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芽吹くのは...

30日完結、間に合わなかった><

来週までには完結目指して、一話、投下します!!

風船葛は、すでに茶色く枯れていた――





幼馴染の風が帰ってきて、すでに二年以上が過ぎた。

風船葛の季節も三度過ぎ、気付けば大学受験が目前。

それでも神社の跡取り息子としては、観光名所化した神社の風船葛の手入れだけは欠かせないわけで。


……風船葛が有名になってから、お参りしてくれる人が増えたからとかお守りやらお札の売れ行きが……とかなんかそこら辺は気付かぬふりをしよう、読み手皆さん。



毎年、ほとんど零れ種だけで育っている風船葛は、今年も見事な緑のカーテンを観光きゃ……基、信心深い皆様に見せてくれた。

その分、そんな方々が落としていくごみとかごみとかごみとか!! ……あと、風船葛の蔓や葉などの片づけがどうしても必要になってくる。

近隣の皆様にご迷惑をかけるわけにはいかないしね。


そんな感じで、今日も今日とて竹ぼうき片手に神域を清めるわけです。





「ま、こんなものかな」

冬に近づいて陽が落ちるのが早くなったこの頃は、清めを早朝に行う関係で一人の時が多い。

夏場は風も手伝ってくれたけれど、受験生という事もあって昨年よりは回数は減っていた。

クラスは同じだけれど、普通に話すけれど、この三年で距離が縮まったかといえば全くだ。

幼馴染の柊ちゃんと風。その関係から、半歩も進んでいない。


塵取りで葉を広い、ゴミ袋に入れる。

風船葛のものだけじゃない枯葉は、冬の到来を如実に表していた。

もうすぐ二学期の終業式が来て、年を越せば始業式後の三年生は完全な自由登校になる。

どこを受験するか教えてはくれないが、夏から予備校に通っている風はきっとあまり登校してこなくなるに違いない。

分かっているのに、分かっていたのに何も出来なかった二年間。

……あぁぁぁ。

後悔後に立たず。


社務所の裏にゴミ袋置いて掃除道具を片づければ、腕時計のデジタル表示ははすでに八時近くを示している。

家を出る時間が迫っていた。







「おはよー、柊ちゃん」

「はよー。さっむいなー」

「だねー」



教室に入れば、入り口の近くにいた風が友達と話していた顔を上げてひらりと手をふった。

幼馴染というのは風が転校してきた時にいつの間にか広まっていて、俺達が何を言うでもなくそれは受け入れられていた。

故に、風と俺が一緒に帰ろうが一緒に昼を食べようが二人で話していようが、恋愛のれの字も上がらない。


……上がってくれよ。


そんな事を考えているとも気付かない風は、挨拶に応えるように片手をあげた俺からすぐに視線を外して話へと戻っていく。

仕方ない事だと思いつつ、やっぱり今まで自分は何をしていたんだろうと内心落ち込みながら小さく息を吐いた。


自分の席のある窓際の一番後ろへと歩けば、そこにはすでに登校していた前の席の奴が数人のクラスメイトと話しこんでいた。

頭を突き合わせて小声で話しているから内容まではよく聞こえないけれど、声を潜めている所を見ると噂話か朝っぱらからすけべな話かどっちかだろう。

馬鹿だよな、ホント。


「おーす、柊介」

その中の一人が俺に気付いて顔をあげたのに続くように、集まったクラスメイトから口々に言われる挨拶に応える。

自分の席に鞄を置くと、目の前の席の石黒が雑誌を広げたまま振り向いた。


「柊介は、どれが好み?」

「?」

鞄から教科書を出していた俺は指示されたページを見て、なんとなくうんざりと肩を落とした。

後者だったか、こいつらの朝の議題は。


見た目ちゃらい石黒は、それに反することもなく中身もちゃらい。

夏休みどれだけナンパが成功したかを休み明けに話していて、女子にどん引かれていたというのに懲りない奴だよなぁ。

石黒が開いているページには、水着姿の女の子がいろんなポーズをしながらこちらを見ている。

つか、この時期に水着とか寒々しい……。

「好みっていうか、このくそ寒い時期に水着見るの寒い」

「それ男の言葉と思えない」

「男全般をお前と一緒にすんな」

別に下ネタ喋ろうが裸見よーがどうでもいいけど、いちいち人を巻き込もうとする石黒がむかつく。

「付き合い悪いよなー、柊介。何、貞操守る相手でもいるわけ」

「だからなんでそんな話になる。いい加減、うぜぇよ石黒」

「そんな人いるんだ、柊ちゃん」


……は?


いきなり入り込んできた女子の声に、その場にいた男子全員が声の方へと顔を向けた。

そこには呆れた顔をした風の姿。

俺はとっさに何も言えず口をぽかんと開けたまま見ていたら、風がくすりと笑って俺の机にノートを置いた。

「はい、借りてたノート。返すの忘れてた」

「あ、あぁ、うん」

ノートを視線で追えば、その間に風は石黒の雑誌をちらりと見て踵を返す。

「そんな話ばっかしてると、リアル女子から見向きもされなくなるよー」

「うわぁぁ、そんな事言わないでよ。風ちゃん」

「言われたくなかったら、苗字読みにしてねー。石黒君に名前で呼ばれたくなーい」

「ひでぇぇ」

まだ何か食い下がろうとする石黒を適当にいなしながら、風は自分の席へと戻っていった。

石黒は肩をがくりとさげて、椅子に座る。


「風ちゃんに嫌われたぁぁ」

「……うぜぇ」


石黒が、マジでうぜぇ。


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