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異界のソラ  作者: ミケイト
第1章 少年時代
8/25

第08話 過ぎる季節

明けましておめでとうございます!


新年一発目、1/1の0:00に更新です^^

今年もよろしくお願いします♪

白魔の森を抜け、俺は全速力で街に走りだした。

俺の腰の布袋の中には、採取したてのナル草が入っている。


地平線の向こうの空が、少しだけ白くなり始める。

かなり時間を使ってしまった――が、無事に採取できてよかった。



「ネスカのおかげだ。 ありがとな!」



俺の肩に座る精霊――ネスカに話しかける。

ネスカはニヤッと笑い、握りこぶしから親指をピッと立てた。


俺もネスカに向かって親指を立てる……グッジョブ!

それをみたネスカはケラケラ笑い(声は聞こえないが)、手足をバタバタさせている。



「俺、精霊ってもっとなんというか……神聖な感じ? を想像してた」



走りながらそう言うと、ネスカは"失礼な!"という顔をした。


おもむろに俺の肩の上に立ち上がると、体を光らせる。

そして、聖母のような表情でニコッと微笑みを浮かべる。

全てを慈しみ、包み込むような優しい笑顔。


こうして見ると、確かに神聖な感じが……しないでも……うーん……



「なんか今さらだな」



――ズコーっと、俺の肩の上で器用にコケる。


なかなか楽しいやつだ。







そうこうしているうちに、俺は「バラの香り亭」の前へたどり着いた。

ここまでかなりの速さで走ってきたから、正直ヘトヘトだ。




「ただいま帰りました……」


「ソラちゃん!!! よかったわぁ~、無事で」


「おかえり……ソラ」




待っていたのは、ローラさんとレイアだった。


ん? なんでここにレイアが……?


それになんだか、レイアの体の光が――




「怪我をしているのか……? レイア」


「ぁ……ぅん……」




レイアに近づき、洋服をたくし上げて脇腹を見た。


そこには既に湿布が貼られ、包帯が巻いてある。

ローラさんに治療してもらったらしい。




「出て行けって、姉さんに蹴られた……今日は帰れない……」


「……何があったんだ?」


「兄さんの病気……私のせいなんだって……」


「……なぜ?」


「平民と仲良くしてるから……平民の病気をもらってきたんだろうって、姉さんが」




そんなの、言いがかりだ。



自分のせいなのか――と表情を暗くするレイアを、ローラさんが後ろから抱きしめる。


レイアの体のへその下にある、白い光。

それを包む黒い光を見た。


……どうも、これはランドの病気とは種類が違う。


今回の病気とは関係ないだろう。



レイアが感染ルートになった可能性ももちろん否定できはしないが、平民と仲良くしてたというだけで決めつけるのは、どう考えても間違っている。


それに……




「ごめん。 俺、執事に"レイアの友人だ"って言っちゃったんだ。 そのせいかも……」



それがレイアの姉に伝わり、レイアを傷つけたんじゃないか?

我ながら浅はかな行動だった……。


しかし、レイアは首を横に振った。



「たぶん……ちがうとおもう。 セバスは、コレ、持っていけって……」



レイアはポケットから一つの石を取り出した。

小さい手の上の置かれたその石は、銀色にボーっと光っている。


これは……光輝石っ!?



「母さまがたくさん持ってたの……"平民には集めるのが難しいだろう"って、セバスがいってた」



あの執事が……?

俺は信じられない思いで光輝石を見つめた。


それに、レイアの母親が集めていたというが……なぜだろう。



とにかく、これで薬の材料は2つ。

残り1つで薬が作れる。



「残りのひとつはミリアちゃんが頑張ってるわ。 ……ソラちゃん、ひどい顔よ? あとは私たちに任せて、少し横になりなさい」


「いえ、このまま待って――」


「"大人を頼ること"、"絶対に無理をしないこと"、エイラスの条件でしょう?」


「……分かりました。 じゃあ、お言葉に甘えて」



俺はフラフラとソファに横になった。

張り詰めていた糸がフッと緩んだように、体から力が抜ける。


レイアはちょこちょこと付いてきて、俺の横に一緒に寝転がった。


そんな俺たち二人に、ローラさんは毛布をかけてくれる。



「ソラちゃん、お疲れ様……」



ローラさんの大きな手が、優しく俺の頭をなでるのを感じながら、俺はストンと眠りに落ちた。






※  ※  ※






カチャ――



扉が開く音が聞こえ、俺は目を覚ました。

ぼんやりとあたりを見渡す。


やわらかい布団の上で寝ているようだ。

ここは……「薔薇の香り亭」の客室。

ローラさんが運んでくれたのかな。


入り口から入ってきたのは……タニア姉?

どうしてここにいるんだろう。


左右を見ると――え?

ミリアとレイア……

どうやら、二人に挟まれるように、川の字で寝ていたらしい。



窓から差し込む光が明るい。

もう日が昇って――


――いや、昼くらいになってる?



「タニア姉、ランドは?」



俺は二人を起こさないように、ゆっくりと上半身を起こす。

タニア姉は、俺が起きているとは思わなかったようで少し驚いていた。



「ランドは薬を飲んで休んでるわ……薬術師さんが、もう大丈夫だろうって」



その言葉に、少しホッとする。

どうやらミリアもちゃんと材料を手に入れたらしいな。



「薬は、誰が?」


「エイラスさんって虫人の方よ。 なんだか薬草の質がすごくよかったみたいでね、3本も作れたって言っていたわ。 ……ソラが、白魔の森から採ってきたのよね?」


「……うん」


「魔物には遭わなかった?」


「ずっと逃げてたけど、一匹だけどうしようもなくて、戦った……」


「そう……」



タニア姉も心配していたのだろう……。

院長にも、ローラさんにも、エイラスさんにも、ちゃんとお礼を言っておかないとな。



俺はタニア姉を見る。

人より少しだけ、白い光が多いタニア姉。


ずっとランドの看病をしていたみたいだが、タニア姉には病気が伝染ってはいないようだ。



ふぅ……と、息を吐き出す俺。

タニア姉がゆっくりと口を開いた。



「私もね、4歳の頃、流行り病にかかったことがあるの」


「タニア姉が?」



それは、今まで聞いたことのない話だ。



「うん……その年はね、私が病気になった時には、孤児院でも既に2人が死んでいた」


「……」


「酷い年だったわ――今年よりももっと酷くて、一時期は街中に外出禁止令が出たほど」


「……そんなに?」


「えぇ。 そんな中、私ともう一人、もうすぐ8歳になるお兄ちゃんが、病気にかかったの」


「……」


「私、絶望したわ。 しかも、いじわるで"大嫌い"なお兄ちゃんと同じ病室なんて、最悪。

 でもね、その時、院長が奇跡的に1つだけ薬を手に入れてきたの」



2人の病人に、1つの薬。

今生きているのは、タニア姉……ってことは。



「タニア姉が選ばれたの?」


「いいえ、お兄ちゃんが選ばれたわ。 院長にも泣きながら謝られた。 私の方が症状が重くて、助かる可能性が低かったから……」



でも、今はタニア姉が生きている。

どういうことだろう。



「謝られた時には現実感がなかったんだけどね、お兄ちゃんと病室を分けられた時に初めて泣いたわ。 あぁ、私は見捨てられたんだって、分かって。 あんな意地の悪いお兄ちゃんが選ばれたのに……なんて思ってね。 それでしばらく泣いていると……院長が、薬を持って現れたの」


「え?」


「院長、"もう一つ手にはいったんじゃ"、なんて言っていたわ。 そして、当時の私は素直にそれを信じた……」


「……」


「私の病気が治ると、お兄ちゃんは既にいなくなっていたわ。 "お兄ちゃんは里親に引き取られた"だなんて嘘を……そうね、7歳くらいまでは信じていたかしら」


「……それじゃあ」


「うん。 ある時院長を問い詰めたら、"そろそろいいじゃろう"って白状したわ。 私が、お兄ちゃんと同じ年齢になったから。 お兄ちゃんから院長への最後の"お願い"を、私にも教えてくれた」


「お願い……?」


「僕は薬を絶対に飲まない。


 タニアを助けてやってくれ、タニアに薬を持って行ってあげてくれ。


 タニアには言わないで、どこかに引き取られたことにでもして、秘密にしておいてくれ。


 僕はいいから、タニアを……」



タニア姉の目からは、静かに涙がこぼれていた。

俺は、何も言えない。



「馬鹿だよね。 私、お兄ちゃん大嫌いだったのに。 私を助けたのに自分が死んだら、意味ないよ……」



タニア姉は俺をギュッと抱きしめる。

そして、俺の耳元で語りかけるように言った。



「ランドを助けたソラは、とても立派だと思う。 悔しいけど、私には無理だっただろうし……」



タニア姉は俺の体を離すと、俺の目を見つめた。

いつになく真剣な眼差しに、俺もタニア姉を見返す。



「でも、それでソラが死んじゃったら、残されたみんながすごく悲しむのだけは覚えておいて」



一つ一つ、言葉を俺に刻みこむように話す。

分かったよ、タニア姉。

ずっと覚えておく。



「ソラが無事でよかった――」



そう言うと、タニア姉は再び俺を抱きしめた。


視線の端には、優しい顔をして微笑んでいるネスカがパタパタと浮いていた。






※  ※  ※






あれから約3ヶ月が過ぎた。


だんだんと暖かくなってきて、孤児院の庭にも花が咲き始めている。



孤児院の子どもたちは、誰一人欠けることなく冬を越すことが出来ている。


というのも、子どもたちに少しでも"黒い光"――病気の兆候があれば、薬を一口ずつ飲ませていたからだ。



3本作った飲み薬のうち、1本はランドを全快させた。

残りの2本をみんなで使い、この冬を乗り切ったのである。



目の前には、頭を抱える猫耳の少女が1人。



「ソラ~、なんで3ひく1は2なの!? 3と1だから……えっと、4でしょ!?」


「それ足してる……」


「納得いかない!」



ミリアは小石を並べながら、算数を頑張っていた。



虫人のエイラスさんから、薬を作る条件として提示されたのは



1. 子どもだけでなんとかしようとしない。 大人を頼ること。

2. 死んだら本末転倒。 絶対に無理をしないこと。

3. 春になったらハチミツを持ってくること。 大好物です。


そして


4. ミリアは私の弟子になること。



エイラスさんはミリアの何を気に入ったのか、弟子入りをご所望だ。


とはいえ、まずは計算もできないと、簡単な薬を作ることもままならない。

遠い道のりである。




「なんでソラはできるのよー!!!」


「ミリアが走ってる間に俺は勉強してたの」


「ソラの方が足も速いじゃない!!!」


「それはまあ……頑張れ」


「なんなのよー!!!」




なんだかんだ言いながら、ミリアも一生懸命勉強している。




そんなミリアを眺めていると、目の前に白い光が現れる。

……精霊のネスカだ。


お腹をさすって、"おなかすいたアピール"をしている。

仕方ないなぁ。



俺が人差し指を差し出すと、先端にガブッと噛み付いた。

まぁ、痛くはないけどね。


そのまま指から、白い光を流す。

ネスカの体がパーっと輝いた……充電完了かな?



森から帰ってからもずっと、ネスカは俺の近くにいる。

俺が餌をあげる代わりに、ネスカからは魔術を教えてもらっているのだ。

持ちつ持たれつの関係だ。



なんか俺もお腹減ったなぁ、と思っていると。



「みんな! ご飯できたわよ~!!!」



タニア姉の声が聞こえてきた。

俺たちは勉強道具を片付け、みんなのもとへ向かう。






今日はランドの5歳の誕生日だ。


以前にも話したが、この世界では2歳、5歳、8歳の誕生日は盛大にお祝いする風習がある。


そんな風習が根強いのも、子どもがその年齢を越えられないことが、前の世界より圧倒的に多いからだろう。


ある程度年齢を重ねた人には、みんな何かしら思うところがあるようだ。


俺も少し、去年とは違う気持ちで食卓に並んでいる。




この孤児院も、普段は質素な食事を心がけているとはいえ、今日は手の込んだ料理がテーブルに並んでいた。


その料理ひとつひとつに、タニア姉の想いがこもっている。




「ランド、誕生日おめでとー!!」

「おめでとう♪」

「し、仕方ねぇな、今日だけ祝ってや――」

「うわーゴチソウだ~!!!」



テーブルを囲む子ども達は嬉しそうだ。


……ランドも、とても嬉しそうにしている。



ランドの体の光は、病気の前よりも強くなっていた。

まるでそう、タニア姉のように。


白い光を使うと疲労し、回復すると量が増えているように。

病気と戦って回復すると、光の量が増えるのかもしれないな。




目をキラキラさせて食卓を囲む子ども達の中に、一人だけ、目をキラキラさせたお爺さんが混ざっている。

孤児院の院長だ。



「ご馳走じゃ~! 楽しみだのう♪」



……楽しそうだなジジィ。


でも俺は知っている。

この豪勢な料理の食費は、タニア姉が院長のヘソクリからこっそり抜いていることを。


……よくよく見ると、高級な食材もいくつか使われているようだ。


基本的に、タニア姉は鬼畜である。




「はーい、追加の料理も持ってきたから、そろそろ食べましょ~♪」




タニア姉が皿を持って現れた。


ガヤガヤと、いつもの食事が始まる。



「あぁー! ワシの肉ー!!!」


「早いもん勝ちよ!」



今日も孤児院は平和だ。


記憶を取り戻してからもうすぐ1年。


あと数週間で、俺も6歳になる。


前世よりも少し厳しい世界ではあるが――




――これからもこの世界で、楽しく過ごせればいいなと思う。


今年もよろしくお願いします^^


面白い作品になるよう、頑張ります!

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