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遠話と新たな訪問者

今週分の投稿です。

楽しんでいただけると幸いです。

よろしくお願いします。


※9/5 脱字と文章中の矛盾点を修正しました。

携帯電話を手に入れたレフィアは、帰りの車の中で黙々と説明書に目を通していた。

同じく携帯電話を手に入れたニーニャは、ある程度設定を終えている携帯電話を色々と操作し、「うひゃあ」「ほー」「うむ」「きえろー」などの愉快言葉呟いている。


購入したスマホには一通りのセキュリティとアダルトサイトへのアクセスを禁止するフィルタ、課金制限などの設定を店舗の方で設定してもらっているので、よほどのミラクルがなければ変なことにはならないだろう。


「いやー、やっぱり携帯電話があるだけで安心感が違うわね」

「そうですねー」

「そういえば、明人は二人の連絡先登録した?」

「いえ、まだですよ。そういう春奈さんはしたんですか?」

「うん、私は購入時に登録しといたわよ」

「じゃあ、僕も帰ったら登録しておきますね」


そんな会話をしながら1時間ほど車に揺られ、家に帰り着いた。


「「「ただいまー」」」

「ただいまかえりました」


ニーニャとレフィアは契約書や付属品の入った荷物を置きに、部屋へと向かい、明人と春奈はお昼の準備をするために、キッチンに向かった。


「さて、今日のお昼は焼きそばにしましょうか」

「おー、焼きそば、いいじゃない!」


そう言いながら明人は野菜室を開け、中の食材を見ると――

「あっ…」

「どうしたのよ、明人」

「すみません、焼きそばは無しで……」

「なにか足りない食材でもあった? それとも、何か残ってた?」


明人がこういう反応をするときは大抵、入れたい食材がなかった時か、早めに処分しなければならない食材が残っていた時だ。


「キャベツがないです……」

そう言って野菜室をしめる。


「キャベツ? 冷凍庫にもないの」

「はい、冷凍庫に入れてたキャベツは昨日使っちゃったんですよね」

「キャベツ……キャベツねぇ。そういえば、昨日お隣さんが持って来てくれたモノってみた?」

「いや、存在そのものを知りませんでしたが……どこにあるんですか?」

「確かにレフィアちゃんが上に入れてたはずよ」

春奈の回答を聞き、明人は上にある両開きの扉を開き、中を確認すると丸くて白いビニール袋が隅の方に置かれている。


「これですかね?」

そういいながら、冷蔵庫から白い袋を取り出して春奈に見せると――

「あー、それそれ、確かにそれ春キャベツとか言ってたような」

袋の中を見て見ると、みずみずしいキャベツやアスパラ、椎茸が入っていた。


「うわ、お隣さんにちゃんとお礼言っとかないと」

「もらった時に言っといたし、あと、お孫さんが来てるって言ってたから、ストックしてたお菓子を渡しといたわよ」

「そうなんですね、だったら大丈夫ですね。ありがとうございます!」

「それじゃあ私はリビングでゆっくりしてるからー」

「了解です」



タタタタタ――

概ね昼ごはんの準備が整ったタイミングで、キッチンに駆け足で近づく足音が聞こえてきた。明人はレフィアがご飯の準備を手伝いにきてくれたのだと思い、食器の準備を手伝ってもらおうと考えていると――


バンッ――

リビングの扉が勢いよく開いた。その音を聞いた瞬間明人は駆け足で近づいてきたのはレフィアではなく、ニーニャであることに気づき、食器の準備は後にしようと考え直した。


「この辺でいいわね」


リビングからキッチンに歩いてきたニーニャは、携帯電話を取り出し、電話帳からレフィアの電話番号に電話を掛けた。


「もしもし、レフィア、所定の位置に着いたわよ」

「うん、うん、わかったわ、それじゃあ切るわね」

短い二人の会話が終わり、耳元から携帯電話を外したニーニャはジッと画面を見つめている。


ピロリロリロリン――


「きた!」

そう言いながらニーニャは携帯電話を耳に当て、なにやら感動したように震え始めた。


「やったわ、やったわよ、レフィア! レフィアからの遠話を受けることができたわ!」

ニーニャの目元には少し涙のようなものが浮かんでいた。


「レフィアさんから遠話を受け取ることってそんなにすごいことなの?」

「当然よ! ハーフオーガは精霊と会話をすることができないから、こちらから一方的に遠話のパスを繋げて会話することができても、レフィアからの遠話のパスを繋ぐことはできないのよ。それに、エルフ間の遠話であれば、長時間話すことができるのだけど、相手が別種族の場合は、種族の適正によって、その遠話時間は異なってくるのよ」

「ユグドで遠話しようとするとそんなに大変なんだね……」

「そうなのよ、だから、こうしてレフィアから遠話を受けることができたのは、こちらの世界の人からすると一般的なことなのかもしれないけれど、私たちからしたら本当に凄いことなのよ!」


「えっ? 今のは明人と話していたのよ、えっと、明人、今なにやってるの?」

「お昼ご飯の準備だよ」

「そっか、もうお昼だもんね。なに作ってるの?」

「焼きそばだよ。ちょっと前に食べたでしょ」


ダダダダダダダッ――

バンッ――


繋がったままの携帯電話の先でレフィアがニーニャと明人の会話から、明人がなにをやっているのかを推測し、2階から全力でキッチンまで走ってきた。


「すみません、明人様、お昼ご飯の準備をお手伝いします!」

「あれ、レフィア!? もう何パターンか遠話をするんじゃなかったの?」

当初の予定では、ニーニャが家の敷地内の色々な場所で、レフィアからの遠話を受け取れるかを実験しようとしていたのだが、明人が昼ごはんを作っていると推測したレフィアは、焦って1階に降りてきたのであった。


「すみません、ニーニャ様、それは午後からでお願いします。今はお昼の準備が先決かと」

「それもそうね。それじゃあ、また後で実験しましょう。」

レフィアの言葉に同意したニーニャは通話を切り、リビングへと向かっていった。


「改めて、明人様、お手伝いをさせていただきたいのですが」

メイド服ではなく、外行きの服でメイド服の時の仕草をするレフィアを見た明人は、色んな意味で卑怯だと思いつつ、食器の準備をお願いしたのであった。



昼食を終えた明人たちは各々やりたいことをやって過ごしていた。

明人はファンタジー小説を読みふけり、ニーニャとレフィアは携帯電話についての勉強、春奈はリビングで撮り溜めていたドラマを見ながら、ネットサーフィン。


そんな昼下がりを過ごしていた明人と春奈の耳に、この田舎では珍しいスポーツカーのエンジン音、明人と春奈からすると聞き覚えのあるエンジン音が段々と近づいてきて、家の前に辺りでけたたましいブレーキ音が聞こえてきたのち、聞き慣れたエンジン音が止まった。


ピンポーン――

明人と春奈は動こうとせず、ニーニャとレフィアは携帯電話の勉強に集中していたため、インターホンが鳴ったことに気づかなかった。


ピンポーン――

2度目のインターホンの音がなるが、家にいる住人は1度目と同様で動く気配がなかった。


ピンポンピンポンピンポンピンポン――

玄関先でインターホンを鳴らした女性はしびれを切らし、インターホンを連打し始めたため、春奈と明人はため息をつきながら玄関へと向かった。

玄関先についた春奈は、2階から明人が降りてくるのを待って、扉を開けた。


「なんで一回で出てくれないんですかーーーーーーー!」

「うっさいわね、あんたが来たってことはロクでもない話を持って来たんでしょ!」

「人を疫病神みたいに言わないでくださいよぉ!」

「はぁ、とりあえず外で大声出されるとご近所さんに迷惑だから入りなさいよ」

「あら、明人くん、こんにちは」

「こんにちは、犬養さん」

春奈と智花はリビングへと向かった。


「明人、明人」

明人たちがやりとりをしているのを階段の上から見ていたニーニャとレフィアは、春奈が知り合いを連れてリビングに向かったタイミングで、玄関先に残っている明人に声を掛けた。


「どうしたの、ニーニャ?」

「私たちリビングにいってもいい感じかな?」

「んー、やめといた方がいいかも。春奈さんの雷が落ちるのが見たいならいいけど」

「えっ、春奈って精霊魔法が使えるの!? それは見てみたいわね」

「違うよ! 言葉の意味は後で携帯電話で調べてみて。 とりあえず、僕か春奈さんがいいって言うまでは自室にいてほしいな」

「わかったわ。 ただ、飲み物が残り少ないから、飲み物だけほしいわ」

「了解です、春奈さん達にお茶を出したら飲み物持っていくよ」

「ありがと」

ニーニャとのやりとりを終えた明人は早足でキッチンに向かい、コーヒーの準備をし、お茶受けのお菓子とコーヒーを春奈と智花の前に出し、キッチンへと戻り、ニーニャとレフィアの飲み物を準備して2階に逃げ込んだ。


「で、今日はどんな要件なのよ、智花」

春奈のその言葉で、リビングの空気が一気に重くなった。

「えっと、怒らずに聞いてくれる?」

「内容によるわね」

「えっとね、前に出してもらった原稿データあるじゃない?」

「ええ、あるわね。それがどうかしたの?」

「実は、その、あの……差し戻しされまして……」

智花は蚊の鳴くような声小さな声で、春奈に告げる。


「はぁ! なんでよ、あんたに渡されたテーマに沿って書いてたじゃない。それに、あんたもオッケー出してたわよね」

「えっと、その、そのね、テーマでを間違えて渡しちゃったの……」

またしても智花は蚊の鳴くような声小さな声で、自分の罪を春奈に告白する。


「あ、ん、た、ねー……私ちゃんと確認したわよね、このテーマで大丈夫かって。その時なんて言ったか覚えてる?」

「『間違えてたら私が責任を取ります』って言いました」

「で、なんでこんな状況になってるの?」

「……もう一方に掛け合った結果、その人が編集長に文句を言ったうえ、絶対に書き直さないって言ったみたいで、春奈に書き直してもらえないかと依頼を……ね」

説明の最後の方は声が出ていたのかすらわからないくらい小さな声だった。


「ふざけないでよ! こっちだって同じだっての! しかもあの原稿の締め切りって今日でしょ! なんでもっと早く言わなかったのよ! 結構前に原稿出したわよね。だいたい、もう一方の人はいつ原稿出して来たのよ!」

「昨日のお昼のです……」

「だったら、先に出してた私の原稿が使われるべきじゃないの!」

「はい、その、えっと、そのように編集長に伝え、さらにもう一方の人にも伝えたんですが、それでもダメで……ううぅぅ、いろんなところから怒られちゃって、私もどうしていいかわからないんですよ! もう頼れるのは春奈さんしかいないんですよ!」

「だから、それが嫌だから無理して早く原稿出したんじゃない、どうしてもっと早く確認しなかったのよ」

「だって忙しかったんだもん……うっううううううぅうああああああああん、あああああああん、わあああああああああん」

智花の中の最後の防波堤が崩れ、思いっきり泣き始めた。


「あー、とりあえず、泣くのはやめなさい!」

「ああああああああん、うわあああああああん、ひっくひっく、うあああああああん」

どれだけ春奈が泣くのをやめるよう伝えても、一向に泣き止まず、もうこれはダメだと思った春奈は、大きなため息をつきながら、ティッシュをテーブルの上に置き、智花が泣き止むのを待った。



15分後、やっと智花が泣き止み、とりあえず話ができる状態まで戻ったが、何がきっかけでまた泣き出すかわからないため、春奈も慎重に話を進める必要があると考えていた。

「事情はわかったけど、じゃあ、どんなテーマでいつまでに何文字書いて欲しいのよ」

「ぐすっ、ぐすん、てーみゃは……短な不思議で、文字数が5000字程度、明日の朝9時までで……」

「はぁ、また面倒なテーマね……特別料金はでるんでしょうね」

「そこは編集長と話して、出せるよう話は進めてます。出なかったら私のお給料から差っ引いてお渡しします。だからお願いします」

智花がテーブルギリギリまで頭を下ろし、お願いをする。


「はぁ……仕方ないわね。今回だけよ。もし今度同じことがあって依頼されてもやらないからね」

「春奈さん、大好き!!!!」

勢いよく頭を上げた智花が、さらに勢いをつけてテーブル越しから春奈に抱きつこうとしたので、春奈はそれを避け、智花は見事にテーブルにダイブ。

当然、テーブルの上に残っていたコーヒーが智花の服を濡らしたのは言うまでもなかった。


そして、このやり取りの末、本日の春奈の徹夜が確定したのであった。

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