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必要不可欠なモノ

今週分の更新です。

明日更新できそうにありませんので、本日更新させていただきました。


楽しんでいただけると幸いです。

宜しくお願いいたします。


※8/25 2:25 誤字脱字の修正

春休みが終わるまで、後4日となった本日。いつも通りの朝食を終えた後、明人とニーニャは二人で後片付けを始めた。

ニーニャが水洗い、明人が水洗いされた食器を布で拭く、といった役割分担で作業をしている。


「ニーニャ、このお皿汚れが落ちきってないから洗い直しで」

「えっ、どこよ」

明人から洗い直しとして返されたお皿を見ると、汚れが少しだけ残っていた。

「うーん、汚れを落とし切れてたと思っていたのに……私もまだまだね」

そんなことを言いながらニーニャは、落とし切れていなかったお皿の汚れを今度こそ完璧に落としきり、明人へと渡す。


「少しずつだけど、ニーニャも皿洗いの手際が良くなってきたね」

「当然よ! ユグドで師匠と旅してた時は私がお皿洗いとか雑用を担当してたんだから! やっと観が戻ってきたって感じね」

低い身長を補うための台座の上で、ニーニャが腰に手を当て、明人に向かって胸を張るポーズを取りちょっとしたドヤ顔をしている。


「そうだね、これまでに割ったお皿の数を鑑みなければ、素直に賞賛できたんだけどね」

そう言いながら、最後のお皿を拭き終わった明人は、リビングでのんびりしている春奈とレフィアにコーヒーとお茶のおかわりを持っていく。

「うー、少しは褒めてくれてもいいじゃない」

ニーニャは自分のしていたドヤ顔が恥ずかしくなり、顔を赤らめながら、明人についてリビングへと向かった。


「そうだ、ニーニャちゃん、レフィアちゃん、今日ちょっと買い物に行くから」

食器洗いを終えた二人がのんびりと麦茶を飲んでいると、春奈が唐突に口を開いた。

その言葉を聞いたレフィアは不安そうな顔をしながら――

「買い物ですか? それは、私やニーニャ様も同行した方が良い買い物なのでしょうか?」

前回の買い物が4日前、その日に起こった事件のことを考えると、ニーニャのテンションが上がるイベントは控えた方が良さそうだと考えたレフィアは、春奈の提案に自分たちが同行すべきかを確認する。


「そうね、むしろ二人がいないと意味がないわね。もちろん、明人にも来てもらうし、今回はデパートのような広いお店には行かないから、こないだみたいな事は起こらないと思うわよ」

質問の意図を汲み取った春奈は、レフィアを安心させようと色々説明をするが、中々レフィアの不安はぬぐい切れず、表情がずっと不安そうなままだった。


「うーん、むしろ前回のデパート事件があったからこそ、二人には必要なものだと思ったものを買いに行こうと思うのよ」

「デパート事件で必要だと思ったものですか」

「そうよ。今日買いに行くのは携帯電話よ」

春奈はポケットから自分の携帯電話を取り出し、レフィアの目の前に差し出した。


「これは、離れた場所でも連絡が取れる機器ではありませんか!」

「そうよ、今日はこれを買いに行くのよ!」

レフィアの不安な表情が晴れやかになり、プルプルと震えながら春奈の差し出した携帯電話を壊さない程度の力で握りしめ、膨よかな胸に押し当てる。


「これがあれば、ニーニャ様といつでも連絡が取れるのですね!」

「イエス!」

「これがあれば、ニーニャ様がいなくなっても容易に探し出すことができるのですね!」

「イエス!」

「これがあれば、ニーニャ様のあられもない姿を収めることができるのですね!」

「イエース!」

「いや、ちょっと待って、あられもない姿を収めるってなによ!」


「今すぐ、買いに行きましょう!」

胸に押し当てていた携帯電話を春奈に返し、椅子から立ち上がったレフィアは買い物に行く準備をするために、足早に自室に戻っていった。


「ちょっと、春奈! 私のあられもない姿って何よ!」

レフィアへのツッコミが無視されてしまったため、改めて春奈を問いただすと――

「言葉の通りだけど?」

と春奈が携帯電話に保存されている写真を表示した状態でニーニャに手渡す。

「えっ、ちょっと、これ、この携帯電話って、遠話をするための道具じゃないの!?」

「そうね、十数年前までは遠話をするためだけの道具だったわね。それが今では写真を写したり、音楽を聞いたり、ゲームをしたりと多種多様な使い道のあるマルチツールになったのよ」

春奈がウンウンと頷く後ろで、ニーニャが春奈の携帯電話から自分の写真を消そうと奮闘している。


「消えろ、消えなさい、消え去れ、消えてなくなりなさい!」

色々なパターンで画像を消すよう携帯電話に命令しているが、命令したところで画像が消えるはずもない。

「ふぅ、やっと消えたわね……ちょっと時間かかっちゃったわ」

その言葉を聞いた明人が、ニーニャの持つ携帯電話を覗き見ると、画面が暗くなっている。

画面を長時間操作していなかったため、スリープモードに移行しただけなのだが、ニーニャは画像が表示されなくなったことで、画像が削除されたのだと勘違いしたのだ。


「春奈、今後はあんな姿をその写真っていうので収めないでね」

そう言いながら春奈に携帯電話を差し出す。

春奈は差し出された携帯電話を受け取りながら――

「隙がなかったらね」

隙だらけのニーニャに対し隙がなかったらなどと、またいつでも写真を撮らせてもらいますといっているようなものである。


「ふふん、携帯電話について知った私に、隙なんてないわよ! 今後は一切写真を収めることが出来ないと思ってなさい」

そんな春奈とニーニャのやりとりを横目に、明人は一口チョコレートを食べながらホットコーヒーを飲んでいた。


バンッ――


「春奈様、買い物の準備は整いました! 今すぐ携帯電話とやらを買いに行きましょう!」

自室からリビングに戻ってきたレフィアは、上は長袖のデニムのアウターで、中にピンクのTシャツ、下は裾レースの白いロングスカートといった可愛い系の衣服を着用していた。


「似合ってますね、レフィアさん」

「うわぁ、レフィア可愛い! 流石は春奈ね!」

「でっしょー! レフィアちゃんが会計所に持っていく前にインターセプトして、差し替えた甲斐があるってものよ!」

リビングに入ってきたレフィアを見て、三者三様の感想をレフィアに伝える。


「やはり、春奈様だけかと思いきや、ニーニャ様も企てに参加されていたのですね……」

春奈とニーニャの感想を聞き、レフィアの体がワナワナと震えだした。

「春奈さん、もしかして……レフィアさんが買う予定だった服の上下一セットを別の服に差し替えたんですか……」


呆れた声で明人が春奈に尋ねると――

「そうよ! いやー、私の見立てに間違いなかったわね! 流石は私!」

と悪びれるどころか自画自賛する始末である。

ただ、明人やニーニャも実際にレフィアの着ている衣服が似合っていると思っていたため、春奈の発言に反論することが出来なかった。


「私にこのような可愛い衣服は似合わないと、お店でお伝えしたではありませんか!」

「いやいや、今のここにいる三名の反応を見てもまだそれを言うの! それに、リビングに入って来たときはそんな風に恥ずかしがってなかったじゃない!」

「それは……堂々としていれば恥ずかしくないかなと思い、堂々として見たのですが、皆様の感想を聞いた途端、急に恥ずかしくなってしまって……」

レフィアは顔を赤らめ、恥ずかしさから目に涙を浮かべながら春奈に反論する。


「うーん、っていうか、そんなに嫌なんだったら、別の服を着たらいいんじゃないの?」

流石の春奈も囃し立てすぎたと思い、レフィアのフォローをすると――

「他の服は先ほど全て洗濯したばかりなんです」

「なんで!? 今日までに何度も洗濯してたわよね、なんで今日までに洗濯してないのよ!」


春奈の質問に黙りこくったレフィアを見ていたニーニャが――

「レフィア、もしかしてあなた……家ではメイド服しか着ないからって、外出時に着た他の服を洗わずに放置してたんじゃ……」

「ニーニャちゃん、流石にそれはないでしょ」

ニーニャのツッコミに対して、春奈がすかさず反論するが――

「…………」

レフィアは恥ずかしさと気まずさから視線どころか顔すらも三人から背けた。


「えっ、マジなの……」

「マジだと思うわよ」

春奈は驚きのあまり手で口元を押さえ、ニーニャの方に顔を向け――

「やっぱりそうだったんですね」

「って、明人知ってたの!?」

ようとしたところで、明人の口から発せられた言葉に驚き、明人の方に顔を向けた。


「はい、まぁ、僕も今朝気づいたんですが」

「どう言うことよ」

今朝気づいたと言う明人の言葉に春奈は首をかしげる。


「今朝の洗濯当番は僕だったんですよ」

「あー、なるほどねー」

明人の一言で全てを悟ったように春奈は相づちを打ったのち、レフィアの方に向き直り――

「これって、洗濯物を出さなかったレフィアちゃんが悪いんじゃない」


グサッ――


見事にレフィアの胸に突き刺さる会心の言葉を言い放った。

「レフィアちゃんって几帳面だと思ってたんだけど、実は、ずぼらだったりするの?」

「春奈、ずぼらってどういう意味なの?」

「えっとね、きちんとしていないとか、節度がないとか、そんな感じの意味ね」

春奈の会心の一撃から未だ立ち直れないレフィアにさらなる追加攻撃が加わった。


「そういう意味では、レフィアは自分の事に関してはずぼらよ! ユグドにいた時なんて、レフィアが自分の衣服を洗っているところを見たことがなかったもの」


グフゥ――


「レフィアさん、それはちょっと酷すぎますよ……」

ニーニャの言葉に流石の明人も驚きを隠すことが出来なかったようだ。

「結局、他のメイドがレフィアの服とかを洗濯してたのよね」

「よくそれで他のメイドから怒られたりしなかったわね」

「レフィアは、王族の専属メイドの中で最も仕事ができるメイドですもの。自分のことがおろそかになったところで、誰も咎めはしないわよ」


ニーニャのその言葉を聞き、春奈はレフィアの肩にそっと左手を置き――

「仕事に集中してたら、自分のことなんておろそかになっちゃうわよね!」

と右手でガッツポーズを作っていた。


「自分のこともちゃんとしてくださいよ!」

明人の悲痛の叫びは華麗に無視した春奈は――

「まぁ、それは置いといて、結論から言うと、今回着れる服がそれしかない、そうなったのはレフィアちゃんがずぼらなのが悪かった。ということで、今日はそれを着て買い物に行きましょう」

とにこやかにレフィアに話しながら、すでに作っていた握りこぶしをさらに強く握った。


「春奈さんは、今後、人が買いたいと思っているものを勝手に差し替えないようにしてくださいね。今度差し替えが発覚したら、その日はごはん抜きですから」

「ちょっとそれはひどくない!」

明人は服を差し替えたことをうやむやにしようとしていた春奈に対して、購入しようとしていた服の勝手な差し替えについてペナルティを課すことにしたのであった。


そんなやりとりが終わるのを見計らい、ニーニャが――

「それじゃあ、私も出かける準備をするわね」

とリビングを後にした。それに続くように明人も――

「僕もそろそろ準備します」

春奈のツッコミを華麗にスルーして、準備のため自室に戻っていった。


リビングに残った二人は――

「レフィアちゃん、お茶飲もっか」

「はい」

テーブルに座り、静かにお茶を飲み始めたのであった。

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