないかな」

「自分の感情じゃなく、まずは模倣から始めるってことね……いいわね! 」

口元に手を当てブツブツと呟き、ニーニャは明人の提案に賛成した。


「それじゃあ相手は言い出しっぺの明人でお願いね」

「え? 演じるなら1人でも……」

「こういうのはちゃんと相手がいるもんでしょ! そうしないと本当に理解できたとは言えないわ」

「うっ……はぁ、わかりました」

こうして渋々明人はニーニャが告白するキャラクターの役を請け負うことになった。



”演技だとわかっていたとしても、やっぱり告白されるのってすごくドキドキするな”内心そう思いながら明人はニーニャの笑顔を見つめている。

ニーニャの告白から数分、ニーニャは笑顔のまま一向に動かず、明人もその笑顔をずっと見つめている。

その時間が止まったような空気にしびれを切らした明人が――

「えっと、ニーニャ? 何か恋愛感情について掴めた?」


「……」

「……ニーニャさん?」

「……」


ニーニャは笑顔のまま机に突っ伏し、明人に聞こえるくらいの声で――

「やっぱり、人の模倣をしたところで、わからないものはわからないわ……」

とテンションが落ちた声で呟いた。


「ですよねー……やっぱり当事者にならないとなかなかわからないよね……」

「うーん、それとも、やっぱり私には恋愛感情を持ち合わせていないのかしら……」

「感情は目に見えるものじゃ無いし、いきなり生まれるものだから、本当に持っていないのかはその時にならないとわからないよ」

「まぁ、それでもやっぱり人に相談するものね。相談してこうやって演じて見て、少しスッキリしたわ。うん、今の感覚を自分なりに解釈して書いてみるわね。ありがとう、明人!」

ニーニャは笑顔でお礼を言ったのち、ノートに向かって色々と書き始めた。


明人はその様子を少しだけ見てから――

「がんばれ、ニーニャ」

ボソリとそう呟き、その後ニーニャの部屋から退出した。


この相談会で得た回答を元に明人は自分の書いた設定を深掘りし、修正した結果、緑から花マルをもらうこととなった。

一方でニーニャは、自分なりの解釈で修正したものの、あまり良い反応を得られることはなかった。


また、課題を忘れていた健人については、再度通知された提出日に、課題ではなく、高さ30cmのぬいぐるみを持ち込み、緑へのプレゼントだと言い提出した。

その結果はいうまでもなく、緑直々のお仕置きとなり他部員は一時的に、別教室で部活を実施した。

お仕置き後の部室に戻ると、健人はとても幸せそうな表情をしていたのだった。

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