第07話 白魔の森
日間ランキング1位、ありがとうございました^^
みなさんに読んでいただけて本当に嬉しかったです。
年末の嬉しい大事件でした。
今回で今年最後の更新になります。
また来年もよろしくお願いします!
完全に日は落ち、ガラントの中心街は夜の装いを見せている。
こぼれそうな胸で男たちを誘う娼婦。
酒を片手に歌いながら歩く狩人。
周囲を威嚇しながら威張り歩く傭兵。
風はすっかり冷たくなっているというのに、街の人はそれを感じさせず、賑やかに歩いていた。
その人混みを縫うように、走る影が二つ――俺とミリアだ。
「おーい猫人のお嬢ちゃん? おじちゃんと遊――」
「邪魔っ!!!」
「――ぐふぅっ!!!」
ミリアはその脚力で、寄ってくる変態を蹴り上げながら走る。
……今のミリアに触れるなんて、運が悪かったな。
夜の街など俺もミリアも初めてだ。
よく知っている場所のはずなのに、少し迷いそうになる。
人混みをかき分け、ようやく目的地に着いた。
……「薔薇の香り亭」だ。
カランカラン――
入り口の木戸を開けると、ローラさん達が接客していた。
今は夜の営業中だ。
「いらっしゃ――ってソラちゃ~ん、レイアちゃんから聞いたわよ! お友達はどうだった?」
「……その事でお願いがあるんですけど、ちょっといいですか?」
ローラさんはお客さんに「ちょっと待ってて」と言うと、俺たちの方に近づいてきた。
そして、俺とミリアをカウンター席に座るように促す。
……ところで、ミリアが物珍しそうにキョロキョロしているが、そんなに面白いだろうか?
ローラさん達もいつも通りのガッシリしたドレス姿だし、お客さんとカレンさんはいい雰囲気だけど、特におかしい所はないよなぁ~……あれ?
ローラさんは俺たちにホットミルクを差し出すと、横の席に座った。
ここまで走ってきたものの、外は寒かったからありがたい。
「それで、ソラちゃんからお願いって、何かしらぁ~?」
「はい…… 実は今、薬の材料を探していて――」
順を追って、薬を探している経緯を話す。
ランドの状態、聖術師の件、エイラスさんからの条件。
「それで…… 仕事中にお願いするのも心苦しいんですけど、薬の材料のうち"ブラウンウルフの肝"と"光輝石"を探すのを手伝ってもらえないかと思いまして……」
ローラさんは俺の顔をじっと見つめると、はぁ……と息を吐く。
やはり、仕事中に邪魔をされるのは嫌だろうな……
と、思っていると。
「どうしてソラちゃんは、そんなに遠慮しているの? あなたは5歳にしては飛び抜けて頭がいいけれど……大人の事情を考えるのは、大人の仕事よ。 子どもは子どもらしく、もっとワガママになりなさい!!!」
なんか違う方向に怒られた。
ローラさん……
「さぁ、やり直し!」
「えっ?」
「ほら、子どもらしくお願いしてみなさい?」
えぇっと――
「薬の材料探すの、手伝って下さい! お願いします!」
「――50点」
えぇぇ……
と、ミリアがイスから立ち上がり、ローラさんに掴みかかった。
「とにかく時間がないの! いいから手伝いなさい!!!」
「ん♪ 120点☆ いいわよ~ん」
えぇぇぇぇ~……
「さぁみんなぁ~! 話は聞いたわね。 我らがソラちゃんのために、総力戦よ!!!」
ローラさんが指示を出すと、全員がバタバタと店じまいを始めた。
……というか、なぜかお客さん達も手伝わされている。
みんな「仕方ねぇなぁ」と言いながら笑ってる。
いいお店には、いい客が集まるモノなのかもしれないな。
「ソラちゃん達はこれからどうするの?」
「ミリアはここで2つの材料を探させてください。 俺は今から"白魔の森"に行きます」
残りのひとつ"ナル草"は、この近くでは白魔の森でしか手に入らないらしい。
ローラさんは少し考えるそぶりを見せると、ちょっと待っててと言って倉庫の方に走っていった。
帰ってきたローラさんが持っていたのは、一本の短剣である。
「丸腰で行くのは危ないわ。 持っていきなさい」
「えっと……」
「あくまで護身用だから、魔物に会っても出来る限り逃げるのよ」
「ありがとうございます!」
なんでこんなモノをローラさんが……と気になるが、あまり聞かない方がよさそうだ。
「ソラちゃんが色々規格外なのは分かってるから、あえて止めはしないわ。 ただ、エイラスの条件にもあったけど――"絶対に無理をしないこと"。 分かったわね?」
俺はローラさんにお礼を言い、ミリアと分かれて店を出た。
……向かうのは、白魔の森だ。
※ ※ ※
街の南門を出て10分ほど走ると、白魔の森と呼ばれる森がある。
この森はかなりの広範囲を覆っており、人の手がまったく入っていない場所すらある。
また、奥に行くほど強い魔物が出てくることから、国も迂闊に手を出せない。
俺は今、その白魔の森の中を歩いていた。
慎重に、かつ出来る限り素早く――
夜の森は、一寸先も見えないほど真っ暗だ。
普通であれば、足を踏み入れようとも思わないだろう。
だが、俺の目にはこの森全体が、微かに光って見えるのだ。
昼間に見ても気づかなかったが、こう真っ暗だとよくわかる。
木の一本一本から白い光が薄く放出されていて、空気が"濃い"。
それが理由かはわからないが、体の中の光も回復が速くなっている。
さて……そろそろ目的地のハズだ。
俺は白い光を目に集めていた。
これで、暗視カメラのようにあたりが見える。
少し進むと、目の前に小川が見えてきた。
エイラスさんから借りた森の地図とコンパスを頼りに、ここがナル草の群生地であることを確認する。
「ここもダメか……」
俺の目に写るのは、ナル草の"元"群生地……今は乱獲されて一本も残っていない。
採取者も後先を考える余裕がないほど、材料不足が深刻なのだろう。
……同じような場所は、ここで5箇所目だ。
少なくとも10株は採取して行かなければならないのだが。
おや?
小川の川岸に、何やら白くボーっと光っているモノが流れ着いている。
今にも消えそうな、儚い光だ。
あれは……なんだろう?
気になった俺は、それに近づき拾い上げた。
そして、手のひらに収まるサイズのそれをまじまじと見つめ……
「虫人……いや、妖精……?」
思わず、そうつぶやいた。
拾い上げたのは、体の大きさが10センチにも満たない少女だった。
更に、体が透けている。
見えるのは、体を形作る白い光のみだ。
なんというか、拾い上げた時もまったく重さを感じなかった。
触っている感覚もない――まるで、実体がないかのようだ。
はじめはトンボの虫人かと思ったが、少し違うようだし……
トンボの虫人は羽が四枚だが、この子は6枚生えている。
虫人特有の触覚もない。
ただ、この世界に妖精がいるような話は聞いたことがない。
初めて見る生き物だった。
そう思っている間に、この子の光がだんだん弱まってきた。
このままではそう遠くないうちに、体全部が消えてなくなってしまいそうである。
……あ、また光が弱くっ――
慌てた俺は、思わず自分の光をこの子に流し込んだ。
――トクン、トクン
手のひらの中で脈打つ体。
考えなしに行なってしまった行動だったが、どうやら大丈夫だったようだ。
まだぐったりはしているものの、はじめのような消えそうな感じはしない。
ひとまず目を覚ますまでは連れて行こう。
次の群生地に向けて、再度地図を確認している時だった。
――カサッ
強化していた耳に聞こえてきた、微かな音。
俺は近くの岩にサッと隠れると、息を潜めた。
しばらく動かないで待っていると、現れたのは……猪。
正確には猪のような魔物で、足が8本ある。
大きさは大人1人分ほどはあるだろうか。
この世界の生き物には、動物と魔物の2種類がいる。
簡単に分類するならば、魔術を使うのが魔物、使わないのが動物である。
この猪は魔術を使うらしいので、魔物に分類される。
森の少し深い所まで来たのだろう。
だんだんと魔物との遭遇率が上がってきていた。
大ネズミや猪からは先程も何度か逃げたが、大ネズミと比べても、猪は段違いに恐ろしい。
白い光の量が全体的にかなり多く……今の俺では相手にもならないだろう。
手のひらに若干汗をかきながら、岩陰で待つ。
猪は鼻を地面に突き刺して、ナル草が生えていたあたりをクンクン探っている。
もしや匂いで見つかるか?
と思ったが、猪はそのまま興味をなくしたように去っていった。
……ふぅ。
なんとか気付かれずに済んだ。
猪が去ってからも少しの間は動かず、音を探って異常がないかを確認する。
俺は再び、素早く森の中を移動しはじめた。
※ ※ ※
俺は、小さな池のそばに立っていた。
先ほど拾った女の子は、俺の胸ポケットの中で寝ている。
夜も更けてきて、あたりは随分と寒くなってきている。
池の表面にも薄い氷が張り、吹いてくる風も肌に刺さるようだ。
……ここが8箇所目、か。
あたりを見回してみるが……
うーん、全滅だな。
これで、エイラスさんに教えてもらったナル草の群生地は残り3箇所。
幸いにも、6箇所目で2株、7箇所目で1株のナル草を見つけ、計3株持っている。
治療に必要なのは10株なので、あと7株のナル草が必要だ。
この周辺を、もう少しよく探してみよう。
俺は薄氷の張る池に近づいた。
――その時だった。
バシャッ!
大きな音を立て、何かが池から飛び出してきた。
その影は地面に着地したかと思うと、そのまま俺に突っ込んでくる。
俺は咄嗟に足に光を集めた。
右に転がるように跳ぶ。
「ギーコギーコギコ……」
低い鳴き声。
その"何か"の声に振り返る。
「カエル……でかいな」
……目の前にいたのは大きなカエル。
前足を地面についた状態で、目線が5歳の俺と同じぐらいだ。
白い光は、"足"と"口の中?"が強く光っている。
俺はローラさんから借りた短剣を構えた。
完全に捕捉されていて、逃げられそうにないからだ。
ジリジリと、俺とカエルの間に緊張が走る。
――先手必勝っ!
俺は全身を強化し、剣を構えながらジグザグに前進した。
方向を変えるたびに体が軋むが、今は気にしていられない。
カエルは俺を目で追おうと、首を左右に動かしている。
あと3歩でカエルの横に……!
そう思った瞬間、カエルが首を後ろに反らせ――
――ヒュッ
カエルの口から何かが出てきて俺を襲った。
咄嗟に短剣で受けるが、その衝撃で後ろに跳ね飛ばされる。
俺は飛びながら、カエルの口から伸びるモノを見た。
「長い……舌か……?」
カメレオンの舌のようにクルクルと巻かれながら、ソレはカエルの口内に戻っていく……
――ガンッ
俺の体は、3mほど後ろの木に背中から激突する。
「ガッ……ゲホッ」
一瞬、肺から空気が吐き出されて息ができなくなった。
もし体を強化していなければ――そのまま死んでいただろう。
くっ……ちょっと落ち着こう。
突然現れたカエルに驚いて、冷静さを欠いていた。
先ほど短剣で受けた時にも、奴の舌が傷つくことはなかった。
奴の舌も、白い光で強化されていたのだ。
……あの舌をかいくぐって、一撃を与えなければならない。
足の光も強いから、他の攻撃手段にも気をつけなければ。
そういえば、と思い出し、胸ポケットから"少女"を取り出す。
さすがに、胸の少女を庇いながら戦えはしないだろう。
俺は少女を木の根元に横たえた。
さて、と。
……そうだ、"アレ"で戦ってみるか。
呼吸を整えると、俺は立ち上がった。
カエルはビックリしたように目をパチクリさせている。
……死んだと思ったか?
先ほどは突然の襲撃に頭が回らなかったが、今はやっと少し落ち着きはじめた。
俺は、ローラさんから短剣を借りた時に考えていたことを実行する。
「この剣は、俺の手の延長……」
手を流れる白い光を、短剣に流していく。
そう、あの工事現場のスコップのように。
流れる光の量が増える度に、俺は"理解"していった。
この剣をどう振れば、最も力を入れずに切れるのか。
手足や体をどのように動かせば、剣に力が乗るのか。
それは別に、剣術だなんて高等なものではない。
"この剣が体の一部である"という感覚が俺を包んだ。
フッと、剣を横薙ぎに払う。
そこにあった木の枝がスパッと切れる――俺の意図した通りに。
「……行けるっ」
俺は剣を上段に構えると、カエルに向かって真っ直ぐ走りだした。
先ほどのようにジグザグではなく、ただ直進。
カエルが首を後ろに引いた――
来るっ!
飛んでくる舌を、俺の"強化した"目が捕捉する。
それに合わせて、構えていた剣を振り下ろした。
「ギィィィィィィ!!!」
カエルが低い唸り声を上げる。
奴の舌の先端は、二股に切り裂かれていた。
――ここだっ!
俺は一気に足を強化すると、カエルのそばまで跳ぶ。
「シッ!」
そして、剣を下から上に振りぬいた。
――ザンッ
仕留めるつもりで剣を振りぬいたが、カエルは後ろに向かって大きく跳んでそれを避けた。
その代わり、カエルの舌は俺の剣によって根本から叩き切られている。
「本当は仕留めたかったが……これで形勢逆転だ」
カエルが大きく距離をとったため、小休止、と息を吐き出した。
このまま逃げてってくれないだろうか……とカエルを見る。
「ギーコォ……」
カエルの唸り声に怒気を感じる。
これは……やはり、戦いを避けるのは無理そうだ。
前世ではどちらかと言うとインドア派で、パソコンをいじるのが好きだった。
だからもちろん、剣道をやってました、なんて都合のいい経験もない。
今扱っている剣も、剣術なんて大層なレベルではないが。
……でも、今は勝てればいい。
さて、と剣に光を込める。
あとは時間との勝負だと、俺は躊躇なく走りだした。
そして、もう少しでカエルに剣が届く、その瞬間だった――
カエルの口から白い光が出てくる。
白い光は、何やらいくつかの図形のような形を取り始めた……これは記号だろうか。
記号の形をした白い光が4つ出来上がり、次の瞬間、その記号が金色に輝き始める。
4つの金色の記号……これは何なんだろう。
金色の記号が浮かぶ最中、再びカエルの口から白い光が出てくる。
白い光は、金色の記号を1つずつ飲み込み、その度に変化していった。
1つ目の記号を飲み込むと、白い光が"青い光"に変化した。
2つ目の記号を飲み込むと、青い光に向かって周囲から"何か"が集まり出した。
3つ目の記号を飲み込むと、それが球状になり……水の球が出来上がった。
そして、4つ目の記号を飲み込む。
――バシュッ
水の球が、俺に向かって飛んできた。
俺は突然のことに避け損ない、腹に水の球を受けた。
「ぐっ……」
もちろん強化していたものの、かなりの衝撃に息ができなくなる。
思わずその場に膝をつく。
カエルに目を向けると……
奴は俺に向かって突進してくるところだった。
くっ……あんな強化された足で突進されたらひとたまりもない。
右に倒れこみ、転がるように避ける。
一旦距離を取ろうか――
――バシュッ バシュッ バシュッ
再び、立て続けに3つほど飛んできた水の球が、俺の体を弾き飛ばした。
「くっ……」
幸いにも水の球は短剣にあたっていたが、ダメージは大きい。
俺は命からがら後ろに跳ぶ。
「これが"魔術"……?」
確かに、魔物の定義は"魔術を使う動物"である。
とは言え初めて見る魔術に、俺は驚いていた。
あんなモノを連発されたらひとたまりもないが……
俺はカエルを見る。
カエルの体の中の光がいくらか薄くなってきている。
肩で息をして、苦しそうだ。
自慢の舌も失い、ギリギリの戦いをしているのだろう。
一方の俺も、度重なるカエルの攻撃に全身を痛めていた。
体の強化も、いつもにも増して強めに行なっていたため、そろそろ疲労感が出てきている。
剣に光を通すのも、辛くなってきた。
「しんどいのはお互い様。 負けられないな……」
俺がここで負けたら、薬の材料は集まらない。
材料がなければ、ランドが死ぬ。
カエルは強いし、戦うのなど初めてだし、怖くないと言ったら嘘になる。
でも、俺は――
「勝つ!!!」
剣に光を流し、飛ぶような速さでカエルの元へ向かう。
俺に合わせ、奴も水の球を飛ばしてくるが。
――見えるっ!
目を強化し、飛んでくる水の球を避けながら奴に近づく。
一撃でいい。
行けっ!!!
俺が近づき剣を振りかぶると、カエルも魔術を起動した。
――金色の記号が、さっきと少し違う……?
不穏なものを感じた俺は、避けようと咄嗟に足に光を込める。
――左へ跳んだ俺を、"水の鞭"がなぎ払った。
俺は体を襲う衝撃に、そのまま地面を転がる。
奴の方が一枚上手か……
悔しいな。
あいつが何をしてるか、全部見えてるのに。
単純な力なら、俺の方が上のはずなのに。
「ギー……ゴー……」
カエルの奴を見ると、フラフラしている。
アレは俺も経験がある……白い光を使いすぎた時の症状だ。
奴も満身創痍、もうちょっとのはずなんだ。
ん?
立ち上がろうとする俺の前に、突然"白い何か"が現れた。
……よく見ると、それはさっき拾った妖精?の少女だった。
俺に向かってパクパク口を動かして、何かを話しているようだが……
「ごめん、何話してるのか聞こえないんだわ……」
俺が答えると、ちょっと残念そうな顔をする。
向こうには、こっちの声が聞こえているらしい。
少女は一生懸命、身振り手振りで俺に説明する。
うんうん、ほうほう、なるほど――
「まったく分からん」
ズルッとズッコける少女。
なかなか笑いの分かる奴である。
そんな事をしている間に、カエルが息を整え終わったようだ。
カエルの口から白い光が出始める。
「奴を倒す。 下がってて」
そういう俺に、少女は首を振った。
そしてそのまま、カエルの方に向かって飛んでいく。
「危ないぞっ!!!」
俺は剣を構えて走りだした。
少女がカエルのそばに到着する。
カエルには、少女の姿が見えていないようだ。
奴の口から出た光が、金色の記号を作り出す。
……このままでは、少女が魔術の餌食に!
俺が加速しようと、足に光を込めた瞬間だった。
――ひょいっ
少女は金色の文字の一つを掴んで放り投げた。
……は?
カエルは白い光を出す。
1つ目の文字……は、さっき少女が放り投げた。
2つ目の文字を取り込むも、何も起きず、白い光は霧散した。
俺はカエルに近づく。
カエルは、なぜ魔術が起動しなかったのかが分からない様子。
これで……
「終わりだ」
――ザンッ
カエルの首が落ちた。
「はぁ、はぁ、はぁ……きっつい……」
体力の限界に、俺はその場に仰向けに倒れた。
妖精?の少女が、俺が倒れた眼の前にある石の上に座る。
……俺、妖精のドヤ顔って初めて見たわ。
※ ※ ※
死んだカエルのそばで休むのも気持ち悪かったので、少しだけ場所を移動してから休憩した。
「助けてもらってありがとう」
少女に伝えると、足を組んで両手を頭の後ろに回し、口笛を吹く真似をしていた。
完全に調子に乗ってるポーズである。
「君の名前はなんていうの?」
少女はパクパクと口を動かす。
うーん、なるほどね、
「全く聞こえないわ」
――ズルッ
少女がズッコケる。
なんか、久しぶりに前世のお笑い番組が見たくなってきたな。
「地面に書いたりは出来ない?」
というと、首を横に振る。
まぁ実体が無さそうだし、仕方がないか。
「あ、そうだ……」
俺は地図の紙を裏返し、荷物から細い木炭を出した。
そして、そこに文字を書いていく。
……この世界の文字、全部で24文字を1つずつ。
彼女は俺の意図が分かったらしく、ニコニコしていた。
俺は改めて彼女に尋ねた。
「君の名前は?」
少女が地図の上で、文字を一つ一つ指さしていく。
「ね、す、か、ふ、ぃ、り、あ……ネスカフィリア?」
彼女がコクコクと首を縦に振る。
そして、さらに。
「ね、す、か……ネスカって呼べってことでいいのか?」
彼女はうなずき、ドヤ顔になる。
いやそこは顔の選択間違ってると思うけど。
「じゃあ、ネスカの種族ってなんなんだ?」
いつまでも妖精(仮)じゃあれだからな。
なになに――
「せ、い、れ、い……"せいれい"って……精霊!?」
コクン、と首を縦にふるネスカ。
……精霊って、マジか。
確かにこの世界には、精霊と呼ばれる存在がいる。
人には見えないが、強力な魔術を使用出来る存在だ。
気まぐれに気に入った人を助けることがあるとも言われている。
俺が、彼女が精霊だという可能性に気づかなかったのには理由がある。
"精霊と会話できるのは、エルフだけ"のはずなのだ。
それゆえ、エルフは精霊に気に入られやすく、精霊を行使する"精霊魔術"を使用できるのも、一部の例外を除いてエルフだけとなっている。
まあその一部の例外ってのは、神話やお伽話レベルの話なんだが。
ちなみに想像上の精霊の姿は、龍だったり虎だったり鳥だったりと様々な獣の姿を取っている。
まさか目の前にいる行き倒れの少女が、精霊だなんて思うまい……
ふと、ネスカは俺が腰に下げている袋を指さした。
中に入っているのは、ナル草である。
「これか? 今、俺の友達を助けるために薬を作ろうと思っているんだが…… もしかして、これが沢山生えてる場所を知ってたりするのか?」
彼女はコクリと頷くと、俺を手招きする。
……ま、このまま群生地をまわっても10株は厳しそうだしな。
俺は、パタパタと羽ばたき飛んでいくネスカを追いかけた。
※ ※ ※
白く濃い霧の中を、先行するネスカだけを頼りに進んでいった。
不安になるほど奥へ奥へと進んでいくネスカ。
かれこれ1時間近く歩くと、ようやく霧が晴れた。
今、俺の目の前には、白い光を大量に放出する湖が広がっている。
とても静かで、それなのに命に溢れているような気さえする。
ここで呼吸をしているだけで、今までの全ての疲れが、癒されていくような。
この湖は、一体なんだろう……
ネスカが俺を手招きする。
その先に――ついに。
青々と茂る、ナル草の群生地を見つけたのだった。
本年は誠にありがとうございました!
的確なご意見、励ましのお言葉、暖かい感想、すべて心に染み渡りました。
まだまだ拙い私ですが、これからも頑張って面白いものを書いて行きたいと思います。
それではみなさん、よいお年を!