芽吹くのは...4
それは、突然の告白だった。
驚いて固まっている俺に視線を向けると、風は少し表情を和らげて笑う。
「もうね、戻ってこないと思う」
驚いたまま何も言えない俺を、困ったように見ていた風のスマホが鳴って。
親からの呼び出しに、一つ手を振って風は帰って行った。
俺は、最後まで何も言う事が出来ないまま、その後ろ姿を見送った。
あの後、親父に理由を知っているか聞いたら、しらねーのかと反対に呆れられてしまった。
風の家族はここに住んでいたけれど、父親の実家は少し遠い東京。
少し……、いや結構遠いい。
行くなら、新幹線が移動手段として真っ先に思い浮かぶくらいの距離。
実家には母親……風の祖母が一人で住んでいて買い物に行こうと道を歩いていた時に、スピードを出した自転車に追突されて腰と足をけがしたそうだ。
とりあえず今はデイサービスを使ったり、週末を利用して風の両親が世話をしているけれどずっとそれを続けるわけにもいかない。
祖母は遠慮したそうだけれど、一人息子という事もあって長引きそうなリハビリを見越して家族全員で実家に住むことに決めたらしい。
父親の会社も事情を考慮してくれて、年明けから東京の支店に転勤させてくれることになった。
風の受験が終わってからとも考えていたけれど状況が許さず、彼女も了承したため年明けに越して、もうこちらには戻って来ない事に決めたという。
行ったり来たりするよりも、一緒に住んでしまった方が安心だからね。
そう、風の父親が挨拶をしていったのが、もう先月の事だと親父は目を細めた。
このまま不毛な片想いをしていても、大学が離れる事があっても、会おうと思えば会えると勝手に考えていた俺の目の前は、真っ暗になった。
2話更新