食材と市場と
お久しぶりです。
1週間ぶりの更新です。
楽しんで頂けると幸いです。
まだ書き留めできてないのですが、本日一本投稿します。
後程、活動報告に状況を書きますので、またそちらを読んでみてください。
よろしくお願いします。
「ありがとうございましたー!」
会計を担当してくれた店員の声に送り出された明人たちは、生鮮食品コーナーへと足を向ける。
「へー、なんか市場みたいね」
レフィアと手をつないだニーニャがそう言うと――
「そうですね。しかし、食材だけ置いて店主がいないなんて、盗んでくれと言っているようなものですね」
レフィアがそう応える。
お好み屋を出た後、デパート内恒例、ニーニャの拘束をレフィアに頼もうとしていた明人であったが、「わざわざ拘束しなくても、レフィアちゃんの力を払いのけられないなら、手をつなぐだけでいいんじゃない?」という助言を春奈から受け、目から鱗といわんばかりに、驚きの表情をしていた。
結果として、明人も春奈の助言が正しいと判断したため、ニーニャはレフィアと手をつないでフロアを移動することになったのである。
「ユグドの市場では盗みが頻発してたんですか? エルフは高潔なイメージが強いので、あまり盗みとかないと思ってました」
「そうですね、認識としてはあまり間違っていません。エルフの盗みは歴史的に見ても過去10件程度しか例がありません」
「やっぱりそうなんですね」
「はい、ただ、ミルストリア王国はエルフの王国といわれてはいますが、あくまで、エルフが国王を務める王国であって、エルフのための王国ではありません。王国に住む民はエルフ以外の種族の方が多いくらいです」
レフィアの説明をきき、明人もミルストリア王国での盗みの事情を予測することが出来た。
「なるほど、エルフ以外の種族が盗みを働くんですね」
「はい、その通りです」
「それでも、ミルストリア王国の治安は他の国に比べても非常に良いのよ。年間の窃盗被害だって100件から200件くらいだし」
レフィアの回答にニーニャが説明を付け加える。
「へー、そうなんだ! ちなみに、他の国の窃盗被害ってどれくらいなの?」
「私がお父様から聞いた話だと、年間数百万件から数千万件以上の窃盗被害が発生している国もあるらしいわよ」
「数千万って……ミルストリア王国って凄く治安がいいんだね」
野菜コーナーで必要な野菜を買い物かごに入れながら、明人はミルストリア王国の治安の良さに驚かされていた。
「ところで、明人、さっきから気になってたんだけど、それって盗みじゃないわよね? もしも盗みだったらこのニーニャ様が成敗するわよ!」
野菜の入った買い物かごを指さし、ニーニャは明人に質問する。
「いやいや、これは盗みじゃなくて、買いたい商品を確保してるんだよ」
「?」
「買いたい商品をこうやってかごの中に入れて、最後のまとめてお金を支払うんだよ。さっき服を買ったときにニーニャも自分で選んだ服を店員さんに渡してただろ。あれと同じようなものだよ」
「あー、なるほど、そういえば私もさっき店員さんに渡すまでは自分で服持ってたっけ」
先ほどの洋服店での買い物を思い出し、ニーニャも明人の行動に納得したようなので、サクサクと買い物を進めていく。
野菜コーナーで必要な食材を買い物かごに入れ、調味料コーナー、魚介コーナー、肉コーナーを回った。
回っている間に1つ目の買い物かごに商品が入らなくなったので、追加で買い物かごを持ってきて、そちらに商品を入れていくことになった。
1つは明人が、もう1つは片手の開いているレフィアが買い物かごを持っている。
最後に、飲み物のコーナーで残り少なくなっていた牛乳をレフィアのかごに入れて、レジへと向かい会計を済ませた。
「なるほど! やっぱりこの世界ではお金を後で払うものなのね」
会計を終え、エコバックとレジ袋に買った商品を入れるのを手伝いながら、ニーニャは明人に話しかける。
「うーん、その話は、説明しだすと少し長くなるだろうから、家に帰ったらでいいかな」
「わかった! じゃあ家に帰ったら教えてね」
「わかったよ」
といいながら、明人は買い物かごに入っていた最後の商品をエコバックに詰めた。
「よし、これで買い出し完了だ!」
その言葉を聞いたニーニャは、体をうずうずさせながら満面の笑顔で明人を見ている。
「ってことは!」
「うん、デパートを見て回ろうか」
「ひゃっほーい!」
その場で飛び跳ねながらニーニャがはしゃぎ始める。
「はーい、ニーニャちゃーん、うれしいのはわかるけど、他のお客さんに迷惑になるから、とりあえず落ち着こうか」
が、春奈からの注意が入り、ニーニャも直ぐにはしゃぐのをやめた。
「よし、じゃあ、デパートまわろっか!」
「おー!」
春奈の号令にニーニャも賛同し、いざデパートを回ろうと歩みを進めようとしたところに――
「あっ、ちょっと待ってください」
明人が水を差す。
「何よ明人、せっかくニーニャちゃんもノリノリだったのに!」
「そーよ! 明人も見て回ろうって言ったじゃない」
春奈とニーニャからブーイングを受けつつ明人は今日購入した数々の商品を指さした。
「この荷物、誰が持つと思ってるんですか?」
「…………」
「…………」
春奈とニーニャは黙りこくっている。
「はぁ、とりあえず、二手に分かれましょうか。僕とレフィアさんで荷物を車まで運びます。食材も氷の入ったクーラーボックスに入れておきたいですし。で、春奈さんとニーニャは先にデパートを見て回っていてください。荷物を置いたら合流しますんで」
「おっけー! じゃあ、車の鍵渡しとくわね」
「ありがとうございます。レフィアさん申し訳ありませんが、お願いしてもいいですか?」
「はい、問題ありません。春奈様、ニーニャ様のお世話よろしくお願いします」
「しっかりまかされたわ!」
一連のやり取りの間もずっとソワソワしていたニーニャは――
「もう話は終わった? それじゃあ、春奈、デパート回りましょう!」
話が終わるやいなや、春奈と一緒にデパート周りに出かけたのであった。
「それじゃあ、僕たちも荷物を置きに行きましょうか」
「そうですね。では、私が食材の袋と服の袋を持ちますので、明人さまは生活用品の袋をお願いします」
といいながらレフィアが軽々と袋を持ち上げる。
「えーっと、この状況、男として立つ瀬がないので、せめて食材の袋を片方持たせてもらえませんか?」
といいながらレフィアの持つ食材の入ったビニール袋の持ち手に手を掛けて荷物を引き取ろうと力を入れるが――
「…………」
「えっと、レフィアさん?」
「なんでしょうか、明人様」
「あの、買い物袋をですね――」
といいながら明人はもう一度力を入れて買い物袋を引っ張る。
「なんでしょうか、明人様」
「いえ、ですから買い物袋を――」
といいながら明人は再度力を入れて買い物袋を引っ張る。
「明人様、非常に申し上げにくいのですが……」
「なんですか、レフィアさん。それよりも買い物袋を――」
「あまり力を入れられてしまいますと、買い物袋が破けてしまいますので、手を離して頂けないでしょうか」
レフィアは意地でも明人に買い物袋を渡す気は無いようだ。
その言葉を聞き、明人は意地でも買い物袋を渡してもらおうと、必死に思案した。
その結果、導き出された答えが――
「レフィアさん、僕は、重たい荷物が持ちたくて持ちたくて仕方ないんです。重たい荷物を持つことこそが、買い物での唯一の楽しみなんです! お願いします。僕から楽しみを奪わないでください!」
明人のその言葉を聞いたレフィアは少しの間沈黙し、そして――
「明人様……」
「なんですか、レフィアさん」
「もしかして、明人様は、殴られたり、蹴られたり、罵られることを好まれる方なのですか?」
眉をひそめたレフィアは周りをチラチラと見ながら小声で明人に尋ねた。
「えっ、いや、えっ、どうしてそうなるんですか!」
「いえ、ユグドでは苦になることを好まれる方は総じて、殴られ、蹴られ、罵られ、といったことも好まれる方が多かったので。明人様も同じなのかと思いまして。ただ、こういったことはあまり人前で言うものではないので、私も小声で確認させていただいているのです」
その言葉を聞いて、このままでは特殊な性癖を持っていると勘違いされると思った明人は、すぐさま訂正をおこなう。
「すみません、レフィアさん、本当のことを言うと、僕は重いものを持つことを楽しみだとは思っていません! 単に、女性に重いものを持たせるわけには、という男のプライドから言っただけです」
「なるほど。しかし、私は居候をさせて頂く身ですし、何よりもハーフオーガでメイドです。こういった作業は私に任せていただけないでしょうか」
「わかりました。それじゃあ、今持っている荷物を運んでもらえますか?」
明人はそう言いながら、エスカレーターの方に歩き始めた。
「承知致しました」
顔にこそでないものの、どことなく嬉しそうな雰囲気を醸し出しているレフィアは買い物袋を落とさないように抱えこみ、明人についていく。
ほどなくして、駐車場についた二人は、トランクに乗っている氷の入った発泡スチロールに生ものを入れ、蓋の上にそのほかの食材や、購入した日用品を置く。
購入した衣服については、車の後部座席に置き、車の鍵を閉めてから、デパートへと戻った。
「そうだ! レフィアさん、ちょっと喫茶店に入りませんか? ユグドについて少しお聞きしたいこともあるので」
その言葉を聞いたレフィアは小首を傾げーー
「あの、明人様、キッサテンとは一体なんなのでしょうか? 話を聞きたいとのことですので、休める場所か何かでしょうか?」
「そうですね。喫茶店っていうのは、お茶やお菓子や軽食を食べながら、座って話のできる場所です」
ピクッーー
「お菓子……ですか?」
「はい。大概の喫茶店では、ケーキやパフェなどの甘いお菓子はありますね」
ニーニャと合流すべきか考えていたレフィアだが、明人の口からお菓子と言う単語を聞き、喫茶店への気持ちが強くなる。
しかし、ニーニャとお菓子など比べるまでもなくニーニャと合流する方が大切である。
「明人様、やはり、ニーニャ様との合流を優先させて頂けないでしょうか。質問でしたら、帰ってからでもお聞きしますので」
「了解です! それじゃあ合流しちゃいましょうか」
「はい! ありがとうございます。」
ニーニャたちと合流することが決まり、明人が春奈に電話を掛けようとスマホを取り出すと、丁度春奈から電話が掛かってきた。
「あっ、もしもし春奈さん。今丁度電話を掛けようと……えっ、いまなんて……」
先程までにこやかに笑っていた明人の表情が固くなる。
「はい、はい、わかりました。じゃあ僕たちは駐車場の方から。はい、了解です」
「ニーニャ様たちは、いまどちらにいらっしゃるのですか?」
電話を切った明人にレフィアか尋ねるとーー
「ニーニャが……行方不明になったそうです……」
「ゆくえ……ふめい……」
明人から聞いた言葉を反復させるレフィアの顔から、血の気が引いた。




