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筆を執るということは、魂を込めることと同義。

作者: 青桐

美しい顔は舞台にふさわしい。

いやになるほど平凡な私は、自らの役目を理由づけるのにいつもこの言葉を使う。

大衆に注目され、歯の浮くようなクサい台詞台を堂々と言ってのけて尚、その姿は眩しく美しい。

私はその彼らを竜や魔王と戦わせて英雄にするのが仕事。彼女らを苦難の末に愛しい人と添い遂げさせるのが仕事。そして、平凡な人々におとぎ話を語って見せるのも、私の仕事。

ここまで言えば皆さん皆さんお分かりだろうか?

私の仕事の名前は、劇団の舞台監督。




きっかけはこうだ。


私、木皿汐里(きさらしおり)18歳の将来の夢は小説家だった。

時代の波は悲しき哉、本という文化を悉く淘汰しつつあったのだが、私は昔ながらの本というメディアを好む奇人という目で周りから見られていた。なぜそんな重くて場所をとるものを好むの、と親も友達も聞くが、決まって私はこう答えていた。タッチパネルでページをめくることに私は楽しみを見いだせない、と。人間には五感が備わっているのだから、それら全てで物語物を感じるべきだというのが私の言い分だ。徐々に捲られる一ページごとの臨場感、古本のツンとしたカビのにおい。明朝体で書かれた気に入ったフレーズを指でなぞって、心でかみしめる。その時に、すす、と指と紙がすれる音は私のお気に入りだ。

そんな様子の私を、周りはお手上げといった感じであったし、そういった雰囲気を感じていたからこそ尚更私は本の世界にのめりこんだ。

いつしか私はこの紙の向こうにある世界を見ているだけでなく、作る側にまわりたいと思うようになってくる。小説家になりたい。身を焦がすような恋を紡ぎたい、無残な殺人事件の犯人を暴く様を見てほしい。


だから高校の面談の時に先生に言った。将来は小説家として働きたいと思っています。

少し間をおいて、帰ってきたのは苦笑いだった。それからは、手ごろな学力の文学部がある大学を進められ、この調子で勉強をすれば進学できる、の言葉で締めくくられて終わった。

一緒に話を聞いていた親は少し怒った顔で、あんまり先生を困らせてはいけないよ、と言った。

私は心の中にたまっていた暖かいものが、急に冷めていくような感じがした。正面よりもやや下を向きながら家に帰り、自分の部屋の扉を閉めたところで、ずるずると扉に背を預けながらゆっくりと床に座り込む。扉の対角線には窓があり、燃えるような夕日が沈んで行っている。光の加減で見える、部屋に舞った埃をなんとなく見つめていると、妙に口の中が乾いていることに気が付いて、私はしばらくの間自分の口が空いたままだったことを知る。口を閉じて、乾いた唇を慣らすために舌でなめるのと、床に上半身を沈めたのはきっと同時だった。


何がこんなに私の心の熱を引かせたのか。怒りとは違う。絶望の言葉も当てはまらない。涙も出ない。ただ瞬きと呼吸だけが今の私の動作だ。自分の呼吸の音に耳を澄ませて、少し長い瞬きをした後に私は思いついた。これはきっと羞恥心だ。自分が情熱を注いでいた思いが、世間にとってはとるに足らない思いだということに私は初めて気が付いたのだ。親にも先生にも、青臭い餓鬼だと思われただろう。普通の、私と同い年の子はきっとこんなことは言わないし、きっと具体的に将来を考えていない子と評価された。世界からひとり取り残されていて、周りは私よりも進んでいる。本を読んでいる時には気が付かなかった孤独を、私は知ってしまった。

私は孤独に取り残された存在だという事実を知って、とても恥ずかしい。

部屋の中はすでに薄紫色に染まってくる時間で、瞬きさえも億劫になった私は、ゆっくりと瞼を下した。




ガタン、ガタンとまるで電車のような音で私は目を開けた。

黒い靴、レースやフリルが沢山あしらわれたスカートの裾、蹄、歯車。そこまで箇条に挙げていくと、さすがに異変に気が付いて私は体を起こした。私は部屋の床でなく石畳の舗装された道に寝ていたらしく、頬が痛い。しかしそれよりも目の前の景色の方が重要だ。


端的に言うと、私はまったく違う世界に居た。

中世ヨーロッパような街並み、科学の代わりに発達した魔法と言われる存在、月のない夜空。

そして何より、すっかり私の体は縮んでしまっていた。

木皿汐里18歳としての中身はそのままに、見た目は10程度の子供の姿になってしまったのだ。

まったく信じられない。西洋のファンタジー小説のような出来事に戸惑いが隠せなかったものの、それでも私は生きていて、お腹が空く。空腹を感じるということは、どうにかして食料を得ないと死んでしまうということだ。私はあれほどまでに心細い気持ちを味わったことは無い。18歳という年齢は親の庇護のもとから出たことがないことを示す。まったく知らない場所で、しかも10歳程度の幼子がひとりで生きていく術を、私は想像もつかない。

しかし、どこの世界にもいい人というのはいるもので、まるで予め用意してあったシナリオに沿うように、シルクハットがよく似合う初老の紳士が彷徨う私を保護してくれたのだ。まったくありがたいことである。このシルクハットシの御仁、名をバージリオという。彼はウォルトン劇団という、私の居た世界で言うところのサーカス団の団長を営んでおり、「目が合ってビビッときた」の一言で後見人として私を拾った後、ウォルトンの性を名乗る権利を私にくれた。シオリ・ウォルトン。それが今の私の名前だ。バージリオ・ウォルトンの名はそこそこ売れているらしく、劇団の裏方として働き始めた私は、あまりの忙しさにボソッとブラック企業め、とこぼした回数は数知れない。



事の始まりは夜、私がウォルトン性を名乗るようになって90日目のことだ。

ウォルトン劇団は観客を選ばないことで有名だ。広大な領地を治める貴族様の御前から、貧困で苦しむ異邦の子供たちまで、さまざまなお客を迎えるため、平民からの支持を多く受け、羨望の眼差しを向けられることも多い。しかしその代償として、劇団の旅路は過酷を極める。空高くそびえる雪山を越えるのに遭難しかけたこともある。その時は、商人達の間でまことしやかに噂される砂漠の果てのオアシスを目指す旅路の途中だった。

私は寝ずの番だったため、団員達が眠るキャンプを背に、荷物を運ぶための大きな荷馬車の上に上っていた。砂漠の夜はあまりにも寒い。蝋燭の灯りがほのかに熱を放ち私を温める。肩から掛けた毛布を首元に手繰り寄せ、地平線の奥の星を眺めていると心が凪ぐ気がする。

一つ言っておくと、この世界は月がない。星のほのかな明かりのみで闇夜を凌ぐ。ゆえに明かりを灯す道具は高級品だ。多くの人は生きる術として魔法を駆使して、ランタンようなものに持続可能な炎を灯して使うが、私は残念ながら魔法を使えない。なのでバージリオは私一人のために定期的に蝋燭を仕入れてくれる。ほとんどの人が魔法が使える中、一部の人間のみが趣向品としてたしなむための蝋燭は決して安いものではない。それでも、出世払いだ、と笑い飛ばしでバージリオは私に灯りをくれる。

噂をすれば影、どん、と遠慮のない背中への衝撃で私の意識は空想から戻ってきた。


「寝ずの番、お疲れさん。」

「…こんばんは、バージリオ。何か用?」


ギシギシと荷馬車が悲鳴を上げているのも気にせずに、その大きな体を私の横に落ち着けた。ほのかに香るアルコールの匂いに、私はこれから酔っ払いに絡まれることを予想して少しため息が出た。


「用ってほどじゃないんだけどよ、シオリ。少しお前とこれからの話がしたかったのさ。」

「………、」


何か言おうとしたはずなのに喉で引っかかって声にならない。ひゅう、と息だけが私の口から洩れた。その話題は私にとって怖いものだった。それを感じ取ったかのようにバージリオは目じりに皺を作って笑い、私を抱き上げて足の間に座らせた。


「なにも変な話をするわけじゃない。先の話っていうのは、劇団のこれからって意味だ。」

「劇団の?次はどこに行くかってこと?」


そうじゃなくでだな、と言葉が続く。


俺は不安なんだ、このまま当たり前ように劇団を続けていくと、俺たちは普遍的な何かに成り下がっちまうんじゃないかって。実際に、俺たちと同じ芸を披露する劇団は多くある。ただ違うのは客を選ぶかどうかってことさ。でもこの先そんな劇団だって出てくるかもしれない。俺たちは特別じゃなくなるんだ。それは、なんだか、俺は嫌なんだ。普遍でなく特別でありたい。同じように並んでいるのではなく、頭一つでも飛び出ていたいんだ。


「そのための決定的な一手が、ほしい。」


バージリオは私が見たことのない顔をしていた。眉を寄せてただ、前を見ている。暗い夜のせいか、バージリオの金の瞳は獣のようにギラギラと光っているように見えた。その姿を見て、私は無条件に優しくしてもらえていたことに甘えすぎていたのだと、深く反省した。それと同時にバージリオに強い憧れを抱いた。普通でいたくない、大衆に埋もれるのは嫌だ。それはかつて、18歳の姿の私が求めたものを否定する言葉だった。私は人と違った思想を持って特出していることを知ったとき、恥ずかしくて、嫌で、消えてしまいたいと思った。普通でいたかった。でも彼はそうは思わない。普通でいたくないと言う。それは孤独なんて貧相な言葉では当てはまることのない輝きを持っているように思った。私はその気持ちを一つの言葉で括ってみたい衝動に駆られた。


「バージリオは、孤高でいたいのね。」


静かな砂漠の夜に、バージリオの息をのむ声が私に聞こえる。彼は私を抱きしめる力を少し強くし、より自身の体に私を近づけた。


「…孤高、そう、俺は孤高の存在でありたい。」


彼は私に言った。


「お前を拾ったのは何もただの善意からだけじゃない。変革を求めていたからだ。

 シオリ、俺に恩を感じているのならどうか、俺の望むものをもたらしてほしい。」


なんて、なんて、傲慢な男なのだろう。

その志はかの百獣の王のごとく高らかで、その瞳は鷲のように鋭い。


そして、私はそんな彼を文字で表したいと思った。







いくら団長の養子とはいえ、団員たちが急に子供のいうことをなんでも、はいわかりましたと聞くわけがない。私が団長であるバージリオに提言し、あくまで実行するのはバージリオでなくてはいけない。まずは彼と話さなくてはならないのだ。

しかし、残念なことにこれは一朝一夕で終わるような話し合いではない。


「おい、団長とお嬢、一日中何の話してんだ?」

「さぁ、なんか難しい話で私にぁさっぱりだわさ。」

「主人公がどうだの、お姫さんを救い出すだの、この暑さでついに頭やられたかねぇ。」


「だから!バージリオはわかってない!それじゃまったく面白くない!」

「お、面白いだろ!それにシオリの意見も盛り込んだじゃねぇか!」

「どこが!?それじゃただ主人公が剣を振り回してたまたま竜にあたって勝っちゃったって話にしか聞こえない!主人公の人生は波乱万丈じゃなきゃいけないの!物語には起承転結が必要なの!」

「そ、そうかぁ…?さっぱりわかんねぇ…」


観客が居る以上、見せられるものでなくてはいけない。なおかつ、劇団としての実力が発揮できるもの。

それを考慮したうえで、私は劇という結論を出した。

理想は現代で言う、ミュージカルや舞台のようなものを想定している。

悲しいことに、この世界には物語を書き記しておくという習慣が無い。紙は高級品で、基本的には庶民に買えるものではない。御伽噺を語るのは本ではなく吟遊詩人の仕事なのだという。子供の寝物語に母親が語って聞かせるなど、この世界での物語の楽しみ方のバリエーションは極めて少ない。私はそこに目をつけた。

劇団という規模で吟遊詩人の真似事をしよう者など、私たちが初めてだろう。

バージリオと幾重にも重なる話し合いの中、私が必要なものを箇条に挙げては、実現可能、実現不可とバージリオが仕分けしていく。

まずはシナリオだ。

これは二つ用意することにした。一つは誰でも知っているような短めの話がいいと思い、この世界の寝物語の定番の話を採用した。もう一つは、


「だめ。ぜんぜん面白くない。だって意味が分からないもの。この物語は何が伝えたいの?」

「……俺には向いてないんじゃねぇかなって思えてきた。」

「…じゃあ、私が最初に基本的な物語の構成を考える。そこから二人で具体的に話をふくらませる方向でいきましょう。」

「シオリって実はすげぇ奴だったんだな…。」


自作することにしたのだ。

本音を言うと私が一から全部作りたかった。望んだ形ではないにしろ、それは私の夢である小説家の実現に近かったからだ。しかし、それではこの世界ならではの慣習とズレる恐れがあるため、二人で作ろう、という形にまとまった。私がこの世界に完全に溶け込めるまで、たとえバージリオがどんなにクソつまらない話を書く男であったとしても、決して切り捨てられない。運命の神は私に苦難を課せられた。心底辛い。


二つ目に、音楽。

劇団で芸を披露するにあたってもともとラッパと小太鼓をSEとして演出していた。これは引き続き使えるだろう。だがこれだけでは足りない。音楽をするにはどこの世界でも金がかかるらしい。楽器とは基本的に貴族様方の娯楽なんだそうな。妥協策として、小太鼓を今までやってくれていた団員には、太鼓以外に空き箱や皿なども楽器に見立てて演奏してもらえるようにする。一種のパーカッションのような役回りだ。加えて練習を加えなければならないのは、歌だ。主人公やヒロインのソロはもちろん、楽器が少ないため音楽はコーラスでカバーに回りたい。これらの訓練は、劇団唯一の音楽家であるラッパ吹きに頼むしかない。君はこれからラッパだけでなく、作曲の真似事と歌の指導もするんだよ、とだけバージリオとともに伝えに行った。団長命令だと付け加えるのも忘れない。ラッパ吹きは青い顔をして胃のあたりをさすっていた。


三つめは舞台だ。

現在、劇団を披露する上でどうやっているのかというと、荷馬車で巨大なテントを運んでいる。このテントが優れもので、空間圧縮魔法のようなものがかかっているようだ。ような、というのはただ単に私がこの魔法の名前を知らないだけだ。このテントには外から見ても大きいのに、中に入れば明らかに外から見たままよりも広いのだ。魔法万歳。舞台はこのテントをそのまま使おうと思っている。舞台と観客席がそのまま用意されているからだ。ただ、前列の観客席を音楽隊用のスペースに変えようと思っている。音楽は観客に近い方が迫力があるし。実際のオペラも舞台と観客の間に楽団が置かれる。



そうして始まった、バージリオと私の〝ウォルトン歌劇団”。







ほー、ほー。

私は空き瓶に向かって息を吹いて、まるで夜の鳥のような音を出す。

今は恋人たちの逢瀬。

ベッドで横になる女に、枕元に座って女の頬を撫でる男。

「————————私は常闇の民。どんなに望もうとも、決して太陽の下には存在できぬのです。どうか姫君、このままあなたを攫えない惨めで弱虫な私を、恨んでください。」

「夜の方、どうか、そのような苦しいお顔をなさらないで。愛しい人のそのようなお顔は、わたくしは見たくないわ。ねぇ、どうか笑って?」


舞台はクライマックスだ。観客席のご婦人は目に涙をためて今にも泣きだしそう。

今演じているのは、私とバージリオで作ったオリジナルのお話。

こちらでは竜や吸血鬼といった概念がないことをいいことに、このお話のモデルは吸血鬼だ。

人の血肉を啜り、強い力を得る代わりに太陽の下で過ごすことを許されない、バージリオが演じる常闇の民。彼はいつものように殺すためだけに攫ってきた、うちの劇団一の美女が演じる貴族の女と、気まぐれで会話をするうちに恋に落ちてしまう。攫ってきたはずなのに、彼女の帰りたいという願いすらかなえてしまう始末。しかし、彼女を家に送り返してからも健気に夜の窓辺で逢瀬を繰り返す。やがて貴族の女には婚約の話が持ち上がり、彼女は常闇の民と添い遂げたいと願うようになる。


「っ、すまない、私は、命も惜しくない。あなたが望んでくれるならば、どうか今宵私の隣で眠ってくれないだろうか。」

「ねむったら、眠ったらそこにあなたはいてくれるの?」

「…………、もちろんだとも。私の愛しい、唯一の姫君。さあ、今宵はもうおやすみ。」


バージリオの泣き笑いがご婦人の胸をうつ!効果は抜群だ!

名演技だよバージリオ!


「………そうなの、あなたが望んでくれるのなら、私は喜んで受け入れるわ。おやすみ、わたくしの、愛しい夜の怪物さん。」


貴族の女は、そうして目を閉じた。


「すまない、起きたらきっと、一緒に居られる。同じ空の下で、きっと。」


そうして常闇の民は女の首筋に牙を立てる。

女の手が力なく落ちるのと同時に、朝がきて窓から日が差し、男の頬にひびが入る。


「私の、唯一の姫、」


青白くなった手を握り締めて、夜の怪物は砂になるのだ。






「わたくし、お姫様に婚約の話が来た時にはもう、どきどきして!」

「最後の、抱きしめて砂になるシーン、泣いてしまいましたわぁ!夜の怪物の役の方が、かっこよくって!」


出口近くの声に私は聞き耳を立てながら、私はにこやかに退場指示をする。

今日も歌劇団は大盛況だ。

砂漠の密談から三年、ウォルトン歌劇団は国一番の見世物屋へと駆け上がった。

スポンサーも数多くつき、最初は難航していた楽器の問題も、むしろ演奏させてほしいという音楽家が名乗りを上げてくるようにまでなった。合唱団までできる始末である。

今回は首都での講演で、ターゲットは貴族のご婦人方である。


劇をやっていくうえで、私の予想だにしていないことが起こった。役者ファンが出てきたのだ。

主役を演じることの多いバージリオは今やトップアイドルのような存在だし、今回姫君役を演じたお姉さんなんて、ウィンク一つで町の男どもをトキメキで卒倒させられるほどだ。

私といえば、もういくつもシナリオを手掛けるようになりバージリオと二人、などとは言わずにもう幾つもシオリ・ウォルトンとしての作品を書いている。姿を見せない作家として、幽霊的な扱いで私もそこそこ人気を稼いでいるらしい。


「今日も、大盛況だな?」

「慢心してたら足元をすくわれるよ。劇だなんて誰にでもできるんだから。」


にやにやと私の頭を撫でるバージリオ。

彼は私を利用して、見事、孤高の存在になって見せたのだ。今や国中の憧れる色男だ。


「真似されたって痛くもかゆくもねぇな。ウチにはなんてったって、こんな面白いシナリオを書くお前さんが居るんだからな。」

「……勝手に言ってれば。」


彼が孤高の存在になって目的を達成して見せたように、私もまた、望んだ形ではないにしろ夢をかなえたのだ。私の書いた話を、バージリオは形にしてくれる。それは、あの時狭い教室の中で見た可愛そうなものを見るような目なんて決して向けられるはずのない、完璧な美しさを持っている。

私は恥ずかしいだなんて、思わない。思うはずがない。


ここで、この世界で生きていこう。

身を焦がすような恋を紡ごう、無残な殺人事件の犯人を暴く様を見てもらおう。

それはきっと、私の魂からの叫びになる。









「突然だが新入団員を紹介する!」

もうそろそろお昼を食べようかともいう時間。ペンを置いて私はバージリオを見る。

ざわざわと、ほかの団員もバージリオに注目し始める。

新入団員は珍しい。ウォルトン歌劇団は簡単には団員を増やさない。本当に信頼がおける人間なのか、バージリオ自ら選りすぐるからである。一番最後に加わったのはヴァイオリン弾きのセディだ。


「役者志望、ハルバートです!よろしくお願いします!」

「オズワルド。飯が食えて雨風防げればなんでもいい。」

「おい、オズワルド。その挨拶はないだろー。」


最後にバージリオの指摘が入って紹介が終わる。

少年二人、どちらも私と同じくらいの年齢だ。



もうずっとバージリオがモデルの話を書いている。孤高の話だ。

そろそろ、違うモデルの話を書くのもいいかもしれない。



私は、書いている途中の原稿用紙を一度まとめてよけて、新しい紙にペンを付けた。




登場人物

シオリ→文学少女

バージリオ→そこそこおじさん

ラッパ吹き→苦労性

おねえさん→女は化粧で化ける

ハルバート→素直そう…?

オズワルド→ツンデレっぽい…?

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― 新着の感想 ―
[一言] 誰かが助けてくれる。自分から門を叩けば。そんなことを思いました。今ではどうなのか知りませんが、教会とか、困ってる人を助けてくれるんですかね(^_^;)
2016/02/28 14:48 退会済み
管理
[良い点] 読んでいて心地よい表現、さりげない世界観の説明、纏まった物語、その後を想像したくなる終わり方、がとても好ましいと思いました。見習わせていただきます。 [一言] バージリオは、とても魅力的な…
2016/02/28 10:08 退会済み
管理
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