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女の子になりたい男の子がいてもいいじゃない。  作者: ぬながわ
一章 女の子っぽい男の子
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女の子っぽい男の子.1

幼少の頃から幾度と無く頭のなかを駆け巡るこのきもち。夕方5時からの子供向け番組の劇中歌にもそんな歌詞があったと思う。もしかしたら、いまの価値観をつくったキッカケにもなったのだろう。と考えることもある。


 僕の名前は北牧涼。双子の弟で、相方は姉。名前は綾夏。


 8月生まれの僕達双子には夏を連想して名付けられている。まずは姉、綾夏の意味は

『暑い夏を快適に過ごす織物、その模様を表す漢字「綾」と「夏」そのもの。そして僕の「涼」。双子で力を合わせ、厳しい夏を涼しく乗り切りたいという親の願いが……』って、なんか名付けのイメージとは違うような気がするけど、本来は「綾夏」と「涼香」で韻を踏む名付けになる……はずだった、みたい。僕が男のとして生まれなければ。


 僕たちが生まれる前、つまりお母さんのお腹の中にいた頃。かなり早い段階で双子であるということが判明していたらしい。そして、その検診時に判明したのはもうひとつ。胎児――僕たちの性別。片方が女の子だとわかった。もう一人は影になってよく見えなかったが、おそらくもう一人も女の子だろうと判断され、両親は姉妹が生まれると思っていた。


 それからしばらく経って、出産前の検診で「女の子と男の子の双子」ということが医師から告げられる。



 世の中の双子には2パターンあることを知っているだろうか。一つは1卵性双生児。この場合、一つの卵子が何らかの原因で二人分のそれに分裂し、それがそのまま成長、出産される場合。もう一つは、2卵性双生児。2つの卵子がそれぞれ受精し、同時に着床、出産を迎える場合だ。この時、生まれてくる子の性別は必ずしも一致しないことがある。違う精子で受精するのだから、当然と言われれば、当然なのだが……どうやら僕たちは後者のパターンみたいで、男の子が生まれると知った父親は喜んだみたいだけど、母親は複雑な気持ちだっただろうなあ。女の子の双子が生まれたら、親子3人並んで華やかにデパートに買い物に行きたかっただろうし、一緒に手料理したり、家事も会話しながらすればたのしいだろう。その双子の片割れが男の子だと、その楽しさも半減されるかもしれない。


 ――そうして、冒頭の言葉に戻る。脈絡もなく聞いてしまうと、ただの変態かそれに近い思考なのかと怪しまれてしまうが、このことを知ったうえで改めて言うと、理解ある人はわかってくれる場合がある。 ……それでも少ないけどね。


 

 僕たち双子の部屋は8畳のの部屋を2段ベッドで区切って、半分をそれぞれの部屋として使っている。当然、部屋の入口は一箇所になるけれども、カーテンをうまく活用して、互いのプライバシーは守ろうとしている。ベッドの片端にもベニヤ板をあてがっているのも、プライバシーの確保の一環だ。



「涼~ 早く支度しなさいよ…… ってアンタまた女子制服来て…」


 高校生活二年目が今日から始まる朝。姉の綾夏が脈絡もなく仕切りカーテンを開いてこちらへ入ってきた。女子制服のセーラーに袖を通している途中だった僕と対峙して、呆れたように言ったのだ。


「いいじゃない。学校の規則には、”男女とも学校指定の制服を着用するように”としか書かれていないんだから。」


 こう言われるのは、今にはじまったことではないので適当に学校の規則を持ちだして自分の行動を正当化する。


「それに、いまさら男子制服を着ても、違和感しか無いんじゃない?」


 鏡を見てセーラー襟を正し、指定のリボンを胸元へ付け、姉の方へ振り向き問いかけてみた。さらりと首元まで伸びたショートの髪が揺れ、スカートもふわりと揺蕩う。女子顔負けの整った顔立ちに小柄な身長。第二時性徴を経ても声変わりする気配のないソプラノ声。その姿は実の姉が見ても女の子なのではないかと疑ってしまうほど、女の子よりも女の子らしかった。


「~~っ 涼、アンタねぇ…… アンタは、私の弟で、男でしょうが!」


 朝の閑静な住宅街に、綾夏の叫び声が響く。


 リビングに向かうと、すでに父親は朝食を済ませて新聞を読んでいる。「おはよう」と声をかけると、新聞の脇から顔を覗かせ「おはよう」と挨拶を交わす。少し遅れて、母親が「ふたりとも、よく眠れた?」と言って僕と綾夏、二人分の朝食を持って台所から出てくる。今の時間は朝の7時50分くらい。世間一般からみると遅刻してしまいそうな時間帯だけれども、ちょっとした理由で僕たちの朝はだいたいこれくらいの余裕がある。


「そういえば、今朝方お隣から不思議な叫び声が聞こえてきたわねぇ」


 席についた母親が思い出したようにつぶやいた。


「優の家から?」


 朝食のトーストにジャムを塗る手を止めて母親に訊く。


「えぇそうよ。なんか、聞き覚えのある声なんだけど、ちょっと違うような……。」


「……登校するときに聞いておくし。でも珍しいね。優の家で叫び声なんて……お姉ちゃんじゃあるまいし。」


 トーストを口に含んで、ちょっと思巡した後に思い出した様につぶやいた言葉に、静かにしていた綾夏が僕を睨んで言う。


「――涼、なんか言った?」


 その眼光は、まるで獲物を見つけた猛禽類のようだ。


「おぉ怖い」



 叫び声に関してはこれ以上触れないでおいたほうが良さそうかな。


『――では次のニュースです。アフリカが発生源とされている奇病「ジェンダー病」にかんして新たな報告が日本時間の今日未明、世界保健機関から――』


 テレビから非常に興味深いニュースが流れてきた。


 ジェンダー病。 アフリカで発見された奇病だ。この病気の不思議な事は、この病気が原因でヒトが死ぬという報告が一つもないこと。しかし、発症者はすべて男性に限られていることも、その不思議の一つ。そして、この病気一番の不思議は、発症した男性全てが、肉体的精神的に女性へと変化してしまうことだ。ニュース曰く、この病気の発症例が近年の日本で確認されていた事が、隠匿されていたことが判明した。らしい。人が死ぬことはない病気とはいえ、こんな奇病が日本で発症例があり、それが隠されていたとは不可解ですね。と、コメンテーターは言っている。


「……涼、アンタまさかアフリカに行きたい。とか言い出したりしないでしょうね。」


「さて、何のこと?」



 ニュースに釘付けになっている僕を見て、綾夏が一つ釘を差してきた。


 ジェンダー病。それは、アフリカの小さな部族の中で偶然発見された、遺伝子の突然変異により生じる、性別が入れ替わってしまう奇病だ。ニュースで言われていたとおり、ヒトの命を奪うような病気ではない。が、この病気を発症するのは、男性だけである。そして、発症した全員が、肉体的――生殖器、乳房、声……筋肉、脂肪それら肉付きを含め、その全てが女体化し、はじめは戸惑い、男に戻りたいと口々に嘆き、生涯独り身でいることを決意していたのだが、早い人で数週間。遅い人でも、おおよそ半年ほど経過すると、女体と為った自身の肉体を受け入れ、更には男性と関係を持ち、子を成した例も報告されている。


 この病気が発見されるやいなや、世界中の研究機関が様々な仮説を発表したが、現在では「人類の種の保存、その本能による少子化を食い止めようとする」という説が最有力とされている。実際、ジェンダー病が発見された部族では、女子の出生が極端に少なくなった時代(……彼らには”年”という概念がないため、正確な時期まではわからない。)に、選ばれた男が神の手により女に生まれ変わり、子を成し、部族を絶滅から救った。という伝説があるという。部族内の現状を見ても、男女比が極端に偏っていた。



 ここまでが、マスコミによって報道され、一般的に認知されているジェンダー病の概要である

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