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自治区抹消  作者: SET
1章 兆し
12/37

11 ◆

「あの。もう、リースには行けなくなったから。これからは、何か進展があったら、電話で……連絡する。絶対、自分から動いたりしないでね」

 起き抜けに携帯電話が鳴った。出たと思ったら、一方的に言葉を告げられて切れた。

 リースに行けなくなったとはどういうことか。サラは今日も、言葉が、足りない。だが、関係のありそうな事実については、知っている。

 携帯電話を放り、粘っこい汗がまんべんなく広がる額を、手の甲で擦り付けた。カーテンが閉まった少し暗い部屋で、手の甲についた脂が浮いて見えた。嫌な汗だ。矢内美晴が殺されたというニュースを聞いた時の寒気が鮮明に蘇ってくる。昨夕の記憶が溢れ出、ベッドに体が縛りつけられる。

 無理矢理、背中を引き剥がした。足に力を入れて立ち上がり、軽く息を吐く。夜には全く眠れる気配がなかったのに、リースが営業を始める朝になって眠ろうとしていた。コルネリエが、どうなってしまっているのか、怖くて、リースを覗きに行く勇気が出ない。昨日も、コルネリエが感情を表へ出さなかったのをいいことに、何も特別なことはせずに帰ってきてしまった。

 もう一度会ったら、美晴も貴方も殺される。サラはそう言っていた。サラを信じるなら、会ってもいないのに殺されてしまったのは自分のせいではない。それでも、普通の感覚を持った人間なら……美晴の死に、何かしらの形で関わってしまったのではないか、そういった後ろめたさを感じるはずだ。少なくとも自分は、感じる。だから、コルネリエに会うのが怖い。

 カーテンを開けた。もう、すっかり日は昇っている。

 ……行くか。


 店の正面玄関のドアノブに掛けてある札が、『閉』に変えられていた。鍵も掛かっていて、開かない。

 コルネリエは、定休日以外には、滅多に休まない。もう少し早く来るべきだった。焦って裏口に回ると、裏口も鍵が閉まっていた。

 仕方なく、正面玄関に戻り、木製の扉をノックした。すると意外にもすんなりと鍵が開く音がして、中から、常連客の黒沢が、水色の半袖ワイシャツを着た姿を見せた。

「お、ヴェルナーか……まあとにかく入れ」

「コルネリエは?」

 問いながら入ると、コルネリエはカレーのルーがついた皿へ、倦んだ目を投げかけていた。顔を上げたコルネリエと、視線がぶつかった。

「ごめん、今日は、休む」

「そのほうが……いい、ですよ」

 自分でもぎこちないと思う言い方しかできなかった。彼女はまた、目を伏せた。

「私はいいから、サラの様子を見に行ってあげて。私、ロルフに電話で頼まれて……思い切り怒ったから。美晴が死んだのはお前のせいだって言ってね。本当は、そんなこと思ってない。ロルフにバレないように、誤解を解いてきて」

 コルネリエは、皿を持って立ち上がった。

「黒沢さんも。朝から、申し訳ありませんでした。この次は……ちゃんと応対します」

「ん。分かった」

 ヴェルナーの隣で突っ立っていた黒沢に、腕を引かれた。

「出るぞ」

「え」

「心配するな。子供じゃねえんだから」

 コルネリエの背中が、調理室に消えた。

「ほら」

 促され、先にリースを出る。黒沢もすぐ後に続いた。

「一人になりたくなったんだろ」

 店の入り口で、黒沢が呟く。

「黒沢さん、知ってるんですか? 今回のこと」

「サラがコルネリエに凄い剣幕で怒鳴られてるのを、たまたま聞いちまってな」

「サラ、が……」

 今朝の電話は、そういうことか。

「美晴ちゃんを見殺しにした、とかも聞こえたから、今朝やってたニュースはコルネリエも関わってるって気付いた」

「元内縁の妻が、よくコルネリエと繋がりましたね」

 そこで、内側から鍵をかける音が聞こえた。

「ただ、勘が良いだけだ。まあ、ある程度の話は俺が聞いてやったから。ヴェルナーは大人しくサラの様子を見に行っとけよ。どうしても辛くなったら、お前の携帯にでも電話するだろ。それでもし……お前でも解決できないことが起きたら、俺も頼れ」

 黒沢は、手帳を取り出してボールペンを走らせると、携帯電話の番号が書かれたページを破って寄越した。

 ヴェルナーが手帳の一部を受け取り、失くす前にと思い携帯電話に番号を登録している間も、黒沢は目を離さない。しっかりと登録されたことを確認したあと、リースの駐車場に停まった黒い普通車に向かって歩いていった。

「明日も食いに来るから。ちゃんと仕込みやっとけよ」


 門が少しだけ開いた。約束もなしで訪れるのは何年かぶりだ。そのことを、ロルフは訝るだろうか。

 いつものように広大な庭を横切り、玄関まで辿り着く。玄関の扉はサラが開けるのが、ここ最近の慣例となっている。そう思って扉の前に突っ立っていたが、開けたのは、サラの姉である、絵里だった。

 自治区外に出て何年も経つはずの女だ。驚いて「絵里」と呟いてしまった。長かった髪を途中で毟り取られたかのような髪型の絵里は、笑う。はっ、と、相手を小馬鹿にした懐かしい笑い方。目は真っ赤に充血して腫れぼったく、口の周りには涎の跡と思しき、白くて粉っぽい汚れがついていた。襟と裾が伸び切ったTシャツ一枚を素肌の上に直接着て、下はTシャツで隠しきれない下着が見えてしまっている。

「サラは?」

 笑い方が気に障ったヴェルナーは、無愛想に訊いた。

「久しぶりに会って、開口一番がそれ? いつでもどこでもサラ、サラ、サラ、サラ。ばっかじゃないの」

 絵里は薄く笑みを零したままだ。ヴェルナーは舌打ちをした。ずいぶんと、久しぶりに。

「相変わらずだな……それはいいけど、その格好、どうにかなんないのか」

「文句ならあのくたばり損ないに言って。私が自治区外に出て好き勝手やっていたことに対して、罰を与えたんだよ。いくらあいつでも、私の根っこまでは壊せないけど。もともと性根が腐ってるからね」

 減らず口を叩き続ける目の前の女が、くたばり損ないなどと呼ぶのは、一人しかいない。この間、自分と会談した時に穏やかな表情を浮かべていた老人を思い返す。あのロルフだけ、だ。シャツの間から覗く肩口には、いくつもの大きな痣があり、その上に極太のミミズ腫れがのたうっていた。よく見れば血痕も。ロルフがやったとはとても信じられなかったが、嘘をついて何か得があるとも思えない。

 ロルフはヴェルナーには優しく思えるが……身内にはとても厳しい、のかもしれない。サラと絵里に対し、愛する孫娘としては接していないことも、薄々は感じてきた。絵里に対してここまでするロルフのそばに、サラを居させて、平気なのだろうか。ふと思ったが、よく手伝うサラにまで危害を及ぼすことは考えにくい。すぐに考えを打ち消した。

「お前さあ……」

 昔、まだ、こんな喋り方でなかった頃の絵里を思い出した。こんな風になっていったのは、絵里が高校一年の頃から、だ。毎日どこかにあざを作って、目を真っ赤に充血させて、理由を問いただしても、何も言わず、こちらを罵るだけになっていった絵里。

 居た堪れない気持ちになり、何か慰めの言葉を発しようとした。だが、優しく声を掛けても、今の絵里には馬鹿にされるだけで終わる気がしたので、何も言わなかった。

「くくく……なに、可哀想とか思ってくれてんの?」

 ショートに“させられた”であろう色彩薄めの金髪が、笑うたびに揺れる。出て行く前は黒髪だったが、不思議と違和感は覚えない。むしろこちらの方が今の絵里の性質とは合致している気がした。

「サラは」

「サラは、地下で訓練中。応対できない」

「そっか、なら、いい」

「そういえば、サラが矢内美晴を見殺しにしたって、聞いたか? さっき出してもらうまで五時間くらい地下室に居て、そこでジジイの部下たちの話を立ち聞きしたんだけど。あのジジイはさぁ、排他主義者の知り合いが多い矢内美晴を利用して何かやろうとしてたんだよ。それで、矢内美晴を利用する下準備の担当は、サラだった。脅迫の材料を揃えていたら、サラの行動が敵に感づかれて、先に殺されたらしい。けど、あいつのせいで矢内美晴が死んだのに、あいつは、なんとも思ってない。ジジイと同じで、使う予定の駒が壊れた、くらいにしか思ってない」

「サラがどうして、なんとも思わないんだ。美晴さんは、コルネリエの恩人だろうが」

 帰って来たばかりの絵里の与太話など、信じることのできる要素はどこにもなかった。投げやりに答えるしかない。

 玄関の大きな扉を支えたまま、絵里はまた、はっ、と笑った。

「罪悪感覚えてるなら、のこのこコルネリエに会いに行かねぇっつうの。このところのサラは、私は祖父の忠犬ですって張り紙をいっぱいして貰えるように、いつでもどこでも尻尾振ってるよ。馬鹿だ馬鹿。馬鹿しかいねぇよこの家には」

 話し方はまるで違うが、顔は、おかしくなる前の絵里と同じまま。サラが、矢内美晴を脅迫しようとしていた、という部分を信じてしまいそうになり、話題を変えた。

「あんまりじいさんに反抗してばっかりいると、もっと酷い目に遭わされるんじゃないのか?」

「殴られて鞭で打たれて裸のまま地下牢に放り込まれて、飢えたドーベルマン三匹と一緒に五時間過ごした私に、吐く言葉?」

 どこまでが本当でどこまでが嘘なのか判然としない口調で、絵里は言った。だが、全部本当だとすれば体全体に散らばる傷痕には納得がいく。

「鞭とか時代遅れだって鼻で笑ってたら、あれ、ホントに痛いんだね。あんまり痛いから、言葉遣いは家出する前に近くなったよ。手足を鉄線で縛られるわ言葉遣いを直さないと五本の鞭が飛んでくるわでね。犬も結構きつかった。何箇所か噛み千切られた。三匹ともブッ殺したけど」

「それ、俺に愚痴ってるつもりか? 落ち込んでないのか落ち込んでるのか、はっきりしろよ」

「お前が取りたいように取れば? サラの話に戻ろうか。これを信じる信じないはお前の勝手。私が言ってたことが本当だったと後悔するのもお前の勝手。犯罪に手を染めるサラを、止めても止めなくても、今までと同じではいられない。どう転んでも私は楽しめる。あー、最高に気持ちいいね」

 絵里は愉快そうに笑って、扉から手を離した。重厚な扉が軋みを上げて閉まっていく。

「サラは明日の夜まで、隙間なく予定が入ってるらしい。で、予定を中断させて会っても罰を受けるのはサラ。……明日の夜、来いよ。予定が空いてるみたいだから」


 コルネリエは、仕事はこなせるようになっていた。こなせるとは言っても、たった一日の休養では元の状態に戻るわけがなかった。愛想笑いすらも出来ないコルネリエを前面に立たせるわけにもいかない。客から注文を受けてコルネリエに注文を伝え、コルネリエによって調理されたものが載った皿を、またそれぞれのテーブルまで運んで別の客の注文を取った。そこまでの繁盛をしているわけではないこの店も、昼時は近場の会社員が押し寄せて、息つく暇もなかった。二人で入れ替わり立ち替わりし、上手く回している普段とは違う。テーブルの片づけをしている間にレジに行列が出来てしまっていたり、頼んだものが来ない、昼休みが終わってしまうと怒鳴られたりもした。

 一日を乗り切った後、コルネリエに「昨日会えなかったので、サラにもう一回会ってきます」と告げ、すぐにバス停へと走った。コルネリエは一人で平気だ、と言っていたから、その言葉を信じるしかない。

 ロルフ邸近くのバス停で降りると、ぽつぽつと雨が降り出していた。天気予報を見る習慣がないため、傘など持ってきていない。小降りだからすぐに止むだろうと高をくくり、軽装のままバスを見送った。

 街灯を頼りに、見飽きるほど長く続く壁面沿いを歩き、昨日訪ねたばかりの巨大な門扉の前へ。そこには、門の端に設置された一際明るいライトに照らされ、赤黒い無地の傘を差した金髪の女が一人で立っていた。

「あんた、傘は?」

 挨拶もなしに、訊ねてきた。白いTシャツにジーンズという出で立ちの絵里は、昨日とは違って顔に汚れなどはない。服は派手なものが好きだったから、恐らく最低限の服装以外は取り上げられているのだろう。

「ない。一本、貸してくれ」

「あ? 私はこれ以外、持ってねえよ。どんなに降ってきたって入れないからな。お前と二人で一つの傘なんて考えただけで鳥肌が立つ」

「じゃあ、家の中に」

「今は無理。家ん中の連中は馬鹿面向け合って右往左往してる」

「どうして?」

「矢内美晴を殺した男の家から、同化推進派の活動に参加してた証拠やら、その団体の頭から受けた、暗殺の指示を暗号化した文書やらが見つかってるって情報が流れた。ジジイが相手にしてる奴らは用意がいい」

 矢内美晴のニュースをコルネリエに見せないよう、ずっとテレビを消していた。新しい事実が浮上していたこと自体、知る由もなかった。

 絵里はあくまで他人事であると言わんばかりに、大きな欠伸を零す。

「単独犯だと思ってた奴からそんな証拠が出てきたもんだから、警察は証拠自体を疑ってる。それが正しい。けど、矢内美晴は排他主義者の相談も多く受けていた。そこへ、この証拠。排他主義者の、同化推進派に対しての心象はかなり悪くなっただろうね。まあ、ただの馬鹿だよ。平凡な同化推進派団体にそんなことをする度胸と隠蔽能力があるのか、冷静に考えれば分かるって」

 絵里が喋る間に雨脚が強まってきた。傘を叩く音が強くなったのを確認した絵里が視線をこちらへ向けてきた。何も持っていないヴェルナーを見て、愉しそうに笑う。口元が、ばぁか、と動いた。苛立って目を逸らし、壁に寄りかかる。

「今の話も、サラはお前に隠そうとしてる。お前、のけ者にされてんだよ。計画阻止には邪魔だから」

 もともと、突っかかってくる絵里をいなしているうちに少しずつ態度は軟化していた。その数年前よりも、更に雰囲気が柔らかくなったな、と思いながらその言葉を聞き流す。この程度なら、話が通じそうだ。散々嫌ってきたコルネリエに対しては、これから先もあまり変化はないだろうが。

 雨が、髪と服を順調に濡らしていく。立っているのも馬鹿らしくなり、その場に座り込んだ。顔を下へ向けて目を閉じる。

 バスの中で時刻を確認した時には夜九時十二分だった。まだ来ていないとすれば、サラがここへ来るのはもう直だろう。

 車のドアを閉める音が、聞こえた。顔を上げて立ち上がると、遠くの街灯の下に、雨に紛れ、薄ぼんやりと人影が浮かびあがっている。傘を差した絵里が人影の方に近づいていく。ずぶ濡れの服が体に張り付くことに、気持ち悪さを覚えながら、その後ろを追った。

 近づくたび、徐々に輪郭がはっきりとしてくる。

 街灯の下、絵里と二人、何も話さずに突っ立っていると、サラが近づいてきた。俯いていて、こちらに全く気付いていない。

「サラ」

 絵里の呼びかけに、ようやく顔を上げた。声で判断したらしく、顔を上げた瞬間に睨んでいる。

「何? 貴方と話す事なんて何もない。喧嘩吹っ掛けてくる気なら、腕くらいは貰うから」

「私は別に。ヴェルナーは、あるらしいけど?」

 そこでサラは、ヴェルナーの存在にも気付いた。一時はリースの店先で不審者を警戒していたサラにしては、注意力が著しく散漫だ。

「ヴェルナー……」

 雨音に掻き消されそうな声が、かろうじて耳に届く。

「美晴さんが死ぬ前、脅迫材料を集めてたって、本当か? それ以外にも、自分から進んで、犯罪じみたことをしてるって」

 昨日からずっと懐で温めてきた疑問を、ぶつけた。

 サラは何も言わなかった。それが肯定の沈黙に思え、もう一度同じ問い掛けを吐こうとする。するとサラは絵里に向かって駆け寄り、そのままの勢いで絵里の体を蹴り飛ばした。赤黒い傘が飛び、雨風に煽られてヴェルナーの足もとに転がってきた。無言のまま、無表情のまま激昂したサラが、倒れた絵里の腹や顔を容赦なく足蹴にしている。ヴェルナーは咄嗟に傘を拾い上げて閉じ、サラの背に向けて投げた。傘の柄が背にぶつかっても、暴行をやめる気配は全くない。投げてすぐ駆け寄っていたヴェルナーは、サラの腕を掴んで、後ろへ引き倒した。

「いくら絵里でも死ぬぞ!」

 ヴェルナーが怒鳴ると、体勢を立て直し、再び絵里に向かおうとしていたサラの動きが止まった。ヴェルナーの方を、向く。

「こいつ、何、言った? ヴェルナーに、何を言ったの!」

 間近で、今まで見たこともない必死の形相で叫ばれ、思わず、次の言葉を呑みこんだ。

 肩を激しく上下させているサラは、続けて抑えた声で言う。

「ヴェルナーは、私のことより、こいつのこと、信用するんだ? 今まで嫌なことは全部私に押し付けてきた、こいつのことを? 矢内美晴が死んだのは、お前のせいだ。こいつの言うことを真に受けて、そう、思ってるんだ?」

 サラは、ヴェルナーから視線を外し、門の前へ歩いていった。

 そして、門を、蹴った。黙ったまま、何度も、何度も、執拗に。

 ふと足が止まったと思うと、サラは「あ」「お」ともつかぬ呟きを零した後、獣の咆哮を発した。際限なく降り続ける雨に向かって、叫ぶ。

 息が続く限り叫び続け、それを終えると、門を形作っている細い鉄棒を掴み、門に向って頭突きした。

「なんだよ! なんなんだよ、お前らはっ!」

 叫びながら、門へ、小刻みに頭突きを浴びせかけた。

「貴方も、コルネリエも、おじいさんも、絵里も、みんなそう! 私の事なんて分かろうとしない! 私が何を言われたって傷つかないと思ってる!」

 サラの全身から迸る情動に晒されたヴェルナーは、ただただ呆けているよりほかなかった。

 警備員が開ける事を許可したのか、門が、徐々に開いていく。

 呼吸が正常に戻らないサラは、静かに門から手を離した。

「お前なんか、事件に巻き込まれて勝手に死ねばいい」

 背中を向けた状態でそう告げてからはもう、脇目も振らず、夜に覆われた庭へと消えていった。

 コンクリートの上に伏し、体を丸めたまま雨に打たれ続ける絵里が、力なく笑った。

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