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異界のソラ  作者: ミケイト
第2章 王立学院
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第06話 旧友

さてさて今回は、しばらく見ていなかった"彼"が登場します。


春も中旬になったある朝。


バタバタという足音とともに、誰かが部屋に飛び込んできた。


またミリアかな、と思っていると……



「ソラ! 起きてっ!!!」


「――タニア姉っ!?」



部屋に入ってきたのはタニア姉だった。


タニア姉がこんなに騒がしく登場するなんて珍しい。

一瞬、何か緊急事態かと思ったのだが――タニア姉は満面の笑みだ。


俺はぐっと背伸びをして起き上がった。



「ん~……おはよう、どうしたの?」


「ふふっ、早く着替えて降りてきなさい。 ランドが来たわ!」


「――っ!? わかった、すぐ行く!!!」



1つ年下の()孤児、ランドに会うのは、だいたい1年ぶりくらいだろうか。



2年ほど前、孤児院にひとりの商人が来た。

各地を旅しながら商売をして回っている、いわゆる行商人って奴だな。


王都に新設された孤児院があると聞いて、寄付をしに来たようだ。

なんでもその人も孤児出身なのだとか。



その時に、算術を勉強中だったランドを見かけたのだが……

「どれ、少し教えてやろうか」と勉強内容を見て唖然。


「君、学院にでも入るつもりか?」

「え? 全然……」

「そうか……ところで、商売に興味はないかい?」


彼は当時7歳になったばかりのランドをスカウトした。

ランドもまんざらでもなかったようで、喜んで彼の弟子になったのだった。




久しぶりにランドに会える――




俺はすぐに着替えをして顔を洗うと、バタバタと階段を降りて行った。




……ふぅ、と息を吐き、応接室の扉を開ける。



「……ランド?」



俺の声に振り返った顔は、確かにランドだ。


この1年で、すごく身長が高くなってる……

まだ9歳だが、その辺の大人よりも大きいかもしれない。

成長期ってすごいな。


ずいぶん早い声変わりなのか、少し掠れて低くなった声でランドが話しかけてきた。



「ソラ、久しぶり!」


「久しぶりだなランド、元気にしてたか?」


「うん、すごく! 今回もいろんな場所に行ってきたし、毎日楽しかったよ……少しずつ商売も覚えてきたしね」



ランドは本当に楽しそうな様子で生き生きと話す。

しばらく連絡がなかったけど、この様子なら本当に元気にしてたみたいだな。



「ミリアとレイアは?」


「たぶん、レイアがミリアの布団を剥がしにかかってる頃だと思う」


「ふふ……変わらないなぁ」



ランドは懐かしそうな目をしている。


まだガラントの街の孤児院にいた頃は、ミリアを起こすのはランドの役目だったもんな。



「そうそう……」



ランドは声を小さくして俺の方に顔を寄せる。



「僕、彼女ができたんだ……」


「はぁっ!?」


「師匠の娘さん……4つ年上なんだけど」


「……師匠はそのことを?」


「言ったら殺されちゃうよ……奥さんにはすぐバレたけど」



昔はミリアのことが好きだったみたいだけどなぁ。

成長するにつれて、気持ちもいろいろ変わっていくのだろう。


レイアやミリアが俺に寄せている好意も、いつまで続くことか……



「ソラ、知ってる? 女の子の体って――」


「ちょっと待て……お前まさか……」


「お? その様子だとソラは"まだ"みたいだね。 ふふふ、やっと1つ勝てた気がする」



くっ……いろいろ大人になりやがって……

成長早すぎるだろ……



少しだけ女子禁制の話に花を咲かせていると、ドタドタした足音とともに慌ただしくドアが開いた。



「ランドっ! 久しぶりっ!!!」


「久しぶりランド……1年くらい?」


「ミリア! レイア! 二人とも去年より背伸びたんじゃないか?」


「それはランドでしょ!? でっかくなっちゃって――」



ミリアの猫耳がピョコピョコ跳ねた。

レイアも嬉しそうだ。



「今回はどんなとこ回ってきたの!?」


「南の穀倉地帯から東を通って、北の方まで足をのばしたよ」


「ふーん、北は初めてじゃない!?」


「うん、10年くらい前まで"ヤナギ魔具国"って国だった場所なんだけど……」



それって……授業でやった魔具師の国だよな。



「どんな場所だったんだ?」


「うーん、今はまだ商売的には旨みが少ない土地だったな……国があった頃も、魔具師以外の平民は貧しい生活をしてたみたいだしね」


「そうなんだ……」



どの国も、貴族が贅沢をして平民が苦労する構造は変わらないらしいな。



「でも、商売関係なしに面白いこともあったよ」


「面白いこと?」


「うん、魔具に関するいろんな伝承や昔話……古い魔具の資料館とかね。 歴史が好きな人にはたまらない場所だと思う」


「へー、それは一度行ってみたいな」


「あ、ソラは魔具科に入ったんだよね? さっきヘンティさんから聞いたよ」



他にも、ランドは旅先で会った人や食べたモノ、事件だったり、損した話も得した話も含めて楽しく話してくれる。



「あとそうだ、1つ噂を耳にしたよ」


「噂?」


「"禁断の魔具"とまで呼ばれた強力な魔具が、10年前の魔具国崩壊のタイミングで失われた――という噂なんだ」



"禁断の魔具"……。


そんなの初めて聞いたけど……?



「魔具国建国の時に存在してたって伝承はあるらしいよ……信じてる人は信じてるみたいなんだ」


「へぇ……また突拍子もない話だな」


「うん。 でも、一攫千金を夢見て魔具国の資料館に来てる人や、"始祖の魔具師ヤナギの残した暗号"を解読しようとしてる研究者がたくさんいて――その人たちをターゲットに、街の商売が少しずつ立ち直り始めてる側面もあるみたい。 師匠も今後の商売の可能性として、少し様子を見てみようって北に行ったんだ」



……なるほどな。

「失われた禁断の魔具」をネタに、ある意味で観光産業のようなものが成り立ってるってことか。



「意外とソラならあっさり見つけちゃったりしてね」


「……俺はただの一般人だ」


「"クロウリー家の天才"の噂、王都に戻ってからよく聞くけど?」


「げっ……」


「昔からだけど……もっと自覚した方がいいよ」



ミリアもレイアもうんうんと頷いてる。

やっぱり……かなり目立ってるかな、俺。



「さて、僕はこの後は孤児院にも顔を出すよ。 最近の孤児院はどう?」



ランドの問いに、レイアが答える。



「ソラとミリアは学校だから、私が勉強を教えてる……みんな元気」


「うん、レイアが言うなら安心だ」



ランドが腰を上げたので、俺たちは玄関まで見送りに行った。



「次に来れるのは、また来年の今頃になると思う。 元気でね!」



俺たちはランドに手を振ると、その大きくなった背中が見えなくなるまで見つめていた。




「ほら、学院遅れちゃうわよ」




タニア姉に急かされ、俺とミリアは準備を始めようと動き出す。



「そういえばヘンティさんは?」


「なんだか、寝ないで朝まで魔具の研究をしてて……早朝にランドに会った後、寝ちゃったみたい」


「大丈夫かな……?」


「最近かなり根を詰めてやってるみたいだし、何かのギルド職員みたいな人とも熱心に議論してて……体調、崩さないといいけど」



タニア姉は心配そうな表情だ。


とにかく、ヘンティさんの事はタニア姉に任せよう。


俺は学院に向かう準備を始めた。





※  ※  ※





ローラさんと話し合い、ヘンティさんの周りの状況を整理してみた。


事実として出てきた事は……


・ヘンティさんは何かの疑いをかけられていて、周りを探るいくつかの動きがある

・ヘンティさんのことを憎む人たちがいる(リーゼ含む)

・ヘンティさんは何かの研究をしている

・ヘンティさんはウリー先生と何かの連絡を取っている



事実を並べると、ざっくりとそんなところだ。

予測はいくつか立ててみたものの、まだ情報が足りない。


ひとまずは情報収集に徹することにした。



「それじゃあ、ローラさんはヘンティさんの周りの動きを調べてみて下さい。 俺たちは――」


「"ウリー"とかいう教師の周りを探るのね。 頼んだわよ☆」



そんなやり取りがあって、俺たちはウリー先生を監視する事になったのだ。



さて、俺とミリア、リーゼとビノは学院の教室にいた。

まだ生徒達はまばらだが、リーゼは声を潜めて俺たちに話しかける。



「昨日、シルフィが何か情報を掴んだみたいなんです。 詳しくは今日のお昼にお話しますね」



しばらく雑談をしていると、生徒が集まった頃にウリー先生が教室に入ってきた。

俺たちは話を中断して席に座る。



「はい、みんなおはよう!」



ウリー先生の様子を観察した。


……なんとなく、先生の目に元気がない気がするが……気のせいか?



「あと10日で遺跡見学の日ね。 魔術科と魔具科の生徒は学院の外に行くから、そのつもりで。 それじゃあ、今日も頑張りましょう」



ひとまずは、昼の報告を待つか。


俺はネスカにウリー先生の監視を頼み、授業の準備を始めた。





※  ※  ※





今日の二時限目は基礎体術だ。


専門的なものや武器を使った訓練は武術科でやるのだが、基礎的な内容は共通科目になっているのだ。



俺たちは運動用の柔道着のような服装に着替えて外に集まっている。


今までは基礎的な型などを中心に流していたが、今日からはグループワークが始まるらしい。



「じゃあお前ら、8人グループを作れー! あと、グループ内に少なくとも1人は武術科を入れること」



難しいな……


魔具科、薬術科、獣師科は合わせてちょうど8人だ。

体術科を1人含めるとなると……この3科だけで固まることはできない。



とりあえず俺とミリア。


麦わら帽子を被ったエルフのリーゼと、癒し系ホビットのビノも、いつものように付いてくる。


これで4人だ。



「僕たちは一緒でいいでしょ?」


「もちろんっ!!!」


「早く残りを探さないと、バラバラにされてしまうかもしれませんよ」



あとは――

キョロキョロしていると、1つの人影がミリアに突進してきた。


褐色の肌の女の子……?



「ミリアちゃーん!!」


「ちょ、どこ触って――」



薬術科のシャロというボーイッシュな子だ。

これで5人か。


そろそろ体術科の生徒も入れないとな……と、思っていると。




「やあ、僕たちも入れてくれませんか」



3人の生徒が現れた。

魔術科が2人に、武術科が1人だ。


話しかけてきたのは魔術科の男。

垂れた犬耳を持った、犬人のようだが。



「ほら、ナンシー……」



ナンシーと呼ばれて後ろから出てきたのは、魔術科の女。

リーゼの麦わら帽子を燃やそうとした子であった。



ナンシーはうつむき加減でこちらを向いている。




「えっと、リーゼロッテさん……」


「……なんですか」



すごく嫌そうな顔をして応対するリーゼに、ナンシーは深々と頭を下げた。



「ごめんなさい……ちょっとしたイタズラのつもりだったの……そんなに大事にしてる帽子だと思わなくて」


「……そうですか」


「家に帰ったらお父様にも怒られたわ……"そんな意地の悪い女に育てた覚えはない"って……」



しゃくり上げながら泣き出すナンシー。

リーゼを見てみると、どうしたことやら、という顔をしている。



「お父様が、リーゼロッテさんに謝って許してもらえなかったら、私が大事にしてるクマちゃんのぬいぐるみを燃やすって。 それで、その時初めて分かったの……私、すごく酷いことしようとしてたんだって……」



ナンシーはその場に膝をついた。



「ごめんなさい、リーゼロッテさん……」


「はぁ……」



ため息をつくリーゼ。

仕方ないな、という顔をしてる。

やっぱり許してあげるのかな……



「幸い帽子も無事でしたし、今回の事で懲りたでしょう。 もし次、同じことをしたら――」




リーゼの顔が陰る。

なんというか……普通の顔をしているのに……怖い……




「……ナンシーさん、自分の思い付く限りの地獄を想像してください」




目を閉じ、いろいろと妄想を膨らませているナンシー。


少し震えているようだが……




「もし次やったら、"それ"が天国だと思えるほどの地獄を見せてやりますから……覚悟しておいて下さい、ね」


「ヒィッ……」




ナンシーはその場で腰を抜かしてしまった。


……あ、道着の股のところがジワーっと濡れて……




「わ、わかわか分かりました。 もう二度とやりません……」


「では、今回だけは水に流しましょう……今回だけ、ですよ?」




麦わら帽子の上にいた精霊のシルフィが、歯をガタガタ震わせながらこちらに飛んできた。


よしよし、怖かったんだな。


ネスカはウリー先生の監視でこの場にいないので、俺が代わりにシルフィの頭を撫でてあげたのだった。




「よし、グループ分けは決まったようだな。 今後はこのグループ単位で活動してもらう。 ……今日のところはグループ内でローテーションで組手だ!」



他のグループが二人組を作って組手を始める。


ウチのグループは……トラウマを植え付けられたナンシーと、植え付けたリーゼは組手を始められるような状況じゃないので、6人でローテーションしなきゃな。



「ソラっ!!!」


「――っ!? ミリア、あぶな――」


「今日こそ一本取るわよっ!」


「そう簡単にはさせないさ」




ミリアは俺を撹乱しようと、すごい速さで移動を始める。



俺はミリアの動きを見逃すまいと、目と耳を強化して構える。




――来た。




ミリアの拳を、ローラさん直伝の歩法でギリギリまで引き付けてから、すり抜けるようにかわす。




ミリアは器用にクルッと体を回転させる。




体全体を使ったミリアの攻撃は、基本をおさえながらも変則的で対応が難しい。

特に足での攻撃は、早さも重さも段違いだ。




危うく食らいそうになりながら、ギリギリでミリアの蹴りをかわすと――




俺の回避に合わせて、避けた先にミリアの逆足が襲いかかる。




――ダンッ




俺は後ろに跳んでそれを避けた。




さて、ウォーミングアップはここまでだ。


今度はこっちから、と動き出そうとした時――――



「二人とも、これ授業だよ~」



のんびりしたビノの声が聞こえてきた。



あ……つい、いつもの訓練のノリで……

今までは、授業中は目立つと面倒だから手を抜いていたのだが。



俺とミリアがゆっくり周りの様子を見てみると……



「お、おま、お前ら……」



口を開けて呆然としている先生。

固まる生徒たち。


……やっちゃったか。



ど、急にミリアが頭の上に腕をバツに交差し、みんなに叫んだ。



「い、今のナシっ!!!」



……一瞬の沈黙。


そして、なぜだろう。

みんな何事もなかったかのように動き始める。



「見なかった見なかった何もなかったハハハ」

「商家ごときが若様より強いなんてあり得ませんものね、そうですアレはナシで――」

「夢だあれは夢だ夢夢夢夢……」



……手遅れ感が拭えない中、俺とミリアは周りに合わせてゆっくりとした組手を始めるのであった。





※  ※  ※





昼休み。


屋上に集まった俺たち4人は、いつものようにレイアの弁当を食べていた。

例の報告は、食べ終わった後に始める予定だ。



「僕は不思議なんだよ。 リーゼはヘンティさんを恨んでるって言いながら

、なんで協力してくれるの?」


「もちろん、この件が全部片付いたら、正々堂々と真っ正面からギャフンと言わせてみせます。 汚い手段で陥れるのは本意じゃありませんから」


「……リーゼって真面目だよねぇ」


「精霊の主人であり守護者である者は、清く正しくあるべきなんですよ! ねぇソラ」


「さ、さぁ……どうかな」



ネスカもシルフィも、清く正しくとかあんまり考えてる様子はないけど。



弁当を食べ終わった後は、リーゼからの報告タイムだ。


ネスカとシルフィに順番に監視を頼み、二人の声を聞くことができるリーゼがみんなに情報を共有しているのだ。



「まずウリー先生の部屋ですけど、相変わらず結界が張ってあって入れませんでした……精霊の侵入については、やはりかなり警戒している様子です」



これはいつも通りだな。

監視を始めてからずっとウリー先生の部屋に入ってみようとしているのだが、失敗し続けている。



「昨晩はまた、ウリー先生の部屋に例の謎の男たちが現れたみたいなんですけど――」



ウリー先生の部屋には、定期的に謎の男たちが現れているようだ。

今までの監視で数回、男たちが現れるのを確認している。


男たちの正体については、ローラさんに調査を依頼済だ。



「今回、シルフィが男たちの正体の手がかりを見つけてきたんです」



そう言うと、リーゼは小さい木の板と黒炭を取り出した。


ミリアが首を傾げる。



「これが手がかり?」


「まさか、違いますよ……ソラ、お願いします」


「分かった」



リーゼから板と黒炭を受けとると、シルフィが俺の手元に飛んでくる。


俺はシルフィが指を指している場所をなぞるように、黒炭を走らせて絵を描いていった。



……しばらくすると、1つのエンブレムのような絵が出来上がる。


みんなでそれを眺めていると、リーゼが口を開いた。



「男たちの外套がはだけた時に見えたらしいんですけど……その紋章が、男たちの服の左胸に付いていたそうなんです」


「じゃあ」


「はい。 ローラさんに渡して、紋章の正体を突き止めましょう」



ようやく、手がかりを1つ手に入れた。

喜んでいる俺たちのもとに――



――ネスカが飛んできた。

ずいぶん慌てた様子でリーゼに話しかけているが……



「ウリー先生が屋上に来ます! ソラ、板を」



俺が弁当袋の中に板を入れた瞬間、屋上の扉がガチャッと開いた。



「探したのよ~ソラくん、こんなところにいたのね」



ウリー先生はこちらに歩いてくる。



「うふふ、こんなところで何の話をしていたの?」



笑っているウリー先生だが、なんとなく、授業中とは違う空気を感じる。

あまり余裕がないような、そんな感じだ。



「ヘンティさんの話し方についてですよ。 いい人なのに、あの話し方で損してる事って多いよなって……」


「あら……まだあの"デュフフ"って笑い方は治っていないのね?」


「えぇ、語尾も"ござる"って、普通に話せばいいと思うんですけどね」


「そうよね、まったくだわ」




ふと、ウリー先生の表情が変わった。




懐かしい何かを思い出すような。




今までの作った笑顔じゃない、優しい微笑み。




そして、少しだけ寂しそうな顔。




「じゃあソラくん、これ、ヘンティに渡しておいて……ほしいのでござる」


「分かりました……でござる」




フフっと笑い、屋上を出ていくウリー先生。

今のは、何だったんだろう。



渡された手紙を見てみる。


思えば、ヘンティさんへの手紙を預かったのはかなり久しぶりだ。



ビノが小さい体でピョコピョコ跳ねて、俺の前にやってきた。



「ねぇねぇ、その手紙……何が書いてあるのかな?」



うん、それは俺も気になってた。



「今は緊急時ですし、仕方ありませんよね」


「開けてみようっ!!!」



リーゼとミリアにも依存はないみたいだな。

清く正しい(自称)リーゼロッテさんからもお許しが出たことだし……



……開けるか。




しっかりと封をしてあって開けるのに手間取っていると、ビノが俺から手紙を受け取った。


ビノは指先のマナが多いし、こういう細かい作業が得意なのだろう。




封筒を開き、中の便箋を見だビノが……



ん?


なにやら首をかしげているが。



「うーん? 何の文字だろう……僕には読めないや」


「かしてっ! ……何この丸っこい文字、私も読めない。 はい、リーゼ」


「うーん、ルーンとも違うみたいですし、何でしょうね」



手紙が俺まで回ってきた。




手紙を開き、眺める。




……えっ……





"わたせ けんきゅうの ないよう または こども"





……俺には、これが読める。




「この手紙の内容は……"研究の内容"または"子供"を渡せ……だ」


「えっ!?」


「ソラは読めるんですか?」


「なんで~?」




……読めるよ。


これは、俺が今までの人生(・・・・・・)の中で、一番長く慣れ親しんできた言葉だから。




俺はみんなの顔を見渡し、ふぅっと息を吐いた。




この文字は――




「この文字は、"ひらがな"って言うんだ。 ……異世界の文字だ」




――紛れもなく、俺の故郷の文字、だった。



さてさて、どうなることでしょう。


徐々に現れた怪しい情報が、どこにどう繋がっていくのか……


どうぞ、次回をお楽しみに^^


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