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異界のソラ  作者: ミケイト
第1章 少年時代
11/25

第11話 焦燥

気付いたら、お気に入り登録が5000件を越えていました!!!


ありがとうございます。

の気持ちを込め、次話投稿です。


――カーン カーン カーン カーン




魔物警報の鐘が鳴り響く。


ローラさんは、開きっぱなしになっていた店の扉をそっと閉めた。




「今日は外には出られないわ。 ……朝まで休みましょう」



その言葉に、俺は頭がカッと熱くなる。



「追いかけないんですか……?」


「えぇ…… 今は外に魔物が歩いて――」


「その言い訳は、相手が貴族だからですか……?」


「違うわよ!!! こんな暗い中で魔物の相手なんて狩人ならともかく――」


「俺なら暗くても大丈夫です。 知ってるでしょう、夜の森から薬草を採ってこれたんですから…… 行かせてください」


「……あの執事に勝てるの?」


「……」


「それに、対外的に見ればレイアちゃんは家に帰っただけ。 一度向こうの手に渡ってしまえば、正面から奪い取ったところで私たちの方が誘拐犯よ」


「じゃあ尚更今すぐ追いかけないと!」


「今日この店を出ることは許さないわ…… ソラちゃん、冷静になりなさい」


「……分かりました」



俺はローラさんに勧められるまま、ソファの上に横になった。


……目を閉じて、熱い頭のまま、レイアの顔を思い浮かべる。



家族に暴行を受け、度々アザを作ってくるレイアの、感情を棄てた顔。


初めて「薔薇の香り亭」に来て、声を出さずに涙を流していた日の、ホッとしたような泣き顔。


「レイアの作るご飯は美味しい」と言った時の、心の底から嬉しそうな笑顔。



……思い浮かべるほどに、俺の心を焦燥感が占め、俺の頭は冷静とはほど遠くなってく。



連れ戻されたレイアは無事なのか。


これから、レイアはどうなる?



向こうでは、ローラさんとヘンティさんが会話をしていた。



「レイアちゃんは貴族だったのでござるか?」


「えぇそうよ。 しかも家では、酷い扱いを受けているみたい……」


「ミルフォート家――中の下くらいでござるが、古い魔家でござるな。 もうすぐ5歳、でござるか……」




今はヘンティさんの口調すら腹立たしい。


耳をふさぎ、俺は眠りについた。




※  ※  ※




――コン コン コン



「今開けるわ」



朝、薄く日が射し込む頃に、兵士が現れた。


目を開けた俺が見たのは、扉を開けて応対するローラさん。



「そう……よかった、じゃあもういいのね」


「はい。 幸い被害も小さく――」



どうやら、街に侵入した魔物は討伐されたようだ。


もどかしい気持ちを抑えながら、俺は起き上がる。



「おはようございます」


「ソラくん、おはようでござる」



横を見ると、旅支度(・・・)を整えたヘンティさんがいた。



「ヘンティさん……ここを出ていくんですか?」


「デュフフ、やるべきことが出来たでござるよ」


「そうですか……」



そうだよな。

この世界で貴族に目をつけられれば、まともに生きてなど行けない。


……無謀にも、貴族からレイアを奪い取ろうとしている俺のそばにいれば、巻き込まれてもおかしくない。



「ヘンティさん、お元気で……」


「ソラくん――」


「どうするつもり? ソラちゃん」



店を出ていこうとする俺の前に、ローラさんが立ち塞がる。


……邪魔しないでほしい。



「無理矢理レイアちゃんを誘拐(・・)して、お尋ね者になって、それでその後どうする気?」


「……」


「ソラちゃん、冷静に――」


「俺は冷静です。 ……今日は仕事休みますね」


「待つでござ――」



俺は二人を振り切って、薔薇の香り亭を出た。



魔物の襲撃から開けた早朝、歩いているのは伝令の兵士達と、疲れた様子の狩人や傭兵たち。


その中を素早くすり抜けると、俺は孤児院へ向かった。



……レイアは、俺の手で救い出す。



孤児院へ帰り、みんなを起こさないように部屋に戻る。


持っている服の中で最も丈夫な麻の服に着替えた。

腰には使い慣れたナイフ。

足には鉄板入りのブーツ。

道具袋には、ヘンティさんからもらった火種の魔具。


その後、調理場に行ってパンをひとつ頂戴する。



黒い外套を羽織り、孤児院を出ようとしたところでタニア姉に会った。



「ソラ、帰ってたの?」


「うん。 ミリアはまだ"薔薇の香り亭"にいる」


「そう…… 二人とも無事でよかったわ。 ソラもミリアもよく無茶するから、すっごく心配してたのよ」


「タニア姉……」



ごめん。

これから、無茶するつもりです。


下手したら、もうここには帰ってこられないかもしれません。


……タニア姉には言えないけど。



「ソラ? ……どうしたの?」


「ううん、なんでもない。 タニア姉……」


「ん?」


「ありがとう」


「え? ちょっとソラ――」



俺は頭を下げ、そのまま振り返らずに走った。


向かうのは貴族街。

まずは、レイアの家を確認だ。




※  ※  ※




あまりスピードを出すと目立ってしまうため、強化しない速度で貴族街を歩いていた。


ミルフォート家を見つけたのは昼より少し前。


歩いているおばさんに聞くと、俺が子どもだからか、さほど警戒もされず場所を教えてもらえたのだ。


離れた場所から屋敷を観察する。

門を守るのは、ミルフォート家の私兵だろうか。



大きな木に、目立たないようによじ登る。


目にマナを集め、屋敷を観察した。

レイアの現状を確認するためだ。

ここからは、広い庭がよく見える。


何か得られる情報はないだろうか……

レイアは今どうしているだろう。



じっとしている現状に、焦燥感が込み上げる。

かといって、今は動きようがない。


しばらくそうしていると、目の前に白い光が現れた。



「……ネスカ」



どうして忘れていたんだろう。

俺は精霊のネスカを、薔薇の香り亭へ置いてきてしまっていた。



……今の俺は、冷静じゃないのかもしれない。



お腹減ったポーズをとるネスカにマナを与えながら、ふぅっと息を吐く。



――焦るな、少し落ち着こう。



ネスカにマナを与えた後、布袋からパンを取りだして半分にする。


パンをかじりながら、屋敷の観察を続けた。




※  ※  ※




観察を続けていると、その瞬間が現れた。


――小さめの木戸から、レイアが出てきたのだ。


俺は息を飲んで観察を続ける。


レイアの後ろから出てきたのは……例の執事だ。




二人は庭にある池のそばまで来た。


執事がレイアに何か指示をする。


レイアは両手を前に突きだし、何かをボソボソつぶやく。



レイアの体から、マナが出てきた。


マナはルーンを形作ろうとする……が。

白いマナのまわりに黒い光が絡み付き、ルーンが出来る間もなく押し潰されてしまった。



魔術の発動に失敗したレイアは、その場に膝をつく。

肩で息をして辛そうだ。



執事が口を動かすのを見て、俺は耳を強化した。

執事の言葉が聞こえてくる……



「……立ちなさい。 それとも、このまま変態貴族のもとに売り飛ばされたいのですか?」



――売り飛ばす、だと?


どういうことだ。



「さて、私はそろそろ仕事で立ち去らないといけませんが…… あの平民の宿に逃げたら、今度こそどうなるかわかりませんよ…… あの天才少年も」


「……ソラには何もしないで!」


「じゃあ逃げずに練習を続けることです。 上手くいったら(・・・・・・・)また彼に会えるかもしれませんよ」


「……」



レイアは立ち上がり、何かをボソボソとつぶやき始めた。


それを見た執事は、ため息をひとつ吐くとその場を立ち去る。



その後、レイアの魔術は何度やっても成功しなかった。

あの黒い光が邪魔をするためだ。


あの黒い光は何なのだろう。

前に見た病気の光にも似ているが、何かそれより"人工的"なものを感じるのだ。



それでも、何度も立ち上がっては魔術を発動しようとする。

みるみるうちに、レイアはフラフラになっていった。



すぐにでもレイアをさらいたいが、庭には庭師や私兵らしき人たちがあちこちにいる。


やはり夜を待つしかないか……。



1時間が過ぎ、2時間が過ぎ。

その間、レイアは魔術を使っては倒れ、また起き上がりを繰り返している。


俺はその間、ただ見ていることしか出来なかった。



そろそろ本当に限界だという頃、そこに現れたのは一人の少女だ。


年は7,8歳くらいだろうか。

一目見て、貴族と分かる姿をしている。


……ボロボロのレイアの服と違い、真新しくきらびやかな生地を纏っているのだ。


髪の色は水色に近い。

気の強そうな眼差しで、口の片端を上げながらレイアに近づいていく。


……すごく嫌な笑顔だな。



「あんた、まだそんな無駄な努力続けるんだ。 無能のくせに」


「姉さん――」


「あんたに"姉さん"なんて呼ばれる筋合いはないわよ!!!」



少女はレイアを蹴り飛ばす。


レイアは仰向けに倒れたまま、息を荒く乱している。


――思わず飛び出しそうになって、踏みとどまった。


俺が飛び出すのは"今"じゃない。



「なんだっけ、王都にいるあのロリコン……あぁ、武家のカイラス家の次男だったかな? あの気持ち悪いオッサンが、あんたを欲しがってるみたいよ…… よかったわねぇ、いい買い取り手(・・・・・)がいて」



レイアを見ると、無表情で震えている。



「あっはっは、まぁせいぜい無駄な努力を続けることね」



少女は最後にレイアの右手を踏みつけ、立ち去って行った。



……待ってろレイア、必ず今夜助けに行くから。



レイアは立ち上がり、体についた泥を払い落とす。

少しだけ顔を拭うと、屋敷の方へと向かった。


フラフラした足取りだ。



「ネスカ、お願いがある。 レイアの後について、部屋の場所を調べて来てくれないか」



ネスカは俺に敬礼をすると、一目散にレイアのもとへと飛んでいった。




※  ※  ※




夜も完全にふけた頃。


俺は木の上で目を閉じていた。



『肉と魚、どっちがいい……?』


『ソラが旦那さん』


『今日は……デザートを作ってみたでござ……る』


『……ソラには何もしないで!』



……助けよう、必ず。


そのためなら、誘拐犯にでもなんでもなってやる。



俺はそっと目を見開く。



門番はウトウトと首を前後に動かしている。



「……行こう、ネスカ」



俺は静かに木から飛び降りると、素早く塀に向かった。



――この一線を越えれば、もう後戻りは出来ない。



俺は足を強化した。


そして……


躊躇することなく、塀を飛び越えた。



ご感想も沢山いただき、ありがとうございます。


お気に入り登録をしていただいたり、文章評価・ストーリー評価のポイントを付けて頂く事が本当に励みになっています。


ありがとうございます!!!

今後も頑張ります^^

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