・第7話(エピローグ)
その翌日。
キャロルは病院の前にいた。
今日学校から帰るときに連絡があり、病院の前に来るように言われたのだった。
キャロルはあたりを見回すが、あのようなことがあったというのに病院は何事もなかったかのようにいつも通りのようだった。
それからほどなく病院の前に一台の車が停まり、中から原田と校長が出てきた。
「待ったか?」
「いえ、先ほど来たばかりだから。…それよりも校長先生もなんでここに来ているんですか?」
「いや、事件のことに関していろいろと原田君から聞きたいこともあってね。…ところで原田君」
「なんでしょうか?」
「その…、彼女のほうはどうなんだ?」
「ああ、その事ですか。あの件から監視体制を強化しています」
「そうか、それで、彼女の具合はどうなんだ?」
「はい。一応危険な時期は脱出したそうですね」
キャロルはそれを聞いて、
「それはよかった。でも…」
「何か心配事があるのか?」
「いえ、その、こうなると彼女は…」
すると原田が、
「ああ、そのことか。大丈夫だ。監視体制を強化してもし何かあったら連絡が来るように手配しておいた。それに」
「それに?」
「ああいうようなことがあって今我々が詳細を調査している。しかもわざと目につくようにな」
「…そうか。目につくようにすれば向こうだってあたしたちが調査に乗り出していう子tがわかってうかつに手が出せなくなるわね」
「そういうことだ。とにかくこの件に関してはこれからも我々のほうで調査を続けるのできみは学校内の調査を続けてくれ」
「わかりました」
*
それから数日が過ぎたが、学校は平穏な日々を取り戻していた。
副委員長の少女が入院していることは狙撃された翌日(勿論このことは生徒や一般の教師たちには伏せられてたので、知っているのは校長とキャロルと原田の3人だけだが)から話題になっていたのだが、それも2~3日たつとあまり話題にも上らなくなった。
キャロルもそれからそれとなくという感じで生徒たちに話を聞いてみたのだが、不審な人影を夜中に見かけることはなくなった、といった一般的な証言だけでこれといった情報はつかめなかった。
そんなある日の放課後、キャロルは原田に呼ばれて学校の近くにいた。
「…そういえば、彼女、自主退学になったんですって?」
キャロルが原田にあってそうそうに言う。
「もうその情報が入っているのか」
「正式にではないけれど、なんか今日校内でみんなが噂していたから。本当のところはどうなの?」
「いずれ、生徒たちには発表する予定ではあるが、その通りだ。周りに説得されて、昨日退学届けを出したそうだ」
「でも、みんなにはなんて言うの?」
「心配するな。個人的な都合ということにしておく。君だってもし誰かが急に退学したとして根ほり葉ほり聞こうと思うか?」
「まあ、それはそうだけれど…」
それを聞いたキャロルは浮かない顔だった。
「…どうかしたのか?」
「いえ、なんかあたしが、彼女をあんな目に遭わせてしまったような気がして」
「何を気にしているんだ。君だってロンドンにいたころは何度も似たようなことをやってきていたんだろ? それに君が日本に来た目的も同じようなものだろ?」
「まあ、そうだけどね」
「それに彼女だって好きであんなことをやったんじゃない。止むにまれない事情であんなことをしなければならなかったんだ。憎むのは彼女ではなく、甘い言葉で彼女をあんな道に引き込んだ組織の連中じゃないか」
「それはわかってるけれど、あんな目に遭ってしまって彼女、立ち直れるかしら」
「きっと立ち直れるさ。ああいうことをやる人間というのは意外と芯が強いものなんだ。それだけ芯が強ければ我々が心配しなくともきっと立ち直ることができるさ」
「そうだといいけれどね」
「とにかく、事件に関しては我々が今後始末をしている。君は気にしなくていい」
「それはお願いするわ。ところで…」
「ああ。調査を進めているんだが、どうやら今回捕まえたやつは組織の中でも下っ端のやつのようだ」
「やっぱりね。そうじゃないかと思っていたんだけれど。それで彼らをどうする気なの?」
「一応取り調べをするだけしておいて、今でも拘束している。まあ、近々何らかの形で日本から追い出すだろうな」
「そんなことして情報のほうは大丈夫なの?」
「心配するな。こっちだって相手の弱みを握っていることになるんだ。駆け引きの道具にはなるだろう」
「確かに言うとおりだけどね。それで連中は何て言ってるの?」
「下っ端の奴だったからあまり詳しいことは聞けなかったし、向こうもあまり詳しい情報を聞かされていなかったようだが、まあ、でもいくつかわかってきたこともある」
「それっってどんなこと?」
「君が日本に来る少し前からやはり連中も活動を始めていた、ということだが、どうやら我々が考えている以上に相手も情報網を巡らせているようだ」
「そんな短期間で情報網を広げることなんてできるの?」
「今はネット時代だからな。それこそ組織の力を使えば1日でかなりの情報網を広げることなんてわけもない。こちらも何とか情報をつかもうとしているので必死のように相手であってそれだけ必死になって情報をつかもうとしているんだ。今の世の中は情報戦だ。情報戦に勝たなければ彼らの活動を止めることなんでできない。それに…」
「それに?」
「今回のことで分かったと思うが彼らは利用できると思ったら一般人でも平気で使うし、自分たちの秘密がばれそうになったら平気で抹殺しようとする。彼らにとっても何か知られたくないことが多いんだろう。それに」
「それに?」
「今回のことが明らかになる前から何者かによっていくつかの情報が漏れた形跡があるんだ」
「なんですって? それじゃ…」
「ああ。連中はかなり早くからいろいろな情報を入手してきているらしいんだ。おそらくそれで我々より有利に立とうという考えなんだろう」
「もしかして、あたしの情報も?」
「…いや、君に関してはイギリスから来た交換留学生というデータしかないはずだし、今のところ我々のデータが相手に渡ったということもないはずだ。大体君だってあくまでもキャロル・ナオミ・ハインズはなく、キャロル・久米としてふるまっているんだろう?」
「それは気を付けているけど…」
「われわれのほうでもなんとかデータ流出には気を付けるが、とにかく、君の日本での活動はまだ始まったばかりだ。いろいろと大変だと思うが、これからも頼むぞ」
「わかってるわよ」
TO BE CONTINUED“Agent CAROL:Mission.2”!
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