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第八話 蜥蜴石の坑Ⅰ

どろり、第八話です。

 ボクは盗賊団マスタード一家の面々を見てきて思った。

 盗賊とは言えスライムにまでお金をせびるのはどうなのかと。

 そこまでしてお金が必要なのかと。

 そこで無一文のボク達にはお金は工面出来ないけど、悩みがあるなら相談になら乗ってあげますよと。

 盗賊団若頭キャロライナ嬢がその胸の内に秘める諸々の事情を聞いてみることにした訳なんだけど…。

「…………」

 盗賊さんが先程から黙りこくっているのはなんでだろう?

「あ、もしかして他人に相談するのが恥ずかしい事情だったり…?」

 ボクったらデリカシー欠けてたね。

「スライムに倒されたあげく相談に乗るよとか言われたら…人間様は屈辱に決まってんだろぉ!!!」

 ……それもそうだ!

「…ねごー!」

「……さーん!」

 おや…? 向こうから駆けてくるのは…。

「ハァ…ハァ…姉御ー!」

 全身緑色、子供並みの体躯、醜悪な顔と尖った耳のゴブリン。

「ハァ…ハァ…、キャロルさんっ!」 

 黒髪のショートボブ、緑のブレザーと紺色のスカートを身につけた眼鏡の少女。

「……カラシ、ワサビ!」

 先刻、倒したあの二人が全速力でこの場へと駆けつけた。

「あ、姉御…! オイラ達が… ハァハァ… オエーッ…」

「今、助太刀しま…もうダメ…」

 ゴブリンは吐瀉物をぶちまけ、眼鏡少女はそのまま倒れ伏した。

 全力で走って全力が尽きてるじゃないか。

「よーし、かかってこーい!」

 アイちゃんはやったるぞと言わんばかりの表情で二人に向けて針を構えている。

「アイちゃんもういい、終わった」

「……つまんなーい!」

 アイちゃんは拗ねてしまう。君はそんなに闘いたいのかい。

「はぁ…」

 諦めた様子で溜め息をつく盗賊さん。

「そこまで言うならあたいらの相談に乗ってもらおうか…」

 ククク、いいぞ。ようやく話す気になったか。

「スライムくん、悪役みたい」 ふ、こんな善人を捕まえて何を言うんだいアイちゃん。

 …場所を変える、そう言っておさげ髪の盗賊さんは歩き出した。

「あ、待って、盗賊さん」

「盗賊さーん♪」

「盗賊盗賊言うな…。あたいはキャロライナだよ。キャロルと…そう呼びな」

 わかった、キャロルさん待ってあげて。

「あ、姉御…」

「置いてかないで…ぐすん」

 動けない二人の回復を待ってあげて。




 マウマ峡谷の橋下に岩肌をくり抜くように洞穴が空いていた。

 ボクらが案内されたのはその洞穴の中に造られたというマスタード一家のアジトだった。

 内部は崩落防止の為にあちこち壁が補強され、通路にもまた転倒防止に木製の床板が敷かれていた。

 洞穴に入り最初の分岐点に一つの石像が置いてあるのを見つけた。

「スライムくん見てー! トカゲさん!」

「うん、大きいトカゲだ!」

「トカゲ言うな!」

 ゴブリンのカラシ君が言うには蜥蜴人(リザードマン)という亜人の石像らしい。

 亜人とはこの世界に住まう人に似て人ならざる種族を指す言葉。

 蜥蜴人は全身が鱗に覆われた蜥蜴の特徴を持つ亜人だ。

「…トカゲじゃないか」

 バカ野郎禁句だぞ。殺されるぞと騒ぐゴブリンを尻目にボクらは分かれ道を右に進む。


「今のが…、マスタード一家の首領。トリニダード・マスタード。…あたいの親父だ」 へぇ、お父様の石像ですか…。 …!?

「キャロさん。お母さん似だね」

「そうだねアイちゃん、いやそんな馬鹿な。昔、拾われたとかそういうのでしょ?」

 ならず者あるある。

「あたいと親父は実の親子だよ」

 そ、そうなの…?

 じゃあ蜥蜴人と人間のハーフ? 鱗はどこにも見えないけど…?

 踊り子衣装の隙間を舐め回すように見る…のは流石に失礼なので自重しました。

「異種族間での子供はどちらかの片親の種族を引き継ぐそうです。だから親兄弟で種族が違ったりもわりとあるみたいですよ」

 解説ありがとうワサビさん。

 なお、母方の種族がやや遺伝しやすいそうです。

「ちなみにあたいは父方の祖父がエルフ、母方の祖父が吸血鬼(ヴァンパイア)なんだ」

 おぉう?頭がこんがらがる。 親族の集まりとかすごそうですね。

「ねー、スライムくん」

 どうしたのアイちゃん? あんまり飛び回ると頭ぶつけるよ?

 アイちゃんは洞窟の中なのに明るいよと言い出す。

 …、壁をよく見れば穴が開いておりそこに光る丸い石が置かれている。

「ははーん? おまえら【採光石】も知らないのか?」

 ゴブリンがボクらをあざ笑う。

 うん知らない。教えてよ?

 ボクがキミを溶かす前にさ。じゅわ…


「さ、【採光石】は光を蓄える性質を持った鉱石です…。暗がりに置くと光を放ちます…。昼間は太陽に当てて、夜間は照明にどうぞ。スライムのアニキ…!ヘヘッ…」

 と、カラシ君から媚びるように採光石を一つ献上されたけどボクこれいらないかも。

 夜目が利くから必要ないんだよね。

「なにしてんだい、早く来な」

 あ、はい。今行きますキャロルさん。…【貯蔵】っと。



 ドーム型の天井、洞穴内の大広間に案内されたボク達を出迎えたのは全身緑色の集団だった。

「「「おかえりなさい、姉御!!!」」」

「…ただいま、野郎共!!」

「「「イェーイ!!!」」」

 小さな体躯、尖った耳の醜悪な顔が約二十。

 思い思いに歓声を上げている。

「キャロルさん、まさかとは思いますが…?」

「こいつら全員。あたいの部下さ」

 ゴブリン、カラシ君だけじゃなかったんですね。

「ふっふっふ、みんなオイラより超つえーんだぜぇ?」

「ふーん、じゃあキミは超弱いんだぁ?」

 …アイちゃん、思ってもすぐに口に出さないの。

「うわああん、ワサビ姐さん慰めてぇ…!」

「いじめないであげてください」

 優しくすると付け上がりますよワサビさん。

「さぁあんた達、道をお開け!」

「「「オスッ!!」」」

 左右に別れ整列するゴブリン達。

 緑一色の花道を進んでいくキャロルさん。

 その姿はさながらゴブリンクイーンの凱旋。

 盗賊団No.2としての風格が溢れでている。

 とてもスライムに負けたとは思えないよキャロルさん。




 マスタード一家の首領部屋。

 木製の床に絨毯が敷き詰められ、壁には県や盾と言った武具や蜥蜴人である首領の肖像画といった物が飾られている。

「…………」

 イスに腰掛け執務机の上で手を組むキャロルさん。その脇に控えるワサビさんとカラシ君。

 彼女達と対面するようにボクとアイちゃんがソファーに腰掛けていた。

「それで相談と言うのは…?」

 静寂の中ボクが話を切り出した。

「…………」

 キャロルさんは重く息を溜め、口を開いた。

「あたいの親父を助けて欲しいのさ」

 …首領室に首領がいないと思ったらなるほど。キャロルさんのお父さんは捕まっていたのか。でも、

「ボクら脱獄の手引きはちょっと…」

「自信あるー! 私、錠前が鉄ならこわせるよ!」


 自信あるじゃないアルよ!!

「…? あんた達は何を勘違いしているんだい…?」

「やれないんじゃないやれだと? ろくでなしの発想だ!」

「ろくでなしの人でなしだね!」

「おまえら人じゃねぇだろ! いいから姉御の話を聞けよっ!」

「ゴブリンは黙ってて!」

「んだとっ、チビッ!」

 わいわいがやがやわいわいがやがや。

「おまえら…」

 キャロルさんは震える。


―黙って。


「「「…………はい」」」

 その一喝に三匹は身がすくんだ。

「………よろしい」

 指で眼鏡を持ち上げるワサビさん。

「…ではどうぞキャロルさん?」「あぁ…ありがとう、ワサビ……さん」

 風を操る女魔導師、ワサビ=オロシさんには逆らわんとこ…、固く心に決めた。

「もう一度言う。うちの親父を助けて欲しい」

「首領の…蜥蜴人さんを?」

「あぁ、親父を治すためには多額の金がいる。あたいらはなりふりかまってらんないのさ!」

 治す…?

「トカゲさんビョーキなの…?」

「病気…いや、あれは呪いだよ…」

 キャロルさんは唇を噛む…。

 ワサビさんもカラシ君も顔を伏せている。

 呪い。

 十中八九良い予感はしない響きだ。

 首領は一体何の呪いを受けたって言うんだ…。

「さっき見ただろう…?」


 

「うちの親父は“石”になっちまったのさ」


第八話でした。お父さんジャマとか言わないであげてください。


次回予告

「息子が産まれたよスティーブ」

「おめでとう。エルフのかみさん、美人だよなボブ」

「ボクと産まれた子の種族がちがうんだよスティーブ」

「エルスティアではよくあることさボブ」

「息子がおまえと同じドワーフなんだよスティーブ!」

「オー、君もドワーフなんじゃないか? ボブ?」


第九話 男と女


「ところで今夜は空いてるのスティーブ?」


「ヒュー…、ボブの旦那は男だぜ!」

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