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異界のソラ  作者: ミケイト
第2章 王立学院
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第01話 9歳の秋

第2章、投稿し始めます。


まずは第1話をどうぞ^^

サロランディア王国。

この大陸に約700年前に建国された古い大国だ。


何度か分裂や内戦を繰り返してはいるものの、王の血筋は途切れることなく続いている、らしい。

現在でも、周りの小国を実質的な属国にするほどの強い国力を持っている。



さて、その王都の北側には、建国時代から続く由緒正しき「サロランディア王立学院」が存在する。


歴史に名を残す大魔術師や、剣聖とまで呼ばれた大剣豪、優れた頭脳で最初の魔具を作り出した"始祖の魔具師"まで、皆この学院を卒業している。



この学院に入学するには、平民には目も眩むような大金を積むか、"超難関"と言われる試験に合格するしかないのだが――




「ソラ……これが"超難関"?」


「らしいよ。 ミリアも余裕だった?」


「当然っ!!! まったく拍子抜けよ……」



半年後、春に10歳になる俺とミリアは、入学試験の終わった学院から出てくるとため息をついた。


ヘンティさんが昨晩「そんなに緊張しなくても二人なら余裕でござるよ」と笑っていたが、想像以上にたいしたことなさすぎてビックリである。



……橋を越えたあたりで、ふとミリアが立ち止まった。

少し赤みがかった茶髪はこの数年でずいぶん長く伸びた。

その髪が風にフワッと揺れ、猫耳がピクピクしている。

ミリアは夕日に照らされた顔で、ニコッと笑いながら俺を見た。



「さて、レイアも待ってる事だし、薔薇の香り亭まで競争よっ! 負けた方が猪串おごりね!」


「毎回俺のおごりじゃ――」


「よーいドンッ!!!」


「ちょ、ズル――あぁくそ、まてっ!!」



ミリアは俺の追い付けないスピードで道を駆け抜ける。


……ちなみに、2年くらい前からミリアには一度も駆け足で勝てていない。


それでも、いまだに勝負を仕掛けてくるのはなんなんだろうな。



王都の人たちも近頃はすっかり"爆走する猫耳娘"を見慣れたようで、「あら今日も速いわね」くらいの反応である。





しばらく走ると、薔薇の香り亭が見えてきた。

今はたぶん、夜の営業の準備中だろう。


ミリアは店の扉に手をついて得意顔である。



「私の勝ちっ!!!」


「ミリア……また少し速くなったんじゃないか?」


「ふふんっ♪」



満足そうに笑うと、そのまま力強く扉を押した。


――バキッバキッ



「たっだいまー!!!」


「あら、おかえりミリアちゃん☆ まーたウチの扉をぶっ壊してくれやがったわね……」


「ごめーんローラさん! 今度からは優しく押すよ……」


「何度も言うけどこの扉は"引く"のよっ!!!」


「そうだっけ?」


「まったく……誰に似たのかしら……」



この辺は主にローラさんに似たんだと思う。


その後も二人のアホな会話を聞いていると、奥からレイアが現れた。

エプロンをしてるから、今日は厨房担当だったようだ。


最近のレイアは、黒髪をポニーテールにしていることが多い。

白いうなじに、ちょっとドキッとすることも……正直、けっこうある。



「おかえり、ソラ。 試験どうだった?」


「うーん、まーなんというか……」


「すっごい難しかったわよ~!? どうするレイア、来年はレイアの番よ!」


「……そんなに簡単だったの?」


「うん」


「なんで分かるのよ~っ!?」


「ミリアは分かりやすい……」



ミリアは猫耳をペタンと畳んで凹んでいる。

……その猫耳が、分かりやすい原因の1つだけどな。



ミリアはともかく。

店の奥からは、すごくいい匂いが漂ってくるが……これはもしや。



「レイア、この匂い……」


「うん。 東方の行商人が来てたから、買っておいたの……醤油」


「やっぱり……!」


「ソラ、肉じゃが……好きでしょ?」


「あぁ、大好きだ」


「もう一回……」


「ん?」


「もう一回同じこと言って?」


「あ、あぁ……大好きだ」


「私も大好き………………肉じゃが」



他の人からは無表情に見えるらしいのだが、見慣れた俺の目にはレイアが照れているのがよく分かる。

なんというか、こっちが恥ずかしくなってくるな。



「こらレイアっ!!! そーゆーのはなんかズルいっ!!!」


「ミリアもやればいい」


「そ、そうね……ソラ!!」


「なんだ?」


「肉じゃが好きでしょ!?」


「うん」


「私も!」


「ふーん……」


「なんか違うー!!!」



二人は俺の第一夫人の座を狙ってるらしいのだが(この前「正々堂々と戦うことを誓います!」と宣言された)、いずれにしろ結婚できるのは15歳になってから。

長い戦いになりそうである。



しばらくすると、レイアのポニーテールと戯れていた精霊のネスカが俺の方に飛んで来た。

今日は試験だったので、不正をするつもりはないものの念のためお留守番していてもらうことにしたのだ。


仮にだけど、もしネスカを認識できる人がいたら、変に勘ぐられて嫌だからね。



ネスカにマナをあげる。

この数年で少しサイズアップして、今は15センチほどの身長になった。


よく食べ、よく寝て、よく育っているな。

うんうん。



「ネスカ見てたら、なんかお腹減った……」


「今ご飯もってくる」


「私もお腹ペコペコ〜!!!」



俺たちは薔薇の香り亭が忙しくなる前に、パパッと夕食を済ませることにした。





※ ※ ※





夜のオープンの少し前。

食器を片付けた俺たちは、きらびやかな衣装に身をつつんだローラさんに帰りの挨拶に行った。



「じゃあローラさん、帰りまーす!」


「はーい……あ、そうそう」



何かを思い出したようで、ローラさんが小声で話し始める。



「なんだか最近、ヘンティの事をこそこそ調べてる連中がいるみたいよ……魔具の開発もいいけど、身の回りに気をつけるように言っておいて」


「うん、わかった。 ありがとうローラさん」



ヘンティさんは生活魔具で大成功していて、ちょっとした有名人になっていた。

掃除機に始まり、エアコン、冷蔵庫、オーブン、コンロなどなど……今は洗濯機に取り掛かっているが、なかなか苦戦しているようだ。


俺の前世の記憶をヒントに、似た機能を発揮する魔具を作っている。


今や貴族の間では生活魔具を持つことがひとつのステータスなっていて、他の魔具師たちもそれを改良した様々なバージョンの生活魔具を売り出している。

そしてそれらが売れるほど、ヘンティさんの元には魔具師ギルドを通して毎月「アイデア料」が入ってくるので、ギルドの口座に入っている貯金は見たこともない額になっていた。


一方のヘンティさんは、「拙者、本当は平民でも使えるような安価な生活魔具を売りたいでござるよ」とちょっと不満げだ。



ただ、やはり生活魔具は邪道だという古い考え方の魔具師はいまだに数多く、あまり面白くない思いを持っているようである。


ヘンティさんを嗅ぎ回ってるのも、その連中の誰かだろうか……?




俺たちは店の外に出ると、ゆっくり歩いて屋敷の方へと向かった。


秋も中頃になり、日が落ちるのも早くなった。

外はもう暗くなってきている。


歓楽街から近道をして裏を抜けると、貴族街に近づくまでの間にあまり人の通らない路地がある。


たぶん、"そこ"だろうな。



「2人とも、気づいてるか?」



コクリと頷くレイアとミリア。

俺たちはなんでもないようなフリをして、薄暗い道を歩き続ける。


俺は途中で道に落ちている石を拾った。





※ ※ ※





人のいない路地にさしかかった。




最初に動いたのは、レイアだ。




迫ってくる複数の足音にあわせ、ポニーテールを揺らしながら素早く移動する。




「ぐはっ」


「うぐっ……速い……」


「ちっ……武闘家か……?」




倒れている男たちを冷ややかに見ながらレイアは告げた。




「私は魔術師……体術はあまり得意じゃない」




唖然とする男たちを前に、ミリアがルーンを作っている。




後ろから近づいてきていた別の男たちに、ミリアの手から大量の炎の雨が降り注いだ。




「うげっ……あっつ! あっっちぃ!!」


「ぐあっ! まっ……無詠唱……!?」


「魔術師かこの猫人……! うぐぁっ」




のたうちまわる男たちに、ミリアは堂々と言い放つ。




「私、魔術苦手なのよねっ!!!」




その間、俺は目を凝らして周囲を観察していた。


あいつだな。

うまく隠れているが、マナの光は丸見えだ。



俺は先ほど拾った石を思いっきり"手加減して"投げる。



「がはっ」



ドサッ


……木の上から、男が落ちてきた。



全部で7人、俺たちを相手にするには少なすぎるだろう。

大きな麻袋を持っている奴がいるから、誘拐でもしようと思ったのか。



「お疲れ、2人とも」



レイアもミリアも、息ひとつ乱していない。

まったく本気を出してないからな。



「ヘンティさんが心配……」


「そうね! 早く帰りましょう」


「こいつらどうする?」



ネスカが俺の肩から飛び上がった。


風で男たちを一箇所に運ぶと、そこに土の魔術で小山を作る。

男たちの身体は、首から上だけ残してあとはガッチリと土で固められていた。


かなり不気味な小山である。



「ありがとう、ネスカ」



こいつらは後で治安部隊に突き出すとして、今はヘンティさんが心配だ。

俺たち三人は、屋敷までの道を急いで走った。





※ ※ ※





屋敷の入り口では、警備の傭兵が見張りをしている。


古い家だと自分の家で私兵を抱えているが、お金さえあれば傭兵ギルドに依頼してしまう方が楽だ。


今は総勢10人の傭兵たちが雇われ、警備のローテーションを組んでいる。


門をくぐると、1人の傭兵が話しかけてきた。

竜人のゴルダさんだ。



「おうソラ、帰ったな!」


「ただいまゴルダさん、ヘンティさんは今どこかわかります?」


「工房だと思うが、急ぎの用事かい?」


「えぇ、ちょっと」



ゴルダさんはベテランの傭兵で、うちに来ている傭兵チームのリーダーだ。

竜人は表情も読みづらく、周囲から怖がられることも多いのだが、ゴルダさんは話してみれば実に気のいいおっちゃんである。


クロウリー家をだいぶ気に入ったみたいで、たまに奥さんや2歳になる息子が遊びに来る、家族ぐるみの付き合いだ。



この様子だと、ひとまず異変はないようだが……



俺たちは、急いで工房へと向かった。



屋敷の横に新設された平屋建ての建物があり、屋敷とは渡り廊下で繋がっている。

「集中して魔具開発をしたい」というヘンティさんの要望を叶えた「工房」だ。




工房の扉前にたどり着き、俺はノックもしないで扉をあけた。



バンッ



「ヘンティさん無事で……」



……目の前には異様な光景が広がっていた。




大きく目を見開いた表情のヘンティさんは、固まったまま動かない。




その口には、スプーンがくわえられていた。




ヘンティさんの横に座っているのは……タニア姉だ。




ヘンティさんと同じようにこちらを見て固まっている。




……異様なのはその両手。




左手には料理ののったお皿をもち、右手はヘンティさんがくわえているスプーンを持っている。




これは……




「ごめんタニア姉、すぐ出ていくよ」


「待ってソラ、これは……」


「私知らなかった!!! ヘンティさんとタニア姉が"あーん"する仲……」


「ミリア、違うの……! ヘンティさんたら開発ばっかでろくに食事も……」


「隠さなくていい……。 私もたまにソラにやってる」


「レイア、誤解よっ! ちょっと待っ……」




俺たちはそっと扉を閉めた。

いやぁ、すごい光景を見てしまったものだ。


ふと横を見ると、ミリアがレイアに詰め寄っている。



「レイア、いつの間にソラに"あーん"なんてしてたの!?」


「ミリアがいないときは……だいたい」


「ズルい、抜け駆けよっ!!」


「でも……結構昔からやってる」


「なんですって〜っ!?」



こっちはこっちで騒がしいな。




とにかくまぁ、俺ももうすぐ10歳……

人生の一つの節目に来ている。


来年からは学院生になるし、きっとまたバタバタした生活が始まるんだろう。


ヘンティさんの身の回りは心配だが……



「ネスカ、これからしばらくはヘンティさんの護衛をお願いできないか」


「お、タニア姉との仲を探らせるのね!?」


「ソラ……覗きはよくない」


「……分かってて言ってるだろお前ら」



……記憶を取り戻してからもうすぐ5年。


また新しい生活が始まろうとしていた。

時間は飛んで、9歳の秋からスタートになります。

面白い話になるよう頑張りますので、よろしくお願いします!


ご意見、ご感想お待ちしてますね^^

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