表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界のソラ  作者: ミケイト
第1章 少年時代
5/25

第05話 3人に1人

突然PVが跳ね上がった……!?

と思ったら日間ランキングの50位くらいにのってました^^


ありがとうございます!!!


嬉しかったのでもう一話投稿です。



【追記】→今見たら28位とかでした!!!

なんと…… 嬉しいです!!!

「ソラはお肉とお魚、どっちがいい……?」


「そうだなぁ。 魚がいい」


「分かった…… 頑張る」



エプロン姿のレイアが、拳をグッと握る。

なにこの可愛い生き物……!



最近「薔薇の香り亭」では、レイアが料理を練習している。

ランチタイムが終わってから、厨房担当の人に教えてもらっているのだ。


なかなかに器用で、料理の腕はグングン上がっている。

もちろん実験台は俺だ。

少し遅めの昼ご飯として、習慣化している。


レイアがパタパタと厨房へ走り去る。

従業員のみんなはそれを暖かい目で見ている。



「ソラちゃ〜ん、最近ずいぶんとラブラブじゃなぁ〜い!」


「ローラさん……はみ出てますよ」


「あら、しっつれ〜い☆」



もうほんとごめんなさい。

食事中の人は特に。


レイアもいるので、そーゆーのは気をつけてほしいものだ。


はぁ〜……


俺はため息をつくと、大きく伸びをした。


ん〜、確かにレイアは俺にべったりだよなぁ。

俺もまぁ、嫌ではないというか。


い、いや、ロリコンではないぞ?

たぶん……


それはそうと。



「どうしてこんなに好かれてるんだろ……」



レイアに対して、それほど特別な事はしてないと思うんだが……。


俺のつぶやきを聞いたローラさんは、当然よ、と返してくる。



「ソラちゃん。 子どもが大人になるまで生きていられる確率、どれくらいか分かる?」


「具体的な数字まではちょっと」


「この前の国の調査だとね、だいたい3人に1人は子どものうちに命を落とすそうよ」


「そんなに……?」


「教会が聖魔術を一般公開する前は、その倍が死んでいたらしいわ」



ローラさんが遠い目をする。

誰かを思い出しているのだろうか。


どうも俺には、3人に1人が死ぬ、という数字に実感が持てないのだが。



「だから、レイアちゃんがソラちゃんをこんなに大好きになるのは、仕方ないと思わない? ソラちゃんがいなければ、レイアちゃんは確実にその"3人のうちの1人"になっていたんだから」



詳しくは聞いていないが、家族に見放されているレイア。

あのまま15歳まで無事に生きられたかと思うと……かなり難しかっただろう。


そう思うと、ちょっとは「特別な事」だったのかもしれないなぁ。



「はぁ〜、最近ちょーっと寒くなってきたわよね〜」


「もうすぐ冬ですからねぇ……」



……他愛もない話をしながらしばらくのんびりしていると、ローラさんが思い出したように口を開いた。



「そうそう、うちの常連さんで、ドワーフのガンタさんっているでしょ?」


「あぁ、ローラさんにアタックし続けてる?」


「そうそのガンタさん! あの人の工事現場でね〜、今人が足りないらしいのよ」



前に「ローラさんのどこが好きなんですか?」って聞いてみたら、「あの青ヒゲがかわいいだろ?」って答えてくれた猛者だ。


世の中俺の知らないことはまだまだあるんだな……



「この前、荷運びするソラちゃんを見たらしくてね、短期間でいいから手伝ってくれないかって。 報酬は一日5000R出すそうよ」



おぉ、一日5000R!?

それはすごい。


薔薇の香り亭の仕事は一日1000R。

孤児院のお使いは一回50Rくらいだ。

ほとんどお金がかからない生活だから、貯蓄額はもう少しで20万R程になる。


そんな中、日給5000R……

ありがたいが……



「なんでそんなに給料いいんです?」


「ほらー、最近変な風邪が流行り出したじゃない? それがガンタさんのトコでも流行っちゃったみたいで…… ダウンしてる人が多いらしいのよ〜」


「それで、臨時で人集めを?」


「領主サマがどうしても工事を遅らせたくないらしくてねぇ…… お願いできない?」



体力については問題ないだろう。

光の量もずいぶんと増えてきたし、むしろいい負荷になりそうだ。


時間は昼から夕方まで。

生活リズムとしては、早朝に孤児院の手伝いをして、昼前まで薔薇の香り亭、昼から夕方まで工事現場って感じになりそうだな。

レイアの料理は晩ご飯として食べるか。


よし。



「工事現場、やりますよ」


「あら、ありがと〜ソラちゃん!」



早速明日から10日間、働くことになった。

孤児院にも「晩ご飯はいらない」って言っておかないとな。



「ソラ、料理できたよ」



エプロン姿のレイアが現れた。

香ばしい匂いが漂ってくる。



「白身魚の香草焼き……だよ」



うん、今日の料理も期待できそうだ。

俺は"舌"を強化して、料理をじっくり味わった。




※  ※  ※




翌日。

昼までに客室の掃除や雑務を片付けると、パンをかじりながら工事現場へ向かった。


場所は、街の外壁の外側。

近頃、魔物が活性化しているという報告があるため、魔物除けのために壁の外に水路を引く予定なのだそうだ。



商人ギルドの反対があったものの、領主が先代から代わったばかりで実績を作りたかったために、若干無理やり押し通したのは「ヒミツ」の話だ、と「みんな」が言っている。



とはいえ、末端には政治的な駆け引きなど関係ない。

与えられた仕事をこなすばかりである。



「おう、来たなソラ! すまんが頼むな」


「はい、こちらこそよろしくお願いします」



周りが驚いた目で俺を見る。

そりゃ、5歳程度の子どもがこんな場所にいたら、誰だって訝しがるよな。



「おいガキ〜、ここは子どもの遊び場じゃねーんだよ〜」



……来た来た。

成人したてくらいのガラの悪い兄ちゃんが絡んでくる。


どこで仕事してても、こーゆー人は後を絶たないんだよな。



「ガンタの親方〜、本気でこんなガキ使うのかよ〜」


「馬鹿野郎! こいつぁあのローラさんの秘蔵っ子だぞ!!!」


「うへぇマジっすか!? そりゃあ……す、すみませんでした……ど、どうかローラさんには報告しないで下さい……」



ローラさん、アンタなにやらかしたんだ……



「とりあえず今日は、このでっかい岩を取り出す作業だ! 水路の邪魔だからな」



ふーん。

見ると、既に掘られた水路の進行方向を、大きめの岩が塞いでいる。

だいたい大人5人分くらいの大きさがあるだろう。


岩は地中に埋まっていて地面の上には出ていなかったから、水路を掘り始めてから見つけたのだろう。


確かにやっかいそうだけどーー

でも、あれくらいなら……



「ガンタさん」


「おう、どうした?」


「あの岩、どければいいんですよね?」


「? ああ……」



俺は岩に歩み寄ると、全身を強化する。

岩に両手の指を"刺し入れ"て、ぐいっと持ち上げた。


全員が口をぽかーんと開けたまま固まっている。


俺は岩を頭の上に持ち上げると、テクテクと歩いて行き、邪魔にならない場所に置いた。


ーーズーン


大きな音を立てて、岩は地面にめり込んだ。



「力が強いとは思っていたが…… ここまでか!?」


「アニキ……ソラのアニキと呼ばせて下せぇ!」


えぇぇ……

アニキはやめてほしい。


「と、とりあえず掘り進めませんか?」


「だ、だな…… 野郎ども、予定を繰り上げて水路を掘るぞ!」



その日の工事が始まった。



スコップを使い、土壁を掘り進む。

腕力を強化しても、重労働だ。


夢中になって掘るものの、なかなか思うように掘り進められない。

何かコツがあるのだろうか。



ふと、ベテランの作業員を見る。

あまり力を入れず、流れるようなスコップ捌きで掘り進んでいく。

すげぇ……



ん?


違和感を感じ、目を凝らしてよく見てみる。


あーー



「スコップが体の一部みたいだ」


「あぁ、気づいたかい? スコップを腕の延長のように、体の一部のように扱うのがコツなんだよ」



ベテランさんが語ってくれる。


俺の目に写っているのは、まるで腕とスコップがつながっているかのように、スコップを流れる白い光だ。



俺もやってみよう。



スコップが腕の延長……難しいな。


何度か試行錯誤して、ようやくスコップに白い光を流せた。

そのまま土壁を掘ってみる。



ーーサクッ



いとも簡単に掘れる土壁。

隣でベテランさんも驚いている。



「ほぅ、なかなか筋がいいじゃないか」


「でも……これ……すごく……疲れますね……ふぅ」


「慣れだ慣れ。 慣れれば力入れんでもサクサク掘れるぞ」


「なるほど……奥が……深いんですね」


「そりゃおめぇ、1日で俺より上手く掘れたら俺が泣くぞ」


「そりゃ……そうですね……ふぅ」


「でも、ははは、本当スジがいいな。 そのへんの駆け出しよりよっぽどすげぇ」



スコップに光を流すのってすごく辛い。

体の中で光を操作するのとは雲泥の差だ。


くぅ……疲れる。


でも、こりゃいい訓練になりそうだな。



※  ※  ※



10日間、スコップを強化する訓練をしながら工事現場で働いていた。

これがまた辛かったのだが、工事も後半になれば段々と慣れてきたものだ。


ベテランさんからも「自信なくすわ〜」と笑いながら言われた。

まぁ、まだまだベテランさんほど無駄なく軽々とは出来ないんだけど。

技術は一日にしてならず、だ。



今日の最後の仕事を終え、薔薇の香り亭へ帰る。

この10日間、レイアの作ってくれる晩ご飯が一日の癒しになっていた。


明日からは前のように、レイアに昼ご飯を作ってもらうサイクルに戻るのだがーーちょっと寂しいな。



「おかえりソラ。 ご飯にする? お風呂にする? それとも、わ、わわわ……」


「誰に仕込まれた?」


「……サリーさん」



はぁ〜……変な事教えやがって。

まったく。


ちょっとドキッとしたけどさ。



ふと、俺とレイアの光の量を比べてみる。

この10日間、スコップの訓練によってずいぶん鍛えられたようで、俺の光の総量はかなり増えていた。

レイアの8割くらいにはなっただろうか。



……ん? レイアの光に違和感を感じる。


よく見なければ分からないが、白い光の周りに薄く膜を張るように、黒っぽい光が覆っているのだ。



……なんだろう。

何か、レイアにとって悪いことでなければ良いが。



「ご飯温めておくから、先にお風呂入っちゃえば?」


「そうだな、そうさせてもらうよ」



夫婦みたいな会話だな、と思いながら、俺は従業員用の風呂場へ向かった。



湯船に浸かりながら、工事現場の仕事をしてよかったなと思った。

貯金も順調に溜まったのだ。


5000R×10日間、岩をどかした事でスケジュールが前倒しになったので、お礼の臨時収入で2万Rも手に入った。

今まで貯めた分と合わせて、約27万R。

5歳の貯金としては大層なものだろう。



酷使した体を揉みほぐし、風呂を上がる。

前持って置いてあった服に着替えると、夜の営業が始まる前の食堂へ向かった。



「今日は、ソラの好きな猪肉のステーキにしてみた……」


「おぉ…… ソースがいい匂いだ。 いただきます!」


「召し上がれ」



ちなみに「いただきます」「召し上がれ」は俺が言ってたらレイアが覚えた。

レイアの見た目も黒髪黒目だし、なんだか日本を思い出してホッとする。


さて、お味の方は、と。



……う、


「うまいっ!」


「ふふっ」



お、レイアが笑った!!!

たまにしか笑わないけど……可愛いなぁと思う。



「どうせだから、一緒に食べないか?」


「いいの……?」


「もちろん!」



レイアが俺の横に座った。

俺はフォークで肉を刺し、レイアの方へ向ける。



「はい、あーん」


「えっ、うん、あーー」



頬を赤らめたレイアの口に肉が入った瞬間だった。




ーーダンッ!!!




食堂の扉が、大きな音を立てて開く。




「ねぇソラ……あんた何やってんの……?」




振り向くと、そこにいたのは……




「ミ……ミリア……?」




震える猫耳。

孤児院から走ってきたのだろう。

ゼィゼィと肩で息をしていた。



「な……なんで! こん、こんな女と、イチャイチャして……わ、わたしは、孤児院、ラ、ランドが!!!」


「落ち着け、ミリア。 何かあったのか?」



ハァハァと息をしながら、目に涙を貯めるミリア。



「……ランドが、どうしたんだ?」



俺は努めて冷静に、ミリアに尋ねた。

ランドは、俺とミリアよりひとつ年下、レイアと同い年の孤児だ。


若干気弱だが優しい性格をした少年で、いつもミリアの後ろを付いて回っている。

次の春には5歳の誕生日を迎える予定なのだが。






「ランド、死ぬかもしれない」






ーーなっ!?




「何があった!?」


「流行り病、咳が止まらなくて……」


「今朝はなんともなかったろ?」


「熱があるのを、言わなかったみたい」




……なんてことだ。




この世界で生きて大人になれる確率は、およそ3人中2人。

3人に1人は命を落とす。


その数字の意味が、突然現実感を持って目の前に突きつけられている。




「ソラ、どうしようっ!?」


「大丈夫だミリア、みんなでなんとかするぞ」




死なせない……


できることは何でもやろう。



「レイア。 ローラさんに事情を説明しといてくれ。 明日の仕事は休む」


「分かった。 気をつけて」



俺はミリアと共に、孤児院へと急ぐ。



季節は秋から冬に変わる。


身体の弱った者にとって、最も過酷な季節が始まろうとしていた。


読んでいただけて本当に嬉しいです^^

頑張ります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ