敗北の夜
本編の初投稿です。
初めて書いてみたのですが、書くのってすごく難しいですね。
色々と未熟な部分があると思いますが、ご容赦ください。
楽しんで読んでもらえると嬉しいです。
宜しくお願いします。
周りに広がる青い空、白い雲。
そして、目の前に広がる緑の大地。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ、だれかたすけてえええええええええええええええ!!」
ううう、まさかあんなところに寒風の精霊がまだ残っていたなんて――
お父さん、お母さん、ここまで育ててくれてありがとう。私は今日天に帰ります。
新学期早々、どうしてこんなことになっちゃったんだろうな――
■
遡ること数十分前
ドタドタドタドタ…バターン!!!
「ちーこーくーだー!」
勢いよく開くドアのけたたましい音と叫び声が響きながら一人の少女が一軒家から飛び出し走り出した。
私、サリエナ・トゥーダ・ミリボニア、花も恥じらう1700歳。
今日からトリア魔導学園の新学期なんだけど、暖かい陽気につられてついつい寝坊しちゃったせいで学園までの道のりを絶賛全力疾走中。
このままじゃ遅刻確定だよ~、とほほ~…って、こんなこと考えてても遅刻になっちゃうし、本当はダメだけど、暖風の精霊に力を貸してもらおう。
足を止め、周りを見て、誰もいないことを確認してから片手に小さな魔力石を乗せ、前に突き出し呪文を唱える。
「暖かき風の精よ、我が魔力を媒介に、我が囁きに応えたまえ」
精霊を呼ぶ三節の呪文を唱えると、暖風がサリエナの体を持ち上げ空へと導いた。
「このまま学園まで一直線に空を飛べば間に合いそうね。お願いね、暖風の精霊さん」
本当は学園外で使用できる魔力には制限があるけど、魔力石の力を使って精霊を呼べばこれくらいのことは私にだってできるのよね。
こっそり授業中に魔力石に魔力を溜めておいてよかった~。
ただ、今回の呼びかけで魔力石に溜めていた魔力は全部使いきっちゃったけど、まぁ、またこっそり溜めればいいか。
なんて考えていると学園が見えてきた。
学園にある大きな時計を見ると、閉門の時間まで後10分ほどだった。
このままの速度で行けば後8分もあれば門前に着きそうね。
「新学期早々遅刻しなくてよかった~」
間に合うことが分かったところで、気が抜け自然と安堵の声が漏れていた。
朝から全速力で走って、精霊術を使って暖風をまとっていたから体温も上がって、汗もかいていたけど、この涼しい風のおかげで少しずつ汗が引いてきて快適ね。
「…………ん? 涼しい?」
私は自分の考えに疑問を持ちついつい声が漏れていた。
「え? なんで? 暖風の精霊に呼びかけてたのに冷気を感じるの!?まさか!」
その事実に気づいた時にはすでに取り返しがつかない状態になっていた。
そう、私は空から地面に向かって真っ逆さまに落ちていたのであった。
■
この状況で冒頭に戻るわけで。
つまり私は今絶賛地面に向かって全力落下中なのです。
「あぁ、私の人生辛いことがいっぱいあったけど、でも、それでも楽しい人生だったよね」
自分に言い聞かせるように言葉を発し、走馬灯のようにいい思い出や悪い思い出が頭をよぎる。
「お父さん、お母さん、本当にごめんね。親不孝な私を許してね」
最後の言葉を発し、怖さで閉じた瞼にぎゅっと力を入れ、私は地面に激突――
しなかった。
「へぁ?」
あまりの出来事にどこから出たのかわからない声が私の口から発せられていた。
私は閉じていた瞼を開いた。目の前には地面が広がっていた。
より正確に言うと、私の目と鼻の先5cmほどに地面があり、私はギリギリのところで激突していなかったのだ。
もしかして、私の眠れる力が解放されて飛翔魔術が使えるようになったの!
「もしかして、私の眠れる力が解放されて飛翔魔術が使えるようになったの! とか考えてないよね」
声が聞こえた方向に振り返ると魔導学園の制服を着た男子生徒がいた。
「あなた……ふぎゅ……」
あなたが助けてくれたの?と聞こうとした瞬間、私は地面に落下した。
「あんたさ、一体なにやってんのよ?俺が助けなかったらあんた地面に激突して死んでたぜ」
「いつつ、遅刻しそうだったから、暖風の精霊の力を借りて登校しようとしたのよ。そしたらこの付近に寒風の精霊がいて……暖風の精霊の力が消えちゃったのよ」
落下した時に打った鼻頭をさすりながら応えた。
「……ぷっ、くくく、ははははははは、ひーっ、ひーっ、やばいねあんた本当にやばいね…ごほっごほ」
私を助けてくれた少年はお腹を抱えて大笑いし、あまりの笑いにむせていた。
「なっ、なによ、そこまで笑うことないじゃない」
「いやいや、これは笑わずには、ぷふっ、いられないよ。だってさ、あんたは学校に遅刻しないために自分の命かけて登校してたんだよな。この時期に暖風の精霊の力を借りるなんて高度な精霊術を使える術者じゃなけりゃそんなことしないぜ。命の危険があって仕方なくとかならわかるけどよ、まさか遅刻しないために使うなんて。くくく……本当にバカな女だな」
「なっ……、助けてくれたことにはお礼を言うわ。でも、バカ女って何よ!」
「だってさ、学校の規則を守ろうとして、あんたは自分の命を無下にしたんだぜ、そんなのバカ女以外の何物でもないだろ。それに、俺は自分の命を大切にしないが大っ嫌いなんだよ」
ビクッ――
先ほどまで笑っていた少年は最後の言葉とともにすごく冷たい目で私の方を見ていた。
リゴーンリゴーンリゴーン
学園の門が閉まる鐘が街中に鳴り響いた。
「じゃあな、命を賭して守ろうとした登校時間も守れず、自分の命も他人に守られるバカ女」
そう言い残し、彼は学園に向かって歩いて行った。
「くううううううう、なによなによなによ!!!」
あまりの腹立たしさにその場で地団太を踏み、学園へと急いだ。
ほどなくして、門前に着いたので遅刻手続きを行い、荷物を持ったまま始業式が始まる講堂へと向かった。
■
始業式が終わったので、私は教師から聞いたクラスに向かい、自分の席に着いた。
「おっはよ~ぅ、サリエナぁ~、スンスン」
後ろから気の抜けた声が聞こえたので、そちらを振り向くと親友のメルルティアが私の髪の毛の匂いを嗅いでいた。
「う~ん、やっぱりサリエナの髪の匂いはいい匂いがするな~」
「おはよう、メルルティア。私の髪の毛の匂いを嗅ぐのもほどほどにしてね。そろそろ先生も来るから」
「ん~…もうちょっとだけ~、スンスン」
そんなやり取りをやっている間に教室の扉が開き――
「席つけ~、ホームルーム始めるぞ」
先生が教室に入ってきて教壇の前に立った。
「え~、今日からこのクラスに新しい仲間が来てくれたぞ!教室入ってきていいぞ~」
再び教室の扉が開き、そこには……
「ああああああああああああああああああああああああああ!!! あなたは!!!!」
扉から現れた少年の姿を見て、あまりの驚きに我を忘れて立ち上り先生の隣に立つ男性に指をさした。
「お~い、サリエナ、転校生にいきなり失礼だぞ~」
先生の冷静な指摘にフリーズしてしまい、数十秒後、恥ずかしさのあまり体温が上がったまま粛々と座席に腰を落とした。
「よし、じゃあ転校生君、みんなに自己紹介してくれ」
「えーと、リゼット・A・ゼルティアナです。本日よりこのクラスで勉強をすることになりました。よろしくお願いします」
「あっさりしてんなぁ。まあいいか、リゼットの席だがあそこに座ってくれ」
先生が指定したその席は――
「こんにちは、リゼット君、隣の席だし、今日からよろしくね(怒)」
「あぁ、今日からよろしくな、バカ女」
そんなこんなで、私の波乱な2学期が始まったのであった。
■
始業式から先、本当にいろんなことがあった。
泉の精霊との契約では、私と契約を行う予定だった泉の精霊がリゼットに一目ぼれし、私と契約をしてくれなかったり――。
体育祭では、全クラス対抗精霊術バトルロワイヤルでリゼットと私でトップ争いをしたり――。
文化祭では、張り切りすぎて熱を出した私に代わってリゼットが取り仕切ってくれたり――。
研修旅行では、旅行中でトラブルに会い、はぐれドラゴンと対峙し、リゼットと力を合わせて撃退したり――。
そうこうしていくうちに私は段々とリゼットに心惹かれるようになっていた。
そして、2年生最後の終業式の前日に、私は告白する覚悟を決めた。
「リゼット、ごめんね、こんなところに呼び出して」
「はぁ、今日は一体なんだってんだよ、サリエナ」
気怠そうにしながらもリゼットは手紙で書いた世界樹の下まで来てくれた。
「リゼット、私ね、あなたに言いたいことがあるの聞いてくれる?」
ドキドキして少し声が上ずった。
「あのっ、そのねっ……」
その後しばらく私は言葉が出てこなかった。でも、リゼットは黙ってずっと私の方を見ていてくれている。
「すぅ、はぁ、すぅ、はぁ……うん」
覚悟を決めた。
「私、リゼットのことが……好きなの!!!」
いつも気怠そうにしているリゼットが驚きの表情を見せ、その後はにかむように笑いながらその言葉に応えてくれた。
「はは、俺から言おうと思ってたんだけどな。先に言われちまったか。かっこわりぃな」
リゼットは世界樹の方を一度向き――。
「ありがとう、俺もサリエナのことが好きだ。だからさ、付き合ってくれないか」
リゼットはあどけない笑顔で私の告白を受け入れてくれた。
私もリゼットからの告白に――
「うん!」
笑顔で応えた。
いつの間にか世界樹は光輝き、私はうれし涙で頬を濡らしていた。
「これからもよろしくな、サリエナ!」
リゼットが差し伸べてくれた手を右手でつかみ、濡れた頬を拭いながら応えた。
「こちらこそ、よろしくね!」
その言葉とともに暖風の精霊が世界樹の光る葉を使って祝福のアーチを作ってくれていた。
~Fin~
■
「ふっ、ふふふ、ふふふ、ふふふふ、やっと、やっと、完成したわ」
暗がりの中、何百枚と重なる紙の束を持ち上げながら、私は叫んでいた。
コンコン
扉がノックされる音が聞こえて間もなく、扉からメイド服を来た少女が入ってきた。
「失礼します。ニーニャ様、ついに完成したのですね」
「ええ、ついに完成したわ! エルフ書物機構に送るファンタジー恋愛小説の原稿が!」
私は手に持った紙束を私の専属侍女である、レフィアに向けて差し出した。
「それでは、こちらの原稿をエルフ書物機構に送付いたします。締め切りも明日なので、手早く送付の手続きをさせて頂きます」
「お願いね。あと、くれぐれもお父様に感づかれないようにね。私は……もうね……」
バタン
私の意識は”寝る”と伝える前に途切れた。
■
目が覚めると、私の体はベッドに収まっていた。
レフィアが意識を失った私をベッドに運んでくれたのだろう。
「おはようございます。ニーニャ様」
声が聞こえた方に振り向くと、レフィアがベッド横にある椅子に腰かけていた。
「おはよう、レフィア。私どれくらい寝てたかしら」
「後3時間ほどで朝になりますので、気を失われてから大体4日と9時間ほどたっていますね」
「そう……さすがに10日間寝ずに作業したのはよくなかったみたいね。まだ少し気怠いわ」
凝り固まった体をほぐすため、ベッドから降り大きく背伸びをした。
「ふぅ、レフィア、ちょっとお願いがあるんだけど聞いてくれる」
レフィアが座っている椅子の方に向き直り、両手を合わせた。
「お風呂のご用意であればできています。お召し物もこちらに用意してありますので、すぐにでもお風呂に入れますよ」
レフィアの手には既に着替えとタオルとモコリの実が3つ準備されていた。
「さっすがレフィア!でも、なんでモコリの実?」
食用の果実であるモコリの実はお風呂の香りづけなどに使わないはずだけど。
「お夜食です。4日も寝てらっしゃったので、お腹もすいているのではと思い、お風呂の中でも召し上がりやすいモコリの実を用意しておきました」
きゅ~るるるるる
モコリの実を見ているとお腹の虫が目を覚まし、鳴き始めてしまった。とりあえずお風呂場に向かいながら1つ目のモコリの実を口にする。
お風呂では、暖かいお湯につかりながら体を簡単にほぐし、レフィアに本格的なマッサージをしてもらったおかげで、4日間の凝りも取れて体が軽い。
残りのモコリの実もお風呂で食べきってしまい、お腹も満腹でようやくいつもの調子を取り戻すことができた。
お風呂上がりの着替えを終え、自室に向かおうとすると、レフィアから声を掛けられた。
「ニーニャ様、私はこのままお風呂の掃除をいたしますので、先にお部屋にお戻りください」
「わかったわ。それじゃあ、先に部屋に戻っているわね」
そうレフィアに応え、私はお風呂場を出た。
でも、実際自室に戻ったところでやることが特にないのよね。
日の出までまだ少し時間もあるし、どうしようかしら。などと考えながらお風呂場前で庭を眺めていると、青白い光が庭の端に集まっていた。
そちらに向かって歩いてみると、そこには水の精霊と月光の精霊が集り、仲良く話をしていた。
歌を歌っているように聞こえる精霊の会話が心地よかったため、囁きが聞こえるギリギリの距離に座り、精霊の会話を楽しんでした。私たちと会話をするときはもっと単調な音でしか話してくれないのに、精霊同士だと話が盛り上がるのかしらね。
そういえば、精霊の会話は異世界に通じる詠唱だって昔の文献に残ってたわね。ふとそんなことを思い出しながら、生まれて初めて聞く精霊の会話に耳を傾けていた。
しばらくすると精霊たちの会話は終わった。月光の精霊は姿を消し、代わりに日光の精霊が姿を現した。
空が少し白みがかり始めたころ、掃除を終えたのかレフィアがお風呂場から出てきたのでレフィアの方に駆け寄った。
「お風呂掃除お疲れ様」
「ひゃひっ……」
私の部屋に急ぎ足で向かおうとしていたレフィアは不意の言葉に驚きの声が漏れた。
「に、ニーニャ様」
「なによ、そんなに驚かなくてもいいじゃない。もしかして何かやましいことでも考えてたの?」
レフィアの驚きにいたずら心をくすぐられた私は、ちょっと意地悪な質問をした。
「えっと……その……特に驚いてなどいませんよ」
あれ、この反応、本当に何か隠し事をしている?
レフィアと出会って結構立つが、彼女は私に対して隠し事が苦手である。
最初から隠そうとしていることについてはどうやら普通に隠せるようなのだが、隠すか隠さないか決めきれないことを考えているときに急に声をかけると、必ずその後の会話で言葉を詰まらせる。
今回もそんな感じの状態であった。
「お風呂場で何かあったの?」
「いえ、お風呂場の掃除はつつがなく完了致しました。ニーニャ様が大事にしておられます、ペガサスの木彫りも水気を取って風通しの良いところに置いておきました」
「ありがと、あれなしの一人お風呂は少し寂しいから……ってそういうことじゃなく、私に何か隠し事があるでしょ」
私の質問に対してレフィアは少しだけ思案し――
「はい、ニーニャ様に一点お伝えするか迷っていたことがございます」
「やっぱり何か隠してたのね。怒ったりしないから教えてくれない?」
「実は、ニーニャ様の書かれた本の選考結果が書かれた手紙が私の手元にございます」
「えっ?ちょっとまって、選考結果って、4日前に書いた本の選考結果?えっ、どういうこと、選考終わるの早すぎじゃない!」
あまりに唐突の出来事に早口になりながらレフィアの肩をガシッと掴み、激しく揺さぶりながら問い詰めた。
「に…に~にゃひゃま、ちょっとおちつひてくだひゃいあ~」
「あっ、ごめん、つい、興奮しちゃって…」
「い、いえ、大丈夫です。選考結果の手紙ですが、私の部屋の方に置いてありますので、今から取りに行ってまいります。ニーニャ様はこちらでお待ちください」
足早にレフィアの自室に向かったのを見送りながら、私は胸躍らせていた。
こんなに早く選考結果が出るなんて。きっと、「1000年に一度の天才だ! すぐに書籍にして出版させてほしい!」なんて書かれてるんじゃないかな~。
庭と通路をつなぐ階段に腰掛け、そんな想像にふけっていると、折りたたまれた手紙を持ったレフィアが戻ってきた。
「ニーニャ様……こちらが文化機構よりニーニャ様宛に送られてきた手紙になります」
「ありがとう」
少し震える手でレフィアから手紙を受け取り、精霊術で封を解いた。
「我が名はリリア=ドリステア、真名はニーニャ=ミルストリア、我が名が真であり、我が真名が真名でありと、その証明をされたし」
精霊術を使用する際に告げた名が、用紙を送られた本人であると精霊に証明をしてもらい、真であれば、精霊によって封が開けられ、偽であれば、封は閉じられたままとなる。
呪文を唱えると手紙の封が消え、三枚の用紙が現れた。
現れた用紙を手に取り、目をつぶり、一度深く深呼吸をした。
「すぅ、はぁ…よし!」
気合の一斉とともに書類に目を落とし――
「―――」
「―――」
「ニーニャ様?」
レフィアが心配そうに声をかけてくるが、応対する余裕がない。
聞こえ呼びかけを無視し、手紙の内容を何度も何度も読み返し、5回目の読み返しが終わるころには――
私は、旅立ちの決心をしていたのであった。