第01話 前世の記憶
初回のみ3話更新。
以降、3日から4日ごとに更新して行こうと思います。
まったり行きますので、優しく見守って下さい!
それは、ぼくがもうすぐ5才になるころだった。
鬼ごっこで走りすぎて疲れたぼくは、ちょっと休憩……と、部屋の床に座って周りを見渡した。
あれ、なんだろう?
気になったのは、タンスの上から垂れ下がっているヒモ。
なんとなく……そのヒモをひっぱってみた。
「ソラ! 危ない!!!」
え? なに?
――上から"タライ"が落ちてきた。
ボコンッ
タライが頭にぶつかった瞬間、ぼくの頭のなかで、なにかが弾けた――
※ ※ ※
気持ち悪いストーカー野郎が、顔を真っ赤にしながら俺に突っ込んできた。
「空! 危ない!!!」
――ドスン
「空!!!」
くっ、痛ぇ……
幼馴染の叫びを聞きながら、俺は自分の腹を見た。
そこには、深々とナイフが刺さっている。
……すっげー痛い……!!
ギロッとストーカー野郎を見る。
奴は、自分が何をやらかしたか理解したようで、さっきまで真っ赤だった顔を真っ青にしながら震えていた。
「あぁ…… うわぁぁぁぁぁ!!!」
そして、奴は逃げ出す。
よかった……とりあえず、幼馴染にまとわりつく変態は、撃退できたようだ。
……おぉぅ、にしても腹痛ぇなぁ……
見ると、血がドバドバ出てきている。
なんか目も霞むし――これはやばいのか?
……うーん、死にたくはないな。
まだ高2になったばっかだってのに。
作りかけの自作パソコンも、やりかけのゲームもあるしさ。
なんだろう……。
立ってるのが辛い。
俺がその場に倒れ込むと、頭をなにか柔らかいモノに乗せられた。
これは……?
あ……幼馴染の膝枕だ。
なんだかちょっと恥ずかしい。
ひとまず、深呼吸をしてみる。
……よし。
休んでたら、あんまり痛くなくなってきたぞ。
まー意外と冷静だし、体も楽になってきた。
もう大丈夫だろ。
「空! 空!!!」
幼馴染の声が聞こえる。
泣いてんのか?
バカだなぁ……大丈夫だって。
「ごめん、空! こんなこと頼むんじゃなかった…… 空!!!」
いいって。
俺とお前の仲だろ?
ストーカーの撃退くらい、いつでもしてやるって。
「……気にすんな……ゲホッ」
「――しゃべらないで! 救急車、もうすぐ来るから」
まったく、なんて顔してんだ。
涙でぐちゃぐちゃになってさ。
「せっかく撃退して、やったんだ……から、泣いてないで笑えよ」
そのために体張ったんだから。
そのくらいのご褒美はくれよ?
「う、うん……」
幼馴染が口角を上げようとするのを、目の端でとらえる。
あれ?
なんか目が霞むなぁ……
これじゃ、アイツの笑った顔が見えないよ。
視界が悪いな。
もっとよく見たい、見させてくれ――
そこで、俺の記憶は途絶えた。
※ ※ ※
「痛ぇぇぇっ!」
足元にタライが転がる。
まったく、誰だ、こんなイタズラしやがったのは……
「ソラ、大丈夫?」
「大丈夫だ。 問題ない」
「? やっぱり大丈夫? なんか変だよ?」
「ほ、本当に大丈夫だから。 タニア姉は仕事に戻って!」
「う、うん…… 何かあったら私に言うのよ?」
5つ年上のタニア姉が掃除を再開するのを、ぼんやりと眺めた。
はぁ~…… これってもしかして。
いや、もしかしなくても、"前世の記憶"だよなぁ。
前世の俺は、幼馴染をストーカーしてた野郎に刺された後、死んでしまったらしい。
死ぬのって、結構あっけないもんなんだなぁ。
家族、泣いたかな。
自作パソコンももう少しで完成だったのに。
今、俺の体には17年+5年分の記憶がある。
それで、記憶を照らし合わせてみたんだが……
「ここ、前とは違う世界だ……」
簡潔に言えば、異世界に転生した、らしい。
まず、俺が住んでるこの"孤児院"があるのは、ガラントの街。
王都から馬車で1週間ほどの距離にあり、王都から西に繋がる街道はほとんどこの街を通っていく。
そのお陰で、各地から人やモノが集まるようになった。
"交易都市ガラント"
それなりに大きい街――なんだが、前世では聞いたこともないだろ?
けっこー有名な都市なのにな。
だいたい馬車ってなんだよ馬車って!
俺の知る限り、ここには飛行機はもちろん鉄道も車もない。
極めつけは、夜空の月。
この世界では、月が3つ存在している。
あとは、"魔術"なんてものもあるらしいが、実際に見たことはないし貴族しか使えないそうなので、俺には関係ないだろう。
異世界転生ってあるんだなぁ。
というか。
まぁ転生はいいにしても、俺はひとつ戸惑ってることがある。
「うーん……"コレ"、なんだ?」
俺が戸惑うのは、記憶が蘇ってから突然見えはじめたモノ。
体の中を、"白い光"のようなものが血液のように循環している。
血液と違うのは、ポンプのような役割をしている場所が"心臓"ではなく、ヘソの下あたりにある事だろうか。
その白い光の溜まっている場所が、脈打つように点滅している。
こんなの、前の17年でも今の5年でも見たことなかった。
――まー、コレの正体は、追々解明していくか。
「あー、タライ1号が落ちてる! ソラがやったの!?」
子どもの声が聞こえてきた。
振り向くと、同い年で"猫人"のミリアがいた。
猫耳をピクピクさせている。
「お前が犯人か!!!」
「うるさい! 院長のオシオキのために仕掛けたのに、なんでソラが落とすのよ! 謝りなさい!」
「なんで俺が――」
「謝りなさい!!!」
「いや俺は被害者――」
「謝れぇーっ!!!」
「……ごめんなさい」
「分かればいいのよ。 うん」
人の話聞きやしねぇ……
俺はミリアを観察してみる。
やはり、ミリアの体にも白い光が循環しているようだ……
ん? なんだか、足に集まる光の量が多い気がするな。
「ちょっと! 聞いてるの!?」
「悪い、聞き逃した」
「もう! 人の話はちゃんと聞きなさい!!!」
……お前がな。
「というワケで、もう一度仕掛けるわよ!」
「何を?」
「タライ1号」
「えっ!? やめとけって!!」
被害者を増産する気かコイツ……
結局、ミリアに押しきられ、一緒にタライを仕掛けているところにタニア姉が登場。
二人揃って怒られることになったとさ。
納得いかねぇ……
――数日後。
今日は俺の5歳の誕生日だ。
精神的には+17歳だけどな。
前の世界では七五三なんてものもあったが、この世界では2歳、5歳、8歳の誕生日は盛大にお祝いする風習がある。
そんな風習が根強いのも、子どもがその年齢を越えられないことが、前の世界より圧倒的に多いからだろう。
この孤児院も、普段は質素な食事を心がけているとはいえ、今日は手の込んだ料理がテーブルに並んでいた。
「ソラ、誕生日おめでとー!」
「おめでとう♪」
「し、仕方ねぇな、今日だけ祝ってや――」
「うわーゴチソウだ~!!!」
テーブルを囲む子ども達は嬉しそうだ。
……もちろん俺も嬉しいが。
目をキラキラさせて食卓を囲む子ども達の中に、一人だけ、目をキラキラさせたお爺さんが混ざっている。
孤児院の院長だ。
「ご馳走じゃ~! 楽しみだのう♪」
……楽しそうだなジジィ。
子どもと同じ目をしてやがる……
「はーい、追加の料理も持ってきたから、そろそろ食べましょ~♪」
皿を持って現れたのは、タニア姉だ。
この国では、孤児達は10歳になると働きに出始める。まぁ親がいる場合でも、大抵は家の手伝いをし始めるのがこの年齢だ。
成人は15歳。
孤児たちは、成人になれば孤児院にはいられない。
それまでにお金を貯め、独り立ちする必要があるのだ。
成人しても独り立ちできない元孤児は……まぁ、どこかで餓死か凍死か、犯罪に手を染めて処刑されるか。
いずれにせよ、シビアな未来が待っている。
ニート? 無理無理。
さて、タニア姉は少し特殊で、子ども達からなつかれて面倒見もいいし、掃除も料理も得意。
孤児院としてもなくてはならない存在なため、成人後もそのまま孤児院に就職することが決まっている。
おや、ミリアがフライングして食べはじめた。
俺も食べよう。
「いただきます!」
「ソラ、なにそれ?」
「あ、いや何でもない」
……あはは、つい日本風の挨拶をしてしまった。
こっちじゃ「いただきます」も「ごちそうさま」もないもんな。
あぁ、周りの目が痛い。
「私の肉ー!!!」
「フォッフォッフォ、早いもん勝ちじゃろ~?」
「私の取り皿の肉じゃない! 謝りなさいよ!」
「ミリアよスマンな――ヒョイっと」
「ぎゃーまた取ったー!!!」
大人気ねぇ……
まーミリアと院長のケンカ?はいつもの事だけどな。
俺も、タニア姉の料理を口にいれる。
肉の旨味がジュワーっと、口一杯に広がった。
隣の野菜を口にいれる。
野菜の味付けが肉汁と混ざりあい、口のなかで料理が完成する。
――ウマーっ!!!
「あぁー! ワシの肉ー!!!」
「早いもん勝ちよ!」
今日も孤児院は平和だ。
俺は、前世の記憶を取り戻し、変なものが見えるようになった。
たぶん、偶然が重なったのだろう。
前世も今も名前がソラ、だったり。
死ぬ間際に「見たい」と願ったり。
きっと他にも、いろいろな偶然があって、このヘンテコな状況になっている。
ま、それでも俺は俺だからな。
少し変わった二度目の人生を、せっかくだ、楽しく過ごせればいいなと思う。
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