第五話 鳥の架け橋Ⅰ
第五話です。
祝・PV500アクセス突破致しました!
アルマロ地方から森を抜けボク達が辿り着いたここはマウマ地方という。
まず最初に飛び込んで来たのは巨大な峡谷だった。
吸い込まれそうな谷底を覗いてみれば渓流がその姿を見せた。
「この高さから落ちたらまず助かるまいと言われる高さだねスライムくん」
それ助かる奴だねアイちゃん。
「どうやって向こう岸に渡ればいいと思う?」
「とぶ」
そうだねアイちゃんは飛べるよね。
「…ボクには羽がないからなぁ」
「体内の水分を一気に吐き出して…とぶ!」
きっと放物線を描いて谷底に落ちてくよ。
「体積たりないからなぁ」
「それじゃあ… 向こうの吊り橋を渡る?」
あるんだ…。良かった。
渓谷にかかる丸太製の吊り橋は小さな馬車なら渡れそうな程頑丈な造りをしていた。
これが崩れる心配はまずあるまい。
ボクらは橋を渡ろうとした訳なのだが…
「おーっと、ここから先は通さないぜ!」
尖った耳と醜悪な顔、緑色の肌の子供…。世間的にゴブリンと呼ばれるモンスターが目の前に立ちはだかった。
「この先には何があるんだろうねアイちゃん」
「楽しみだねスライムくん」
ボク達はスルーをした。
「まてまてまてーい!」
しかし回りこまれてしまった。
「ここを泣く子も黙る山賊団マスタード一家の縄張りだと知っての狼藉かぁ!」
知らないよ。
「アイちゃん知ってる?」
「知らない」
アイちゃんが知らないなら知らないや、ボク、生まれて日が浅いし。
「知らぬなら教えてやろう!」
「「結構です」」
先を急ごう。
「いかないでぇ! 黙って通すとオイラ、姉御に叱られるのっ!」
…わかったよ。相手してやるよ。
「つまりここは自分達が仕切ってる。通りたければ、みか締め料を置いてきやがれと?」
「話が早いな、そういうこった!」
そうかそうか…。
「あはははは」
「うふふふふ」
「な、なんだなんだ!! なにがおかしい!」
「金なんて…」「無い!」
ボクらは無一文のすっぴんぴんさ!
「そ、それなら身体で払ってもらうまでだー!!」
ゴブリンが襲いかかってきた。
「女の子に身体で払えだなんて…えっち!」
妖精アイゼルネは身体を捩った。
「スライムは殺してコアが売れる! 妖精は捕まえるだけでカネになるんだよお!」
ゴブリンは棍棒を振りかぶる。
「【形態変化】」
「なっ!?」
スライムはゴブリンの攻撃を溶けてかわした。
「や、やるなっ!」
「【触手】」
スライムはゴブリンをくすぐった。
「あひゃ! あひゃひゃひゃ! …うぉ、うおっうおー!?!」
ゴブリンは体勢を崩し手すりのロープに倒れ掛かる。
「…いけないっ、落ちちゃう! アイちゃん!」
「はーい! アイちゃんハンマー!」
アイゼルネは手すりの外側で【鉄LV5】のスキルを発動。
金槌に変えた腕でゴブリンをぶん殴った。
ゴブリンを倒した。
「………」
ゴブリンはのびている。
「殺さないの?」
「一家って言ってたし、上の奴がいるみたいだからね」
後で報復されるのもアレだし…
「上がいるなら見せしめに殺っておこうよ」
やれやれキミは恐ろしい子だ。
「アイちゃん、無益な殺生はいけません」
「…はーい!」
ゴブリンをその場に残しボクらは先に進む。
(ふ、ふふっ…。バカな奴め… 引き返せば良かった物を…)
(オイラは…マスタード一家の…中でも…)
「もう一発、アイちゃんハンマー!」
(最…弱…、ガクッ)
橋を渡り少し歩くとまた吊り橋があった。
マウマ地方は谷が多くその分だけ橋も掛かっているらしい。
一体誰が橋を掛けたのか気になっていたら…。
【マウマの橋立伝説 ハーピー親方の偉業を称える】という石碑と、その横に胸筋全開、筋肉粒々で逞しい鳥人間の石像があった。
ハーピー親方、素敵ー…。
ボクらが三つめの橋を渡っていると橋の中央に人影を見つけた。
黒い髪のショートボブ、緑色のブレザー、紺色のミニスカートを穿き、丸い眼鏡を掛けた少女。
その手には分厚い本を携えて彼女は遠い景色を眺めていた。
「………」
「………」
こちらに気づいていないのならそれはそれでかまわない。
通りすぎてしまおうとアイちゃんとアイコンタクトを取る。
何事もなく通りすぎようとしたその時。
「風に聞きました、今日貴方達がここへやって来ると…」
向こうから話し掛けてくるとは。
「風は何でも教えてくれますと少女は振り向いて」
言葉の通り少女はボクらに振り向いて
「きゃああああ!?」
「「わあああああ!?」」
絶叫。ボクらも絶叫。
「な、なんですかぁ…?」
少女はへたりこむ。
「あなたがなんなのよ」
アイちゃんの言うとおりだ。
「えっと…盗賊団マスタード一家のお世話になっております。ワサビ=オロシと申します」 ずり落ちた眼鏡を持ち上げ少女は名乗り挙げた。
「…おろし山葵?薬味かな?」
「ち、違います! 方向の下に、石ころの石でオロシ。詫びると錆びると書いてワサビと読みます!」
なるほど…下石詫錆さんだそうです。 ん…? もしかしてこの子…。
「っていうか、ひいっ! あなた達は何!? 妖精さんと喋るスライムさん!?」
両手をくの字にして驚く少女ワサビさん。
じゃあ自己紹介しようか…。
「ボク、スライム」
「私、アイゼルネ」
アイちゃんはボクに肩を寄せる。
「二人は!」
…えっ?
「ほらスライムくんも、二人は?」
「…な、仲良し?」
「ねー?」
「ね、ねー…?」
なんだこれ聞いてないよアイちゃん!
「はぁ…?」
ほらワサビちゃんもキョトンとしてるじゃない。
もういい…行こう。
「…驚かせてごめんなさい。それじゃボク達はこれで」
その場を立ち去るボクを見てアイちゃんもそれを理解し、
「何かを邪魔にしてごめんなさい。その、風がどうとか…」
と言ってボクの後を追う。
触れないであげようね?
「待って」
な、なんでしょうか? 風の谷の文学少女ワサビちゃん…。
「ここに来る途中、ゴブリンに会いませんでしたか?」
…ゴブリン? あぁ、アレもマスタード一家とか言ってましたっけ?
「彼、カラシ君はどうしました?」
マスタード、ワサビにカラシ? わー、なんだか辛そう。ピリピリしてくる…。
ピリピリしているのはむしろこの空間ってボクのバカァ!
さぁどうしよう。返答次第では彼女を怒らせてしまうような予感がする。
「さぁ、あんまり私の記憶に残らなかったよ」
アイちゃんはまた誤解を生むようなことを言う。
「そうですか…。カラシ君はぶっきらぼうだけど一生懸命で…とってもいい子でした……」
ほら誤解した! 誤解された!
ボクはレンズの奥に怒りと悲しみで滲む彼女の瞳を見る。
「マスタード一家の皆さんは私の恩人。家族も同然なんです。あなた達はカラシ君の仇! それは我が弟の仇であると認識します!」
…どうしてこうなった?
認識の違いがどうしてこうも人を狂わせるのでしょうか。
ねぇ誰か…ボクに教えてくれませんか…?
ボクの汁は溢れて止まらない。
めがねっ娘! 第五話でした。
次回予告
シャドウバイパーとの戦いの中で愛剣をへし折られたダサ男。
「ここは一時撤退ね…」
「まだだ! 剣ならある!」
「えっどこに!」
「男はな…産まれながらに剣士なんだよ!」ジーッ
ダサ男の隠された剣が今姿を見せる
第六話 ダサ男の小太刀
「なによそれ…! それで…どうやって戦うの!?」