入学式と転校生_SideA
今週分の更新です。
楽しんでいただけると幸いです。
宜しくお願いします。
※2017/10/22 一部の表現の修正をしました。
文芸部の部室から直接教室に向かった瑞波は、チャイムが鳴る5分前に教室に着くことができた。
ガラララ――
「おは……よぉ……はぁはぁ」
そう言いながら瑞波は自分の席に着くと――
「はよー、瑞波。今年も一緒のクラスだね! ってかなんでそんなに息切れしてるの?」
瑞波の前の席に座る、黒髪セミロングの眼鏡を掛けた女子生徒から声をかけられる。
「いやー、部室から走って来たから。正直、走らないと遅刻してたかも……」
「いっつも早く来てるあんたにしては珍しいわね」
「ちょっと色々あってね」
「ふむ、気になるな! それってあきとんも関係すること?」
「まっ、あとでわかるわよ」
瑞波がそういうと、秋音は瑞波の机に上半身を預け――
「えーっ、教えてくれてもいいじゃん! 面白いネタだったらお昼の放送で流すからさぁ」
聞き分けない子供のように瑞波から情報を聞き出そうとする。
「いや、放送で流すようなことはないって。入学式の後にはわかるから。少しくらい我慢してなよ」
「うーっ、こっそり、私だけにこっそり、ねっ」
と秋音が耳を寄せてこっそり聞かせてとアピールをする。
「はぁ、仕方ないわねー」
と瑞波が秋音に近づき。
モミモミ――
「ちょっと瑞波、何揉んでるのよ。私は情報を教えて欲しいって言ってるの」
モミモミ――
「だから、情報を……」
モミモミ――
「やばい、チョット気持ちよくなって……ってちがーう! そんなに揉まないでよ!」
「ふむ、この触り心地、秋音、春の間に揉んで育てた?」
「いやいや、胸は揉めば育つって聞くけど、耳たぶ揉んでも育たないでしょ!」
秋音の耳たぶの感触を忘れないうちに、瑞波は自分の耳たぶも揉み始める。
モミモミ――
「くぅ、やっぱり秋音の耳たぶの気持ちよさには勝てないわ……」
「いやいや、そんなに見つめないでよ」
じぃっと秋音の耳たぶに視線を送っていたが、恥ずかしくなった秋音が両手で耳を覆うように隠した。
「えーっ、もうチョット見せててくれてもいいじゃん!」
「いやよ! ってそんなことより、何があっ……」
キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーン……
ガラガラ――
「はぁはぁはぁはぁ……間に……合った……」
「あっぶねー」
学校のチャイムが鳴り終わるギリギリに明人と男子生徒が滑り込みで教室に到着した。
2人は担任の教師が来る前にそそくさと自分の席に着く。
「いやー、危なかったな、明人」
「本当に危なかった。それにしても、お前は、なんでこんなギリギリになってるんだよ」
「それには山より高く、海より深い事情が……」
「瑞波が起こしてくれなかったんだろ」
「ザッツライト! 結局ギリギリになって母さんが起こしてくれたんだよ」
「あのさ、健人、そろそろ1人で起きれるようになったほうがいいよ」
ガラララ――
ピタッ――
「みなさん、席に……付いてるわね」
扉が開くと同時に教室内の雑談が一斉に止まり、クラス全員が黒板の方に視線を向ける。
「えーっ、今年から皆さんの担当を受け持つことになりました、森山緑です。みなさん、1年間よろしくお願いします」
緑の挨拶が終わり、数秒間の沈黙を経て、教室内が一気に騒がしくなった。
「よろしく、緑先生」
「やっぱり森山先生が担任だったじゃん!」
「やったー、緑先生、色々相談に乗ってね!」
思い思い嬉しさを言葉にし、緑が担任であることをクラス全体で喜んでいる。
パン――
「はい、静かにしてね。さもないと……」
緑が一つ手を叩き、一言忠告すると、先ほどまでの騒ぎが嘘のようにピタッと騒ぎが静まった。
「うん、私が担任であることを喜んでくれてありがとう。でも、今は入学式まで時間がないから私からの話を優先させてね」
緑の言葉を聞き、コクリと頷くもの、姿勢を正して緑の方をじっと見つめるもの、顔を赤らめながらはぁはぁ言っているものがいる。
緑が全体を見渡した、クラスの全員が聞いているのを確認し――
「まず、今日の予定をさっと説明するわね。今日はこの後、体育館で入学式をします。その後1時間ほどHRをして、お昼休みを挟んでから、掃除をして今日は終了です」
ざっと本日の予定を説明したのち、一息おいてから――
「さて、みなさん、今日の入学式を終えれば、あなたたちは晴れて先輩です。正直色々と悩むことが出てくるとは思いますが、その時は先生に相談してください。助けになるかはわからないけど、精一杯相談には乗りますので。っということで、各々体育館に向かいましょうか」
各々が友人と喋りながら体育館に移動する中、健人はカバンを漁りだした。
「健人はなにしてるんだよ」
「んー? 当然こいつを取り出そうとしてるんだよっと」
そう言ってカバンの中から取り出されたのは、全長30cm程のクマのぬいぐるみだった。
「クマ太郎か。毎年恒例だな」
「おうよ! 俺がこいつと離れるなんて、そんなことできるわけないだろ!」
「持ち込める場所には必ず持ち込んでるもんな」
「やっぱりこいつがいないと落ち着かないんだよ」
そう言いながら明人と健人も体育館に向かう。
体育館は教室棟の一階から外に出る渡り廊下を抜けた先に、体育館Aと体育館Bの2つがある。
本日の入学式は体育館Aで行われる。教員、全校生徒、新1年生の両親が最初に体育館Aに集合し、新1年生は体育館Bに集合する。
昨年明人たちは体育館Bに向かったが、今年は体育館Aで新1年生を迎え入れる側だ。
「あれ、なんかクマ太郎綺麗になってないか?」
「さすがは明人、気づいてくれたか! 長年の寄り添ってきたってこともあって、さすがにほつれとかが目立ってきたから、綺麗にしたんだ」
「なるほどなー」
「ちなみに、新作も今制作中だぜ! 今回のは大作になるから、できたら見てくれよな!」
そんな話をしていると、前方で先に体育館に向かっていたはずの瑞波と秋音が立ち話をしていた。
「やっときたわね。明人、兄さん」
「やっほー、あきとん、たけとん」
「おまっ、瑞波! なんで朝起こしてくれなかったんだよ!」
「は? 昨日の夜明人と一緒に早めに登校するから自分で起きろって言ったでしょ」
「いや、そこは俺も一緒に行くところだろ。なんで仲間はずれにするんだよ。寂しいじゃん!」
恒例の兄弟喧嘩が始まり、明人と秋音は後ろから生暖かい目で兄弟喧嘩を見守っていた。
「そうだ、あきとん、なんで早くきたのよ。瑞波ったら教えてくれなくて」
「ん? んー……まぁいっかな。今日、転校生が2人くるから、その案内でね」
「マジ!? この田舎に転校生とか一台イベントじゃない! で、どんな子なの!」
田舎では珍しい転校生という言葉に目をキラキラさせて明人を問い詰める。
「それはHRでわかるよ」
「くぅ、瑞波と同じ回答かー」
「2人も自分のことを自分で紹介したいと思ってるだろうからね」
「あー、それ言われるとダメだわ。これ以上聞き出せなさそうね。ありがと」
渡り廊下に差し掛かると、ブロンド髪の少女が目の端に映ったように思えた。
「え?」
そう言いながら明人は渡り廊下から校門の方に顔を振り向けるが、そこには誰もいなかった。
「どうしたのよ、あきとん」
「いやー、なんでも」
気のせい気のせいと明人は自分に言い聞かせながら、体育館Aに入ると、ほとんどのクラスが既に席に着いていた。
残っているクラスは明人たちのクラスともう1クラスのみである。
明人たちが席につくのと同じくらいのタイミングで、最後のクラスが体育館に入ってきて、そそくさと用意された席に着いた。
教員が全校生徒が集まったことを教頭に伝えると――
「あと、5分で入学式開始の時間となりますので、御手洗など行きたい方がいらっしゃいましたら、早めに行っていただきますようお願いします」
マイクを通してスピーカーから教頭の低い声が体育館に響き渡る。
5分後――
「それでは、時間となりましたので、美山高校第76回入学式を始めます」
再び体育館の中に教頭の声が響き渡り、その声を合図に、吹奏楽部が入場音楽を奏で出した。
こうして、粛々と入学式が始まったのであった。
■
「いやー、やっぱり1年生の子らは緊張してたな」
「まぁ、去年は僕らも緊張してたし。あの子らの気持ちはよくわかるよ」
入学式が終わり、各学年の各クラスが2年1組から順に体育館を後にしている。明人たちは7組のため、まだ席に着いたままだった。
「今回は校長先生の話も比較的に短かったから、よかったよな」
「だよね。終業式は先生たちですらいつ終わるんだって顔してたもんね」
秋音が健人に同意し、瑞波も首を縦に振っていた。
「っと、そろそろ移動か」
「さーて、次はお待ちかねのHRね!」
「今日のHRは本当に凄いんだから!」
「なんだよ、なんかあるのかよ!」
「あれ、たけとんは知らないの?」
「兄さんは全く知らないよ。てか知らなくていい」
「うーん、この妹の辛辣な言葉、どう思うよ明人」
「やっぱり2人は仲良いよね」
そう言って明人たちも体育館をあとにした。
■
「はい、みんな席に着いて……いるわね。みんな優秀ね」
明人たちが教室に戻って少し時間が経ったのち、緑も教室に戻ってきた。
「さて、入学式が終わりました。これで晴れてみなさんは先輩になりました! これからは良き先輩となるよう頑張ってくださいね。それじゃあHRを始めようと思うんだけど、その前に、みんなに伝えたいことがあります」
緑の言葉を聞き、教室内がざわついた。
「本日、このクラスに新しい仲間が2人加わります!」
緑の宣言を聞いた瞬間、先ほどまで静かだったクラスに歓喜の声が広がった。
「おい、マジかよ、明人転校生だってよ! 一大イベントじゃん」
「あははー、そうだね」
「なんだよ、テンション低いなー」
「はーい、静かにしてね」
緑がそう言うと、騒ぎがピタッと止んだ。
「じゃあ、1人づつ紹介するわね。ニーニャさん入ってきて」
ガラララ――
緑に呼ばれて入ってきたのは、長いブロンド色の髪を可愛くまとめ上げた小学生くらいの体躯の女の子が教室に入ってきた。
「それじゃあ、ニーニャさん、挨拶してもらえるかしら」
「はい! 初めまして! ニーニャ=ミルストリアって言います。海外から来ました。本日からみんなと一緒に勉学に励みたいと思いますので、よろしくお願いします」
そう言ってニーニャがお辞儀をすると、クラスの女子が一気に湧き上がる。
「きゃー、ニーニャちゃん可愛い!」
「すっごい、お人形さんみたい!」
「一緒に頑張ろうねー!」
男子はと言うと、大半はあまり興味がないのか、普通に拍手していたが、数名の男子は鼻血を出し、数名数名の男子はニーニャを拝み倒していた。
「えっと、もう1つ自己紹介があるの!」
ニーニャがそう言うと、騒いでいた女子もその紹介を聞こうと静かになった。
「今私は、そこに座っている……」
そういってニーニャは、明人の座っている席の方に視線を送り、停止した。
「えっと、ニーニャさんどうしたの? 緊張して喋ること忘れちゃった?」
「…………」
緑の問いにも何も答えず、その状態が数秒続いた次の瞬間。
「おっ………」
「お?」
「お父様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ニーニャの驚きの声がクラス内に反響したのであった。




