聖女、またやっちゃいました
「王子。聖女の私を追放するなんて、どうしてですか?」
問いかけてくる聖女に、王子は疲れた声で言った。
「この惨状をみろよ」
本来あるはずの天井が破壊され青空が見え、瓦礫と一緒に王や王妃、この王国の偉い人達が大した怪我はしてないまでも黒焦げになって転がっている。
聖女ははみかにながら言った。
「あれ?また私なんかやっちゃいましたか?」
「なに、ちょっと照れているんだよ。おまえは褒められることを成し遂げたんじゃなくて、やらかしたんだよ!」
「そんな言い方しなくてもいいじゃないですか」
怒鳴る王子に対して、ふてくされる聖女。
「第一、なんでおまえここにいるの?先月、おまえを追放したよね」
「はい」
「先々月も、おまえを追放したよね」
「はい」
「一年前も、おまえのこと追放したよね」
「はい」
「もう怪談だろうが。捨てた人形が戻ってくるたぐいの奴だろうが」
「私は指示に従って戻っただけですよ」
「初めておまえを辺境地に追放したときは、三日で送り返されてきたな」
「王国の命令に逆らうなんて、辺境領主は王国民としての自覚が足りませんね」
「おまえが言うな。おまえのせいだろうが」
「私は何もしてませんよ」
「辺境領主の屋敷を全焼させて、辺境領主は火傷で全治半年だったな」
「あれは女神様がやったことですよ。私は関係ないですよ」
「おまえが女神様を怒らせたからだろうが」
「だって、私を追放した王子にざまぁしてくれって頼んだら、女神様はそんな私怨を引き受けるわけないだろって。それで、私が女神様のクソボケって言ったら、女神様が怒って私に神罰の雷を落としたんです。間一髪で避けましたけど、代わりに辺境領主が雷の直撃を受けて屋敷が燃えちゃって」
「おまえ、すごいな」
「それほどでも、えへへへへへ」
「褒めてないよ。今のは、お前の常識の無さを皮肉ったんだよ」
「もうちょっと、わかりやすい言い方を心がけた方がいいですよ」
「辺境領地じゃあ、聖女様が女神の力でセクハラ辺境領主を懲らしめたことになっていて、おまえ大人気になっているぞ」
聖女はドヤ顔になって言った。
「また私なんかやっちゃいましたか?」
「あと、おまえを他の辺境地に追放しようとしたら、受け取りを断固拒否されたんだけど、おまえ何やったの?」
「また私なんかやっちゃいましたか?」
「俺が何やったかって聞いているんだよ!」
「私は次にお世話になるかもしれないって、各辺境地へ屋敷の火災保険のパンフレットを送っただけですけど」
「完全な脅しだよ」
「おまえを辺境地に追放できなくなったから、ダンジョン探索の強制労働にしただろ」
「ひどいですよ、王子」
「なんで、入り口から大量の水をぶっこむの?」
「思いついちゃって」
「思いつくな。思いついても、実行するな」
「水はテストで。本当はコンクリを流し込む予定だったんですよ。あっ、コンクリっていうのは、異世界転生者が持ち込んだ技術で」
「知っているよ。本当はコンクリートって言うんだろ。うちの王国、ダンジョンから出入り禁止になっただろうが」
「この前、追放した時には、おまえ、魔王側についたよな」
「そりゃあ、何度も追放されたら、私も怒りますって」
「それで、おまえ、魔王に異世界から動物のクマってやつを戦力として召喚することを提案したよな」
「いやあ。魔王軍の戦力強化のつもりだったんですけど。私の想像では、オークとかゴブリンとかよりちょっと弱いぐらいだと思って、大量に召喚したんですよ」
「熊ってめっちゃ強いな」
「オークとかゴブリンとか、一発でのしますよね。あんなに強いとは想定外でした。しかも、命令なんてきかないし。あと、熊にとって魔物がめちゃくちゃおいしいエサだったことは想像もしてませんでした」
「魔王軍、熊に蹂躙されまくりで絶滅寸前だよ。おまえ、この王国じゃあ、魔物を倒した英雄になっているよ」
「また私なんかやっちゃいましたか?」
「それで、今だよ。魔王との戦いが終わって気が抜けたすきをつかれて、人間の敵国に攻められたよな。この城を取り囲まれて、陥落するだけだったよな。女神様に力を貸してくれるように頼んだけど、特定の人間の国に肩入れできないと拒否されたよな。その交渉の席で、おまえが女神様にそのダサい服、どこで売っているんですかって言っちゃったよな。女神様、怒って神罰の雷をおまえに落としたよな。おまえだけ避けて無事だったよな。父上も、母上も、部下達も、この建物も、女神様の雷の直撃したよな。ここを囲んでいた敵兵達、誤解して逃げて行ったよな。敵国が女神様がこの王国の守護をしていると勘違いして、降伏してきたよな。王国民、みんな、おまえに感謝の声をあげているよな。ちくしょう、おまえがこの王国を救ったことになっちまった」
聖女はこれ以上ないぐらいのドヤ顔をする。
「あれ?また私なんかやっちゃいましたか?」
おわり




