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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

2014年/短編まとめ

頬へkiss

作者: 文崎 美生

ドゴッとかバキッとか何だか危ない音。


骨の一本や二本くらい逝ってるんじゃないかと心配になってくる。


ご愁傷さま、なんて心の中で呟いて合掌。


荒れに荒れております戦場こと、ヤンキー方の溜まり場と言うやつ。


私はそこから少し離れた木の上で、文字通りの高みの見物。


木の下じゃないよ、木の上だよ。


だって下にいたら巻き込まれるじゃないか、そんな面倒な。


私が見下ろす先に存在感の強い少女がいる。


長い髪を美しく舞い踊らせ、その細身から叩き出される蹴りは重そうだ。


鬼神のごとき強さってやつだね、なんて木の上から見下ろしてあくびを一つ。


腐れ縁の私と彼女。


彼女が中学に上がった頃からゆっくりと、でも確かに堕落しているのはわかっていた。


そしてそれは血筋から来るものだということも理解していた。


彼女の母もそれはそれは強く美しい不良でしたよ、さらに言うと私の母も同じくですね。


いやぁ、お恥ずかしい。


でも残念ながら私は面倒くさいことが苦手なので、喧嘩とかそういうのはノータッチの傍観者。


軽く羽織っている刺繍とか何もされていない、そのままの黒の学ランが翻り、ミニスカートから伸びる白く綺麗な筋肉のついた足が、目の前の男の鳩尾に見事に叩き込まれている。


「終わった」


たった一言、凛とした響きを持つ声が私の鼓膜を震わせる。


はいはい、なんて適当に返事をしながら自分の座っていた木の枝に手をかけ、下の枝に足を下ろす。


1mくらいなら飛び降りても平気だと考えて、ふわり、と体の力を抜く。


思ったほどの衝撃はなく綺麗にバランスを崩さずに着地。


スカートで、みたいな目をする彼女を見て「いや、ミニスカで蹴り入れるよりマシだよ」と答える。


それに私は規定の長さを守っていて膝下のスカートですよ。


長い髪を払いながら、キチンと学ランの袖を通す彼女を見て私は密かに眉を寄せた。


彼女の右頬が僅かばかり青くなっている。


唇も切れていて血の赤が滲んでいた。


あーあ、痛そう。


そっと手を伸ばして彼女の傷に触れる。


「っ!」


ビクンッと体をこわばらせて私の方をすごい勢いで振り向く彼女。


その反応を見て相当痛いのかと一人で納得してしまう。


とりあえずごめん、なんて謝ってポケットから絆創膏を取り出し唇の方へ貼ってやる。


頬の方は冷やさないとどうにもならないか。


彼女は何とも言えない瞳の色をして私を見ていた。


彼女のお母さんは本当に素敵な人だった。


元ヤンだけど、私の母も元ヤンだけど。


彼女は今、お母さんの背中を追いかけている。


今は亡きあの人を追っている。


どれだけ過去を遡ろうとも、もう会うことなど出来るはずもないのに。


大丈夫。


私は傍にいてあげる。


代わりになれなくても見守っていてあげる。


そんな泣きそうな顔で私を見ないで。


私はアナタの少し離れたところで見つめられるだけで、満足しているんだから。


頬の痣を撫でていた手を止め、そこに自らの唇を這わせた。


彼女の眉間にシワが刻まれたのは見ないふり。


大丈夫、傍にいるよ、なんて心の中で言いながら。


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