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異界のソラ  作者: ミケイト
第1章 少年時代
4/25

第04話 小さなお客様

ちょっと早めですが、4話を先に投稿しておきます。

書き溜めがあると、つい投稿したくなってしまいますね^^

俺が記憶を取り戻したのが春。

暑い夏を越えて秋になったから、あれから半年ぐらいが過ぎただろうか。


こちらの世界では春に1月が始まるため、秋は7~9月。

30日×12ヶ月で、1年は360日。

10年に一度、数日の調整が入るが……前世より少しだけ1年が短い。



猛暑が終わり少し過ごしやすくなってきたので、ついダラダラと過ごしたくなってしまう季節だ。

それはここ「薔薇の香り亭」でも同じである。



「ローラさん、服を整えてくださいよ」


「あら~、ソラちゃんコドモのくせに欲情してるの~?」


「……はみ出してます」


「あら失礼♪」



何がはみ出していたのかはご想像にお任せしますが、お食事中の方がいたらごめんなさい。


「薔薇の香り亭」は基本的には宿屋なのだが、昼はレストランとして、夜は酒場(綺麗なオニイサンが接客してくれる)として、それなりに繁盛している。


ま、俺は夕方までしか働かないけどね。

5歳の子どもだし。


今は忙しかったランチタイムが終わり、休憩室でだらけていたところだ。



「ソラちゃんを雇って良かったわ~」


「俺もローラさんに雇ってもらって良かったですよ」


「ウフフ、あたしに惚れちゃった?」


「それはない」


「あら、つれないのね~」



ヨヨヨ……と泣き真似をするところまでがいつもの会話だ。


ここは従業員も常連さんも、みんな変わり者だが気のいい人達で、「雇ってもらって良かった」というのは実は本音だったりする。



「じゃ、俺はそろそろ買い出しに行ってきますね」


「よろしく~♪」



ぽーん、と財布が飛んでくる。

買い出しの財布を任されるくらいの信頼はしてもらえているらしい。


……なんか、そーゆーのはちょっと嬉しい。



そういえば、初めの頃は客室の掃除と力仕事ばかりしていたな。

しばらくすると、力があるのを見越して、酒樽など重い物を買うときに連れていかれるようになった。


ある時、普通の買い出しを頼まれる事があり――


俺が、他の人より圧倒的に安く仕入れが出来ることが判明。


これはひとえに、タニア姉によるスパルタな買い物依頼と、肉屋のダナンさんによる買い物講習のたまものである。



さて、俺は財布を持ち、「薔薇の香り亭」を出ると、商店街へと進んだ。


夜のお店はお酒がメインだから、そこまで食材は多くないが。

今日は酒樽もひとつ買う必要があるため、重量はなかなかだ。


ちなみに、この半年で俺の体の白い光の量は増えに増えた。

今では腕の光も、肉屋の娘のルカさんに勝てるくらいの量を扱えるようになった。




……俺、強いんじゃね?




これで剣でも覚えたら、魔物の相手だって出来るかもしれないな。


街中の狩人たちは光の多い人が多いけど、単純な量で言えば、既にほとんどの狩人を越えている。




昼過ぎの少し落ち着いた街を進む。

風が少し冷んやりしていて、夏の終わりを感じさせた。

羽織った上着をギュッと直す。


今日は忙しくて昼ご飯を食べる暇もなかったため、歩きながらパンをかじった。


しばらく歩き、商店街のそばの中央公園まで来た。


ん?


公園の噴水の池で、服を着たまま体を洗ってる子がいる……



……女の子?



年は俺と同じくらいだろうか。


貧民街の人はたまにここで体を洗ってるから(一応言っておくと、孤児は貧民じゃなくて平民)、この光景はさほど珍しいものではない。




俺の目を引いたのは、まず彼女の服装だ。

ボロボロだから一見すると分からないが、これは貴族が着る服だ。

彼女の肌も平民なんかよりよっぽど綺麗で、なんでこんな子がここで水浴びなんかしてるんだろう、と思った。



次に、彼女の体の白い光だ。

これが、今までにないパターン……というか、"俺に近い"状態だったのだ。


全身の光の量は普通だが、へその下あたり……白い光の"心臓"にあたる場所が、とても強い光を放っている。


俺も体を強化していない時は、白い光がへその下に集まっているんだけど、彼女は俺の数倍の光を持っていた。


……こんなんで、ちょっと天狗になっていたのだから、恥ずかしい。

もっと訓練しよう。



それはそうと、もしかしたら彼女は俺と同類なのかもしれない。

そう思うと我慢できず、俺は彼女に話しかけていた。



「何してるの?」


「っ!? ぁ……ごめんなさい」



彼女はビクッとして、恐る恐るといった様子で振り返った。

――けっこう可愛いな。


黒髪黒目で、顔立ちは前世で言うとハーフのような感じ。

表情は薄くて、クールな印象を受ける。

髪も綺麗だし――ボロボロの服と彼女はなんだかミスマッチだ。



ーーグゥゥゥ〜



音が聞こえた。

彼女を見ると、お腹を押さえて赤くなっている。


お腹が減ってるのか……?



「これ、食べかけで悪いんだけど……」


「えっ……い、いいの?」



彼女が噴水の池から出てくる。

俺がさっきまでかじっていたパンを手渡すと、濡れた手でそれを受け取った。

おずおずと口に運ぶ。



パンを一口かじる。

……夢中になって、パンを頬張った。



それはもう無心でパンを食べる彼女。

結局、あっという間に食べ切ってしまった。

よっぽどお腹が減ってたのかな。



ーーグゥゥゥ〜



あ……


今度は俺のお腹が鳴ってしまった。

少し照れながら彼女を見ると、少し慌てた様子。



「ごめん…… 全部食べちゃった」


「いいよ、きにしないで。 それより……」


彼女の体に気になるところがある。

うーん……


少し観察していると、彼女が少し震えはじめた。


「あの、ごめんなさい…… ここで水浴びしちゃ、ダメだった……?」


「あ、ごめんごめん、水浴びは全然いいんだけど――」



そう言いながら、彼女を見ている。


……うん。 やっぱり、腕の一部に光が集まっている……?


もしかして――



「ちょっとごめんね?」


「ぁ……」



俺は彼女の左腕の袖をまくった。


結果は予想通り。


光の集まっている箇所には大きな痣があり、他にも小さい切り傷が腕中についている。


怪我をした箇所に光が集まるのは、今までにもあったことだ。



女の子なのに、一生残ってしまいそうな傷さえ……


俺は自分の中に、沸々と怒りが沸いてくるのを感じていた。



「誰にやられたんだ?」


「……姉さんと、兄さん。 少しでも逆らうと、こうされる」



姉兄からのイジメか……。

胸糞悪くなる話だ。


こんなボロを着させられてるってことは、親も放置か。


こういうの、ホント腹立つんだよな。



「怪我の治療とお風呂もあるから、着いてきて」


「え?」



戸惑う彼女の手を掴み、半ば強引に歩き出す。

ローラさんなら分かってくれるだろう。



「ぁの……」


「ん?」


「な、名前……」



――あ、自己紹介してないや。



「俺はソラ……孤児だ。 君は?」


「わ、私は――レイア」



貴族だから、名字はあるのだろうが、無理に聞こうとは思わない。


彼女はまだ少し、震えている。



ーーくちゅんっ


あ、くしゃみ……?



「あ、ごめん。 濡れたままじゃ寒いよね」



俺は上着を脱ぎ、彼女にかける。


俺が彼女の手を握ると、彼女は両手でギュッと握り返してきた。


俺はそのまま、今来た道を逆行するように進んでいった。



※  ※  ※



「ソラちゃんがナンパしてきたぁぁぁぁぁ~!」



レイアの手を引いて「薔薇の香り亭」へ帰ると、それを見たローラさんが絶叫した。


なになに?

と、数人の従業員が集まってくる。


レイアはこの濃い集団――ガッシリした"女性"達――に怯え、俺の後ろで縮こまっている。



従業員の一人が前に出てきた。

カレンさんだ。


真面目な顔で口を開くとーー



「お泊まりですか? 休憩ですか?」


「違います! ……その、ちょっとお風呂を貸してほしくて――」


「「「キャぁ~~ん!!!!!」」」



野太い奇声が上がる。


勘弁してくれ……。



そんなやり取りをしていると――


――ローラさんが、俺の後ろに隠れるレイアをチラッと見た。

何かに気付いたように、こちらに近づいてくる。



優しくレイアの頭をなで、袖を巻くって左腕を見る。

ローラさんの突然の行動に、レイアは驚いていた。


そして、そのまま袖を戻すと――


――レイアを抱き締めた。



「ぁの……服が汚れちゃいます……」


「服ってのは汚すためにあるのよ? 洗濯すればいいんだから、気にしないの」



ローラさんは再度、ポンポンとレイアの頭を撫でる。



「……サリーはお湯の準備。 終わったら傷薬を持ってきておいて。 カレンはソラちゃんの買い物を引き継いで頂戴。 ソラちゃんは一緒に来て」



……テキパキと指示を出すローラさん。

良かった、レイアをここに連れてきて。



ローラさんは、俺たちを風呂つきの客室(宿泊料が一番高い部屋)へと連れてきた。

既にお湯の準備が出来ていたので、ローラさんがレイアをお風呂に入れる。


俺はまだ5歳とはいえ男なので、残念ながら部屋の外で待機だと言われた。


ローラさんはいいの? という質問を飲み込み(まだ命は惜しい)、待っていると、従業員のサリーさんが入ってきた。



「傷薬持ってきたわよん」


「……ありがとうございます」


「なんか思い出すわ〜、昔のこと」


「昔?」



遠い目をしたサリーさんと話をする。

サリーさんも昔、ボロボロになっていたところをローラさんに救われたらしいのだ。



「自分が普通の人とは違うって、自覚はあるもの。 親にどんな事をされても、周りにどんな事を言われてもね…… 自分が"こう"だからいけないんだ、全て自分のせいなんだって思っていたの」


サリーさんは静かに語る。

俺はその顔を見る事ができない。


「ローラに会って、初めて思えたの。 あぁ、私が悪い訳じゃないんだ。 私は私のままでいいんだって」



サリーさんは俺の頭を撫でる。

顔を見返すと、いつものように笑っていた。



「ま、ソラちゃんはあの子が気になるみたいだから〜ん? 優しくしてあげればコロっと落ちるわよぉ〜」


「ちょ、そんなんじゃーー」


「優しくしてあげてね?」


「……はい」



サリーさんは俺の頭をポンッと軽く叩くと、仕事の続きがあるからと部屋を出て行った。


今、お風呂の中ではどんな話をしているのだろうか。



……少しお腹が減ったな。

俺はミルクをポットであたため、パンを籠に入れて持ってきた。


あくまで自分が腹減ったからだぞ?



しばらくして、レイアとローラさんが風呂場から出てきた。



「ソラちゃんお待たせ〜! お風呂上がったわよん」


あたしキレイになっちゃった〜、というローラさんをスルーし、レイアの腕に傷薬をつけていく。


服はローラさんのなのでブカブカだ。


傷の治療を終えると、俺は温めたミルクを三つのカップに注ぐ。

フワッと湯気が出ている。



「あっら〜、気がきくじゃな〜い」


「自分がお腹減っただけですよ」


「そういうことにしといてアゲル☆」



三人でカップを持ち、ゆっくりミルクを飲む。


……ふぅ。

体が温まるな。



ポロ……



レイアの目から、涙が零れた。

そのまま、ポロポロと声を出さずに涙を流す。



レイアが落ち着くまで、何も話さず、三人で無言でミルクを飲んだ。





……しばらくして、落ち着いたレイアと一緒にパンを頬張りながら話をした。



「なんで、助けてくれたの?」



レイアが俺に尋ねる。



「なんでだろうな」



話しかけたキッカケは、白い光の件だったけど。

傷を見たらなんか、治療しなきゃって思って……

その理由は、あらためて聞かれても分からん。



「ソラちゃんはレイアちゃんに一目惚れしたのよね〜」


「ちょ、ローラさん!」


「レイアちゃんもソラちゃんが好きになっちゃったのでしょ?」


「えっ、そのそれはーー」


「あぁぁ、若いっていいわ〜!」



ひとり暴走するローラさん。

言いたい。

「クネクネするな!」って言いたい……!


俺が腕をプルプルさせているとーー



「ククク……クスクス……」



我慢するような笑い声が聞こえてきた。


パッとレイアを見ると……



あ、笑ってる。



俺の視線に気付くと、ハッとして無表情に戻った。


なにこれ、メッチャ可愛いんだけど。




「あっら〜? ソラちゃん、これは本格的に惚れちゃったかしら」


クネクネ……


「あぁぁもう! クネクネするな!!!」


「クスクスクス……」



ホントもう、ここに雇ってもらって良かったよ。

まったく。



……それから。



「薔薇の香り亭」に新しい常連客兼アイドルが増えた。


年は俺のひとつ下、4歳。

名前はレイア•ミルフォート。


たまに見せる笑顔が素敵な、小さなお客様だ。

というわけで、ヒロインのレイアちゃん登場回でした。


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