第三話 始まりの草原Ⅲ
第三話です。
レベルアップ時に獲得したスキル【触手LV0】でボクの身体に触手が生成された。
触ったり掴んだりが楽になるかな〜と思うじゃん?身体の表面にイボができる程度なんだよね…。
これはまだ力を使いこなせていないからだと思う
最初から持っていた【酸】を例にすると【酸LV0】で能力の下地が出来上がる。使い方を身体が理解した頃【酸LV1】となり真価を発揮する。そんな感じだ。
今の【酸】は【LV2】だけどここから【LV3】【LV4】と成長していくに違いない。もちろんこの【触手】も…。
次に【発声器官】、文字通り身体に発声器官がそなわり声を出せるようになった。
「あえいうえおあお、隣の柿はよく客喰う柿だ」
これで他人と意志疎通が取れる。歌も歌えるぞ! ららら〜♪
最後に【形態変化LV0】、これを使うとボクの身体が凝固する。ドロドロ形態から念願のぽよぽよ形態になり、ぴょんぴょん跳ねまわれるようになったのだ。
ふふ、我ながらぷにぷにして可愛いじゃないか…。
どろり…。まだ変化が長く持たないのが難点だけど。いずれ使いこなして見せる!
ぷるぷるぽよぽよ…とボクのきびしい特訓は深夜遅くまで続いた。
沢山動いて身体が渇いてきた。水場に移動しようかな。ずるずる。
清水涌き出る草原の休憩所。昼間のダサ男達がいない事を確認しボクは内心胸を撫で下ろす。 ゆっくりと水分を補給しよう。
「ぷはー、…うまいっ!」
そんな風に味覚がない分気分だけでも味わっていた。
…その時だった。
「ふーん、流暢に喋れるスライムなんて珍しいね?」
突如投げ掛けられた声。
「?」
振りかえるボク、しかし誰もいない…?
「上だよ、キミの上。」
「?」
上…? ボクが空を見上げると、そこに声の主はいた。
それは玩具の着せ替え人形のように小さな身体。小さな手と小さな足。蜻蛉のように透き通る蝶のような綺麗な羽を背中に持つ。銀色の髪の…。
「妖…精…?」
子供の頃のおとぎ話の挿し絵でしか見たことはない。
だけど本のイメージそのままにとても可憐な妖精さんがそこにいた。
「こんばんわ、スライムくん?」
異世界の草原。月明かりの下でスライムと妖精が出会った。
何気無いこの出会いはやがて世界の運命を変える…かもしれないとそう思えたボクは…
「わぁ妖精さんだ! はじめてみた! 可愛いー! ボクと友達になって欲しいな!」
と思うままに口に出してしまった。
「…は? それ、本気で言ってるの?」
ぴゅーんと妖精さんは飛んで行ってしまいました…とさ。
間違えた…。対応、間違えた。完全に引かれたわ。失礼過ぎるわ。 ボクのバカッ!
そして鏡を見ろ、おまえのようなスライムが友達を作ろうだなどとおごがましい事とは思わんのかね?
うあああああ〜…、よしっ! もう忘れたっ!
この世界に転生して二日目の朝が来た。
ゆうべは一睡も出来なかったけど不思議と眠くない。
『スキル成長【触手LV0】→【触手LV1】』
『解放特性【粘着】』
一晩中表面のイボをうごかしていたら急にイボが膨らみだして三センチ程の触手が完成した。
触手の粘着力で岩や木に張り付き立体移動が可能となった。
今日は昨日の反省を生かし日が当たらない草陰を進んでいくことにしよう。
道中襲いかかってきた大きなネズミやカエルをやっつけながらボクは草原を突っ切った。
ボクは道すがらぽつりと立たずむ看板を見つける。
『この先、アルマロの街』
と、この世界の文字で書かれているらしい。この世界の文字…で…?
そういえばダサ男達や妖精さん達の言葉もボクには通じていた。
何故かボクには異世界の言葉が理解できる…。何故?
考えても仕方ないか。理解出来ない事が理解できる事を理解する必要もないし。
とりあえずこの先に人間の街がある。モンスターのボクが街に入ってもいいのかなぁ…?
『スライムは入っちゃダメ!』『とっとと出ていきなさいよ!』
等と罵声や石を投げつけられる気がする。よしやーめた。
アルマロは草原とその奥に広がる森を隔てるように造られた小さな町だった。
あ…、ちょっとだけ…物陰からちょっと覗くだけなんだからね。
町の中央には大きな酒場がありそれを取り巻くようにいくつかの宿が並んでいる。
どうやらここは冒険者や旅商人達の中継点となる宿場町のようだ。
行き交う人々を眺めていると中央の酒場の扉が開いた。
「今日のクエストは何を請けた?」
「一月一度の限定クエスト。ユニークモンスター・シャドウバイパーの討伐!」
あれは昨日のダサ男とチャラ女じゃないか…。
「…あぁ、あの蛇か。緑色の蛇グラスバイパーをそのまま黒くしたような…」
「そうそう黒蛇の皮が高く売れるんだって」
ん? もしかしてあの蛇かなぁ? それならボクが食べましたよ。残さずにね!
「よっしゃあいくぜ!」
「おー!」
ご苦労様です。無駄足頑張ってください。
ボクは誰にも見つからないように町の反対側の出口へとやってきた。
「スライムくん!」
人間に見つかった。殺される!
「すいません! すいません! すぐ出ていきますごめんなさい!」
「待って!」
「待ちませんっ!」
ズルズルッ!
ザクザクザクッ!
「うわぁ!?」
ボクの行く手に銀色の針が突き刺さった。
「…待ってよ」
終わった…。
「こ、殺される!」
「は? 殺さないよ!?」
「じゃあ生かさず殺さずいたぶる気か…、いっそ一思いにやれー!!」
ボクが振り返るとそこには…
玩具の着せ替え人形のように小さな身体。小さな手と小さな足。蜻蛉のように透き通る蝶のような綺麗な羽を背中に持つ。銀色の髪の…
「…妖精さん!?」
妖精さんがその手に針を構えながら今にも泣きそうな顔で立っていた。
「やっぱり私とは友達になってくれないの…?」
え…友達?
「な、なりたいよ? なろうよ」
「本当!? 本当に私なんかでいいの!? わーい!!」
ゆうべはそっちから逃げたのにどういう事だ?
「わーいわーい! ピューン」
あぁ、なるほどさては、この子“も”寂しがり屋だな?
つまりゆうべの反応は…。
『やめてよね。友達なんて本気で言ってるの? あなたと友達だなんて真っ平ごめん。さよならピューン』
ではなくて
『本気で友達になってくれるの? それってマジ嬉しいんですけどー! イヤッホー! 舞い上がっちゃうんですけどー!ピューン』
という反応だったわけか。ま、まぎらわしい。
「…妖精さん。お名前は?」
「私? 私は…」
妖精さんは姿勢を正し嬉しそうにはにかんで名前を告げた。
「アイゼルネ」
異世界に転生しスライムとなったボクにも友達が出来た。
導き、出会い、どこか共鳴する。寂しがり屋のキミとボク。
ここはボク達二人の始まりの草原。
三話でした。
次回から森に行きます。
次回予告
突如妖精ハンター、ダサ男に捕らえられたアイゼルネ
「グェッヘッヘェ」
「スライム君助けて!」
「この外道!!」
第四話 愛ゆえに…! 出るか、怒りのスライム波!
※次回の内容は都合により大きく変更となる場合があります。