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青紐の記録  作者: いろは
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第1章・第1節 風の村

皆さん初めまして。


異世界転生はなく、鑑定やアイテムボックスは

出てこないゆっくりとしたファンタジー小説になります。


早い展開がお好みの方には合わないと思いますが、気が向いたら読んで感想など頂けると励みになります。



風は、朝になると山の向こうから下りてくる。

霧をほどきながら、村の屋根を撫で、池の面をわずかに波立たせていく。


 


ルヴェン・エルシアは、その風の中で目を覚ました。

窓の外には、まだ夜の名残が薄く残り、霧の粒が光を吸って淡く揺れていた。


 


彼が暮らすリューデ村は、大陸の中央部にある。

三方を山に囲まれ、唯一西だけが開けている。

その西に続く街道の終点が、この村だった。


 


霧と風がこの村の空気を作っている。

朝には霧が降り、昼には風が通り抜け、夜には静けさが降りてくる。


 


ルヴェンは十四歳。

正義感が強く、少しおっちょこちょい。

その年にしては背が高いが、まだ細い体つきをしている。

青みがかった銀の髪と、淡い青の瞳。

母に似ているらしいが、本人は母の顔を知らない。


 


今日は特別な日だ。

十四歳になったルヴェンは、ようやく冒険者ギルドへの登録が許される。

村の外に出る資格を得る日。


 


村の北端にある小さな石造りの家――それが、ルヴェンの家だった。

ドアの隙間から、温かな香りがこぼれている。

パンと薬草の湯気の混ざった匂い。

朝霧の中でも、その香りだけははっきりと分かった。


 


家の中では、マリアが湯を注いでいた。

栗色の髪を肩で束ね、白い布の袖をまくり上げたその姿は、穏やかでありながら凛としている。

彼女の瞳はいつも優しく、それでいて何かを見通すような深さを持っていた。


 


「起きたのね、ルヴェン。……おめでとう、十四歳」

「ありがとう。マリア」


 


マリアは微笑んで、湯気の立つ木椀を差し出す。

薬草と蜂蜜を少し混ぜた温かい飲み物だった。

「今日は体を冷やしちゃだめ。緊張してると、足がすぐ固まるからね」

「……分かってる」

「顔がこわばってるわよ。そんな顔じゃ、風が通らない」

マリアの声は冗談めかしていたが、その言葉にはいつも“導き”があった。


 


ルヴェンは湯を飲みながら、机の上に置かれた銀貨三枚に目をやった。

「それが登録の費用よ。使い切らないで帰ってくること」

「うん。でも、ちゃんと自分でやるよ」

「そう。……それでいいわ」


 


マリアは椅子を引いて座り、少し真面目な声になった。

「ねえルヴェン。村の外には、風の匂いがたくさんあるわ。

 でも、どんな風も“誰かの祈り”でできているの。忘れないで」

「祈り……?」

「うん。あなたの母さんもね、そう言ってたの」


 


その言葉に、ルヴェンは小さく目を伏せた。

彼の母は、彼を産んだあとに亡くなったと聞いている。

会った記憶はない。

けれど、マリアが時々語る“優しい声”の話だけは、なぜか心に残っていた。


 


「行ってきます」

ルヴェンが立ち上がると、マリアは玄関まで見送った。

霧の外の空は、少しずつ明るくなっている。

風がほんのわずかに吹いた。


 


「風が味方してくれるといいわね」

「……うん」


 


扉を開けた瞬間、霧の向こうから誰かの声がした。

「ルヴェーン!」


 


リネアだった。

茶色の髪を後ろで束ね、腰には小さな短剣を提げている。

年上の彼女はすでに冒険者登録を済ませており、今日もギルドに向かうところだった。


 


「やっと来たね、ルヴェン! 今日だよ、今日!」

彼女の明るさが、霧を一瞬で薄くした。

ルヴェンは笑いながら頷いた。

「行こう。……いよいよだね」


 


マリアが扉の陰から小さく手を振った。

「風に背を押されるように歩くのよ」

「うん、行ってきます!」


 


その声を最後に、二人は霧の中へ歩き出した。

鐘の音がもう一度鳴り、

リューデ村の一日が――そしてルヴェンの新しい旅が、静かに始まった。

初日投稿で3話ほど公開してみようと思ってますので引き続きよろしくお願いいたします。

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