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異界のソラ  作者: ミケイト
第2章 王立学院
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第08話 狂気の女

さて、核心に迫る今回。


楽しんでいただけると幸いです^^

本当に俺は魔人なのだろうか……


俺の頭の中を、グルグルといろいろな意見が浮かんでは消える。


確かに、能力だけ見るならば……



無詠唱で魔術を使う。

身体能力も人より強い。



だが、俺は精霊に――ネスカに危害を加えるような存在か?


……そもそも、俺の力は後から訓練して手に入れたものじゃないか。




「魔人としての記憶はないのね?」


「……ありませんよ。 というか、俺の力は後天的に手に入れたものですから……魔人とかいうモノではないと思います」



ウリー先生は何かを考えた後、ゆっくりと口を開く。



「10年前……魔具国が王国の手に落ちた時、当時、封印を守っていた一族が皆殺しにされて"禁断の魔具"は行方不明になったわ……"凍結術式"が解けて成長が始まっていたとしたら、今ごろ魔人は10歳になっているわね」



10歳。


……ちょうど俺の年齢だ。



「封印は徐々に解けていくわ。 恐らく4~6年くらいで、1つ大きな封印が解ける……心当たりはない?」



前世の記憶を取り戻したのは、5歳になる少し前。

それを境に俺の人生は大きく変わった。



「10年前後で封印は完全に解けるわ……ソラくんはまだみたいだけど」




こう聞いていると、まるで本当に俺が魔人であるような気分になってくるが……。




「私はあなたの味方……あなたは始祖の息子、魔具国の正式な後継者よ。 さぁ、一緒にこの腐った王国から魔具国を取り戻しましょう!!!」




俺が魔人なのかどうか。

正直実感はないが、完全には否定しきれないかもしれない。


でも――




「確かにこの国は腐ってますね。 貴族なんて嫌なやつばっかりだ……」



「そうでしょう? 学院で嫌というほど見ているものね、腐ったまま育ってきた子どもたちを……」




本当に、この国には腐った貴族がたくさんいる。

レイアの親を始め、救いようのない奴らが山のように。




「一体何をする気なんですか?」



「この国をひっくり返すのよ……うふふ。 王族や貴族が悔しがる姿、あなたも見たいでしょう?」



「まぁ、興味はありますね……でもそれってすごく難しい事じゃないですか? 具体的に――」



「協力する気のない子には教えられないわね」




やっぱりダメだよな。

このノリで聞き出せないかと思ったんだけど。




「うふふ……あはははははははははははははははははははははははは――」




ウリー先生は笑っていた。

目に憎悪を浮かべながら……




……狂ってる。




「例え俺が魔人だったとしても……俺があんたに協力することはない。 絶対に、だ」




俺はウリー先生に背を向け、祭壇の間の出口に向かう。




「ソラくん……あなたが覚醒するのを楽しみにしているわ」




ウリー先生の言葉を聞きながら、俺は遺跡を後にしたのだった。





※  ※  ※





遺跡から帰り、学院に着くとすぐに俺は学院長室の扉を叩いた。

ウリー先生についての情報を提供するためだ。


少なくとも、俺が話をできそうな人の中で、一番対処できそうな人が彼女なのだ。


さっきの狂った様子……ウリー先生が何かをするのは、そう遠い先の話じゃないハズだ。



「ソラ・クロウリーです。 学院長にお話が……」


「さっさと入りな。 適当に座れ」



ソファに座ると精霊のオッサンと目が合う。

なんだか、この前よりさらに……



「太りました?」



オッサンは後頭部をポリポリかき、照れくさそうにしていた。

いや、褒めてはいない……


しばらくすると、学院長が俺の目の前に座る。




「あんたんとこの精霊は?」



「今はヘンティさんを探しています……行方がわからないので」



「……そうかい。 それで、話ってのは? あんたの秘密を白状する気にでもなったかい?」



「話は2つあります。 1つはウリー先生の企みについて。 もう1つは俺の正体について」



「ほう、まさか自分からそれを明かしてくれるとはねぇ……」




ウリー先生の企みは、国をひっくり返すような何か。

きっと俺だけじゃどうにもできない……誰かの協力を借りないと。



俺は学院長に1から説明しはじめる。


ウリー先生が魔具国の出身であること。

魔具国に絡む怪しい動き。


先ほど、この国をひっくり返すと言っていたこと。

憎悪のこもった高笑い。




「あたしも予測はしていたし、いくつか情報も掴んでいたんだよ。 手元で泳がせるために、ウリーを教師として採用したんだが……今聞いた様子だと、すぐにでも何か始めそうだね」



「俺もそう思います。 俺に明かしたということは、もうバレてもいい段階まで来ているということ。 おそらく――」



「あたしの見立てでは、遅くとも数日以内。 早ければ今夜にでも、奴らは動くだろうねぇ……別の線からも、そんな情報を得ているんだ」




なにか良くないことが起こりそうだ。

時間の猶予はあまりない。


俺と学院長の間の空気が張りつめる。




「大事な人がいるなら、戸締まりに気を付けるよう言っておきな」



「……何が起こるか、知っているんですか?」



「いや、確度の低い最悪の予想さ……念のためだよ。 それで、もう1つの話ってのを聞かせてもらおうじゃないか」




学院長は先を促す。

精霊のオッサンも、真剣な目をして俺を見つめた。




「あんたの正体についてだったね。 てっきりウリーの手の者だと思っていたんだが、その様子だと違うようだねぇ」



「いえ……違うとも言い切れないんです」



「……どういう事だい?」




俺は喉をゴクリと鳴らし、手の汗を拭う。

この可能性について、この人には伝えておかなければ。




「俺は、始祖の魔具師ヤナギの書いた文字を"全て"読むことができます。 詳細は今は割愛しますが……遺跡の記述を見ると、彼女が作ってしまった禁断の魔具である"魔人"が俺自身である可能性が出てきました」



「"禁断の魔具"……魔具と人の融合なんて、眉唾モノだと思ってたよ。 あたしの所に正確に伝わっているのは、それが"精霊を滅ぼす"ということだけさ……エルフとしちゃ、黙っていられないからねぇ」




やはり、この人は精霊を守るために。

だとしたら、俺のお願いも聞いてくれるだろう。




「ひとつお願いがあります」



「……できることなら、聞きたくないねぇ」



「あなたにしか頼めません」



「……」



「もし俺が完全に覚醒して、自分をなくしてしまっていたら。 そして、精霊に危害を加えるような存在になっていたら、俺を――」



「分かったから、ガキがそれ以上くだらない事を口にするんじゃない。 言われなくてもそれがあたしの役目さ。 心配しなくても……他のやつらには背負わせないよ」




たぶん、他に俺をなんとか(・・・・)できるのは……ローラさんかレイアかミリアか。

でも、みんなにはそんなの頼めない。




「……あんたの封印を解いたのは、やはりヘンティかい?」



「いえ、ヘンティさんは全くの無関係です」



「ふぅん……あいつは"魔人"の件には関与していない、とでも?」



「その通りです」




なんだか、学院長は納得していないようだが……


俺の能力にヘンティさんが関わっていないことは、俺自身が知っている。

そんなにヘンティさんって怪しいかな……




「じゃあ1つ聞くけど、ヘンティ・クロウリーはなぜあんたのいるガラントの街へ行ったんだい?」



「え……それは……」




たまたま、就職先がそこだった?

いや……でも。


ヘンティさんはあの街に親戚もいないし、友達もいないはずだ。




「働かなくても生きていけるほどの資産を持ち、学院生時代は王都に住んでいた……大好きな魔具の研究なんて王都にいればいくらでもできたあの男が。 わざわざあの街のしがない魔具店で働こうとしたのは、なんでだと思う?」




そんなの……考えたこともなかった。




「感情を挟むな。 事実だけを並べな……あの男の出身はどこだい? このタイミングで、あの男はどこに消えた? あの男は何を研究していた?」



「……分かりません。 でも、俺はヘンティさんを信じています」



「……ふん、そうかい。 ま、疑うのもあたしの役目さね……」




俺は学院長に頭を下げると、みんなが待つ教室に戻っていった。





※  ※  ※





学院からの帰り道。

俺はみんなにウリー先生の件だけを話し、魔人の件はふせていた。

ひとまず、薔薇の香り亭と孤児院、それからリーゼとビノはしばらくクロウリー家にいることにしたのだ。



ミリアは心配そうに俺を見ている。




「ソラ、やっぱり……他にも何かあったんじゃないの?」


「いや、本当に何でもないんだ……」



少し、確認したいことがある。

それが済むまでは、魔人の件はまだ話さないでおこうと思う。


……しばらく歩いていると、ヘンティさんを探しに行っていたネスカとシルフィが帰ってきた。


リーゼの耳元でシルフィが何か話している。



「シルフィ、どうしたんで――え? 本当ですか!?」



リーゼがこちらを向いた。

どうしたんだろう。



「ヘンティさんが帰ってきたみたいです。 もうすぐ馬車がクロウリー家に着くみたいですよ」



よかった、無事だったんだ……


ひとまずホッと胸を撫で下ろす。

急いでヘンティさんに会いたいところだが……その前に、俺はどうしても確認しておきたいことがあるんだ。



「ミリア、さっきも言った通り、薔薇の香り亭のみんなを連れてクロウリー家に行くんだ……俺は孤児院に行く」


「……ソラ?」



ごめん……全部分かったら、ちゃんと言うから。



俺はみんなと別れ、1人歩いていく。

いや、1人じゃないな――ネスカが、俺の肩に座っていた。


俺は指を一本立て、マナを集中させる。

ネスカはパタパタと飛んでその指にしがみついた。


ネスカにマナをあげるのも、もう何度目になるだろう……



「ネスカと会って、もうすぐ5年くらいになるんだな」



ネスカはこちらを見て、首をかしげる。



「ネスカ……俺はもしかすると"魔人"とかいう危ない存在かもしれないんだ。 もし俺が突然豹変して、ネスカに危害を加えるようなことが起きそうだったら、迷わず逃げてくれ」



ネスカは俺の顔をじっと見る。


そして――



首を横に振った。




「逃げないのか?」



うんうんと、首を縦に振る。



「俺がどんなに頼んでも?」



ネスカはパタパタと飛ぶと、俺の肩に座った。

……そこが自分の定位置だと言いたげだ。



――絶対に、ネスカだけは守ろう。



俺はネスカの頭をひと撫ですると、平民街へ続く道を進んで行った。





※  ※  ※





段々と空がオレンジ色に染まり始め、子どもたちもみんな家の中に入っているようだ。


俺は孤児院の扉をノックする。




――コンコン




ガチャっと扉が開くと、中年のおばさんが出てきた。



「院長にお話があるんですが、取り次いでいただけますか?」


「あなたは……?」


「ソラ・クロウリーといいます。 この孤児院の――」


「あら、あなたが噂のソラくんね! 上がってちょうだ~い!」



おばさんは俺を孤児院に招き入れると、院長の部屋まで案内してくれた。



「私は最近入ったんだけどね。 レイアちゃんはよく勉強を教えに来てくれるから、よく話を聞くわよ」


「レイアはどんな話を……?」


「そうねぇ、"未来の旦那様"とのノロケ話が中心かしら……ソラくん、レイアちゃんを泣かせるようなことしたら、おばさん許さないからね?」


「は、はい……」



レイア……俺の知らないところで、しっかり周りを固めてやがるな……くっ……




院長の部屋の前まで来ると、おばさんは俺に手を振って立ち去って行った。


俺は部屋の扉をノックせずに(・・・・・・)開ける。




――ガチャ



「な、なんじゃノックして――ってソラか、久しぶりじゃのう」


「……院長、エイラスさんから"甘いものは控えるように"って言われてるでしょう?」


「わ、わし饅頭なんて食っとらんよ」


「誰が"饅頭"だなんて言いました?」


「はっ!?」



数年前から糖尿の気がある院長は、エイラスさんから甘いものを禁じられていた。


が、たまに抜き打ちで部屋をチェックすると、お菓子の残骸が発掘される。

今も何かを隠す仕草をしていたので、鎌を掛けてみたのだ。



「本当、体に良くないですよ……まぁそれは置いといて、1つ聞きたいことがあるんです」


「ん? なんじゃ?」


「……俺が孤児院に引き取られた時の話を聞かせて下さい」



俺の言葉に、院長は少し驚いたような顔をした。


なにかあったのかな……。


ふむ、と息をひとつ吐き、院長は話し始めた。



「もう10歳なら……頃合いかの。 ソラは、ある1人の女性の手によって孤児院に連れてこられたのじゃ……」


「女性?」


「うむ、それが母親だったのかは定かではないがの」


「……どんな女性ですか?」


「服装から察するに、魔具国の貴族だったのじゃろう。 彼女が来る少し前に、魔具国の併合があったのじゃよ。 表向きは平和にな……おそらく、彼女は王国から追われる身じゃった」


「今、その方は?」


「……死んだよ。 ソラくんを預けた後、さらに西の街で殺されているのが発見された」



……そうか。


ここでまた魔具国……




「そうそう、ソラくんを預けるときに、女性は"もう1人"別の子どもを抱えていたんじゃ」


「もう1人……ですか」


「珍しい"白髪赤目"の赤ん坊での。 女性の遺体が発見された現場にはいなかったから……別の孤児院に預けられたか、連れ去られたか」



白髪赤目……か。


引き取られた時の事を聞けば、俺が魔人かどうかの予想がある程度できるかと思っていたのだが……


さらに分からなくなったな。



「ありがとうございます。 あと、実はこれから孤児院のみんなを――」



俺は孤児院のみんなを連れ、クロウリー家に急いだのだった。





※  ※  ※





屋敷に着くと、出迎えてくれたのは……久々に会ったヘンティさんだった。



「無事でよかったです……ヘンティさん」


「お帰りなさいでござる。 拙者がいない間に、何やら事態は複雑化しているようでござるな」


「そうですね……他のみんなは?」


「さっきここに到着したでござるよ。 ソラくんが帰ってきたら、拙者の知っていることをみんなに話そうと思っていたのでござる」



なるほど、俺待ちだったってことか。

説明を聞くメンバーはみんな応接室にいるらしい……


俺はヘンティさんと一緒に、みんなの元へと向かう。



「心配しましたよ……何をしてたんですか」


「この後、それも話すのでござる」



応接室に入ると、たくさんの目が俺を見つめた。


すっかりヘンティさんの秘書になった、タニア姉。

クロウリー家付きの薬術師、虫人のエイラスさん家族。

最近王都でもたくさんの常連が出来た"薔薇の香り亭"の店主、ローラさん。

麦わら帽子のよく似合う、真面目だけど少し怖いエルフの少女、リーゼ。

リーゼの頭の上に座る、精霊のシルフィ。

優しい、癒し系でのんびりしたホビットの少年、ビノ。

子供の頃から一緒にいる、元気な猫人の少女、ミリア。



「ソラ……おかえり」



俺の上着の端をきゅっと掴んで離さない、最近料理の腕を上げた黒髪の少女、レイア。


……あと、俺の目の前で「私を忘れるな」と飛ぶ、精霊のネスカ。




「それじゃあ、説明を始めるのでござる」



みんなの目が、ヘンティさんに集まった。



「そうでござるなぁ……時間を追って説明するのでござる。 まず、14年ほど前――拙者が6歳の頃でござるが、当時ヤナギ魔具国の貴族であった拙者は、追手から逃れるために貴族魔具師から平民魔具師に身を落としたのでござる」



「ヘンティさん、貴族だったんですか? それに追手って――」



「追手の正体は、当時は分からなかったのでござる。 それから3年……年の離れた姉さんとその婚約者と3人で、細々と魔具を作って暮らしていたのでござるよ。 ……ちなみに、生活が厳しくて、魔具を作るのにも小さい集魔石と少量のミスリル銀しか買えないような時に3人で頭を悩ませて作ったのが"火種の魔具"でござる」



「じゃああの魔具開発証明書は……」



「拙者だけで考えたものではないのでござるが、初めて作った魔具ということで拙者の名前で登録したのでござるよ……苦しいときもあったでござるが、優しい姉さんと義兄さんと一緒に暮らしていたあの頃は、すごく楽しかったでござる」



俺たちは黙ってヘンティさんの話に耳を傾けていた。



「そんな生活に終わりが来たのは、拙者が9歳の頃でござった。 突然現れた追手によって、姉さんと義兄さんが殺され――拙者は命からがら国境を越えてこの王都にたどり着いたのでござるよ」



……ヘンティさんの目を、表情を、まっすぐ見ていられない。


ヘンティさんが初めて見せる、悲しい悲しい顔だ。



「王都についた拙者は自分の身を守るため、生活のため……何より姉さんと同じ学院に通ってみたくて、学院生になったのでござる。 そして、学院に入学した春……」



ヘンティさんが10歳になる年の春……今から10年前、か。



「魔具国は、王国に併合されたのでござる……追手の正体が王国のものだと気づいたのは、その時でござるよ」



みんながハッとした顔をする。


弱体化した国を併合?

とんでもない。


裏では着々と"侵略"を進め、弱体化させた上で表向きは平和に国を乗っ取る。


分かってはいたが、この国はろくなもんじゃないな。



「正直、復讐を考えた時期もあったのでござる……でも、王都に住んでいて思ったのでござるよ。 ここには拙者と同じく一生懸命生きている人たちがいて……王国に復讐してもこの人たちは幸せになるのか。 逆に拙者と同じように、大切なものを奪ってしまうのではないか、と」



ヘンティさんは昔を思い出すような、遠い目をしている。



「姉さんが昔――"魔具が戦争の道具じゃなくて、何気ない日常の中に普通に存在するものだったらいいのにね"――と言っていたのを、ふと思い出したのでござる。 拙者はその意思を継いで、みんなを幸せにする魔具を作ろうと決心したのでござるよ」



ヘンティさん……。


そんな過去があったなんて、今まで知りもしなかった。



寂しそうな目で静かに笑うヘンティさんに、かける言葉が見つからない。



ヘンティさんはふぅと息を吐くと、俺たちを見回した。



「さて……みんなに聞いてほしいのは、ここからでござる」



ここまでは前段。

ここからがメインの話になるらしい。



「ソラくんが学院に入学してすぐ、死んだはずの姉さんの名前を語るものから手紙を受け取ったのでござる。 はじめはニセモノかと思ったのでござるが、姉さんしか知らないはずの情報を持っていて……」


「それって……」


「ソラくんの担任でござるよ」



ウリー先生が……?




――コンコン




扉がノックされた。


入ってきたのは、警備をしている傭兵の1人だ。



「ウリーという女性が、ヘンティ様にお会いしたいと。 ここに通しますか?」


「いや、拙者が外に行くでござる」



ヘンティさんは小さい箱を手に取ると、部屋の外に歩き出そうとする。



「俺も行きますよ」



俺が立ち上がると、レイア、ミリア、ローラさんも同時に立ち上がった。


他の人も動き出そうとするが……



「この4人だけでござるよ。 タニア殿、他のみんなをよろしく頼むでござる」


「わかりました……」



ウリー先生が何を企んでいるのか分からない。

何があってもある程度対応できる俺たちの他は、待っていてもらうという判断だろう。


俺たちは部屋を出て外に歩き出した。



ヘンティさんの話は途中だったが、今までの情報から整理すると……


学院にいる頃に、何らかの偶然からか、ガラントの街で有名になった天才少年の噂を耳にしてあの街に来たのだろう。

魔人かどうか、疑っていたのかもしれない。


そして、俺と友達になり、養父になった。

話の経緯から、俺を戦争利用しようなどという魂胆は、まるっきりないのだろうと思う。




前庭まで歩いていくと、その場にウリー先生が立っていた。


ヘンティさんは躊躇なくウリー先生に近寄っていく……。




「デュフフ、本当に生きていたのでござる……」



「その笑い方……昔のままね」




やはり、間違いないのか……


ウリー先生は、ヘンティさんの姉。




「義兄さんは……クロは生きているのでござるか!?」


「……いいえ、あの時に彼は死んだわ。 私が助かったのは、少しの幸運――いえ、不運かしらね」




そう言うと、ウリー先生は突然服を脱ぎ始めた。



大きな胸がブルンと揺れる。



……レイア、俺をつねるのをやめろ。


ミリア、お前の足踏みはシャレにならん。



ウリー先生が上半身を露にする。

俺たちはそれを見て唖然とした。


ウリー先生の左胸は抉り取られていて……そこには、右胸と同じサイズの大きな集魔石が取り付けられていた。


服に仕掛けがあるのだろう。

それまでは普通だったマナの流れが服を脱いだ瞬間から変わり、胸の集魔石に周囲からマナが集まってくる。


それに合わせて、ウリー先生は苦しそうに顔を歪めていた。




「まさか……擬似魔人具でござるか……?」




なんだ、それは……


擬似魔人具。


魔人に似せたものを生み出す魔具……?




「早くちょうだい……あなたの研究の内容か、ソラくんを……もう、拒絶反応が抑えられなくなってきてるの……」



「何度も言う通り! 拙者は魔人の研究もしていないし、ソラくんも魔人ではござらぬ!!!」



「……ウソよ」



「人に戻る方法ならこれから一緒に探すのでござる……復讐なんてやめて、あの頃みたいに一緒に――」




「クロの口調でそんな事を言うなっ!!! お前だって引きずってるんだろう、ヘンティ・クロウリー(・・・・・)……ねぇ、あいつらが憎くないの……?」




ヘンティさんは、持っていた小箱をウリー先生に差し出した。

受け取ったウリー先生は、その箱を開ける。



「指輪……?」


「近頃不在にしていたのは、これを探しに行っていたのでござる。 クロに頼まれて、拙者が作ったものでござるよ。 ……小さい方の指輪の内側を見るのでござる」




ウリー先生は箱の中に二つ入っている指輪の片方を手に取ると、その内側を見た。


そしてそれを、手の中に大事に握りしめる。



「その言葉は、不器用なクロが一生懸命自分で掘ったものでござる……もう復讐なんてやめて――」



「待っててねクロ、復讐が終わったら、すぐそっちに行くから……あはは……あはははははははははははははははははは――」




……ヘンティさん。


この人はもう……。




「うふふ、バイバ~イ、弱虫ヘンリー(・・・・)



「待って! ウティ(・・・)姉さんっ!!!」




――カーン カーン カーン




「魔物警報!?」


「うふふ……」




ウリー先生の胸の集魔石が光る。


集まったマナが、彼女の両足を強化した。




「ソラくん……私はまだ、あなたが魔人だと信じてるわよ……。 早く覚醒してね♪」


「待てっ!!!」




ウリー先生は、そのまま素早く立ち去った。




ミリアが口を開く。



「私が追う!?」


「いやいい。 みんなの安全確保が先だ。 念のため、解呪丸を用意しておいてくれ」


「ソラ……本気出すの?」


「嫌な予感がするんだ。 一応準備だけはしておこう」




――カーン カーン カーン




魔物警報が鳴り響くなか、俺は膝を落としてうなだれているヘンティさんにそっと駆け寄った。




物語が大きく進みました。


さてさて、どうなることやら。


どうぞ、このあとも楽しみにしていて下さい^^

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