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異界のソラ  作者: ミケイト
第1章 少年時代
16/25

第16話 異界の空

ソラくんはレイアちゃんを救出できるのか。


第1章も残り僅かとなってまいりました!

お楽しみ頂ければと^^

ようやくレイアのもとにたどり着いた。


俺たちを囲むのは、重そうな鎧を来たミルフォート家の私兵たち。

この炎天下の中、ご苦労なことである。


さて、あとは逃げるだけだ。




「賊は子どもだ! 逃がすなー!」




私兵の数は、30人? 50人?

たくさんいるが……とにかく、道を開けてもらわなきゃな。



「レイア、ここで少し待っててくれ」


「うん……わかった」



俺は横に浮いている精霊のネスカに目配せする。

ネスカはレイアの肩に座った。


――レイアを頼むぞ。




「みなさまはこちらへ! こちらへ避難を――」



使用人たちは来賓の貴族たちを避難させている。

貴族たちは、慌てて逃げる者がいたり興味深げにこちらを見る者がいたり、様々だ。



そこで、一人の兵士が叫ぶ。



「クロウリー様からのご命令だ! その二名は殺してはならない!!! 生け捕りにしてクロウリー様へお渡ししろっ!!!」



それを聞き、弓を構えていた兵士たちが武器を持ち替える。


……難易度が下がったな。


ネスカに風壁を張ってもらう必要がなくなった。




「かかれー!!!」



兵士たちが剣や棒を持ち、包囲を狭めてくる。


俺は端の兵士に向かって一気に距離を詰めた。




「なっ……速――ブヘッ!」


「消え――ガッ!」


「このガキ――フゴッ!」




囲まれないように動き回りながら、一人一人意識を刈り取る。


……グレイウルフの群れに比べたら、止まっているようだ。




数は多いが、この私兵たちは連携がなってないように感じる。


もしかして、急造部隊なのか?



とにかく避けることを最優先にしながら、余裕のある時に隙を見て一撃ずつ打ち込んだ。




「――ガッ」


「ブッ!」


「ゴッ――」




14……15……16人っと。



こいつら全員合わせても、ローラさんの猛攻の方がまだキツいくらいだ。



レイアの方を見ると、あちらにも私兵が迫っているようだが……


――既にネスカがルーンを作り出してる。




「ヌフフ、捕まえ――ゴァッ!」




レイアを中心に、風の渦が巻き起こる。

小さい竜巻のようなそれは、レイアに近づいていた3~4人の私兵を吹き飛ばした。




……強くなったのは俺だけじゃない。


ネスカはそこそこ強力な魔術を行使しているが、息切れしていない。

もう一発くらいなら打てるだろう。




「ソラ……なにこれ……」


「後で説明する!」




俺は一度レイアの元に戻った。

近くにいるネスカにマナを補給する。




「私兵たちは、半分くらい減ったか……ん?」




強い風で砂埃が巻き上がっているが、その中にいくつか"黄色い風"……魔力を含んだつむじ風が存在している。


――あれがそう(・・)だな。




俺はポケットから石を取り出すと、腕を強化してその"黄色い風"に投げつけた。




「グハッ――」


「ッ――」


「ダッ――」




腕に腕章を着けた男たちが、俺の投石の前に倒れる。


――まだ全員じゃないか……?



気配のない人影(・・・・・・・)が走っているのを目の端で捉え、俺は耳を強化する。




――タッタッタ――




足音が聞こえた瞬間、俺は背後に向かって刀を振った。




――ガキンッ




相手の短刀と俺の刀がぶつかる。




「なぜ気づいた――」




腕章を着けた男は、体のマナが異常なまでに薄い……。


空気に近いくらいのマナ濃度しかない。




「隠者だろ……?」


「くっ――」




ちょっと押すだけで、男は簡単に押し返された。



ローラさんから事前に聞いてなかったら危なかったが……




隠者。


特殊な薬と訓練で極限まで気配を消しながら、風で舞い上げた砂や埃に紛れ隠れる者。



代償として……




「……グヘッ!」




筋力がすごく弱いので、一度見つけてしまえば、このように簡単に倒せる。


……ふぅ。




「さてと、そろそろ逃げるぞ、レイア」



……俺が隠者の相手をしている間に、ネスカも敵の数を減らしてくれたみたいだ。



俺はレイアを抱き上げる。

……いわゆる、お姫さま抱っこってやつだな。




「ま、待て……!」




制止する私兵を振り切り、残り少ない彼らの間をすり抜けた。




これで逃げ切れる――




そう思った瞬間だった。




――バシャッ


足元に水の球が飛んできた。


危うくそれを避け、立ち止まる。




「逃げ切れると思って?」




目の前には……




「お母様……」



「もう私はあんたのお母様じゃないわよ」




レイアの義母と……




「奥様。 第1、第3臨時私兵隊、到着しましたっ!」




続々と門の外から入ってくる私兵たち。


……先程の倍はいるだろう。




そして――




「……奥様に刃を向ける者があれば、守るのが私の役目……」




……執事、セバスがいた。



この数は、ちょっとまずい。

ローラさんからの前情報にも、この伏兵はなかった。


俺たちの背後からも、数少なくなった私兵たちが挟み撃ちしようと近づいてきている。




「ネスカ、頼む」




ネスカが俺たちを中心に、風の渦を巻き上げる。

……今のうちに、何か対策を考えないと。



抱き上げていたレイアを下ろし、ネスカにマナを補給しながら頭を悩ませていると……



避難していた貴族(・・)の中から、小さな人影が走り出してきた。


被っていたフードが風で脱げる。


あれは――




「ソラーっ!!!」


「――ミリアっ!?」




すごいスピードで走ってくるミリア。

あいつ最近また足速くなったよなぁ……



一瞬だけ風の渦を解除し、猛スピードで突っ込んできたミリアを受け止めた。



「レイアちゃん、助けに来たよ!」


「ミリアちゃん……!!!」



手を取りあう二人。


お前ら……そんなに仲良かったっけ?


ネスカは再び風の渦を起動する。



「ミリア、なんで貴族の中に――」


「それは後! はいコレ……」



ミリアは俺に丸薬を1つ差し出した。


これは……



「解呪丸……エイラス師匠のお手製よ?」



「……っ! 助かる!」



俺はすぐさま丸薬を飲み込んだ。




胃の中で薬が溶ける。




溶けた薬が、銀色の光に変化するのが見えた。




……銀色の光は、黒い光に吸い付くように集まる。




「お……?」




銀色の光に触れたそばから、黒い光は打ち消されて霧散する。




……押さえ込まれていた俺のマナが――




「あ……ははは……」




解放されたマナ。


その量は以前とは比べ物にならないほど多く、濃い。




「ネスカ、もういいぞ……」




今、俺の心は笑い出したいくらいの開放感に満たされている。


一方で、頭は反比例するように落ち着いていた。




俺は一つ一つ、丁寧にルーンを紡いでいく。


邪魔する光は――もうない。




「風が止んだぞー!!! 進めー!!!」




兵士たちが向かってくるが――


無駄だ。




「……吹け」




魔術を発動すると、大量の風が兵士たちに襲いかかった。


身動きの取れない兵士たち。


その中心で風はうねり、大きな竜巻が出来上がる。



ある者は飛ばされ、ある者は逃げ、ある者は腰を抜かしている。




「うぎゃー!!!」


「な、なんだこれは!?」


「ちょ、待っ――あぁぁ!!!」




軽い、地獄絵図だな……



ふ、ふふふ……




「助けてー!!!」


「この風を止めろ! 止めろ下さいお願いします!!!」


「お母ちゃーん……ぎゃー」




は、ははは……



――やっべぇ、やりすぎた……!!!




「ソラ……」




俺が少々反省していると、後ろからレイアに呼ばれた。


振り返ると、レイアが戸惑った表情をしている。


そしてそのレイアのマナは、俺を遥かに凌駕(・・・・・・・)していた。




「あのね、私も……」


「……うん」


「やっちゃって……いい?」


「……ど、どうぞ……」




レイアは呪文を唱え始めた。




レイアの手から、特大の(・・・)ルーンが産み出される。




ありえないほど濃いマナが放出され、レイアの頭上に周囲から大量の水が集まってきた。


池にたまっていた水はすべてなくなり、周囲の木は何本か干からびている。


……俺も、ミリアも、貴族も、私兵も、みんなが口をポカーンとあけてそれを見ていた。




「うーん……」




レイアは少し考えると、屋敷の方へと振り向いた。




「ぇぃ……」




レイアの小さな呟きに合わせ、巨大な水球が飛んでいき……




――ドッガーン……ガラガラガラ……ズシャッ……ズーーン……




大きな屋敷の半分が……崩れ去った。


誰も、一言も喋らない。




――カランッ……バキッ……ズンッ……




ただ屋敷の崩れる音だけが、その場に響いていた。




「ソラ、私……魔術つかえた」


「あぁ、使えたな」


「すごい?」


「すごいな、うん……」




……今後はレイアを怒らせないように、気を付けよう。




俺はミリアとレイアを連れ、普通に門まで歩いていく。




俺たちに近寄る者はいない――いや、一人だけいた。




「レイア……お前……」




レイアの元義母……ミルフォート家の当主の妻、ラミルナ・ミルフォートだ。


歯をギシリと噛み締め、両手をこちらに向けている。




「……奥様」




彼女を止めたのは……執事だ。




「レイアお嬢様はもう、ミルフォート家の子どもではありませぬ……あまり傷つけては、クロウリー様からの"援助"が得られなくなる可能性もございますぞ……」


「セバス、お前は……誰の味方だ?」



……義母が執事を睨む。



「フフフ……私の使命は、ラミルナ様をお守りすることでございます。 私だけ(・・・)は、いつまでも変わりませんよ」


「……ふん」




義母は不機嫌そうにそっぽを向いた。


……さて、と。



俺はふたたび、レイアを抱き上げた。




「……レイアは頂いて行きますね」




執事と目が合う。




……レイアのことは、俺に任せて下さい。




俺はミリアと共に、屋敷の外へと飛び出した。





※  ※  ※





街の東門から出たところにある大きな木。


俺とレイアとミリアの三人は、その木の裏に隠れるようにして迎えを待っていた。



「ミリア、本当にここで待ってて大丈夫なのか?」


「うん、そうそう。 ここにいれば大丈夫よ!」



しばらくその場で待っていると、街から馬車が出てきてこちらに向かってくる。


……ん?


あれは確か、屋敷に来ていたクロウリー家(・・・・・・)の馬車だぞ。



「ミリア、逃げ――」


「おーい! こっちこっち~!!!」



なんと、ミリアが木の影から出て大きく手を振っている……!!!


も、もしかして……




馬車が俺たちの横に止まる。


扉が開き、中から"フードで頭部が隠れた小太りの男"が出てきた。




「拙者、クロウリー家の当主でござる」


「――何やってるんですか、ヘンティさん……」


「デュフフ、もうバレたでござるか」




ヘンティさんがフードを取った。


……いたずらっ子のような顔で笑ってやがる……




「ヘンティさん、貴族だったんですか……」


「違うでござる。 1ヶ月ほど前に貴族に"なった"のでござるよ」




……ん? どういうことだ……?




「商家になるにはお金さえあればよいのでござる。 拙者、お金だけはそれなりに(・・・・・)持っているのでござるよ。 これで正式に、ソラくんとレイアちゃんは拙者の子ども(・・・・・・)でござる!」




……おい。



ってことはつまり……




「俺がレイアを助けたの……無駄ってことじゃないか……」




……俺はガックリと膝を落とした。


ヘンティさんは俺に近づき、肩を叩く。




「それは見当違いでござるよ。 ソラくんが動いたから、一番いい形でレイアちゃんを助けられたのでござる」


「……どういうことですか?」




ヘンティさんは人差し指を立てると、説明モードに入る。


こうなったヘンティさんは長いぞ……!




「いいでござるか。 はじめの策では、貴族になって屋敷を手に入れて、レイアちゃんの逃げ場所を作るというだけだったのでござる。 貴族の屋敷となれば、そう簡単に調査の手は入らないでござるからなぁ」



……なるほど、金のあるヘンティさんならではの策だ。



「状況が変わったのは、ソラくんがミルフォート家に忍び込んだ以降でござる」


「……というと?」



「当時、屋敷を守っていた私兵たちはほぼ全員解雇されたのでござる。 子ども一人にいいように侵入されたのでござるからなぁ。 しかし、"五魔の儀"をソラくんが邪魔しに来るのは予想の範囲内…… ミルフォート家は馴染みの深いガイラス家に、私兵の貸し出しと金銭の援助を依頼――いや、命令(・・)したのでござるよ」


「ほう……」



少しずつ、状況が読めてきたぞ。



「困ったのはガイラス家でござる。 貴族とは言ってもそれほど裕福ではござらぬ上、次男の"遊び癖"で財政難を抱えている、と…… そこで拙者が、"ある条件"をもとにお金を貸してあげたのでござるよ」


「条件、ってもしかして……」


「そう。 "レイアちゃんとソラくんの身柄を、拙者に引き渡すこと"でござる。 次男はだいぶ渋ったようでござったが、最終的には納得してくれたでござる…… "謎のオカマによる夜の説得"のおかげでござるが」



……あぁ、なるほど。


馬車の御者席から、人影が現れた。



「ソラちゃん久しぶり~☆ 元気だったかしら?」


「ローラさん!!!」



もしかして、ローラさんもあの場にいたのか!?



「私も乱入したかったわぁ~……ソラちゃんあんなに大暴れするんだもの☆」


「無理でござる…… クロウリー家として来てるのにあそこで大暴れしては、計画が台無しでござるよ……」


「えぇ~、ミリアちゃんは大暴れだったじゃな~い♪」


「誤魔化すのが非常に面倒だったのでござるよっ!!!」




……ヘンティさん、裏でいろいろ苦労してくれたんだなぁ……




「で、無事にソラくんとレイアちゃんの身の安全を確保したあとは、出来る限りソラくんに暴れてもらうだけでござる」


「……?」



どういうことだ?



「分からぬでござるか? あの場には偉い貴族が多数集まっていたのでござる。 ソラくんが暴れれば暴れるほど、被害が出れば出るほど、ミルフォート家の信用は落ちる……その上、怪我人の治療や警備体制の見直しなどでお金はかかる一方でござった」



……あぁ、なるほど。


つまり――



「そこで、被害の建て直しの資金を貸すことで、ミルフォート家はクロウリー家に逆らえなくなるのでござる。 ……まぁ、まさか屋敷を半壊させるとは予想だにしなかったでござるが、デュフフ…… あとでカラクリに気づいても、財布を握られていては報復のしようもないのでござるよ」



あぁ……納得した。


意外と黒いな、ヘンティさん。



ローラさんとヘンティさんは、「ウフフ」「デュフフ」と笑っている。


オトナってコワイ……




ちらっとミリアを見てみると、ヘンティさんの話についていけなかったのか、だいぶイライラしている様子だ。



「ねぇ、早く馬車乗ろうよっ!」


「そうでござるなっ! ソラくんにはじっくり話を聞く必要があることでござるし……」




……ん? 何かあるのか?




「フフフ……なーんでソラちゃんが"魔術"を使えるんでしょうねぇ……」


「ソラっ! レイアちゃんの周りを風で守ってたやつ、どうやったの!?」


「無詠唱の魔術など、魔術師の達人の域でござるよ……」




……げっ!


そうだった……さすがにこれは、逃げられないかな……ハハハ……




俺の肘が、ちょんちょんと指でつつかれる。


振り返ると……レイアが俺の顔を覗いていた。




「ソラはなんで、お母さんの刀持ってるの……?」




……は?




「お母さんの刀?」




コクリと頷くレイア。




「私の……死んじゃったお母さんの……刀」




その意味を、俺とローラさんだけが正確に理解する。




「……馬車の中で話そうか」




王都まで1週間。

時間はたっぷりある。




馬車は俺たちを乗せ、カタカタと音をたてながらのんびり進む。




「そうだ、レイア」


「何? ソラ……」


「5歳の誕生日、おめでとう」




レイアはビックリしたように目を見開いたあと、思いっきり笑った。




「ありがとう! ソラ……だいすき!」




俺に飛び付くレイア。

なんかみんなの視線が……



「ソラばっかズルい~……」


「拙者も頑張ったでござるよ」


「妬けるわね~☆」



なんか恥ずかしい……

誤魔化すように、俺は馬車の木窓をあけた。



目の前には、巨大な入道雲が見える。

俺は、窓から見える異界の空を眺め、大きく息を吸った。



……さて、どこから話そうか。



俺は振り返り、ニッコリとみんなに笑いかけた。





いかがだったでしょうか^^


ソラくんはだいぶ目立ってしまいましたが、今後どうなっていくのでしょうね……


さて、次回が第1章の最終回となります。


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