芽吹くのは...3
本日2話投稿。
「柊ちゃん、なんか顔が気持ち悪いんだけど」
「……」
久しぶりに掃除を手伝いに来た風に、会った瞬間言われましたorz
「柊ちゃん、もう怒んないでよー。だってずっと思ってたんだもん」
「なお悪いわ」
石黒のコイゴコロというものに気付き、そして自分の気持ちまで周囲に知れ渡っているという事に愕然としてから、すでに二週間近く経っていた。
坂田から言われた事実に打ちのめされたにもかかわらず、やっぱり何も出来ずに過ごして二週間。
来週末には終業式が来るというのに、冬休みが来るというのに、何にもできずに二週間……あ、ちょっとへこむ。
「なんかおかしいよ、柊ちゃん。最近いっつも眉間に皺よせてさ」
そう言いながら、手袋をした手で竹ぼうきを動かす。
ザザッという特有の音をさせながら、少なくなってきた落ち葉と一緒に砂が舞い上げられた。
風船葛は、どんどん茶色の面積を増やして冬へと突入。
十二月。ほとんど緑の部分がないけれど、それでもまだ風船はいくつか残っていた。
なんとなく、こう、小さな希望に見えてしまうのは、俺が女々しいだけなのか、気持ち悪いだけなのか。
それでも気持ちを言い出せない、ヘタレな自分ではあるが。
「それにしても、風が手伝いに来るの珍しいな。予備校はいいのか?」
今日は土曜日で学校はないけれど、予備校は確かあったはず。
風は小さく何事かを呟きながら、首もとのマフラーに顔を埋めた。
鼻から下が見事に埋もれた風の声は、ほとんど俺には届かない。
「風?」
それでも何事か唸っている風の様子がおかしくて、俺は掃除の手を止めて風に向き合った。
数メートル……歩幅にして四.五歩位で辿り着く場所にいる風は、俯いたまま箒を動かす手を止めない。
その可笑しな様子に、俺はもう一度名前を呼んだ。
ザザッ...
竹箒が地面を掃く音が、一際大きく聞こえてそして止まった。
一拍遅れて立ち上がる砂埃が、風の足元を掠めていく。
それが掻き消えてもなお黙ったまま俯いている風の姿に微かな違和感を覚えて、俺は眉を顰めた。
「風、どうした? 何かあったのか?」
あまり弱さを人に見せない風。
俺でさえ見たのは、あの引っ越しを告げられた幼い頃だけ。
いつも笑ってて、いつも元気で、何かあっても隠し通そうとする。
「んー、何かあったとか、無かったとか、なんていうか」
マフラーごしに吐かれるくぐもった声を聞き逃さないように、集中する。
少し早口になっているのは、緊張した時の癖。
「……あー、あのね」
「おう」
やっと話す気になったのか、マフラーから顔をあげた。
少し赤くなった頬を冷たい空気に晒して、風は目を細めた。
「少し早いんだけど、柊ちゃんには言っておくね」
「風?」
口を一度噤むと、風は微かに微笑んだ。
「また、お別れなんだ」