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二日目(中編)

『相沢 剣』

7人兄弟の長男坊。瀬折 香に恋心を抱いているが、彼女には彼氏が居ることを知っていてなお想いを向ける、言動などからは想像しにくい意外と純情な男。

正義感も強く面倒見が良い。運動神経なども良いためそれなりに人望を集める人物だが、思ったことを口にしがちなため友人にはそれなりに選ばれる様子。

―――――――――――――――

――視点変更――

相沢 剣 → 幸徳井 ヨシュア

―――――――――――――――




 僕は夢を見ていた。

 少年が一人、ある少女を追いかけていた。少女の体はみるみるうちに樹木へと変貌して、周りに根を張っていく。その根は少年の足を絡み取り、少年の歩みを邪魔する。少女は泣いている。大粒の涙を流して、自分の運命を呪っていた。少年はそんな彼女を助けたくて、彼女に笑ってほしくて、必死に足を前に出そうとしていた。

 僕はそれを少年の隣で見ていた。僕には根は絡まず、根は僕を無視して伸びていく。そんな僕の隣で少年はもがいてあがいて、少女へ手を伸ばす。僕は思わずその手を取って、少年を引き上げようとした。

 だが、少年の手を引き上げようとした僕の左腕がどろりと溶け、少年は木の根に呑まれていった。


 僕は恐怖で飛び起きた。そして、起きてみて思った。ああ、僕の左腕は……。

 目に飛び込んできたのは、椿矢さんに通された手術室手術台の上だ。手術道具は無く、相変わらず古い血の跡がそこらじゅうに残っている。この世界に来たのは、夢じゃない。そう思いながら僕は自分の左腕を触る。二の腕から先は無く、包帯で包まれた先は虚無へと消えている。微かに痺れるような痛みがある。


「……ああ。ごめん。ごめんよ」


 僕は誰にとは思わず謝っていた。この体をくれた両親への謝罪なのか。腕を引き換えにしてしまった剣への謝罪なのか。それとも、咄嗟にそんな判断をしてしまった僕自身への謝罪なのか。僕は自然と、無くなった左腕を抱きしめて泣いていた。


「起きたか……」


 誰かの声に僕は涙を拭って振り向いた。そこには白衣の……


「まだ麻酔が効いてるはずだ。じっとしてろよ」

「な、なんなんだ!?」


 僕は咄嗟に手術台から転げ落ちた。落ちたくて落ちたのではなく、体制を整えようとしたのだ。なにせ目の前に現れたのが、


「おいおい、喋る『ゾンビ』もどきと出会うのは初めてか?」


 そういって、緑色の肌をした部分的に白骨化した頭蓋を持つ男は、酒の小瓶を呷りながら言う。


「まぁ、喋るゾンビは俺だけだがな」

「ま、待って、もしかて、椿矢さんが言ってたドクターって」


 『ゾンビ』は笑いながら、酒瓶を左手に持ち直し、右手を差し出して言う。


「ああ、そりゃ俺だ。ミクトラ・テ・クートリという。ここで唯一正気の『ゾンビ』だ」

「……幸徳井 ヨシュアと言います。えーと国籍は?」

「国籍? ああ、メキシコだが、この『箱庭』の中じゃ言語なんぞ意味がない」


 近場の椅子まで僕を誘導し、自身は手術台の上に腰かけて、ミクトラと名乗る『ゾンビ』は話し始める。


「そうだったな。あんたらは、はるか過去から来たんだったか」

「過去? ここは未来なんですか?」


 ミクトラさんは頷き、酒を呷ってから続ける。


「正確に未来じゃねぇけどな。西暦2020年、あんたらの時代でもあったはずだ。米国の打ち出したミサイルが中国沿岸部に着弾。すさまじい爆発を起こした話だ。そこで、あんたらの『世界線』では爆発は小規模で、両国の戦争へ発展して終了だった。だが……」

「え? あの……世界線?」


 話を途中で切られたミクトラさんがむっとしながら話を再開する。


「なにもおかしい話じゃあるめぇ。おまえさんらは部屋ごとこの時間軸に来た。タイムトラベルやらテレポートやらがあるんなら、パラレルワールドだってあるってもんよ」


 そんなとんでもない話を、お茶の間で隣の犬がどうのというぐらいのニュアンスでミクトラさんは言った。話を戻して彼は言う。


「ともかく、この世界はあんたらがいた世界とは違う。そのミサイルに使われてた物のせいで世界の半分は更地になった。で、この『箱庭』は生き残った人間どものシェルターだった」


 そして酒が無くなったのか少し落ち着かない様子で彼は言う。


「ミサイルの弾頭に使われてた『蒼炎』と言われる隕石が人格を持っちまって、世界を滅ぼしちまったのさ。とんだクソな設定のファンタジーだよな」

「その、隕石が意志を持って……『ゾンビ』を造ったんですか?」


 と恐る恐る『ゾンビ』に聞く僕に、その肝心の『ゾンビ』は笑いながら答えた。


「そんな怯えるな。俺はお前らを襲わない」


 続けて『ゾンビ』について説明してくれた。

『ゾンビ』は元々人間であり、この『箱庭』で生活していた。けれど何時頃からか、蒼い鱗粉の様なものを振りまく美しい少女が複数現れ、人々から魂を抜き取ってしまたという。その少女は『蒼炎』が進化して人間と同じ外見を持った姿ではと考えられているらしい。つまり、隕石が人と同じ外見になって人々の魂を抜き取ってしまった、という事か。

 抜き取られた人間は欲求しかなくなり、かつその上死のうとしても死ねなくなったらしい。頭が半分そぎ落とされようと動くという。その間彼らに意志は無く、あるのは食欲と睡眠欲と性欲ぐらいで、肉体はその欲求を満たす為なら引きちぎれることも厭わないという。

 そして、外に煌々と輝く青い月を新たに作り、少女たちはそこへ去っていったという。


「月ですか? 月なんてあったでしょうか? 僕らが見たのは赤い空と赤い海と……」

「ああ、だろうな。言ったろう。ここはシェルターだった。このドームがじゃない。でっっっけぇ鉄の箱に、この海も雲も地面も入ってんだ。それが『箱庭』だ。だからお前さんらが見たのは『箱庭』の錆びが流れる疑似的な海と、空の塗装が剥げた『箱庭』の天井だ。の外に出れたなら、変わらぬ星空に月が見えるはずだ。二つの月がな」


 そう言ってミクトラさんは手術台から降りてソワソワとあたりの引き出しを引っ張り出して何かを探し始めた。


「あー、一応な、おまえさんは安静に。麻酔がまだ聞いてるはずだしよ。あと、如何せんここじゃ医薬品は貴重品。破傷風になったら死ぬと思え」


 そして、あたりを見渡して少し落ち込んだ様子で続けた。


「ちと俺は“命の水”取ってくる。椿矢の奴が来たらそう言っといてくれ。部屋の外に出ても構わんが、暗い方にはいくなよ。良いな」


 そう言って彼は部屋を出た。

 僕はくれた情報を整理しようと考える。

 ここは僕らが居た世界とは違うパラレルワールドの未来で、約200年後の世界。しかも、ここには『ゾンビ』が複数いて命の危機が有る、そのくせ医薬品は貴重。

 ……『蒼炎』、ミサイルの弾頭に使われてた隕石で、人々の魂を抜き取った元凶。魂を抜き取る? どうやって? ……『蒼炎』って、いったい何だ?



 そんな時だった。誰かが部屋の前まで駆けてくる音が聞こえる。そして、扉はひとりでに空いた。

 軋みを上げてひとりでに開いていく扉、僕はそれを恐る恐る確認するために、麻酔でふらつく体を引きずって近づく。


「誰か……そこに居るのか?」


 ドアに手をかけて引いて隙間から恐る恐る覗いてみる。







 誰も居ない?










 そう思った矢先、僕は扉から少し離れたところに居る『ゾンビ』と目が合った。

目と目が合う~ 瞬~間死ぃんだと おもぉったぁ~♪

あなたは今~ どんな気持ちでいぃ~る♪


幸徳井「マジでやばい」


そっすね。


幸徳井「……」


……何?


幸徳井「いや、何とかなんないの? 麻酔苦しいんだけど!」


え? うん……

ほら、ワタクシ、この作品ではドSだから


幸徳井「他の世界線でも君ドドドドドドドドSだろうが!」


あはは、なんか走ってきそうだな。


ドドドドドドドドドドドド


ん? ナンノオト?

は! ちょ、ちょっと待って貴様は世紀末覇者Verの瀬折さん!


世紀末覇者セオリ「受けてみよ! 世紀末覇者セオリの拳ぃぃ!」


ひでぶぅ!




幸徳井「なにこれ」


ゾンビ「ひどすぎやな」

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