ファッションショーは欲望の中で
本日分の更新です。
楽しんで頂けると幸いです。
ストックがつきましたので、明日更新後、少しの間書き留めしたいと思います。
詳しくは本日中に活動報告に書きますのでそちらを参照ください。
よろしくお願いします。
明人はわかっていた、こうなることが。
どうすることもできなかったのだ。なぜなら、彼女がいなければここに来ることさえ、困難なのだから。
それでも、そうだとしても、止めるつもりでいた、止めなければならなかった。それが明人に課せられた、果たすべき役割の一つだったのだから。
そして、本来であれば止められるはずだった。彼女だけの力であれば止められないほど強大な力ではないのだから。だからこそ明人は油断していた。自分ならやれると思っていたから。この、目の前に広がる狂気を孕んだ光景を目にするまでは。
狂気の空間、そこに悪意や敵意など微塵もなかった。
そこにあるのは、只々、可愛いものを愛でたいという欲望ただ一つ。欲望と言う名の狂気がこの空間を支配していた。
目の前には小さい人だかりができていた。最前列には春奈とレフィアとショップの女性店員が陣取り、後列には衣類、生活用品フロアに立ち寄ったお客たちだ。
彼女らは一様にカーテンの試着室に目を向けソワソワしている。
バッ――
音とともに試着室のカーテンが開く。
「こんな感じなんですが、どうですか?」
カーテンの開いた試着室からは麦わら帽子に、スカート部分が白と淡い緑のグラデーションになっているワンピースを着た、ツインテールのニーニャが恥ずかしそうに立っていた。
ワッ――
「やっぱり私の見立てに間違いわなかったわ!」
歓声の中、前方で陣取る女性店員の本日何度目かの大声がフロア内に響き渡った。
「じゃあ、次は私が選んだこの服でお願い!」
春奈がニーニャへと服を差し出し、ニーニャはそれを受け取っておずおずと試着室のカーテンを閉めた。
そう、このファッションショーまがいのイベントが、デパートに到着してから、かれこれ2時間ほど続けられているのであった。
明人は店の外からその様子を見て――
「店員さんが服を勧めてきたところで、止めるべきだった」
店に戻って開口一番から後悔の言葉を漏らしたが、すでに後の祭だった。
■
時間は少し前にさかのぼる。
まずはニーニャの服を選ぼうと、春奈が提案したため、春奈、ニーニャ、レフィアで似合いそうな服を探し始める。
明人は服を選ぶセンスが無いので、3人が選んだ服を見て感想を言う役目を担当することにした。
数分後、ニーニャが1着、レフィアが1着、春奈が5着とニーニャに着て欲しい服をピックアップし、ニーニャに試着室に入ってもらう。
ニーニャは自分の選んだ服から順に、着替えて行く。
ニーニャが選んだ服は、紅色の半袖Tシャツにデニムのハーフパンツであった。
「うん、動きやすそうだし、元気なニーニャにぴったりだと思うよ」
「でしょ! 私もピンと来ちゃったのよね」
続いてレフィアが選んだ服は、裾フリルの水玉柄半袖チュニックと白の七部パンツであった。
「なるほど、動きやすさと可愛さをマッチさせたコーディネート、これも可愛いですね」
「うん、私もこの服好きだわ。さすがレフィア!」
「ありがとうございます」
レフィアは脳内の記憶メモリに今のニーニャの姿を記憶するため、目をそらすことなく挨拶をする。
「明人、あんた本当にコメントだけはいっちょまえね」
「選ぶセンスが無い分、そっちを磨きましたからね」
「ふふふ、でも、私が選んだ服に的確なコメントができるかしら!」
なぜか明人のコメントに挑戦的な春奈が選んだ服の1着目は――
「へー、こっちにはこんな服もあるのね」
太ももまでスリットの入った真っ赤なチャイナ服だった。
「ちょっと待ってください! なんでこんなとこにチャイナ服があるんですか!」
「そうよね、私もそう思ったわ。この片田舎のデパートになんで? と。でも、あったからには着せたいじゃない!」
目をキラキラさせながらグッと拳を握っていた。
レフィアは又しても脳内記憶メモリに保存するため、瞬きすらせずニーニャの方をジッと見ている。
「じゃあ、次々いっちゃいましょう!」
春奈のその言葉を皮切りに、春奈が選んだ残り4着の服をニーニャが次々と試着し始める。
2着目は白とピンクのロリータファッション。
3着目はセーラー服。
4着目はブルマと体操服。
そして、最後の5着目はスクール水着――
「こんなに肌に張り付く服は初めてね。なんかちょっと恥ずかしいわ」
セーラー服のあたりから春奈とレフィアのテンションがおかしくなり、スクール水着で完全に振り切れていた。
「最高、最高よニーニャちゃん!」
「ええ、こんなにも素晴らしい服がこの世には存在しているのですね」
レフィアの反応は意外だったが、春奈の反応に関しては、こうなると思っていた明人は、冷静に二人に告げた。
「とりあえず、普段着は最初の2着でいいじゃ無いですか?」
その言葉を聞き、春奈は上がったテンションを若干普通の状態に戻した。
「そうね、普段着としては最初の2着でよさそうね」
明人の言葉に同意の意を示した春奈の後ろから――
「あのー、お客様、他にもこう言った商品もございますが」
と女性店員が声をかけて来た。
声をかけてきた店員が手に持っている服を見て、春奈の普通に戻りかけていたテンションが再度上がり始める。
明人はテンションの上がった春奈を見て、まだ長くなると感じ、春奈とレフィアに生活用品を買いに行くと言って生活用品コーナーへと向かった。
生活用品コーナーでは、鏡、ゴミ箱、収納ケース2セット、壁掛け時計、歯ブラシを2本購入し、タオル類が売っている店でハンドタオル数枚とバスタオル数枚を購入した。
その後、一度は店にみんなのいる店に戻ろうとしたが――
「ニーニャの髪を乾かすのにドライヤーも買っといたほうがいいか」
と思い至り、2階の家電コーナーへと足を伸ばし、ドライヤーも購入した。
この辺りのお金については一時的に森川家の生活費から捻出し、後ほど春奈から徴収する形にしようと明人は考えていた。
一通りの買い物が終わり、エスカレーターで3階に戻ると、フロアに歓声が響いていた。
どこかでイベントでもやっているのだろうと思いながら、最初におとづれた洋服店に向かうと、そこには人だかりができていた。
そして明人は後悔の言葉を口にすることになったのだった。
■
「デパートに買い物に来たお客さんまで巻き込んでの大騒動。これ、収集つくのか?」
溜息とともにガックリとうな垂れる明人は、店の対面に置いてある休憩用の椅子に腰を掛け、店内の様子を見ている。
バッ――
音とともに再度試着室のカーテンが開き、メイド服を着たニーニャがまたしても恥ずかしそうに立っていた。
明人たちだけの時は特に恥ずかしそうなそぶりを見せてはいなかったので、他の客からの注目が恥ずかしいのだろう。
恥ずかしそうに立っているニーニャの後ろには、山のように積もった試着済みの服が置かれていた。
その様子を見て明人は、後で片付けるのが大変そうだと思ったが、女性店員も楽しんで試着を進めているのだから、別段気にする必要はないという考えに至った。
そんな風に考えていると、ひときわ大きな悲痛の叫び声が聞こえた。
「そ、そんな、用意していた服が、もう、ありません(泣)」
とぎれとぎれではあったが、はっきりと、ファッションショーの終了が告げられたのだった。
女性店員のその言葉を聞いた周りのお客は、ニーニャに拍手を送り始める。
パチパチ――
パチパチ――
そして拍手が喝采となり、その喝采を受けたニーニャは試着室で照れながら頭を下げていた。
2時間ものファッションショーを終えた結果、結局最初にニーニャ自身が選んだ服と、レフィアの選んだ服の2着とファッションショー中に着たらしいワンピースを数着、フリルのスカートを数着、さらに、長袖と七分丈のTシャツを数着選び、ファッションショーに参加していた女性店員にレジに持って行ってもらっていた。
ニーニャが服を選んでいる間に、レフィアもコソコソと着る服を選んでいた。
レフィアの選んだ服は、デニムパンツを数枚、色の濃い半そでTシャツを数枚、七分丈のTシャツを数枚、あとは、灰色とベージュ色をしたショート丈のブルゾンを数着を試着し、胸の部分のゆとりも丁度良かったため、それらの服を持ち、レジに行こうとしたら――
「レフィアちゃん、どうせ後は会計するだけだから私がレジまで持っていくから、選んだ服を貸して貰える」
と春奈から声を掛けられる。
「大丈夫です。春奈様、お金を払ってもらう上に、レジまで運んでもうなんてできません」
「いいから」
「いえ、それだけは」
このまま続けてもらちが明かないと悟った春奈は――
「渡さないと、お金払わないわよ」
最終手段に手を染めた。
「うっ……、わかり、ました」
流石のレフィアも春奈の最終手段に打ち勝つ手段はなかったので、しぶしぶ選んだ服を渡した。
「うん、それでいいのよ! さっき、明人から洋服店の前にある椅子に座ってるって連絡があったから、レフィアちゃんは店を出て明人と合流しといてくれる? レジでニーニャちゃんにもそう伝えるから」
「承知しました」
そういって、レフィアは洋服店を後にして、洋服店前の椅子で座っている明人と合流した。
「明人様、生活用品の購入ありがとうございます」
「お疲れ様です、レフィアさん。いえいえ、いい服買えましたか?」
「はい、個人的によいと思った服を選べましたので、よかったです。」
そういったレフィアは満足そうに笑みを浮かべていたので、明人も満足そうに笑みを浮かべた。
しばらくレフィアと二人で談笑していると、店からニーニャと紙袋を両手に持った春奈が店から出てきた。
「明人、どこいってたのよ!」
店を出て明人を見つけたニーニャは小走りで明人に近いてくる。
「いや、試着が長くなりそうだと思って、生活用品とか先に買いに行ってたんだよ」
明人の目の前で止まり、胸を張り、腰に手を当てて――
「私、いろんな服を着ていろんな人を喜ばせたわよ!」
と自慢げにそういうので――
「えらい、えらい」
と言いながら、ニーニャの頭を優しく撫でた。
その様子を見てか、ニーニャのファッションショーや購入した服がよかったからなのか、春奈は満足そうに笑顔を浮かべていた。




