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女の子になりたい男の子がいてもいいじゃない。  作者: ぬながわ
一章 女の子っぽい男の子
4/4

思いがけない性転換。

 新学期を翌日に控えた就寝前というのは、春休みが終わってしまう寂しさと、クラスで友人たちとくだらない無駄話を休み時間中延々とする楽しみが合わさって、なんとも言えない時間だ。


 ……もっとも、無駄話をする相手はウチのお隣で、窓から窓へ渡ってきては自室のようにくつろいでいるアイツ……幼なじみの北牧綾夏が脳裏に浮かぶが、アイツ以外にも勿論友人はいる。


「さて……と。支度も整ったし、偶には日付が変わる前に寝るか……。」


 机に明日必要な物を詰め、クリーニングのカバーから制服を出し、壁に掛ける。時計を見ると23時を5分ほど回っていた。


 別途に仰向けに転がり、リモコンで照明を切る。あ、スマホの充電しておかないと……暗闇に目が慣れるのを待って、スマホを充電器に繋ぐ。充電開始を示す赤いライトが薄らと室内を照らした。


(新学期か……。といってもあまり変化はないだろうな……)


 高校ともなれば、よほどの理由がない限り転校生が来ることもないし、クラスメイトが転校することもない。それにうちの学校は単位制を採用しているため、卒業までに必要単位を取得すれば良いのだが、極稀に進学必須単位を取り逃がした人が数年に数名程度いて、2度目の同一学年生活をおくるらしいが、今年も該当者はいないようだ。こうして高校生活3年間、代わり映えしない面子で無事に卒業していくのだろうと思う。まぁ、変化を期待しているわけではないのでそこは勘違いしてもらいたくない。いつもの面子と、変わりなく、騒いで、楽しんで、学校生活を送ることができればそれでいい。



 そう思いを巡らせ、ゆっくりと眠りの淵へ落ちていった。






 突然だが、深夜に一度目が覚めた。体の節々から筋肉痛のような痛みを感じ、丁度眠りが浅くなるタイミングに重なり不快感から目が覚めた。


 スマホの時計は午前3時過ぎを示している。普段であれば気にも留めない感覚だが直近に運動をした記憶が無いため何故筋肉痛をしているのか、その原因がわからなかった。いや、その原因は日が昇ってから強制的に理解させられた。


(……寝ていれば自然に解消するだろう……)


 寝ぼけも重なり、ちょっと寝返りがしづらいかなと呑気にまた眠りについたのだ。もう、この状態から身体の変化は起こっていたというのに。



 翌朝。

 目覚まし時計の電子アラーム音で目を覚ました。意識としてはまだ睡眠に近いぼんやりとした視界。そこに昨日までなかったものが映った。それは起き上がろうとふと視線を足元へ向けた時に視界に飛び込んできたものを視認し、それが何かということを理解した瞬間、奇声にも似た声を上げた。


「な、ななな…」


 奇声ともなれば男子であっても声は高くなる。だけどもついさっき出した声は、どう考えても声変わりをしていない少年のような高音で昨日まで耳にしていた自分の声とはまるで別人でまさしく女性の声そのものだった。そして、自分の胸部に昨日まで存在しなかった膨らみは、明らかに女性の乳房とよばれるものであり、自分の呼吸と連動して、動いている。慌てて立ち上がってみると、遠心力なのか慣性の法則なのかは分からないが、とにかく揺れた。2つのそれは綺麗な円運動で動き、それはもう魅力的な動きだった。そしてその膨らみの先端が服と擦れたのだろう、「んっ…」と小さな声が意識せずに発せられた。その声も、女性のそれであり、自分の声だと認識することに抵抗があった。


「……ゆうー? なんかさっきから妙な声が聴こえるんだけど、あんた一体なに……を……。」


 ドアをノックすることもなく。かと言って乱暴にドアを開くでもなく、至ってごく自然体に、自室に入るような自然さで部屋にはいろうとしてきた姉が、ドアノブを握った状態で固まった。Tシャツにショートパンツという服装は、明らかに寝起き直後である。型を隠すほど伸びた長い髪も、梳かすこともせず寝癖を残している。


「……あ、あぁあぁぁ……」

「あ、んた、誰?」


 みるみる顔を赤くさせ声を震えさせる俺に対して、わなわなと震え目の前にいる弟を見知らぬ誰かだと思い込んでる姉。かくして新学期は、波乱の幕開けとなった。



 優があんな状態だと、学校へ行くわけにも行かないだろうし……女子用の制服ってあったかな。昔私が着ていた制服なら、クローゼットの中にあったともうけど……背丈は大丈夫そうね、あとは…バストか……下着も買い揃えないといけないし、採寸しないといけないわねぇ。


「あ、彩音さん。おはようございます。……優はどうしたんですか?」


 ……さて、綾夏ちゃんのテンションが下がってしまったようね…なんと分かりやすい…。涼クンもそれに気づいているみたいだけど…。


「ごめんねぇ、優ったら、新学期早々体調崩しちゃって...綾夏ちゃん、今日の始業式のあと、お見舞いに来てくれないかな?」

 ……綾夏ちゃんと涼クンの手前、本当のことを言うにはタイミングが悪すぎるし……後で説明するとして、今は誤魔化しておかないと。


「え! 優、大丈夫ですか?」


「うん。ちょっと食べ合わせが悪かったみたいで、トイレと仲良くしているわ。」


 適当な嘘を言い放った瞬間、綾夏ちゃんの声色が変わった。



「涼、早く学校行って素早く始業式を済ませて帰りましょう!」


……綾夏ちゃんの表情が目に見えてぱぁ~っと明るくなった。分かりやすい娘ねぇ……優も隅においておけなかったのね。


「じゃあ彩音さん、また後ほど!」


綾夏ちゃんが涼クンの根っこをつかんだ思ったら、そのまま勢い良く学校に向かって走りだした。あらまぁそんな体勢だとスカートがひらひらして中身が丸見えじゃない…それより、あれ涼クン息できているのかちょっと心配ね…。



「…で、なんで俺はこんな事になったんだよ……。」

 変化してしまった自分の体を指差して、私と母に対峙する。時折、その膨らみが気になるのかTシャツの襟から覗こうとするもその都度顔を真赤に染め上げて脊髄反射の速度でそっぽを向くので、姉としておっぱいのどこに恥ずかしさを感じるのか、女である私にはよくわからないけども。


「さて、どうやって説明しましょうかね……」

「あら、わたしとしてはもう少し優の面白い反応を見ていたいのだけれども?」

「……お母さん?」

「なんでもないわ。 さて、優? 落ち着いたかしら?」

「・・・。」

 優は無言で小さく頷いた……のか、そのまま俯いてしまう。


「……大丈夫よ、死ぬことはないから。安心して?」

 お母さんのその言葉から、優の体に起こったことの大雑把な説明が始まった。


「これはちょっと特殊な病気でね。人を殺したり重度な障害を残したりする危険性は全く無いのだけど……ただ、優の身体に起こったように、性別を入替えてしまう奇妙な病気なの。 安心して、性別が入れ替わったことで隔離されたりする心配はないの。戸籍だって正式な手続きをすれば性別の変更をしてもらうことができるし、学校だってそのまま通うことができるの。ただ、周りの人が慣れるまでちょっと大変かもしれないけれど……。」

「――大変って?」

「うーん、まぁ、なんというかね。好奇心からいたずらされちゃうかもってくらいかな。でも大丈夫よ。あなたを守ってくれる人が、近くにいるから。」

「……?」


 お母さんの説明に、優は合点がいかないようで首を傾げた。その後も説明が続いたけど、その内容によっては赤面したり取り乱したりすることもあった。

 特に、これから女性用下着を買いに行きますと言われた時の取り乱し様は、思わず動画として残しておきたいと思ってしまうほどだ。



――この性転換が、私たち家族に関わることであることは、この時点で優は知らない。……知らないほうがいいんだけどな~ってお姉ちゃんは思うけど……。


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