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駅と電車と夕食と

遅刻して申し訳ありません。

本日分の更新です。

楽しんでいただけると幸いです。

宜しくお願いします。

カーンカーンカーンカーンカーン――


「なんで、なんで奴がここに現れるのよ……」

鐘の音が鳴り響く中、ニーニャは青ざめた表情で正面を睨みつけ、明人の服の裾を引っ張った。



その状況になる少し前、道についてひとしきり説明を受けたニーニャは風景を楽しみながら歩みを進めていたが、やはり違和感があるのか、アスファルトをゲシゲシと蹴るように足踏みをしている。

「うーん、やっぱり不思議な感触ね」

「まぁ、今まで自然に作られた道を歩いてきたニーニャやレフィアさんからすると、不思議な感触なんだろうね。僕らはこの道に慣れているから、そうは感じないんだけど」


「そうよね。私もこの世界に生まれてたら、この地面について何も疑問を持ってなかったでしょうね」

その言葉と共に、ダンッと大きな足音を一つ鳴らし、数秒その場で停止していた。おそらく力加減を間違えて踏み込んだため、硬い道に慣れないニーニャの足にちょっとした衝撃が走ったのであろう。


「おーい、ニーニャ、大丈夫か?」

少し先行した明人の呼びかけに――

「うん、ちょっと力加減間違えちゃって足がジーンってしちゃっただけ。もう治ったわ」

そう言いながらニーニャは明人の隣まで小走りで移動した。


「で、さっき説明してくれるって言ってた駅ってなんなの?」

家を出る際に明人がニーニャに説明すると言っていた内容が気になったのであろう、早く説明して欲しそうにキラキラした眼差しで明人の顔を見上げている。


「駅を簡単に説明すると、賃金を対価に、遠くまで運んでくれる乗り物に乗るための場所なんだよ。ちなみに、この乗り物は車よりも早く走ることができるんだ」

「あの鉄の馬より早く走れる乗り物に乗れる場所なの! 乗ってみたい! 今日乗れるの! いや、今日乗りたい!」

車よりも早く走れる乗り物、という説明に食いついたニーニャが、まくしたてるように電車に乗りたいアピールをしている。


「今日は乗れないよ」

「えっ!? 嘘、なんで乗れないの!」

「いや、だってさ、電車に乗っちゃうと夕食までに帰れないから」

乗ることが思っていた電車に乗れないとわかったニーニャは、あからさまに肩を落とし、しょんぼりとした表情をしている。


「ん? そうよ、電車に乗って家に戻ればいいんだわ! 車よりも早く走れるなら家まですぐじゃない! ね、そうでしょ明人!」

駅から電車に乗って帰れば、電車にも乗れるし、夕食にも間に合うこれこそ最高の解決案とばかりに明人に提案したが――


「それは……無理なんだよね」

「なんでよ、もしかしてお金を持ってきてないとか?」

「いや、お金の問題じゃないんだ。ごめん、これは僕の説明不足だね」

「?」

説明不足という言葉にニーニャは首を傾げ、頭に疑問符を浮かべている。


「電車っていうのは、線路っていう決められた場所しか、走ることができないんだ。で、その線路っていうのは駅と駅の間に作られているものだから、電車に乗って家に帰ることはできないんだ」

「う~、いい案だと思ったのに~。そうよね、家の前に駅があれば、こうやって歩いて駅に向かう必要がないものね……はぁ……」

ニーニャはため息と共に再度肩をおとすことになった。


「まぁ、電車に乗る機会は近々訪れると思うから、今回は見るだけにして帰ろうよ。ね。」

「そうよね、きっとこの先、電車に乗る機会もあるわよね」

自分にそう言い聞かせるように言葉を発し、ニーニャは元気を取り戻した。


そんな会話をしているうちに、二人は駅が見えるところまで歩いてきていた。

「ニーニャ、あれが駅だよ」

「うわぁ! あれが駅なのね。家とは全然違う建物なのね! 縦に長いっていうよりは、横に長い感じね」


カーンカーンカーンカーンカーン――

「おっ、丁度電車も来たみたいだし、駅まで急いで移動しようか」

明人が小走りで走り出そうとしたとき、後ろから裾が引っ張られた。ニーニャがいたずらで引っ張っているのかと思い、振り向くと、そこには青ざめた表情のニーニャが駅を睨みつけていた。



「……って」

「なんていったの? ニーニャ、もしかして気分が悪くなったの?」

駅から視線を離さないまま、裾を引っ張るニーニャが絞り出すように発した言葉を駅の鐘の音がかき消す。


「下がって、明人! 早く私の後ろに!」

「え?」

いきなりの事態に明人は何が起こったのか把握できず、ニーニャは疑問符を頭に浮かべている明人を強引に自分の後ろに下がらせようよ裾を引っ張る力を強める。


「だから、さがってっていってるじゃない! この音を聞くのは初めてじゃないのよ!」

ニーニャの尋常じゃない焦り方を見て、さすがに普通の状況じゃないと悟った明人は、ニーニャの後ろに下がった。


「で、ニーニャの後ろに下がったけど、一体どうしたの? この音を聞くのが初めてじゃないっていうのはどういうことなの?」

「ユグド全土に伝わる伝承の一つで、この鐘の音が鳴り響くとき、死を運ぶ使者が訪れ、鐘の音を聞いた、全てのモノに等しく死を与えるであろう。そんな伝承があるのよ」

「ユグドにそんな伝承が……でも、そこで言われている鐘の音ってこの鐘の音なの?」

「ええ、ユグドには音を記録する魔石があるのだけど、その伝承とともに伝わる魔石に記録された音が、この鐘の音なの。それに……私は一度だけ、この鐘の音を直で聞いたことがあるの」

段々とニーニャの声のトーンが低くなっていく。


「え? ニーニャは大丈夫だったの!?」

「師匠がいてくれたからね。私と師匠の二人だけは、なんとか奴から逃げ切ったの。でも、その場にいた他の人たちは……」

「そうなんだ……。それで奴っていうのは?」

「死を運ぶ使者、死使(しし)。真っ白な姿をした羽の生えた四足歩行の獣。災厄の獣よ」

よく見ると、ニーニャの体が小刻みに震えている。一度遭遇したことがあるといっていたが、その時に植え付けられた恐怖が体を小刻みに震わせているんだろう。


「なるほどね。でも、それはユグドでの話だろ。ここは地球で、日本で、ニーニャが言うところの異世界だよ。大丈夫に、死使なんていない、長年この世界で過ごしている僕が言うんだから間違いないよ」

その言葉と共に、明人は小刻みに震えるニーニャの手を少しだけ力を入れて握った。


「明人……」

「大丈夫だよ、もしも死使なんてのが現れても、なんとかしてニーニャだけは逃すよ。だから、駅まで行ってみようよ」

「いや、そうじゃないのよ、明人、私は……」


カーンカーンーー


そう話していると駅のホームに電車が入るのが見え、鐘の音も止まった。

「私は貴方に死んでほしくないのよ」

ポツリと呟いた言葉は明人の発した言葉にかき消された。


「やばい、電車が来ちゃったよ。走るよニーニャ!」

明人は強引にニーニャの手を引きながら駅の中まで走り、駅の窓からホームに停車する電車を見る。明人の行動をみてニーニャも恐る恐る窓からホームを覗き込むとそこには、死使の姿はなく、ニーニャの見たことのない形をした鉄の塊が停車していた。


「うわぁ! なにこれ、なにこれ、なにこれ! 凄い、長い、なんか光が漏れてて綺麗!」

先ほどまで死使に怯えていたニーニャはどこへいったのか、窓から電車の姿を見たニーニャは、いつも通りの好奇心旺盛なニーニャに戻っていた。


「ねぇねぇ、明人、これが、この鉄の蛇が電車なの?」

「そうだよ、これが電車だよ」

「すっごいわね! あっ、窓から人が見える。なんかこっち見て手を振ってるわ。これ手を振り返してもいいのかしら?」

電車の中から子供が明人やニーニャがいる窓に向かってブンブンと手を振っている。

それを見たニーニャが手を振り返しても良いものか迷い、明人に尋ねている。


「いいよ、手を振り返してあげたらきっとあの子も喜ぶよ」

その言葉を聞いたニーニャは電車の窓から手を振っている子供に対して手を振り返した。

それを見た子供は嬉しそうにさらに速度を上げて手を振る。

そんなやりとりをしていると、電車の発車時刻を知らせる軽快な音楽がホームに鳴り響く。


『まもなくー、電車が発車いたしますー、ホームにおられる方は、黄色い線の内側までお下がりください』

駅とホームにアナウンスが流れ、数秒後電車が発車した。

ニーニャは電車が見えなくなるまで、電車に向かって手を振り続けていた。


「明人! これが駅と電車なのね!」

「そうだよ。さっきの鐘の音はユグドでは死使によってもたらされる音なのかもしれないけど、この世界では電車がもうすぐ来るよってお知らせする音なんだ」

明人の死使という単語にニーニャが無意識に反応する。

明人の説明を聞いた今でも、死使の名を聞くと体が無意識に震えてしまう。その震えを払拭しようと目を閉じ、簡易的に瞑想を行うが、そう簡単に震えは止まらない。


「ニーニャ、ちょっとこっち見てくれないか?」

明人の声が聞こえたため、ニーニャがつぶっていた目を開けると――

頰の膨らんだ明人の顔が目の前にあった。


「はへっ?」

そんな明人の顔に意表を突かれたニーニャの口から変な声が出る。その声を聞いた明人はそのまま横を向き、膨らんだ頰を両手でユックリと押さえつける。


ブフフォ――


頰に溜まった空気が汚い音と一緒に吐き出された。

「何やってるの明人?」

ニーニャが明人の方に冷ややかな視線を向ける。


「いや、面白いかなと思って」

「明人、そう言うのを面白がるのは、男の子だけだと思うわよ」

しゃがんでいる明人の肩に手を置き、残念そうな眼差しを向ける。


「やっぱり、ダメか……」

「ええ、ダメね。ぷふふっ」

明人の面白くない行動に反応したわけではないが、ニーニャの口から笑みが溢れる。


「なんだ、やっぱり面白かったんじゃないの?」

溢れた笑みを見て明人は自分の行動が面白かったのだと自信を取り戻しかけたが――

「違うわよ、しょーもなくて笑みが溢れたのよ」

そう言われて再びガクリと肩を落とした。ただ、明人の肩に置かれている手からは震えが止まっていたので、その点に関しては成功したんだなと心の中でホッと一息ついていた。


「さてと」

と言いながら明人は立ち上がり、ふと駅を構内にかけられている時計に目を向ける。


「ニーニャ、ニーニャ、ニーニャさん」

「なによ明人、ふふふっ」

未だに笑みが漏れるニーニャは、明人の指差す時計を見て凍りつく。


時計の針は、夕食の10分前を指している。駅まで徒歩で15分、今から徒歩で帰ると絶対に間に合わない時間である。

「ニーニャ」

明人がニーニャの名前を呼び、ニーニャも応えるようにコクリと頭を縦に振った。


そして二人は駅から一目散に走り出した。

「走ればきっと間に合う! はず!」

「ええ、そうね、きっと間に合うわよ!」


「そうだ、明人!」

「なに? ニーニャ!」

「ありがとね!」


明人は駅に連れてきたことの礼を言われたのだと思い――

「いやいや、夕方から散歩しようって言ってたしね」

と応えた。

「うん、本当にありがとう!」


そして、明人には聞こえない声で――

「私の震えを止めてくれて、本当にありがとう」

と呟いたのであった。


「ニーニャ、なんか言った?」

「何にも言ってないわよ!」

「そっか、じゃあ、安全第一だけど夕食に間に合うよう、ソコソコのスピードで走るよ!」

「わかったわ!」


そして二人は、どうにかこうにか夕食の時間に間に合ったのであった。

遅刻しそうな場合などは活動報告の方に遅刻する旨と、どのくらいの時間に更新できるかを記載しておりますので、気になる方がいらっしゃいましたら、そちらからご確認ください。

宜しくお願いいたします。

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