新学期の早朝に
今週分の更新です。
楽しんでいただけると幸いです。
今回の更新分から2章に入ります。
活動報告にて2017/10/10にキャラクター紹介を更新したと記載いたしましたが、どうやら最後の保存ができておらず、更新されていなかったようです。
申し訳ありません。
今日、明日中に更新をいたします。
※2017/10/22 誤字修正
4月1日――
本日、明人たちの通う美山高校で新入生たちの入学式が行われると共に、高校生活では初の後輩ができるであろうそんな日の朝、明人とニーニャとレフィアと瑞波は、いつもより早い電車に乗り、学校に着いていた。
「明人たちは職員室だよね? 私は部室にでも行って時間を潰してるわね」
そう言って瑞波が部室に向かって歩き出だすと――
「いや、瑞波。僕らも部室に呼ばれてるから、一緒に行くよ」
と明人たちも部室に向かって歩き出した瑞波について、一緒に歩き出した。
「あれ? 職員室じゃなかったの?」
「そうなんだよね。おそらくだけど、今朝呼ばれたのは転校の手続きのことじゃないと思うよ」
「? じゃあ、なんでこんなに早く呼び出されたのよ。明人は何か心当たりがあるみたいね」
「うん、僕ら春休みに森山先生と偶然会ったんだよね。で、その時にニーニャが緑って呼ぶようになったんだよ」
「あー、なるほどね……それで呼び出されたのか」
「明人、瑞波、緑がどうしたの? そういえば緑って明人たちの部活の顧問の先生だっけ?」
明人と瑞波のやりとりの中に春休みにニーニャを助けた緑の名前が出てきたため、出会った時に受けた紹介を思い出しながら明人に確認する。
「そうだよ。それと、ニーニャ、レフィアさん、覚悟しておいてください」
「? 何を覚悟するのかわからないけど、わかったわ!」
ニーニャの言葉と共に、レフィアもコクリと一つ頷く。
「そうだ、明人! 今日は学校の中を案内してもらえる時間はあるの?」
「うん、お昼休みの間に案内しようかなって考えてるよ」
「やった! 昨日は部室にしか足をはこばなかったから、楽しみね!」
自分の通っていた学校とどういったところが違うのか、異世界の学校に色々な思いを馳せながらニーニャはニヤニヤとしていた。
しばらくすると、昨日は掃除で来た部室の前に着き、明人が部室の扉を開ける。
「おはようございます」
そういって明人が中に入ると、部室の中から――
「森川くん、おはようございます」
凛とした声が響いた。
聞こえて来た声にニーニャは首をかしげる。
声は確かに迷子になったニーニャを助けてくれた緑の声なのだが、雰囲気が全く違う。
前に聞いたときは、どことなく間延びした感じで、のんびりした雰囲気であったが、今、部室から聞こえた声は、少し厳しい雰囲気を醸し出していた。
「えっと、緑?」
明人の後ろから顔を出し、部室の中を覗き込むと、そこには――
長い髪の毛を綺麗に整え、頭の後ろでポニーテールを作り、細いフレームの四角眼鏡を掛け、ピシッとしたスーツを身にまとった森山緑が部室の椅子に座っていた。
「おはようございます。ニーニャさん、レフィアさん」
「あっ、おはよう」
「おはようございます。森山様」
「おはようございます。緑先生」
「あら、木崎さんも一緒に来たのね」
「はい! お邪魔だったら教室に行ってますよ」
「問題ないわよ」
全員が部室に入り、明人が扉を閉め、部室の椅子に座った。
明人の隣にはニーニャとレフィアが、対面には瑞波と緑が座っている。
「さて、朝早くから来てくれてありがとう。ちょっと、ニーニャさんとレフィアさんに伝えておきたいことがあってね」
「なにかしら、緑?」
「春休みの話しよ。ニーニャさん、さっき部室のを覗き込んだとき、私に違和感を感じなかった?」
「感じたわよ。聞こえてくる声は間違いなく緑の声なのに、雰囲気が前と全然違ったんだもの」
「そうでしょうね。私は、教師時とそれ以外の時で、使い分けをしているの」
「使い分け?」
「そう。教師の時は教師としての森山緑、それ以外の時は素の森山緑、と行った感じで使い分けているのよ」
「あー、そういえば、前に通っていた学校でも、授業中は細かいことを気にするのに、授業以外の時は大雑把な先生いたわね。そんな感じかしら」
「ええ、そんな感じね。それで、教師以外の姿を知っているのって、今のところ文芸部員だけなのよ」
「わかったわ! つまり、緑は教師以外の姿を秘密にしてほしいのね!」
緑の説明を聞き事情を察したニーニャが、緑の言おうとしていたであろう言葉を先に言った。
その言葉を聞いた緑は、頷き――
「ええ。その通りよ」
と肯定した。
「わかったわ。その事については秘密にしておくわ。レフィアも大丈夫よね!」
「はい、大丈夫です」
秘密の共有という事に騒がしく肯定するニーニャに対して、レフィアは静かに肯定した、2人が緑の秘密を守ると約束した。
「ありがとう。それと、ニーニャさんには2つ、レフィアさんには1つお願いがあるの」
「なになに? また、秘密の共有?」
「いいえ、違います」
また秘密の共有ができるとワクワクしていたニーニャは緑の言葉を聞き、少し落胆した。
「そうなんだ。じゃあ、どんなお願いなの? 緑」
「その言葉遣いと、名前の呼び捨てについてです」
「???」
緑の言葉を聞いたニーニャは頭にいくつものはてなを浮かべているような顔をしていた。
「これって普通のことじゃない。何がいけないの?」
「友人同士で話すのであれば、普通のことです。しかし、ここは学校で、今の私は教師としての森山緑です。教師に対してタメ口は褒められたものではないですし、名前の呼び捨てもあまり良くないです」
「じゃあ、どうすればいいのよ」
「まず、私のことは森山先生か緑先生と呼ぶようにしてください。あとは、『ですます』を語尾に付けて話すといいですよ」
緑の説明を聞いて難しい顔をしながら考えた末、ニーニャは試しにと思い応える。
「わかったわです。緑先生」
言われたことを実践して応えたニーニャは――
「こんな感じでどうかしら!」
とキラキラした眼差しで緑の方に視線を向ける。
「……うーん。まぁ、日本語って難しいですから、森川くんや木崎さん、レフィアさんの話し方を聞きながら勉強してください」
ニーニャの応えを聞き、頰に手を当て悩んだ末に、緑は明人や瑞波に丸投げした。
「わかったわ……です。難しいのね、丁寧に話すのって……」
考えた末の応えがあまり良くなかったとわかったニーニャは肩を落とし、丁寧に話すことが如何に難しいのかを痛感させられた。
「で、次にレフィアさんですね」
「はい、私の方はどういった内容のお願いなのでしょうか。森山先生様」
先ほどのニーニャの指摘を聞き、レフィアは敬称を付けて緑の名前を呼ぶが。
「それですよ」
「それとは?」
「レフィアさん、先生様って何かおかしいと思いませんか?」
「?」
緑の指摘に対して何が間違っているのかわからないレフィアは首をかしげる。
「先生に様を付けるのは二重敬称と呼ばれ、間違った敬称の使い方になります。この場合、『先生』という言葉に呼称と敬称が含まれますので、『様』は必要ありません」
「なるほど、承知いたしました。森山先生」
間違いを指摘されたレフィアは頷き、正しい呼び方で応じた。
「それと、主人であるニーニャさんに対して『様』をつけるのは当たり前なのかもしれないですが、森川くん、木崎さんにまで『様』をつける必要はないと思いますよ」
「それはどういうことですか?」
今までニーニャに関わりのある人に対して必ず『様』を付けてきたレフィアにとって、緑の言っている事の意味がわからなかった。
「それについては森川くんと木崎さんが説明してくれますよ。っと、そろそろ職員室に行かないといけないですね。森川くん、説明が終わったらニーニャさんとレフィアさんを職員室に連れてきてくださいね。くれぐれも、チャイムが鳴る前には教室にいてくださいね」
そういうと緑は部室から立ち去って言った。
「丸投げして言ったよ……森山先生」
「緑先生……」
部室の扉を見て、ため息をついている2人の後ろから――
「明人様、瑞波様、先ほどの森山先生の言っていた事の説明をお願いします」
と真剣な眼差しでレフィアが2人を見ている。
「うん、じゃあ、僕から話します。レフィアさんってニーニャに関わった人全員に『様』って敬称のつけますよね?」
「そうですね、ユグドでもそうしていましたので」
「それなんですが、ユグドでニーニャに関わりがある人といえば、王族であったり貴族であったり、身分の高い人ばかりだったと思いますが、違いますか?」
「はい、私がメイドを始めてから関わった方は身分の高い方ばかりでしたね」
レフィアは首を縦に振り、肯定する。
「だからこそ、ニーニャに関わった人に対して『様』を付ける必要があったんだと思います。その『様』を付けるというのは誰かから教えてもらったんですか?」
「はい、私の教育係であったメイド長から、”ニーニャ様に関わられる全ての方は貴方より身分がうえなのですから、必ず『様』を付けるように”と教わりました」
レフィアの口から出てきたメイド長という単語を聞き、ニーニャが嫌そうな顔をした。
「あー、あのお堅い分からず屋ね」
「ニーニャ様、そんな露骨に嫌な顔をしなくても……」
名前を聞いただけであまりに嫌そうな顔をしたニーニャをレフィアがたしなめる。
「なるほど、でも、それはユグドの話ですよね。ここで、ニーニャに関わる人のほとんどは特別な身分なんて持っていません。なので、『様』なんて付ける必要がないんですよ」
明人の言葉を聞いたレフィアは難しい顔をして考え始める。
その姿を見た瑞波が口を開いた。
「難しく考えなくていいんだよ、レフィアちゃん。私たちとレフィアちゃんは友達なんだよ。友達に堅苦しい言葉遣いはいらないってこと! ほらほら、瑞波ちゃんって言って見てよ」
「いえ、しかし……瑞波さ」
「瑞波ちゃん!」
瑞波様と言おうとしたレフィアにグイッと顔を近づけ、力強く念押しする。
「み……みずはちゃ……ん……」
顔を赤らめ、恥ずかしそうにレフィアは言った。
「はーい! あと、友達に敬語もいらないから。って言ってもその辺りはすぐに直せって言われても難しいだろうし、徐々に直していこう! で、明人はどう呼ばれたいの?」
「やっぱり、僕は明人様のままで……」
「あっ、明人のことは『ブタ』か『変態』のどっちかで呼んで上げたらいいわ」
「って、おい! それはどういうことだよ!!」
瑞波の容赦ない一言に間髪入れず明人がツッコミを入れる。
「あのね、あんたがもっと早くレフィアちゃん説得してたらこんなことにはならなかったのよ。何が、『メイドさんに様付けで呼ばれるのが嬉しくて』よ!」
「メイドに様付けで呼ばれるのは男の夢の一つだろ! 何がダメなんだよ! ってか思い出した、お前、昨日ニーニャに文化祭の冊子読ませて僕のだって教えただろ!」
「ちょっと、話しをすりかえないでよ!」
ワーワーキャーキャー――
「えっと、明人……さんとお呼びすれば良いと思いますか? ニーニャ様」
「そうね、それでいいんじゃない。それか『ブタ』か『変態』か」
明人と瑞波の口論を横目にレフィアとニーニャは顔を見合わせ、笑いながら話し合っていた。
「いやー、こんな愉快な仲間と一緒に勉強ができるなんて、本当に楽しみだわ!」
「そうですね。私もこの光景を見ていると楽しみすぎて、頭が痛いです」
「それ、楽しみじゃなくて不安じゃないの」
「……」
ニーニャのツッコミを聞き、レフィアが顔を背ける。
「仕方ない、今回はこれくらいにしようじゃないか」
「そうね、って、明人そろそろ職員室向かわないとやばいよ?」
瑞波の言葉を聞き、時計を見ると、チャイムのなる10分前。
「あー、やばいね。ニーニャ、レフィアさん、職員室に向かいましょう。瑞波は部室の鍵頼んだ!」
「任された!」
「じゃあ、先に行くわね! 瑞波!」
「みずはちゃ……ん、お先に!」
「うん! あとで教室で会いましょう!」
そう言って、明人とニーニャとレフィアは急いで職員室へと向かったのだった。




