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携帯電話と天使の笑顔

今週分の更新です。

楽しんでいただけると幸いです。

宜しくお願いいたします。

外出の準備を終えて先にリビングに戻って来たのはニーニャだった。

「レフィアー、髪結んでー」

元々ニーニャは外出用の服に着替えていた状態だったので、準備といってもアウターと髪を結ぶリボンを取りに行くだけの準備であったため、明人よりも準備が早かったのだ。


「わかりました。本日もツインテールでよろしいでしょうか」

「そうね、それが一番楽だし、それでお願い!」

リボンを受け取ったレフィアは手早くニーニャの髪をまとめ上げ、ツインテールを作った。


「ニーニャちゃん、髪が長いんだから色んな髪型に出来るわよね」

「そうね、でも、私もレフィアも、ツインテール以外の髪の結び方を知らないから」

「しかし、このツインテールのみの生活も本日でおさらばですよ、ニーニャ様」

「ほんとに! やった! でも、なんで?」

「それは、後からのお楽しみです」

「えー、なんでよー」

文句を言うニーニャを見て、レフィアは嬉しそうに口元に笑みを浮かべている。


それから暫くして、準備が整った明人がリビングに戻ってきたので、春奈は全員に車に乗るよう指示を出した。

珍しいことに、春奈の出した指示にニーニャよりも早くレフィアが反応し、そそくさと玄関での準備を終えていた。

「ニーニャ様、早く車に乗りましょう」

「ちょっと待ってよ、レフィア」

玄関でニーニャを急かすレフィアという珍しい光景を見ながら、明人と春奈も靴を履き、車に乗り込んだ。


「さーて、それじゃあ出発しますか」

「はい!」

春奈の掛け声にレフィアが元気よく返事をした。


「レフィア、本当にテンション高いわね。そんなに携帯電話が欲しいの?」

「もちろんですよ! いつでも遠話ができるアイテムなんですよ。以前のようにニーニャ様が行方不明になっても、連絡が取れるアイテムなんですよ!」

こちらの世界に来てからクールなイメージを付けたレフィアではあるが、いつでもニーニャと連絡を取れる、いつでもニーニャの居場所がわかるといったフレーズに、こちらの世界に来てから一番の興奮を覚えているようだ。


レフィアの説明を聞いたニーニャは、それほどまでにレフィアを心配させていたという事実を再認識して、誰にも気づかれぬよう心の中で再度反省をしていた。

「うん、この間の反省はここまでね」

心の中での反省を終えたニーニャは小さな声で呟いた。


そして、車に揺られ1時間、携帯電話ショップのDoDoMoに到着した。

「ここに携帯電話が売られているのですね!」

「ちょっと、待ちなさいよレフィア!」

車から降りてすぐ、レフィアはショップの入り口に向かって走り出した。ニーニャと明人はそれを追いかけるように走り出した。

春奈は車の戸締りをしてからゆっくりとショップに向かった。


店内に入ると、店内を巡回するスタッフが1人、カウンターで対応をしているスタッフが3人、そのスタッフから説明を受けている人が5人、対応待ちの人が2人ほど待合席に座っている。

明人たちが入り口にすぐのところで立ち止まっていると――

「今日は人が多いわね」

「そうですね」

「やっぱり、新学期も近いし、みんな進学祝いとかで買いにきてるんでしょうね」

「そうですね~」

すぐ近くで起きている状況から現実逃避をしたくなり、左側に設置されている展示ブースの方には一切目を向けず、明人と春奈は入り口付近で話していた。


「ちょっ、レフィア、ちょっと、そんなにはしゃがないで! 明人、春奈、ちょっと止めてよ!」

「ニーニャ様、次はあの携帯を見てみましょう!」

レフィアに腕を引かれ…いや、レフィアにズルズルと引きずられながらニーニャが明人や春奈に助けを求めるが、ここまでテンションの高いレフィアを止める術を知らない二人は、ニーニャの悲痛な叫びを聞かなかったことにし、店内にある待合席に向かった。


「くぅ、明人と春奈の裏切り者ーーー!」

「お客様、店内ではお静かにお願いします」

「むぐっ」

巡回のスタッフに注意されたニーニャは、両手で口を塞いでコクコクと頭を上下に振った。

その仕草を見たスタッフも、もう大声を出さないだろうと思ったのか、巡回に戻ろうとしていたところを――


「あの、すみません、こちらの携帯ですが、性能が記載されたカタログや別携帯とのスペック比較をされた資料などございませんでしょうか」

レフィアがスタッフを呼び止め、手にしている展示機を見せる。

「こちらのカタログでしたら、その展示品の下あたりにカタログを置いていたと思いますが、そちらにありませんでしたか?」


スタッフが展示品の乗っている机にあるカタログ設置場所を探るが、レフィアが差し出してきた携帯の性能カタログが見当たらなかった。

「少々お待ちください。裏を探してまいります」

そういうと巡回スタッフはカウンターのさらに奥にある倉庫へと歩いて行った。

「ニーニャ様、裏とはどこなのでしょうか」

スタッフの裏という言葉が理解できず、ニーニャに質問をするが、当然ニーニャも裏がなんなのかを知っているはずもないため、口を両手で抑えながら首を傾げ、くぐもった声で「さぁ」と回答していた。


「っていうか、レフィアが言っていたことすら私には理解できなかったんだけど」

口から両手を外し、少し音量を下げて、レフィアだけに聞こえるように言うと――

「なるほど、明人様はまだニーニャ様にこの辺りの説明をされていないんですね」

「どう言うことよ」

「いや、私は春奈様から携帯についての説明や、このショップについての説明をお聞きしておりましたので、こうやってスタッフの方と会話が成立しているのです」


ガーン――


「そ、そんな、レフィアの方がこの世界について見聞を広げていたなんて……」

ショックを隠しきれないニーニャはレフィアの傍らで両手をつき、「orz」ポーズをとっていた。


「いえ、携帯電話についてだけですよ。こちらに来てすぐの頃、明人様が使用されていたのを見ており、興味がありましたので」

「いいえ、これは誇っていいことよレフィア。私も携帯電話が気になってはいたけれど、難しそうだしと自分に言い聞かせながら、詳しい説明を聞くことを先延ばしにしていたの。それをあなたは意図も簡単に春奈から聞き出し、そしてスタッフさんと会話ができるくらいに理解をしたの。これは誇るべきよ!」

「はぁ、ありがとうございます。それよりもニーニャ様、早くお立ちください。またスタッフの方に注意されますよ」


「orz」ポーズで力説されても心に響くはずもなく、それよりもスタッフに注意される方が問題だと思ったレフィアは、ニーニャを注意した。

「それもそうね、んしょ!」

ニーニャが立ち上がったタイミングで、巡回のスタッフがカウンターの方から戻ってくる。


「お客様、こちらのカタログでよろしいでしょうか」

巡回スタッフから差し出されたカタログを手に取り、中を軽く見ると、レフィアが求めていた内容が書かれていた。

「あっ、はい、こちらで問題ございません」

「よかったです。今回は機種変更でしょうか?」

「いえ、新規契約ですね」

「そうでしたか。新規契約ありがとうございます。そちらの妹さんも新規契約でしょうか」


「あっ、いえ、こちらの方は妹ではなく……」

スタッフの勘違いを訂正しようとレフィアが口を開けた瞬間――

「はい、私もお姉ちゃんと一緒で新規契約です」

ニーニャの言葉にレフィアが首を痛めのばかりの速度でニーニャの方に顔を向けた。

「ねっ、お姉ちゃん!」

ニーニャの天使のような微笑みと、幼い声でのお姉ちゃん呼び、二つの戦術兵器の投入によってレフィアのの脳みそがフリーズした。


「……」

「あら、小さいのに偉いわね。保護者の方はどちらにいらっしゃいますか?」

スタッフはレフィアに向けて質問したが、フリーズしたレフィアの耳に質問は届いていなかった。

「……」

「あの、保護者の方は……」

「えっとね、あの待合席で座っている女の人が私たちの保護者です。私たちが機種を選ぶのを待っているんです」

「……」

「そうなの、しっかりしてて偉いわね。じゃあ私はお母さんとお話ししてくるわね」

「うん!」

春奈の方に向かって歩いていくスタッフに、ニーニャは元気よく手を振った。


「さて、レフィア、終わったわよ」

「……」

「? レフィア? どうしたのよレフィア?」

「…………はっ! 天使様」

「何言ってるのよ……」

レフィアの天使発言に呆れた声でニーニャが応こたえ――

「申し訳ありません、てん……ニーニャ様。しかし、あの笑顔でのお姉ちゃん呼びは、流石に私の脳みそのキャパシティを完全に超えてしまいまして……」

「いちいち説明するのも面倒だし、姉妹ってことにしておけば楽でしょ。ってことで、この店内ではよろしくね、お姉ちゃん!」

そして、その言葉でレフィアの脳みそはまたしてもフリーズするのであった。


数分後、脳みそのフリーズから解放されたレフィアはスタッフが持って来たカタログを入念に確認し、カタログに書かれている内容が要望を満たしていたため、カタログに書かれている携帯電話を購入することにした。

レフィアが欲しい携帯電話を決めた後も、ニーニャは未だに悩んでいた。というか、レフィアに連れ回されていたため、ロクに携帯電話を見ることができていなかった。


「うーん、どうしようかしら。ねぇ、お姉ちゃん」

「な……なんでしょう、ニーニャ様」

三度目になると流石に脳みそがフリーズすることはないが、やはり動揺が隠せない。


「お姉ちゃんが私の携帯を選んでくれない?」

「えっと、承知いたしました。何か要望はございますか?」

「うーん、お姉ちゃんと一緒で綺麗に写真がとれるのがいいかな~。あとは、簡単に操作ができるやつ」

ニーニャはこちらの世界にある機械の操作があまり得意ではないため、簡単に操作ができるものでないと一人で使えないと判断したのだろう。


「そ……そうですね、では、私のと同じのでどうでしょうか」

「お姉ちゃんのと同じ携帯?」

「はい、それでしたら私が操作をお教えすることもできますので、少々操作が難しくても大丈夫かと……」

「そうね、そうよ、それが一番いいわ! じゃあ、お姉ちゃんのと同じので!」

天使のように輝く笑顔を向けられたレフィアは、また脳みそがフリーズした。


「レフィアさん、ニーニャ、どの機種にするか決まった?」

待合席から様子を見ていた明人が、ニーニャとレフィアの動きを見て、欲しい機種が決まったのではと思い、展示ブースを見に来たのだった。


「あっ、裏切り者」

平坦な声でニーニャが明人に裏切り者のレッテルを投げつけた。


「あの状態のレフィアさんを止めるにはニーニャという抑止力が必要だったんだよ。でも、ニーニャのおかげで大きく暴走することはなかったと思うよ! 流石はニーニャ!」

「そりゃそうでしょ! なんたってレフィアは私のお姉ちゃ……あっ、間違えた。メイドですもの!」

「本当にありがとう。ニーニャ!」

「ふふ、私一人に任せた方がいいっていう春奈と明人の判断は正しかったわけだし、いいわ、今回だけ許してあげる!」


ホッと一息ついた明人はレフィアとニーニャの様子を見て――

「それで、二人とも機種は決まったの?」

「ええ、決まったわ」

「はい、決まりました」

「了解。それじゃあ、春奈さんのところにいって、カウンターが開いたら購入手続きをしましょう」


明人の言葉を聞き、ニーニャとレフィアの二人は、自分の携帯電話が手に入ることに胸躍らせながら、待合席に座る春奈のところに向かうのだった。

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