第七話 鳥の架け橋Ⅲ
第七話です。
レベルアップに伴いまた新たな能力を獲得した。
特性【貯蔵】体内に異空間が生成され、物を収納できる。大きさ重量に関わらず三品のアイテムを収納できる。
「アイちゃん、中はどうなってる?」
(ひろーい、きれーい、かいてきだよー?)
「そろそろでておいでー?」
(ここにすむー)
「くぉら、出てこーい!」
そろそろ峡谷を抜けるのだろうか。
第四の橋を渡った辺りから谷底の景色が木々の広がる森へと変わっている。
なんだかんだでやってきた第五の橋にもなんかいた。
「…あぁん?」
そのなんかことキャロライナ=マスタードさん。マスタード一家のNo.2だそうだ。
踊り子衣装に身を包んだおさげ髪の女性に剣を突き立てられているスライムと妖精。
それが現状だった。
「あたいの部下を可愛がってくれたんだってねぇ?」
「はい!」
アイちゃん。元気にお返事できましたね。
「はいじゃないが…? だったら死ぬ覚悟は出来てるかい?」
いいえ!
「ボクらはお姉さんと平和的解決を望みます…」
「話せばわかると思うの」
「そうかいそうかい。いいだろう…」
うんうん、モンスターと人はわかりあえるんだ!
「金を出しな? それがこの世で一番シンプルな平和的解決法さ」
やっぱりわかりあうなんて無理なのかな。
「スライムくん、私達ってそんなにお金持ちに見える…?」
アイちゃんボクらはね。金は無くとも心がセレブなんだよ。
「ハンッ! 金が無いなら身体で払ってもらうしか…無いよねぇっ!」
どろり、ボクは降り下ろされた盗賊の剣を受け流す。
「なっ…」
剣先はボクの身体をすり抜け橋板に突き刺さった。
「やっぱりそれ、マスタード一家の決まり文句?」
「……野郎ッ、ぶっ潰すぞ!」
この人も倒していくことにしよっか?
「ほらほらほら!」
目にも止まらぬ足捌きで踊るかのように敵を斬りふせる。
【盗賊】にして【舞剣士】の資質を持つキャロライナ=マスタードの攻撃。
「どうしたどうしたどうした!」
スライムはその早業に翻弄されて防戦を敷いられる。
「攻撃をかわすだけかい!」
「………」
連撃に次ぐ連撃、スライムは一歩も攻撃に動けていない。
「そんなんじゃ! いつまで! たっても! 倒せないよ!」
スライムは動かない。
「あたいの! 攻撃が! 一向に!」
スライムは動かない。動いていない!
「当たりゃしないよ!」
盗賊は無傷、スライムも無傷。
防戦一方のスライムが劣勢に見えたが有効な一撃は何一つ入っていない。
スライムは全てをかわしていた!
半透明のスライムは産まれて間もないため剣でも倒せる。
しかし時を経た濃い体色のスライムはその動き全てが熟練されており斬打を軽く受け流すという。
このスライムの体色は未だ半透明だが人知の恩恵を受けるが故に早熟であった。
半透明にして早熟、すなわち半熟のスライム。
それを見抜けぬ半熟者の盗賊。
これは半熟と半熟による半熟対戦!
「こんの潰れた水まんじゅうがぁ!」
降り下ろされる盗賊の剣を
「………」
スライムは身体で受け止める。
「!」
そして次の瞬間、
盗賊の剣がその場から消失する。
(剣が!?)
一瞬で溶かされた?
いや違う。
握っていた柄ごと剣が消えたのだ。
「うっ!」
盗賊は体勢を崩し膝を着く。
「…終わりにしましょう」
「!!」
スライムに剣を突きつけられる盗賊。
(スライムが剣!? どこから……、って!?)
盗賊は気づく。突きつけられていたその剣は…。
(あたい…の…?)
盗賊は消されたはずの自らの剣をスライムから突きつけられていた。
「………続けます?」
「くっ…そぉ……」
盗賊を倒した。
『スライムのレベルが上がった』
『【LV7】→【LV8】』
盗賊キャロライナさんはうなだれている。
盗賊から物を盗るというそのプライドをへし折るような真似をした訳だからさぞ効いただろう。
タネ明かしすると剣を一端【貯蔵】して、出してみたってだけなんだけどね。
さてと…。
「盗賊さん」
「なんだい…、もうあたいに用なんて無いハズだよ?」
「あなた何か抱えているんでしょ?」
「…………ッ」
盗賊さんは目をそらす。
「聞かせてよ」
「聞いて…どうする気さ?」
「助ける」
ボクは彼女を見る
「………」
彼女はボクを見る。
「…何なのさ、あんたは?」
「ボクですか? 名も無きスライムですよ」
第七話でした。
特性【貯蔵】本来はフィールド用であり戦闘時に使用する能力では無いですよ。
次回予告
触れただけで物を収納する特性【貯蔵】を駆使しスライムは今日も戦う!
「剣を【貯蔵】!」
「眼帯を【貯蔵】」
「おさげを【貯蔵】」
「いやあああ、あたいのアイデンティティー!」
「そして服をっ!」
次回 第八話 ひらめいた! 通報した!
「キミの心の扉、とじたりしまっちゃうぞ!」
※次回は予定通り変更となります。