奴らとの対峙
生存者は73式大型トラックに次々に乗り込んでいく。
一番に着いたおじさんは既に先頭のトラックに乗り込んでいた。
一足遅れで着いた僕は最後のトラックに乗り込む。
中には既に十人強が入っていて皆、神妙な面をしていた。
急いで乗り込むと後ろから発砲音が鳴り響き奴らとの戦闘が始まったことを理解した。
全員が乗り込むとすぐさまトラックは進みだす。
走っていくところは普通の一般道。乗り捨てられた自動車がそこらじゅうの路上に止まってあり走るのは困難を極めた。
暫く進んだだろうか。ふと後ろから今まで走って来た道を振り返って見る。
すると約100メートル後方にドラゴンがこちらに向かって飛んでくるのが視認出来た。
僕は焦りながらもすぐに乗合していた自衛官に言う。他の生存者に聞かれパニックに陥られる恐れがあったのでなるべく小さな声で。
「ドラゴンがこちらに向かってきています」
それを聞いた自衛官はトラックから身を乗り出しドラゴンが向かって来ているのを確認すると持っていた89式小銃で撃ち始めた。急に聞こえた銃声に戸惑い悲鳴を上げる乗客たち。それを気にせず絶えずドラゴンに撃ち続ける自衛官。しかし殆ど効果は無く次第に距離は近づいていく。
もう一人の自衛官が運転手にもっと速度を上げるように促す。だが最後尾だったため車間距離が縮まるだけで対して速度も上げられない。そこで無線を使おうとしたとき先頭車両が加速し始めた。恐らく脅威のスピードで寄ってくるドラゴンに気付いたのだろう。速度はどんどん上がっていく。
しかしそれでもドラゴンから逃れることは出来ない。徐々に徐々に近づいてくるドラゴン。
もう終わりかと生存者が諦め始め泣いたり意気消沈したりする中、遠くから何かがこちらに向かっているのが見えた。
最初は何かか見当もつかなかったが次第にその姿を露わにしていく。
それはミサイルだった。
90式空対空誘導弾がドラゴンを目掛けて飛んでいく。
しかし着弾する直前で急に爆発をした。壁でも有るのかというほど不自然な爆発だった。
爆炎の中から再びドラゴンが姿を現す。
だが今度は機銃が降り注ぐ。絶え間なく襲い掛かる銃弾にドラゴンは遂に怯んだ。
トラックとドラゴンの距離が再び広がり始める。
早く!急げ!などほぼ怒声に近い声が飛び交う中、僕はそのまま外を眺めていた。
先ほどミサイルを防いだものは一体何だったのか?という疑問があったからだ。
少しするとF-15Jが二機上空を通り過ぎていく。
恐らくさっきのミサイルもあのどちらかが撃ったのだろう。
旋回すると再びJM61A1 20mmバルカン砲でドラゴンを撃ちかかる。
だが怯むだけで死にそうにも無かった。
倒してくれと願いながら見守っていると予測もつかない衝撃的なことが起きた。
急に爆音とともに一機のF-15Jが墜落したのである。
火柱を立てながらそれはこちらに向かって来る。
僕の乗っているトラックは急ブレーキと共に左折し路地裏に逃げ込んだ。
背後からは盛大な爆音と爆風がトラックを襲う。
周囲のビルの窓ガラスは一斉に割れガラスの破片が降り注いだ。
その僅か数秒後、今度は周囲のありとあらゆるところが爆発した。
ビルは倒壊し瓦礫と共に走って来た道を塞いでいき爆煙は視界を覆い尽くし状況が掴めなくなる。
何も辺りが見えないままトラックは進み続ける。
そしてトラックも遂に何かに衝突して動きを止めた。
ぶつかった衝撃で生存者たちは前方に吹き飛ばされる。
全身を強く打ち付け痛みを感じながらも僕は急いでトラックから出た。
トラックから出ると手探りで隠れられる場所を探す。
早く姿を隠さないと奴らに殺されてしまう恐怖心が冷静さを失わさせていく。
手探りに進んでいくと建物らしきものに辿り着いた。急いでドアを探し当て中に入る。
次第に視界も晴れてきて自分がどこにいるのか曖昧ではあるが掴めてきた。
そこは古びた感じの喫茶店だった。
店主も客も誰も居なく地味なテーブルの上には冷え切ったコーヒーが置いたままであった。
ここなら安全かと身近な椅子に腰かけながら安堵のため息をつく。
すると外から悲鳴と共に道路に面した窓ガラスに血が飛び散った。
あちらこちらから絶え間なく悲鳴が上がり銃声も聞こえてくる。
慌てて椅子から転げ落ちるように立ち上がるともっと隠れられそうな場所が無いか探す。
右往左往していると窓ガラスを突き破って自衛官が入って来た。
カウンターに身を隠しながらも大丈夫ですか!?と聞くが何の返事も帰ってこない。
ゆっくりひっそりと近づいてみると腹部から大量の出血をしているのが分かった。
目は空いているが生気は無くピクリとも動かないので恐らく死んでいるだろう。
手で瞼を下ろし目を閉じされる。
すると割れた窓から鎧を着た奴が入って来た。
手には槍らしきものを持っていて先は血で赤く染まっている。
俺もここまでか……と絶望しながら一歩一歩後退する。
すると足に何かがぶつかった。
奴から視線を外さないようにちらりと当たったものを見てみるとそこには死んだ自衛官が持っていたと思われる64式7.62mm小銃があった。
僕はとっさに手に取り構える。そしてバットのように思いっきり振りかぶった。