第14話 修行のはじまり
さて、修行回です。
ソラくんは強くなることが出来るのでしょうか。
街から20分ほど離れた場所に、まわりを森と大岩に囲まれた広場がある。
街道からも離れていて人目に付きづらいこの場所は、柄の悪い連中にとって格好の溜まり場になっていた。
「てめぇ――様はローラ様……!」
「あら、元気~? まーた悪さしてるんじゃないでしょうねぇ~……」
「い、いいいいいえ、そんなアハハハハ……」
盗賊のような風貌のゴツい男たちが、顔を真っ青にして震えている……?
ローラさん、あんた何やったんだ……
「フフフ、たっぷり可愛がってアゲましょうか……?」
「ぃ、嫌、ゃめ……そ、そそそのガキ――じゃねーや、そのお子様は誰だ――誰ですか?」
「私の子どもよ♪ この前お腹を痛めて産んだの。 すっごく痛かったわ~☆」
「あはは、またまた……ローラ様は男――」
「あぁんっ!!!?」
「ヒィっ!!! すみませんごめんなさい許してー!!!」
ローラさん、あれは絶対楽しんでる顔だ……
ってかいつの間に俺を産んだんだよ……
「可愛がってア・ゲ・るのはまた今度ね☆ ウフフ…… 今からちょっとこの場所を借りるから、2ヶ月ほどは近付いちゃダメよ」
「2ヶ月も…… それはいくらなんでも――」
「そう。 じゃあアナタこっちにお尻を向け――」
「――使って下さい2ヶ月でも2年でもっ!!! 行くぞ野郎ども!!!」
男がお尻を押さえて走り出すと、他の男たちも後に続いた。
「掘られてたまるかー!!!」
「おかしら~! 待ってくだせぇ!」
ローラさんは腹を抱えて大爆笑しているが、精霊のネスカはワケが分かっていないようでポカーンとしていた。
……ネスカにはこのまま純粋に育ってほしい。
男たちがいなくなったところで、あたりを見渡してみた。
ローラさんは「修行にいい場所がある」と言っていたが、確かに。
森に隣接しているからマナの回復も早いし、まわりから見えにくい場所だから見つかりにくい。
「さて、ソラちゃん始めましょう」
俺が執事から貰った刀を取り出していると、ローラさんも"自分の刀"を取り出した。
「ローラさんも持ってたんですね、刀……」
「えぇ、刀は私の一番得意な武器よ……一番嫌いな武器でもあるけどね」
少し考え込むような表情に、俺は何も聞くことができないまま黙々と準備をした。
「さて、まずはソラちゃんがどこまで弱いかを確認するところからね」
……むっ、その言い方はなんだかな。
マナを駆使すれば、少しは戦えるんだが。
「まずは自由に構えていいから、私を殺すつもりで打ち込みなさい」
「……危ないですよ?」
「ププっ……何か言ったかしら~?」
……くっそ、完全に馬鹿にしてるな。
俺は刀を抜き、マナを流す。
黒い光で制限されているから、流す量は少ないけど……このくらいなら。
――よし。
俺は刀を構えたが、ローラさんはまだ腰に刀を下げたままだ。
……あ、小指で鼻ほじってやがる。
「ローラさんも刀を抜いて下さい」
「なんで?」
「……怪我しますよ」
「させてごらんなさい」
……もういいや、少しだけ怪我をさせてやろう。
刀にマナを流せば、寸止めくらいワケないからな。
俺は足にも少しだけマナを流した。
マナ操作はやっぱり少しキツいが……
――行くっ
ダン、と地面を蹴り、ローラさんに刀を降り下ろす。
が――ローラさんが消えた……?
「怪我させるんじゃなかったの?」
振り返ると……
……俺に刀の切っ先を向けたローラさんがいた。
「これが、今のソラちゃんと私の距離。 ……理解したかしら?」
……俺は、この期に及んでまだ舐めてたのかもしれない……。
俺は深々と頭を下げた。
「よろしく、お願いします……師匠」
そんなかしこまらずに楽にしなさい、という仕草をするネスカに「お前じゃない」と心の中でつぶやきながら、俺の修行は始まった。
※ ※ ※
「まずは、私と同じ動きをしてみなさい……足の動きをよく見てね」
ローラさんは腰の刀に左手を添えたまま、ゆっくりと一歩ずつ動く。
俺もローラさんを見ながら、同じように足を動かした。
前後左右、体を反転させたり、時には跳んだりしながら……ダンスみたいだ。
無意識だろうが、ローラさんの足のマナはその一瞬一瞬、不思議な力の入り方をしている。
「はい、まずはここまで」
「刀は抜かないんですね……」
「えぇ、ソラちゃんにはまだ早いわ」
……てっきり、ガンガン打ち合うものと思ってました。
まるで……ダンスの特訓だな。
前に「厳しい修行になる」とか言ってたけど、これじゃあんまり――
「今の動きを1セットとして、まずは準備体操で1000セットやって頂戴」
……え?
「1000セット……ですか?」
「えぇ、初日だから軽くしとくわよ。 日が暮れちゃうから早く始めなさい」
「……はい、師匠」
俺はローラさんに言われるまま、足を動かした。
※ ※ ※
……動き続け、2時間は経過しただろうか。
回数は、もうすぐ300回になろうとしている。
単純に動くのが辛いし、微妙なマナ操作がまた体力を奪う。
頭がボーっとする……
「足が逆っ!!!」
「は、はい……」
辛い、フラフラする……けど、頑張ろう。
前後、左右、えっと次は――
「ちょっと止まって。 ……さっきから動きが雑すぎ」
「はぁ、はぁ、はい、すみません……!」
「1からやり直しっ!!!」
「はい……はいぃっ!?」
「じゃ、ひとまず休憩ね。 お昼ご飯にしましょう」
くっそ、辛すぎる……
回数リセットは心が折れるよ……はぁ……
ローラさんはパンとハムを袋から出すと、豪快に挟んで俺に差し出した。
「はい、お疲れ様☆ 頑張ってるんだから、その分いっぱい食べなさい」
「は、はぁ……」
「水分もしっかりとるのよ♪」
俺は受け取ったハムサンドを一口かじる。
……俺、強くなれるかなぁ。
俺がゆっくりと食べていると、ローラさんが俺を見て言った。
「不安?」
「……はい。 俺、強くなれるでしょうか……」
「フフフ……ソラちゃんは大丈夫。 強くなるわ。 私が保証する」
「……そう、ですか?」
当然、という顔をしてローラさんが頷く。
「えぇ……ていうかソラちゃんさぁ、コツ掴むの早すぎよ。 力の入れ具合とかね、なんでこう微妙な部分をさらっとやっちゃうかな……」
「え、えぇと……」
「私も一応、昔は"神童"とか呼ばれてたけど……自信なくすわぁ」
えぇぇ……なんだかな、リップサービスだとしてもちょっと嬉しい。
俺はパパッとハムサンドを食べ、水を飲んだ。
疲弊しきっていたマナも、すっかり回復したようだな。
酷使してるから総量も増えているようだし……よし、頑張るか。
「この調子だと……そうね、まず10日は私を信じて何も言わずに従いなさい」
「10日……ですか」
「えぇ。 体力と気合いは戻ったかしら?」
「は、はい!」
「じゃーさっさと始めろっ! 回数カウントは1回からだ!!!」
とにかく、今はローラさんを信じよう。
俺は再び、足を動かし始めた。
……この日は結局、夕方までやっても1000回はクリアできなかった。
※ ※ ※
10日が経過した今日。
ここ数日は、準備体操の「足さばき:3000回」を、なんとか夕方までに終えることができるようになった。
さすがにここまでやると、1回ずつのスピードもかなり上がってきているし、動きもだいぶ自然になった。
……が。
逆に言うと、まだ準備体操をし続けてるだけで、刀は一回も抜いていない。
こんなんで本当に強くなれるのかな……と思っていると、今日は例の修行場所ではなく、平原に連れていかれた。
「どこまで行くんですか?」
「ちょっとね~……あぁ、あれでいいわね」
ローラさんが指差した方向には……群れからはぐれたのか、グレイウルフが一匹。
向こうもこちらに気づいたようで、グルグル唸り始めた。
「ソラちゃん、今からアレと戦いなさい。 ……ただし、私が"よし"と言うまでソラちゃんから攻撃はしないこと。 刀も抜かないでね」
「……分かりました」
俺は刀に手を添えたまま、グレイウルフの前に躍り出た。
グレイウルフが獲物を狙う鋭い目。
まだローラさんからの合図がないため攻撃はできない……とにかく防御だ。
風が通りすぎ、草がサーっと鳴る音だけが耳に聞こえる。
――来るっ
グレイウルフが牙を剥き、こちらに突進してきた。
――サッ
咄嗟に出てきたのは、毎日繰り返してきた「足さばき」だ。
俺はグレイウルフの斜め後ろまで移動していた。
グレイウルフは俺を見失ったようでキョロキョロしている。
「は……ははは……」
これは……初日、ローラさんが俺の攻撃をなんなく避けたのは、こういうことか。
グレイウルフがこちらを向く。
ローラさんからの攻撃許可はまだない。
グレイウルフが突っ込んできた――避ける。
唸りながら吼え、さらに突進してきた――避ける。
振り向きざま、すぐまた牙を剥き噛つこうとする――避ける。
グレイウルフが魔術の準備を始めた。
「ソラちゃん、攻撃していいわよ」
飛んできた火球、火球の陰に隠れて突っ込んできたグレイウルフを避けた。
――グレイウルフの側面で刀を抜く。
ザンッ
グレイウルフの首を切り落とした。
……ふぅ。
「やりました、ローラさんっ!」
「えぇ、上出来よ……」
ローラさんも満足そうに笑っている。
……よかった。
俺は、強くなれる。
「どう? 少しはこの"準備体操"の意味が分かったかしら?」
「えぇ……よく分かりました」
ローラさんは俺の刀を手に取ると、ボロ布を使ってグレイウルフの血液を拭い取った。
手入れの仕方も後で教えてもらわないとな……
「正直、驚きました。 ……足さばきを覚えただけで、こんなに戦い方が変わるなんて――」
「ウフフ、ソラちゃんは何を言ってるのかしら……」
ん?
なんか変なこと言ったか?
「足さばきを"覚えた"? 違うわね、まだその入り口に立っただけよ……」
ローラさんが刀を抜く。
俺の背中から、汗がブァッと吹き出てくる――本能の警告だ。
「ずっと言ってるでしょう。 あれは"準備体操"だって…… 本当の修行は、こ・れ・か・ら・よ☆」
ローラさんが刀を構える。
刀にマナが通った――
俺は刀を鞘にしまい、避ける準備を始める。
「ソラちゃん……」
「なんですか?」
「……死なないでね?」
「ちょ――」
……それから。
ご飯の時と寝る時以外、1日の大部分を刀を持ったオカマに追いかけられ続ける生活が、5日間続いたのであった。
全然関係ないのですが、昨日アメブロのメルマガが届きました。
タイトルが……
「ローラのシンデレラ姿が可愛すぎて鼻血モノ!!」
アメブロさんェ……




