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星のこぼれ噺  作者: あおぞら えす


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2/3

それが魂というならば、あなたは女神だった。

 カイは自分の過去を思い出したとき、いくつかの過去はなくても良かったのにと心底感じた。

母であり神と称されるリテイン・フォン。だが、実際はただの女性だった。彼女は確かに物静かな女性で、父とのあいだに子供が生まれ、夫が家を出て行ってしまっても、文句を言わなかった。

 ただ、リテインはカイにはとても厳しく、母親の顔をした。愛おしそうにカイを見て、微笑んだ。優しく、暖かい母親だった。

 カイは事あるごとに母に父が居ないことに文句を言った。

「母さん。どうして、とうさんはいないの?俺が嫌いなの?」

「いいえ。そんなことはありません。とうさんは、母さんと貴方を嫌いになる理由がないわ。ただ・・・。」

「ただ?」

「あの人は、そういう一族の生まれ。カイもいずれ出て行くでしょう。」

「なんで!そんなことはしない!」


 カイは母が好きだった。大切にしたいと強く思った。それと同時に、父親にも会いたかった。寂しいという気持ちと本当は会いたくて母を困らせていた。

 二つの気持ちは成長すると共に揺れ動いていた。


 母は歳をとることはない。それがいつしかカイの心にさざ波を立てた。母が何故、長寿であり、住んでいる場所も人が居ない場所なのか。

 そして、カイも同様に命が終りを見せない。

「母さん、俺は変なのか?」

「何故?」

カイは首を振った。

「死なないの?」

リテインはようやく、カイの心の中を垣間見た。

「・・・私は命を司る女神と呼ばれているわ。でも、貴方を産んでそれは違うと理解した。私はただの人。でも確かに命を、『魂』を見つけることができる。私はね、カイ。貴方の母親で、世界の母親なの。でも、貴方は世界をたくさんの魂を見ることはできない。貴方には異能という力があり、私のいるこの場所に瞬く間に帰れる力もある。でも、私と同じように生きる必要ない。貴方は、私の宝。それは世界の宝でもあるわ。」

リテインは、カイを抱き寄せて囁いた。

「生きる場所は貴方が選びなさい。あの人もそうして私を去った。また戻ってくるとは思うの。死を感じたとき、戻ってくるの。」

母親が抱きしめて諭したのは、カイを解き放つ言葉だった。カイは母親の笑顔を最後に目を覚ますと異世界へと投げ出されていた。

 母が何を望んでいたのかを考えることは一度もなかった。確かな言葉を言われ、自分が家を追い出されたということに気がついたとき、驚きと同時に感謝するしかなかった。

 リテインがこの世界のどういう存在なのか、旅をして知った。母親が本当に女神と呼ばれていること。そして、父親がゼノロワの民だということ。たしかに放浪癖は父親似だろう。

 思い出はたくさんあるのに、母親のこととなると思い出と一言では言えないかもしれない。なにしろ、母親は人々の記憶もみることができたから。人として良からぬことはできない。母親の目がどこにあるかわからないから。そう思うと、やはり、彼女は思い出にはならないだろう。ずっと監視している母親は自分ぐらいだろうと思い、少し笑った。

 旅の目的はないが、最近知り合ったソラという男が面白くていつの間にか共に行動していた。テイという男とも知り合った頃にはトリオのイケメンと呼ばれて浮かれたりもした。あの異世界に取り込まれた後はテアというテイの息子と四人で旅をしている。

 旅が嫌いなのではないが、いつも笑いが絶えないこの四人に、いつか終りが来るのはたぶん、みんな分かっているだろう。なにしろ、全員の肩書きがすごくて、恐ろしいぐらいだから。

 母親はそんな俺をどういう風にみているだろう。死の間際に三人を紹介することだろう。母はきっと穏やかに話を聞くだろう。そしてすべての魂に云うように云うのだろう。




『次の異界で新しい人生をお楽しみください』、と。




母は女神なのだと知る最期にまだ辿り着かないことを願う。


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