生業!冒険者です。
王となった妹にもう一度会う。スズは躊躇った。自分がただの巫女であるがゆえに、躊躇った。
スズが第一世界から出たとき、第七世界だったことで元の妹が住む世界とは違う生き方を選べた。スズが巫女だったことも含めて、この世界の人間はスズを知らない。ただの旅人。ずっと求めた自由が、こうして手に入った。スズにとって、なにかも、初めてだった。決まりさえない。妹がいない、妹の存在を知らない、人々。
「自由、か。私にとって、これが本当の自由なのね。」
スズは第七世界のことをよく理解していた。何故なら、第七世界は一度、旅をしたことがあった。この世界には魔物が多く存在した。魔物を倒し、その魔物を売り渡す。買い取る業者が存在し、それで金銭が回っている。『冒険者』と呼ばれる者達が、この世界では重宝されるのだ。スズは冒険者として登録している。凄腕の冒険者と呼ばれているが、スズはそれを知らない。彼女がこの世界で『冒険者』として人々の記憶に留まることが、いずれスズの妹の耳に入ってしまうことに繋がるが、今はスズの『冒険者』としての冒険談を語ることにしよう。
スズの本名は、『ミトリ・アーレイ』だ。そして、髪の色も金髪ではなく、銀色に近い白だ。瞳の色はくすんだ青色で、妹の瞳の色と違い、貴重な青色を持った。ミトリが産まれた時は両親がとても喜んだそうだ。成長し、妹が生まれ、妹は緑の瞳だったが、妹が持っている力が姉を上回っていることが分かると、両親は青い色に興味をなくした。しかし、ミトリの青い色は確かに、貴重だった。ミトリがいなくなったあとにそれが分かったのだ。後の祭りだったが、それに気がつくよりも前から、妹は姉を想った。妹だけが、姉の帰りを待っている。
ミトリは名前を明かさずに、今もスズで名を通した。第一世界に入る前にも使っていた名前なので、変わらずに使えるのは助かっていた。
「失礼します、冒険者のスズです。」
冒険者が集まる『冒険の宿』に入って、冒険者と業者の間を取り持つ、冒険者ギルドと呼ばれる組織の職員がいるカウンターでカウンター越しに声をかけた。内部で作業をしていた一人の男性がゆっくりやってきた。丸眼鏡をかけ、ぼさぼさの黒い髪、しわしわの服を着ている。
「あー、はいはい。冒険者のスズさん、ね。どうされました?」
男性はかさかさの声で応える。
「・・・魔物討伐ボードでみてきたのですが、この魔物の討伐をしたいのですが。」
スズが差し出した紙切れを見て、男性は一瞬、眉をしかめて、スズを見た。
「この討伐依頼は、冒険者のレベルがある程度なければ、できません。」
スズは、冒険者レベルを記した一枚のカードを出した。このカードはこの地から去る際にとある場所に隠しておいたので、良かった。冒険者カードと呼ばれるこのカードは自分の本当の力を自動で記してくれる、有能なものだった。
「こ、これは・・・。スズって、もしかしてあの最高位の魔道士さん・・・?!」
男性は奇声をあげ、バタバタとカウンターの奥に走って行き、何枚かの紙を持って戻ってきた。
「し、失礼いたしました!こ、こちらが、討伐依頼の魔物のデータです。ど、どうぞ、よろしくお願いします!」
男性が、至極恐悦という態度をとりながら、何度もペコペコしている。冒険の宿にいた、複数の冒険者がこそこそとしゃべっている。スズが無名でないことは明らかなのだが、スズにとっては予想外だった。もともと、スズのレベルは桁違いなのだが、出自のせいもあって、自身に自信が持てていない。
いずれにしろ、魔物討伐はスズがするのが決まった。その討伐依頼に、他の冒険者がついてくるとは想像していなかったのだが。
「スズさん!こんにちは!」
スズは討伐へ向かおうと冒険の宿を出ようとした。
「え?」
「俺、スズさんと仲間登録したくて!」
スズを呼び止めたのは、若い男の子だった。スズからしたら、若い子に映ったのだが、遠目に見ても同年代にしかみえない。第一世界での生活環境がスズを若返らせていた。スズの今の年齢だと見た目は17ぐらい。精神年齢は100を超えているのだが。なので、相手の男の子を若い男性にしか見えなかった。相手からしたら若くて可愛らしい女の子が強い魔物討伐をするというのだ。興味を持つのは当然だった。
「え、えっと・・・。私と仲間になりたい・・・の?」
「そうです!だって今からその魔物を討伐しに行くんですよね?」
男の子はスズに興味を持っただけでなく、魔物にも興味があるようだった。
「仲間、として登録するには時間がかかりますよね?私、そこまで暇ではないんです。」
スズはどういう理由であっても、仲間を作りたくなかった。第一世界で経験した仲間を失うつらさを、いまだに癒やせていなかった。
「・・・そうですか?でも、俺!スズさんについて行きたいんです!今は仲間にならなくてもいいので!」
彼は朗らかに笑って、スズに手を差し出した。スズは首を振ったが、彼が無理矢理にスズの手を掴んで握った。彼の手は温かく、思っていたよりもゴツゴツしていた。
ードワーフ?手の触感から魔力を感じた・・・。ドワーフは人を嫌うはず・・・。ー
スズは彼の手を握り返さなかったものの、長年培った直感で、相手の力量も本来の姿も関知してしまう。
ドワーフは人間よりも寿命が長く、土を扱うのに長ける一族だ。世界によっては嫌われていたり、世界を淘汰していたりと、立場は変わる。この世界では、ドワーフは貴重な作り手のはず。魔物を討伐しに行くような物好きなどいなかった。至って真面目に物作りを行う創造の担い手。
だが、目の前にいる若いドワーフはどうみても、人間、のように見える。魔力は明らかなドワーフだ。
「・・・分かりました。理由があるのでしょう。道中、話を聞いてもいいですか?」
スズは笑みを浮かべて頷く。少なくとも、この笑みが了承しての事ではないと、直ぐに分かるものだ。
「!・・・ありがとう!俺のことはラゴットと呼んでくれ!」
ラゴットはそう言うと、彼の持ち物である大きな荷袋から小さなノートを出した。ノートに書き込まれた内容を読みながら、スズがすでに歩き始めているのを追いかけてくる。
冒険者として、スズが旅立った同じ頃、同じように第七世界に転がり込んだ者がいた。キリだ。彼は死ぬ寸前の瀬戸際だった。彼が行った行為は自死だ。もういくらもせずに死へと向かう。
「まぁ、なんてこと!」
その手当をしたのは、彼が嫌う精霊族だった。キリは死を望んだが、目を覚まして、精霊達のしたことを怒りと悲しみによって打ちひしがれた。
キリは精霊達に感謝を言って、旅立つことにした。理由がどうあっても、感謝を述べることはとても重要だと、知っているから。
「キリさん。旅立つ前に、こちらをお持ちください。」
キリは、冒険者カードを渡された。それがこの世界での身分証明になるのだという。
「・・・ありがとう。俺もこの世界の役に立つように、生きてみるよ。」
精霊達は、キリの心を少しだけ解かしていた。彼らはキリが知っている精霊よりもまだ未熟だった。だからかもしれない。
「キリさん、貴方は素晴らしい方です。きっと、貴方の素晴らしさを理解してくれる人が現れます。私たちよりも、きっといい出会いがあります。幸運を!」
キリは、精霊達が幸運をと言ったとき、彼らの幸運を祈るために魔導を使った。レインボーアワーと呼ばれる魔導は、この地の幸福を他の地よりも数倍高く現れるようになる魔導だった。ちなみに、この世界では魔法使いよりも魔道士の方がより強い力を持っているとされている。基本的にはどの世界もそうなのだが、
魔法使い→魔道士→悪魔→精霊→詩詩響歌→異能
という風に、異能が最も高いランクの力を持ち、魔法使いが最も低い。魔法使いしか知らない土地だと魔道士は、魔道士という役職がないために冷遇されることもある。悪魔と精霊に関しては、その存在を知らない場合もあるが、基本的に高い役職を持つことが多い。詩詩響歌に関しては、神と呼ばれるような存在、あるいは、より特殊な存在に値する者たちのこと。特別な地位や、そのような存在を総じてそう呼ばれる。
ちなみに、スズは元巫女だが、巫女の力は魔道士に相当しているので、この世界では魔道士と呼ばれている。また、キリは半分精霊という身分だが、力は精霊と同等であるため、精霊という身分になる。よって力は精霊と言って過言はない。ただし、魔道士と呼ばれる身分ではある。精霊と悪魔に関しては、力の関係を表しているだけで、何らかの職業にはならない。詩詩響歌も、同じである。
また、精霊や悪魔は、その力に名前をつけない。そのせいで、何が起ったのか、あるいは何を起こしたのかは本人しか分からないのだ。
キリは魔導を使い、精霊にお礼を伝えた。キリが半精霊であることはばれているが、精霊は、キリの想いをくみ取り、キリの魔導に感謝した。
キリの冒険者カードには精霊の加護がついていた。精霊がつけたものだ。キリはそれを見て内心、どこか温かくて優しい気持ちになった。いつか、またあの精霊達に会ったら、ちゃんとお礼を言おう。そう思って、新たな旅立ちに向かって前を向いた。
第七世界の二人の冒険者の物語が回転をはじめる。
新たな冒険の先に、待っているのは新たな出会い。そして、新たな波乱。
生業!冒険者です。 ~つづく~




