帰路と春休みの課題
2日ほど遅刻して申し訳ありません。
先週分の更新です。
楽しんでいただけると幸いです。
宜しくお願いします。
ガララララ――
「ふぃー、なんとか間に合いましたよ~」
交番の扉が開き、両手に本が大量に入った紙袋を下げた緑が交番に入って来た。
「あら~、天城さん、いらっしゃってたんですね〜」
「あっ、森山先生、この度はニーニャがお世話になりました」
春奈はそう言いながら緑に向けて頭を下げた。
「いえいえ〜、当然のことをしたまでですよ~。そういえば森川君たちはどこにいったんですか?」
交番の中にいたのは春奈と警察官の二人で、春奈は手続きの書類に記入していたようだ。
「あとはこの書類を書くだけなので、明人達には先に車に乗ってもらってます」
書きかけだった書類の置かれた机に向き直り、書類を書き進める。
「でしたら、私は自分の家に帰りますね~」
「あっ、ちょっと待ってください。よろしかったら家まで送りますよ。荷物も多そうですし」
「本当ですか~、それはありがたいです。このままだと終電に間に合うか不安だったのでありがたいです~」
緑は両手に持った紙袋を地べたに置き、近くにあったパイプ椅子を自分の近くに引き寄せ――
「あの~、このパイプ椅子座ってもいいですか?」
と警察官に尋ねた。
「はい、天城さんが書類を書き終わるまでのんびり待っていてください」
その回答を聞いた緑はパイプ椅子に腰掛け、買って来た漫画本を読み始める。
「そういえば、天城さんを待っている間に、あの外国人さんと森川君が真剣に不思議な話をしてましたね。ユグドがどうとかって。最近はやってる漫画か小説の話ですかね?」
緑の読み始めた本を見た警察官が、思い出したかのように春奈に問いかける。
突然の問いに書類を書いている手を止め、数秒硬直した春奈は絞り出すかのように言葉を発した。
「へっ、へぇ~、あの子達そんなこと話してたんですね。その辺りは私もよくわからないんですよね。あまり漫画や小説も読まないですし」
「まぁ、そうですよね、子供の話の流行り廃りって早いですし、なかなかわからないものですよね」
警察官からするとただの世間話程度のことであったが、事情を知る春奈からすると国家が動いてもおかしくないレベルの話を外でしていることに危機感を覚えていた。
あの子ら、ユグドの話を外でペラペラとするなんて……今回は特に問題はなかったけど、ちゃんと注意しとかないと。そう思いながら春奈は書類を書く手を動かす。
そうして5分ほどで残っていた記入項目を全て書きった。
「はい、これで書類に記入も大丈夫ですね。ありがとうございました。これでもう大丈夫です」
警察官は書類を受け取り、記入に不備がないことを確認した警察官は書類をファイルにしまい、春奈に記入に完了の旨を伝えた。
「こちらこそ、ありがとうございました」
「いえいえ、当然のことをしたまでです」
春奈の一礼に対して、警察官は敬礼で応じた。
「森山先生、お待たせしました。書類の記入も終わりましたので、帰りましょうか」
「わかりました。ただ、後少しだけ待ってもらえませんか? もうすぐキリのいいところまで読めますので」
本に落とした視線をそのままにしながら、春奈の言葉に応じた。
「わかりました。じゃあ、待ってますね」
「では、私は裏で今書いていただいた書類の整理などをしますので、帰る際に一度お呼びください」
春奈は書類を記入していた時に座っていたパイプ椅子に座り直し、警察官は扉から奥の部屋に向かった。
10分ほど経ち、緑は読みかけの本に栞を挟み、本を閉じた。
「くぅ~、これはいい本ですね~! この先の展開がすごく気になります~。でも続きは家でゆっくり読みましょう。天城さん、お待ちいただいてありがとうございました。もう大丈夫ですよ」
本を閉じた緑が、スマホに目を落としていた春奈に声をかけると――
「それじゃあ、帰りましょうか」
春奈は奥の部屋にいる警察官に聞こえるように大き声で――
「すみません、私たちそろそろ帰ろうと思います」
「おっとっと、わかりました。少しだけお待ちください」
春奈の声に応えて奥から警察官の声が聞こえた。
ガチャ――
緑と春奈がパイプ椅子を片付けていると、奥から警察官が出て来た。
「あっ、パイプ椅子はそのままでいいですよ。あとで片付けておきますので」
「いえいえ、お世話になったのでこれくらい」
と春奈が最後のパイプ椅子をたたみ、壁際にまとめて置く。
「ありがとうございました。片付ける手間が省けました」
「いえいえ、これくらい。それでは、今日は本当にありがとうございました」
春奈と緑は警察官に一礼して、交番を出た。
「森山先生、重そうなので片方持ちますよ」
「ありがとうございます~。お願いします~」
片方の紙袋を春奈に渡し、緑は紙袋を抱え込んだ。
■
「ごめんごめん、遅くなったわ」
「あっ、お帰りなさい春奈さん」
運転席のドアを開け、紙袋を明人に差し出した。
「? なんですか、これ」
「それ~、私の荷物なので、丁重に扱ってくださいね~」
助手席のドアが開き、明人が受け取った紙袋と同じ紙袋を持った緑が助手席に座る。
「おつかれさま~、森川君」
「先生を送ってから家に帰るから。いいわよね?」
「もちろんですよ」
明人はいつも通りの調子で、春奈の問いに回答するが、ニーニャとレフィアは黙ったままだった。
デパートに行くときは、ニーニャとレフィアの二人で後部座席に座っていたが、今回は明人も後部座席に座っている。
並びとしては、運転席側から、ニーニャ、明人、レフィアの順で、明人が間に挟まっている状態だ。
ニーニャは家に帰ってからの説教について考え、小刻みに震え、レフィアは未だに怒りと心配の気持ちを整理することがでず、目を閉じて静かに気持ちの整理している。
「さて、じゃあ帰りましょうか」
「はい!」
「よろしくお願いします~」
緑の家は交番から15分ほどのところにあるアパートの一室だった。
アパートの駐車場に一時的に車を置き、明人に預けた荷物を受け取り、春奈も一緒に緑の部屋まで荷物を運び、緑と一緒に車まで戻ってきた。
「今日は本当にありがとうございました」
春奈が緑に頭を下げると――
「いえいえ〜、こちらこそ家まで送っていただきまして、ありがとうございました〜」
と言いながら緑も頭を下げ返した。
「あと~、天城さんにお願いがありまして~」
「なんですか?」
「えっとえすね~、プライベートのこの姿をあまり人に言わないで欲しいんですよ~」
わざわざそんなお願いをされたことに対して、少し疑問を持った春奈だったが、仕事とプライベートを切り分けている人であれば、こういうこともお願いするだろうと思い直し――
「あっ、はい、人のプライベートを言いふらすようなことはしないので大丈夫ですよ」
「よかったです~」
ホッとした顔をした緑は手に下げていたビニール袋を春奈に差し出す。
「これ、貰い物ですが、よかったら食べてください」
ビニール袋の中には、タラの芽が入っていた。
「うわぁ、タラの芽じゃないですか。いいんですか?」
「はい、私一人じゃ食べきれない量をもらいましたので、是非」
「ありがとうございます! タラの芽の天ぷら大好きなんですよ」
ビニール袋に入ったタラの芽を見てはしゃぐ春奈の姿を見て、緑もクスリと笑っていた。
「そんなに喜んでいただけたら、おすそ分けした甲斐がありますね」
そんなやりとりを終え、春奈は運転席に乗り込み、緑から貰ったタラの芽は後部座席にいる明人に手渡した。
「森川君、または新学期の学校で会いましょう」
「はい、そういえば、始業式の日に部活ってやりますか?」
「ん~、やりましょうか~。春休み中にやってもらう課題もあることですし」
「……」
「あ〜、その顔、課題のこと忘れてましたね~」
「あははは……」
「まぁ、まだ春休みも始まったばかりですから、課題の方もしっかりやっておいてくださいね」
少し呆れたような顔をしながら、明人に課題をやるようにと伝えると――
「それじゃあ、ニーニャちゃんもレフィアちゃんも気をつけてね~」
「緑、今日はありがとう」
「緑様、本日は本当にありがとうございました」
ニーニャとレフィアも緑にお礼を言い、座りながら一礼する。
■
緑と別れ、明人たちが家に着いたのは21時過ぎだった。
家に帰っている途中で、イノシシや鹿と遭遇することになったが、車から漏れるレフィアの悶々とした気配を察知したのか、普段車を怖がらないイノシシですら、一目散に山へ逃げ帰って行った。
「春奈さん、僕たち生きてますよ」
「そうね、明人、私たち生きてるわね」
張り詰めた空気から解放された明人と春奈は、生きている喜びでに打ちひしがれながら、車に乗っていた荷物を家の中に運び入れる。
それを横目に、ニーニャとレフィアは一足先に自室へと戻っていく。
戻る前にレフィアが――
「明人様、春奈様、申し訳有りませんが、本日は夕食の準備をお手伝いすることができません。明日以降は必ずお手伝いいたしますので、本日だけはご容赦ください」
と言い残し、ニーニャを連れて部屋へと戻った。
その時のニーニャは、ドナドナされていく子牛の歌が頭の中に流れてくるような、そんな目をしながら明人と春奈の方を見ていた。
その姿を見た明人は、「今回ばかりは仕方ないよ、諦めてお説教されてきなさい」と心の中でつぶやきながら家の中に荷物を運び入れる。
「さて、荷物も全部入れ終わりましたし、夕食にしましょうか」
「そうね、私も気を抜いたらお腹が空いたわ」
くぅぅ――
となるお腹に手を当てながら、春奈は机につっぷした。
「今日はハンバーグにしますね」
と言いながら、テキパキと準備を進める。交番での話で、ご飯抜きはないとわかっていた明人は、ニーニャとレフィアの分も準備だけはしておき、すぐに食べる明人と春奈の分だけ焼き上げた。
ご飯は冷蔵庫に朝のあまりのご飯があったため、それを温め、サラダはトマトとキャベツの千切りを皿に盛り付けて完成。
「お味噌汁まで作る気力がなかったので、今日はこれで勘弁してください」
「いやいや、これで十分よ。いただきます」
「いただきます」
ご飯を一口お腹に入れると同時に、明人のお腹が「ぐぅ~」と大きな音を立てた。




