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戦争はすでに始まっていた

あれは唐突に起こりそして周りの日常を劇的に変貌させていった。


あの日はいつも通りの日になるはずだった。少なからずカーテンを開けるまではそう思っていた。

僕が目を覚ました時はすでに昼時だった。休日だったので遅刻の心配も無く惰眠をむさぼっていたらついつい寝すぎてしまったようである。

朝日を浴びて目を覚まそうと更なる睡眠を要求してくるまぶたを擦りあげながら見た外の景色は目を疑う光景だった。


空ではゲームに出てくるようなドラゴンが何十羽も飛び回り戦闘機との戦いを演じ陸ではあらゆるところから火の手が上がり四方八方からサイレンと悲鳴とが響き合っていた。


衝撃の光景を目にした僕はその場に佇んでいた。何の動作をすることも無くその場にただ佇んでいた。僅か数秒が数時間程度に感じられるほど時間がゆっくり過ぎていった。

意識がはっきりしてきた僕は取り敢えず状況を整理するためにテレビをつけようとリモコンを押した。しかしテレビは反応を示すことは無く部屋の内部とパジャマ姿の僕を映すだけだった。


すっかり気が動転した僕は急いでベットにかけたおいた学生服に着換え手ぶらのまま外に飛び出していった。もし僕が弓道部や剣道部だったら弓矢や木刀といった武器を持ち出していっただろう。しかし帰宅部の僕はその様なものを何一つ持っておらずあるとしたら家に帰る素早さだけであった。


外に出てみるとそこは唖然絶叫、まさに地獄を現世に表わすならばこの現状を指すのだろうと思えるほど見るも無残な光景が目の前に広がっていた。道路に横たわる20代の女性は腹から小腸と思わしき臓器を露わにしており警官らしき男性は拳銃を右手に持ったまま立った状態で隣家の壁に槍で突き刺さっていた。


あまりの光景に僕はその場で嘔吐をしてしまった。朝食を食べてないのでそこまで出なかったがそれでも吐くという行為は気を滅入らせるのには十分すぎた。僕は壁にそのままもたれかかって座り込んでしまった。一体どうして?なぜ僕がこんな目に?クラスメイト達は?という疑問で頭がいっぱいだった。それは自衛隊員が近づいてくるのに気づかないほどであった。


「大丈夫か?怪我はないか?今から安全な場所に連れていくからな」


自衛隊員は僕にそう話した。

そこでようやく僕は自衛隊の存在に気づくことが出来た。


「僕は大丈夫です。

 ………それよりここで何が起きたのですが?昨日まではいつも通りの日常だったのに……」


「そのことは後でじっくり話すから今は取り敢えず落ち着け。

 いつあいつらがやって来るか分からない。急いで車のある場所まで行くぞ!走れるか?」


自衛隊員は早口で力強く言った。それはあるものの攻撃を恐れているようでもあった。


「走れます。体力に自信はありませんが…」


僕がそういうと自衛隊員はついてこいっ!と言って走り出した。

その後を着いていくと見慣れたはずの景色が違うものに変わってしまったのだと実感させられた。

至る所にある無残な死体や投げ捨てられた車、燃え盛る一軒家は僕の日常をいとも簡単に壊していった。


周囲を見渡しても恐怖と脅威しかないことに気付いた僕は前を走る自衛隊員に着いていくことだけを考えることにした。走り出した時は1、2メートルしか無かった差も今では5、6メートルほどになってしまっていた。


走り出して5分がたっただろう。

自衛隊員は急に速度を落とし肩で息をしている僕と並走を始めそして言った。


「車まであと少しだ。次の角を曲がるとデカいトラックが見えるだろう。

 そうしたら乗り込んでくれ。安全な地帯まで運んでくれる。

 良くここまで生き延びてくれた。怖かっただろうがもう大丈夫だ。

 我々、自衛隊が命を呈してまでお前のことを守ってやるからな。」


そう言うと自衛隊員は微笑みながら頭を撫でてきた。不器用な手つきだったが嬉しかった。

いつ自分に死が襲い来るか分からない状態で初めて頼れる人を見つけられたからだろう。


しかしその喜びも長くは続かなかった。


「後はお前一人で行け、早く行かないとあいつらが来る、ほらっ!早く!」


自衛隊員は先ほどとは打って変わってゆっくりとはっきりと言った。


「でもっ、おじさんは行かないの?あいつらが来るのでしょう?危険だよ!」


僕は焦りながら急いで言った。

しかし帰ってきた返答は期待していたものとは違かった。


「何のための自衛隊だと思っている

さっきも言ったが命を呈してまで国民を守る、そのために我々がいるのだ。

例え相手が未知の生物だろうとな。

それに銃も持っている、これさえあれば百人力さ」


そういって自衛隊員ははみ噛みながら抱えている89式5.56mm小銃を掲げて見せた。

あいつらが何なのか分かってなくても銃では対応できない相手ということはこの被害状況をみれば安易に予想が出来た。

しかしそのことを口にすることはできなかった。きっと自衛隊員も気づいてたはずだろう、銃ごときでは倒しきれる相手では無いことを。それでも戦う覚悟を決めたのだ。その気持ちは容易に揺るぎはしないだろう。

僕はほらっ、早く行けっ!と言っている自衛隊員に一礼をした後、最後の力を振り絞って走った。その時、後ろから


「俺はまだおじさんじゃないからな、次に会った時にはちゃんとお兄さんと呼べよ!」


と自衛隊員の明るい声が聞こえた。


「絶対、今度会いましょうね!」


僕は涙声になりながらも大きな声で返事をした。

 

きっと彼も未知の脅威に怯えていただろう。

でもそんな感じを最後まで感じさせず逆に僕を励まし勇気づけてくれた。

そんな彼を僕は心から尊敬しそして感謝した。

また会えるように今を生きよう……



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