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異世界転生・転移の文芸・SF・その他関係

転生したら妾の子 ~時代劇世界の小さな大名の子供だけど、山奥の村でひっそり生きて……ました~

作者: よぎそーと

「こうなるとはなあ……」

 山境トモヒデはこれまでを振り返る。

 時代劇のような世界に日本から転生して数十年。

 人生も終わりに近づいたこの齢になるとこれまでを振り返りたくなる。

 そんなトモヒデは天守閣……というより大きな櫓の上から己の成果を見下ろす。

 以前よりは豊かになった自領を。



 山境家はもともと2万石ほどの大名だった。

 石高から分かる通りに小さな領地。

 しかも実際の収穫は2万石に足りない。

 山がちな地形故に、どうしても田畑を広げられない。

 そんな僻地であった。



 そんな大名の子供として生まれたのがトモヒデだ。

 とはいえ、正式な子供ではない。

 側室の生まれだから……ではなく。

 身分違いの庶民との間に生まれた子供だからだ。

 領内視察に出た大名の父が、寝泊まりした庄屋の娘と懇ろになった結果である。



 一応、子供であるとは認められた。

 なのだが、大名の家に迎えるのははばかられ。

 庄屋の家で育てられる事となった。

 一応、わずかながらも養育費や傳役、世話用人などはつけられた。

 とはいえそれも体面を保つためという意味合いが強い。



 幸いだったのは、これらが隔意無く接してくれた事。

 思うところはあるだろうし、実際口にされた事もある。

 だが、それらはトモヒデへの悪意や害意ではない。

 こうなってしまった事へのわだかまりといったものだった。

「やむなき事ではありますが、なんとかならなかったものかと」

 意見は概ねなこういった言葉にまとまる。



 実際、話を聞くにとてつもない苦労が先代である父にはあったのが分かる。

 それを聞くと、庶民の娘に手を出した父をなじる事も出来ない。

 何より、母が全く悪くいわない。

 むしろ、

「殿様がおいたわしい」

 このように哀れみを口にしてるのだ。

 トモヒデがケチをつけるわけにもいかない。



 それに待遇や境遇に不満を抱く事もなかった。

 跡取りになれないとはいえ、大名の一族ではある。

 生活は保障されてる。

 ある程度はわきまえる必要はあっても、言動や行動に極端な制限があるわけでもない。

 生活の保障された自由な身分。

 裕福なニート。

 これはこれでありがたい。



 足りない部分は多いが、それはやむをえない。

 科学や文明水準が江戸時代くらいの世界。

 時代劇そのものといった世の中なので、不便さはつきまとう。

 覆しようがないこの状況は納得して受け入れるしかなかった



 ただ、何もしないのももったいない。

 そう思って色々思いつきは口にしていった。

「山肌に田畑を作るのは無理だろう。

 なら、果樹などを植えたらどうだ?」

 成功するかどうかは分からない。

 だが、自分の庭くらいでなら試す事は出来る。

 こうした出来ることは何でも実行していった。



「ついにで山菜も得られるならとっていこう。

 栽培できるなら育てよう」

 ここで育つものを大事に。

 無いものを求めてもしょうがないとも考えた。



「そもそも、樹木ならば育成して伐採する事も出来るだろう。

 薪や炭、それに建材としての樹木を育てたらどうだ?」

 既にやってるかもしれない事も提案していく。



「あと、松ヤニだっけ?

 色々使うと聞く。

 これで墨を作るというし。

 いっそ、これらを作っていくのはどうだ?」

 かすかに覚えてる情報からの提案もある。



「墨を作るなら、ついでに筆や紙も作れないか?

 簡単ではないだろうが、これらを作って売れば、少しは利益になるのでは?」

 どうやって作るかは分からない。

 だが、それは職人などに考えてもらう事として。

 提案だけはしていった。

 あとは丸投げである。



 ただし、失敗しても咎めない。

 責任があるならトモヒデが請け負った。

「口にしたのは俺だ。

 俺が責任をとらないでどうする」

 これだけは絶対に譲らないでいた。



「それに、失敗はつきまとう。

 初めてやる事ならなおさらだ。

 成功するまで失敗は常に続く。

 その失敗にいちいちケチをつけていたら、やる気をなくす。

 だから、決して失敗を責めるな」

 勝敗は平家の常ともいうではないか。

 そういってトモヒデは責めをいさめた。



「ただし、悪さは決して許すな。

 失敗と悪事は全く違う。

 これを許したら、悪人がはびこる。

 これは厳に戒めよ。

 盗みや暴れはもとより、悪口もだ」

 許してはならない事も、しっかりと伝えていった。



 こうした事を子供の頃から続けて。

 最初はトモヒデの住む家の庭で様々な実りが生まれた。

 果樹は田畑の野菜とは別の収穫をもたらす。

 植えた松は松ヤニをもたらしてくれる。

 その他、雑木は蒔きや墨に。

 図らずもトモヒデの家の庭は、これらを育成するための実験場となった。



 得られた結果は村にもたらされた。

 望む者に苗木を渡し、育成もさせた。

 成果が出るまで時間はかかるが、それでも村に恵みをもたらしていく。

「桃栗三年、柿八年。

 それだけの時間がかかるのだ。

 気長に待とう」

 成果をすぐには求めない。

 地道に結果を出すことをトモヒデは提案した。



 また、紙や漆、建材などの材料になる木の植樹も始まった。

 さすがにこれらを植えるほど広さが庭になかったので、手探り出始める事になったが。

「まずは小さく、1本か2本で始めよう。

 大々的にやるのはそれからでいい。

 どうせたくさんの失敗をするのだから」

 だから、と続ける。



「失敗は小さくやるものだ。

 手を広げるのは、成功の道が見えてからだ」

 これを守って村は用心深く慎重に、失敗も教訓として書き記していった。

 これが手法やノウハウとして後の成果を支える事になる。



 このような事を幼少の頃より続けて10年。

 村には田畑の実りはないが、山から得られる成果を手に入れるようになった。

 表向きの石高は変わらない。

 だが、実質的な収穫は以前とは比べものにならないほど増えた。

 あくまでトモヒデの村だけであるが。

 それでも成果は大きかった。



 ついでに道も拡大拡張するかと考えていく。

 人が一人通るのがやっとの細い道。

 これが村と麓をつなぐ唯一の街道だった。

 今まではこれで十分だった。

 人の行き来がそう多いわけではない。

 だが、村で作れるものが増えるとそうも行ってられなくなる。

 持ち運ぶ量が増えたので人間が担いでいくだけでは足りない。

 道の整備も必要になっていった。



 ついでに水をひいて水をためる事も考える。

 川まではそれなりに距離があり、どうしても水を運ぶ必要があった。

 今までは水をくみに行けば良いと放置していたが。

「面倒だから水道を作ろう」

 ほんのわずかでも便利になるならばと、トモヒデは建造を指示した。



「ついでに堤防を作れればいいけど」

 目立った水害はないが、雨が降ると川はすさまじく増水する。

 10年や20年に一度は、これが村まで襲ってくる。

 それくらい少ない回数なら気にするほどではないかもしれない。

 だが、そのわずかな回数がもたらす被害も馬鹿にならない。

「そのうちやろう」

 余裕が出来た今だからこそ、生活環境を改善しておきたかった。



 この話は父である大名も知るところだ。

 参勤交代で地元に帰る度に、山の村まで出向いてる。

 領内視察を名目に里帰りをしてるのだ。

 公私混同もはなはだしいが、ケチをつけるものはいない。

 仕事を滞らせてるわけではないのだから。



 そんな父は村の発展も目の当たりにしていた。

 2年に1回だけの視察だが、だからこそ変化の大きさも目につく。

 毎日見ていたらなかなか違いに気づかなかっただろう。

 だが、間隔を開ける事で違いは鮮明になる。



「これを一体誰が?」

 疑問の答えは驚くべきもの。

「トモヒデ様でございます」

「なんと」

 傳役の言葉に父としても大名としても目を見開く。



 ここからは話が早かった。

「これほどの才能があるなら、それを領内に用いたい」

 この意向は即座にトモヒデに伝えられる。

 さすがに面食らったトモヒデだが、ありがたい申し出である。

 大名の後ろ盾を得れば、様々な作業を進める事が出来る。

 ただ、心配もある。

「今回は山の中だから出来た事。

 果たして領内全体に通じるかどうか」

 これを断ったうえで、

「それでも出来ることがあるならば、やれる事をしたいと思います」

「それで良い」

 出来る範囲で頑張るという思いは、即座に受け入れられた。



 ここからは忙しくなった。

 まず、登城して藩士一同と顔合わせ。

 末端の足軽から家老という重役まで。

 これらと顔を会わせねば話は進まない。

 彼らにまずはトモヒデの存在を伝え。

 その功績、そしてこれから任せたいこと。

 これらを伝えていく。



「藩はいまだに大変な時。

 思うところはあるだろうが、この知恵に今はすがろうではないか」

 流行病による藩の中枢壊滅の問題はいまさに尾を引いている。

 少しでも状況が改善されるなら、何でもやる。

 そんな意思や気風が藩にはあった。



 それでもトモヒデは慎重だった。

 今までやってきた事をいきなり返るのは難しい。

 それで成功すれば良いが、失敗したら全てが壊滅する。

 なので、全ては小さく始める。

 その前に、まずは状況を調べる。

 何がどうなってるか分からねば、どこに手をつければいいのか分からないからだ。



 領内の巡回が始まる。

 2万石といわれる領地がどのような状態なのか。

 どこで何が作られてるのか。

 人はどこに住んでるのか。

 これらを調べねば何も始まらない。



 また、各帳簿から藩の状況を調べていった。

 人口や生産物はどの程度なのか。

 財政はどうなってるのか。

 記録に目を通し、少しでも全体像を掴もうとした。



 結果は悲惨なものだった。

 名目上は2万石の石高がある。

 これは最大で2万人の人を養えるという事でもある。

 実際にはそういうわけにもいかないが、おおよその目安になる。

 だが、実際の収穫は1万5000石程度。

 人口も6000人ほど。

 収穫も人口も予想以上に悲惨なものだった。



 また、地図や実際に巡って分かったが。

 領地全体が山がちな地形だ。

 その間を通る川に沿って集落がある。

 使える土地が限られてる。

 この状態では田畑の拡大や拡張は望めない。

 もっと別の手段が必要だった。



「なら、出来るか?」

 逆に考えれば、今までやってきた事がそのまま活かせる。

 山の村で出来た事をそのまま用いる事が出来る。

 果樹園、山菜採り、炭作りに墨作り、筆尽く入りと紙作り、漆作り、林業。

 山地だから出来る事がある。

 これらをまずは部分的にだが、各集落ではじめていく。



 数少ない田畑はそのまま残す事にする。

 これらを潰してまで他の事を進める必要は無い。

 あるものはそのまま残していく。

 わずかでも米や野菜が取れるのはありがたいのだから。

 ただ、僅かながらの改善はしていく。



 たとえば、田んぼの苗植え。

 これを等間隔で行っていく。

 今までは稲同士の間など考えてなかったのだが。

 これを適切な間をとって植えるだけで、収穫の効率が上がる。

 その為に、田を四角くととのえる必要もある。

 山肌にあわせて作ってるため、完全に四角く作る事は出来ないが。

 それでも出来るだけ田の形をととのえていく。

 等間隔に稲を植えやすくするために。



 全ての田でやるわけではない。

 まずは一部、村の一角。

 そこにある田を整える。

 そこを実験台にして、他の田と比べさせる。

 実際にどれだけの差が出るのかを見せるために。



 ただ、思いつくのはここまでだ。

 前世で農業に従事していたわけではないトモヒデだ。

 聞きかじった知識はそう多くはない。

 なので、藩直轄の実験農場を作っていく。

 ここで様々な農法を研究するために。

 長く地道な活動が必要になる。

 しかし、やらなければいつまでも何も生まれない。

「しくじりだらけになる。

 でも、そんなしくじりが今後のための材料になる」

 失敗を失敗だけで終わらせない。

 同じ失敗を繰り返さないための材料にする。

 長い年月の中で、この記録が生きる事もあるだろうと信じて。



 これで成果が出れば、藩の中に共有していく。

 良い結果が出れば、それを他の村もまねる。

 しくじれば、同じ事を繰り返さないようにする。

 すぐに結果はでなくても、これらが積み重なれば、やがては多きか結果になる。



 また、田畑の問題と共にかいけつせねならない事がある。

 洪水対策だ。



 山間の川沿いに広がる領地である。

 田畑も人が住むところも、基本的には川沿いだ。 比較的平らな地面がこのあたりにしかないからだ。

 当然、増水すればすぐに周囲の田畑を水浸しにする。

 これを警戒して人家は比較的高いところに作っている。

 しかし、雑炊の度に田畑が水浸しになれば、収穫にも影響をおよぼす。



 なので、堤防は必要不可欠だ。

 安定した収穫のためにも。



 しかし、簡単にできるものではない。

 金と時間と労力を費やし続けねばならない。

 何ヶ月も、下手すれば何年もかかる。

 これを領内全体に張り巡らせねばならない。

 領内のほぼ全ての人家や田畑は、川沿いにあるのだから。



「少しずつでも進めないと」

 実際に工事に着手するのは先としても。

 現地の調査や測量、建造方法。

 必要な資材がどれくらいになるか、これらの購入費用はどうなるか。

 人員はどれだけ必要か、これらを雇う費用はどれくらいか。

 建造にかかる年月はどれくらいか。

 これだけは先に考えておかねばならない。



 そして、出てきた結果に目がくらむ。

 莫大な費用になるとは思っていたが。

 実際に算出した結果を見た者達は、意識が遠くなるのを感じた。

「でも、やらなければ」

 避ける事は出来ない。

「いつかは」

 今すぐは無理。

 だが、必ずやると決意する。



 それと共に、水道も考えていく。

 川の近くに人が住んでるとはいえ、常に川に水をくみに行くのも不便で手間がかかる。

 なので、上流から水路を引き、飲み水や生活用水はここから得られるようにする。

 ついでに、水を引いてため池をつくり、日照りにそなえる。



 加えて、川魚などの養殖を各地で行えるようにする。

 食料増産のために。



「ポンプがあれば、川から水をくみ上げられるんだけど」

 残念ながら、ポンプの仕組みが分からないので作る事が出来ない。

 一応、職人などには「こういうものがある」と伝えてはいる。

 だが、出来上がるかどうかは分からない。

「アルキメデスポンプで、しばらくは頑張るか」

 比較的簡単な水をくみ取る方法も提示する。

 こちらは比較的早く導入が開始された。



 また、水車と連動させる事で、延々と稼働させる事が出来るようになった。

 これで水くみ問題もある程度は解決となった。



 こうして、全てが順調ではないにしても、領地は少しずつだが発展していった。

 米の収穫量も回復していく。

 それ以外の産物による収入も。

 人口も少しずつだが回復していった。



 産物の増収だけではない。

 これらの流通にも手を加えていく。

 道の整備。

 そして、関所の簡素化。

 これをすすめていく。



「今、領内は関所でいくつにも分かれてる」

 藩の広さは、現代日本の市町村ほどだ。

 それも、比較的小さめの。

 こんな小さな場所が、更に小さく分かれている。

 いうなれば、町内会ごとに区切りがあるようなものだ。



「ここに関所があり、しかも通行料をとる。

 それどころか、通過禁止の場所もある」

 隣の町内会に入るには、通行料がかかる。

 場合や場所によれば、人や物の移動が禁止という事もある。

 この為、物資の輸送もままならない。



「なので、これを簡素化する」

 関所そのものを無くしはしない。

 だが、関所の通行を簡単なものにする。

「通行料は廃止。

 領民であるなら、領内の移動は自由」

 これにより関所で遮られていた物資の輸送が解放される。



 加えて道の整備がはじまる。

 武士の支配は基本的は軍事政権だ。

 軍事を基準に考える。

 なので、道路などは狭く曲がりくねったものになってる。

 敵が簡単に侵攻できないようにと。

 これをあらためる。



 道は広く、なるべくまっすぐ。

 起伏に沿って、どうしても曲がり角は出来てしまうにしてもだ。

 移動の阻害はしないようにしていく。



 道幅についてもだ。

 これまでの道は、どんなに広くても人がすれ違える程度。

 2メートルもあれば広いと言われていた。

 これを一気に拡大する。

 主要な幹線道路は6メートルほどに。

 そうでない道も、最低でも大八車が楽に通れるように。

 人も物も大量に移動できるようにしていく。



「将来もあるし」

 もしこの世界が前世の日本のように発展するならば。

 いずれ自動車が通るようになる。

 その時に拡幅工事が必要ないように、今のうちに出来るだけ広い道を作っておく。

 こういった考えにもよる。



 産物の移動が始まる。

 最初は隣の村や町と。

 更に、領内で一番の消費地である城下町へと。

 様々なものが集まり、金になっていく。

 その金が欲しいものを買う資金になる。

 手に入れたもので豊かになっていく。

 必要な道具を手に入れた事で、滞っていた作業がなめらかになったり。

 あるいは単に娯楽として生活に楽しさと喜びをもたらす。

 何にしろ、生活は豊かになっていく。



 生産の増大。

 消費の増大。

 利益の増大。

 藩の経済はかつてない高見にのぼっていく。



 これを機会にトモヒデはさらなる提案をしていく。

「税を下げる。

 そして、等しく全てにかける」



 藩の収入は基本的に年貢である。

 田んぼから取れる米である。

 これだけが収入だ。

「まず、この年貢の取り分を減らす」



 今は5公5民。

 税率50%だ。

 こんなのではやっていけない。

 なので、これを下げる。

「まずは30%に」

 第一段階としてこれだけ下げる。



「加えて、他からも徴収をする」

 米以外の収穫には手をつけてない。

 基本的にはこうなってる。

 ただ、商人や寺社からの徴収も行ってる。

 だとしてもこれは寄付の名目で、定期的にとってるものではない。

 言い方を変えると、賄賂の強要の結果ともいえる。

 なので、ここをあらためて精度化する。

「生産物の10%。

 もしくは、手に入れた利益の10%」

 物納でも金銭の支払いでもかまわない、とにかく税をおさめる事を義務とした。

 でないと、農民だけに負担が強いられる。



 藩全体で様々な産業が興ってる。

 これらから得られた利益の一部だけでも藩の収入とする。

 でないと藩の財政が破綻する。

 なにせ、藩の財政は借金だらけだ。

 この状態を改善せねばならない。



 しかもだ。

 この借金、借りっぱなしの返済踏み倒し。

 商人からの強奪である。

 おそろしい事にこれが当たり前、武士は何も悪いと思ってない。

「まず、その考えをあらためろ」

 借りたら返す。

 これが当たり前でなくてはならない。



 そういうわけで、藩は初めて商人への返済を始めた。

「まことに申し訳ない」

 返済に出向いたトモヒデは深々と頭をさげた。

「残りもいずれ必ず返すので」

「そうですか」

 商人の態度も声も冷たいものだった。

 当たり前だ、今まで返済などしない、踏み倒すつもりだったのが武士なのだから。

 そんな連中が頭を下げて、少しばかりの返済をしてきたところで信用するはずもない。



 それが分かってるからトモヒデも反発はしなかった。

 武士の中には、「不届きな商人め!」と息巻く馬鹿もいたが。

「ふざけるな!」

 そんな馬鹿にトモヒデは一喝していく。

「借りたといいつつ返さない、そんな強奪を繰り返していたのはお前らだ!」

 悪いのは武士である。

 はっきりと言っていく。



「そもそも、武士の成り立ちに背いてる」

 武士とは荘園への反発や抵抗から始まったとされる。

 収奪されるばかりで見返りがない。

 この事への抵抗から、武装が始まった。

「それが、今となっては収奪強奪する側か。

 恥を知れ!」

 武士とは奪われた事への抵抗が発端。

 それが始まりの志を忘れ、かつての荘園領主のようになっている。

 己の存在する意味や意義を自ら踏みにじってる。

 この事をトモヒデは責めた。



 かくて借金の返済は始まり。

 これにより、商人からの警戒はある程度緩和していった。

「あの人は他とは少し違うらしい」

 決して警戒を解く事はなかったが、それでもトモヒデには少しだけ信をおいた。

 トモヒデだけに。

 武士や藩を信じたわけではない。



 それでも領内の商人の活動は活発になり。

 あわせて経済活動も活発になった。

 これが生活水準の底上げになっていく。

 商業活動とは、とどのつまり、余った所から足りない所へ物を運ぶ事である。

 これにより利益を得ている。

 ならばこそ、領内で必要な物資の調整を商人が行う事になる。



 あくまで商売として、利益を追いかけた結果である。

 たいそうな意義や理想をもとに活動してるわけではない。

 もしこんな害にしかならないものを元に活動していたら、とっくに破滅してるだろう。

 意義や理想といういのは、人をおとしめ貶し、損なう害悪である。

 商人にそんなものはない。

 ないから、世の中に貢献をしていける。

 ごく自然な形で。



 こうして人が貧しさ故に死んでいく事も減っていき。

 藩はもちなおしていく。

 米の収穫2万石は回復しなかったが。

 その他多くの産物のおかげで、実高は3万石とも言われるほどだった。



 借金の方も少しずつだが返済が進んでいる。

 借りた物を返すのは当たり前。

 藩全体の収入が上がった事で税収も上昇。

 返済はいくらか楽になった。

 ただ、全額返済とはいかず。

 返済期限がきたら、新たに金を借りてその場をやり過ごす。

 ただし以前よりは少ない金額を借りていく。

 こうした借り換えによる財政健全化を進めていく。



 こんな中で学校などの教育の場もととのえていく。

 まだ余裕など無いが、将来のためだ。

 寺子屋などはあるが、これだけでは足りない。

 読み書きに計算が出来る人間は少しでも増やしておきたい。



 加えて、より上位の知識に触れられる場所も用意する。

 読み書きに計算だけでなく、もう少し幅広い強要を身につけられる場所を。

 知っておけば役立つ事もあるのだから。

 それも、科学や技術という実用的なものを。

 現代日本風にいうなら、理系が主になる。



 こうして育った人間がすぐに役立つ事は無い。

 だが、教育の効果は10年20年、それどころか100年経ってようやく出て来るもの。

 目先の成果だけで考えてはいけない分野だ。

 だらこそトモヒデは今から教育を推進していった。

 いずれ何らかの形で役立つと期待して。



 こういった出来事や経緯を記録していき、公正に残す。

 参考資料となれば、今後に活かせるためだ。

 成功はそのまま成功として続けて。

 失敗は繰り返さないように二度と行わない。

 あるいは、成功と失敗の原因を探り、その根底にあるのは何かを知る。

 そうすれば、ただ同じ事を繰り返すだけではなく、表面の形を変えても大事な事を保っていける。



 科学は進歩する。

 道具も変わる。

 やり方も変わる。

 同じ事を延々と繰り返すことは出来ない。

 だが、何のためにやるのか?

 これが分かっているなら、表面上の変化を拒む必要は無い。



 それが分からないから、人は迷うのだが

 ならば、参考になる記録を残していくだけの事。

 記した内容がこれからの人間に役立つかもしれない。

 そう信じて。



 こうして10年と過ぎる頃には、藩の状態はかなり好調になっていた頃。

 難題がさらにふりかかってきた。

「隣の藩を預けられる事になった」

 参勤交代から返ってきた父の言葉に、トモヒデは目を見開いた。



 様々な理由でお取り潰しが行われる時代である。

 後継者がいない、お家騒動、財政破綻。

 平和な時代にあっても、破滅は避けられない。

 隣接する藩もこれには抗えなかった。



「いったいいかなる理由で?」

「それがな」

 驚きながらも尋ねるトモヒデに、嘆息を交えながら父は説明をしていく。

「財政破綻をしたから、持ち直したお前が引き取ってくれ。

 まとめると、こうなる」

「うわあ……」

 わかりやすい説明ではあるが、そんな決定をくだした幕府に恨み言を叩きつけたくなった。



 隣の藩の状況はトモヒデも耳にしている。

 台所事情が厳しいと。

 とはいえ、裕福な藩などほとんど存在しない。

 どこの藩も運営経営は青色吐息だ。

 破綻をしないよう自転車操業にいそしんでる。



 隣接する他の藩もそれは一緒。

 それがとうとう破綻したのかというだけの話だ。

 なので、そんな借金まみれの不良債権など引き受けたくない。

 しかし、幕府の命令には逆らえない。



「なまじ、頑張って財政の健全化したからですか」

「そうなってしまう。

 お前は何も悪くないんだが」

 頑張って結果を出したら、新たな仕事が報酬として与えられた。

 このブラック企業な事態にトモヒデは盛大なため息を吐いた。



 とはいえ、押しつけられた以上は引き取らねばならない。

 それに、名目上は3万石である。

 財政再建出来たら、利益はある。

 再建出来ればであるが。



 破綻した藩である。

 資産など無いに等しい。

 むしろ、使えないガラクタを抱え込んでるとみた方がよい。

 実際、悲惨なものだった。



 仕事をせずに、財政を食い潰す閣僚に官僚。

 年貢や臨時徴収を繰り返して収奪されすぎた民。

 逃げ出せる商人や職人はとっくに逃げ出している。

 資源も産業もなく、特産品もない。

 あるのは、蜂起されて荒れ果てた田畑だけ。

 それと、衰弱した民衆のみ。

 トモヒデが手をつけ始めた頃の出身地よりも酷い状況だ。



「どこから手をつけたもんか……」

 途方に暮れるも、やるしかない。

 とにかく手をつけられるところから何とかするしかなかった。



 まずは食料。

 年貢や臨時徴収で食い物すら事欠く有様となってるのだ。

 食い物を与えて普通に動ける状態にしなければならない。

 この為に米俵を自領から持ち出すしかない。



 また、年貢は当分は取り立てない事にした。

 でなければ農民達が働かない。



 ついでに税制も変更する。

 押しつけられた隣藩の税率は、9公1民。

 嘘みたいな本当の話である。

 名目畳は5公5民だが、様々な理由をつけての徴収が積み重なり、税率90%という阿漕なことになっていた。



 職人からは、作ったもののほとんどを収奪。

 商人からは稼ぎのほぼ全てを巻き上げ。

 事実上、職人や商人を藩が操る状態だ。

 いっそ、国営企業や公営公社というべき状態になっている。



 これらをとにかく税制だけでもまともな状態にするしかない。

 というより、こういった民が自力で働けるようになるまでは無税・非課税でやっていくしかない。



「3年。

 3年は無税とする」

 加えて、初期段階の運転資金も渡さねばならない。

 なにせ、手持ちの資金が全くない状態なのだから。

 これにはかろうじて残っていた隣藩の蓄えを切り崩していった。

 元をたどれば、隣藩の民から強奪したもの。

 奪った物を返しただけである。



 また、残された武士も問題だった。

 ほとんどのものが本来の仕事から離れていた。

 一定以上の階級や重役の縁者であれば、それなりに裕福に暮らしていたのだが。

 そうでない末端の武士は日々の暮らしすら事欠く状況。

 傘張り浪人よろしく、内職をして糊口をしのぐしかなかった。

 それすらもなかなか巡ってこないので、仕事の取り合いになっていたとか。



 こういった者達をまずは本来の仕事に戻す。

 城での事務作業などが出来るのは武士だけだ。

 藩士に藩の仕事をしてもらわねば、何も動き出しはしない。



 とはいえ、全員を抱えるほどの余裕もない。

 これまたどの藩も似たようなものであるが、必要以上に侍を抱え込み過ぎてるのだ。

 戦国時代の頃、どうしても兵力が必要だった時代の名残だ。

 当時抱えた者達を簡単に解雇は出来なかった。

 仕事がないから、利益が出ないからクビにする。

 これが出来るほど当時の大名は冷淡にはなれなかった。

 いずれも命がけで戦ってくれた者達である。

 戦友を見捨てるほどに非情にはなれない。



 これを引き継いできた代々の大名も、なかなか配下や臣下を召し放つことは出来なかった。

 今度は、代々に渡って仕えてくれてる情がわいてくる。

 よほどの問題をおこせばともかく、普通に平凡に仕えている者を放り出せなかった。



 かくて平時には多すぎる武士を抱え込んでしまい。

 この人件費で多くの藩は疲弊してしまっていた。



 やむなく何人かは解雇をせねばならない。

 もちろん、再就職先は用意する。

 田畑に土木建築などの労働者。

 商人などの事務要員。

 こういった需要はとにかくある。

 希望退職者を募り、転職を促していった。



 ありがたいことに、退職希望者はそれなりに多かった。

 転職先が示した給与が城勤めよりも高かったからだ。

 それを見て、それなりの人数の藩士が離職。

 侍の地位を捨てて一般庶民になっていった

 そういって良いなら帰農といえる。

 実際、本当に農民になる者もいた。



 それでもまだまだ人員は多かったのだが。

 人件費を大幅におさえることが出来るようになった。

 この余裕を何とか使い、吸収合併させられた藩の再建に臨んでいく。



 幸いにも隣接する藩はいくらか平地が多かった。

 その分だけ田畑が広い。

 これらを耕せば、収穫が期待出来る。



 ただし、荒れた田畑を戻すのは手間がかかる。

 これらが元の実りをもたらすまで何年かかるか。

 その為の整備にも時間がかかる。

 将来はともかく、当面は暗澹たる日々が続く。



 必要な設備がそもそも無い。

 川から離れた場所には水路がなかったりする。

 道が通ってない場所もある。

 こういった社会基盤をそろえねばならない。

 これでまた出費が増えるというもの。



「本当にどうにかなるのか?」

 送られてくる報告書と各帳簿を眺めて、トモヒデは絶望していった。

 それでもやるしかなかった。

 でなければ、自分の藩も潰れてしまう。



 かくて四の者狂いの日々が再び始まり。

 どうにか再建の目処がついたのが3年目。

 5年目からはわずかながら収穫や収益が安定。

 下がるに下がっていった国力が下げ止まりを示した。



 この頃には、実収1万8000石程度だった隣の藩は、2万1000石程度に回復。

 残り9000石はどこにいったという酷い状態だが、それでも最低よりはマシになった。

 なお、9000石分はほぼ荒れ地となった田畑。

 これらも回復を続けているが、完全に元に戻るのは先である。



 だが、なんとかなってきた。

 あとは上向くだけだ。

 泣くに泣けない眠れない夜を毎晩過ごしたトモヒデは、ようやく顔と肩のこわばりがほどけると思った。



「……幕府から更に他の藩も受け取れと言われた」

 大名である父は無情なる言葉を江戸から持ち帰った。



 今度も隣接する藩を押しつけられた。

 税制破綻したところと、後継者騒動でお家断絶したところだ。

 それぞれ、2万3000石と、2万5000石。

 もちろん名目上のことで、実収はもっと低い。



「既にある分と会わせれば、9万8000石。

 大出世ですな、我が家も」

 ほぼ10万石、大名としてもかなり大きめになった。

 実態を無視すれば、とても素晴らしい話である。

 しかし、当然中身は酷いもの。

 もらっても何も嬉しくないプレゼントである。



「すまん。

 だが、どうにもならんのだ」

「ええ、分かっております」

 父が悪いのではない。

 悪いのは父にこのような仕置きと仕打ちをしている幕府である。

 なので父を責めることは出来ない。

 出来ないが、愚痴はどうしてもこぼれてしまう。



「俺、何か悪いことをしたんでしょうか……」

「そうさなあ。

 強いていうなら…………上手くやり過ぎてしまったことかな」

 ご無体なことである。



 こうして新たに押しつけられたガラクタの再生作業が始まった。

 藩の改善に着手した15年。

 まだまだ苦難は終わらない。



 ただ、基盤があるのは心強い。

 既にトモヒデの出身地は実り豊かな山地となっている。

 ようやく経営が上向き始めた摂取した藩も利益が出てきている。

 残務処理が山積みの二つの藩も、こうしたまともな収益物件があれば、どうにか抱えられる。



「まあ、再生が出来たら、利益になる」

 5年前も抱いた考えを再び口にして、山盛りの問題へと突入する。

 そんなトモヒデの姿は、巨大な軍勢立ち向かい英雄そのものだった。

 槍や刀、鎧の代わりに、筆とそろばんを手にして。

 押し寄せる敵兵ではなく、送り込まれる報告書を相手にしていく。

 その姿は修羅そのものだった。



「お労しや……」

 その姿を知る近習と、その話を聞く関係者は涙を浮かべた。

 彼らは知っている。

 トモヒデが自分の領地のためにどれほど頭をしぼり、手足を動かしてきたのかを。

 その結果が今である。



「我ら、ただご恩に報いるのみ」

「おう!」

「おう!」

「おう!」

 落ちぶれていたかつての生活が何はともあれ上向いている。

 そうしてくれたトモヒデのため、臣下や部下や取引先も汗と涙を流していった。



 トモヒデを知るのは周囲の者だけではない。

 噂は隣藩にも及んでいる。

「話に聞く希代の麒麟児か」

「荒野の慈雨と噂の名君か」

 経営再建の話は誰もが耳にしている。

 それを成し遂げた男が自分たちの所にも来てくれた。

「ならば………… !」

 わずかな期待を抱き、やれることに手をつけていく者も出て来る。



 あらたに加わった2つの藩には金も資材もない。

 人材といえるような人もいない。

 産業もない。

 しかし、トモヒデを信じた者はいた。

 彼らはもしかしたらという希望だけを糧に、没落した己の故郷を再建していった。



 結果は著しいものだった。

 3年が経つ頃には、どうにか衰退も泊まり。

 5年目には目立って経済指標は上向きを示した。



「よくぞここまで」

 代替わりして父から大名を譲られた腹違いの兄。

 彼は参勤交代でやってきた地元の成果に感動をあらわにした。

「ろくに報いることも出来ずに、しかしこれだけのことをやり遂げた。

 お前にはなんと礼を言えばよいのか……」

 どれほどの賞賛も感謝も、トモヒデの苦労を思えば全く釣り合わない。

 さりとて、礼に何かを渡そうにも、贈れるものもない。

「ふがいない大名ですまぬ」

 ただただ頭を下げるしかない兄だった。



 だが、さすがに手ぶらで帰すわけにもいかない。

 なので、兄はトモヒデに告げる。

「今更であるが、お前にはこの藩を与える。

 名目上の大名は余であるが。

 実権はお前が握れ」

 今までと変わらないと言える。

 だが、大名自らが口にしたことは大きい。

 しかも、後ろ盾になるのではない。

 実権を渡したのだ。

 藩の権利も富も思いのままである。



「ならば、好きにします」

 トモヒデは遠慮などせずに受け取った。



 かくてトモヒデは9万8000石の大名になり。

 その権限を使って己の領地を更に調えていった。

 この治世の間に、実質的な石高は11万石ほどにまでなった。

 工業商業の利益を加えれば、更に跳ね上がる。

「全てを合わせれば15万石」

「いや、20万石は下るまい」

 そんな世評が様々なところから上がる。

 藩だけでなく、周辺を含めた経済圏でみれば、確かにそれくらいにはなるだろう。



 そうこうしてるうちに老境になった。

 さすがにもう仕事に打ち込める年齢ではない。

 成長した部下や子供に後をまかせて引退。

 今はのんびりとした隠居生活である。

 退屈なまでに平穏な日々。

 その中で、ふと天守閣に経って自領を見下ろしていた。



「本当に、よくぞここまで」

 トモヒデの眼下には発展した城下が広がっている。

 トモヒデの出身地である藩。

 その中心地である町は、かつての倍以上にまで拡大してる。

 初めて見た時よりも人も物も格段に増えている。

 そして、人々の表情が明るい。



 衰退する一方だった藩は、今では日々の賑わいが続く繁盛ぶりだ。

 景気がバブルのように大きくなってるわけではない。

 毎日行われる様々な活動が賑わいを支えてるのだ。

 これは山の中にあることが大きな理由になっている。



 かつては山の間に流れる川の周囲にひろがるだけの小さな藩だった。

 だが、山の恵みを大量に算出することで強みが生まれた。

 他の藩では産出できないこれらが多くの取引を呼ぶ。

 結果、山の中と他の藩をつなぐ場所にある城下町に物も人も金も集まる。



 おかげで町は拡張に次ぐ拡張。

 山の幸を買いに来る商人と、それらを相手にする町人。

 そして山から産物を持ってくる現地民。

 これらが常に入り乱れている。

 この取引がもたらす経済効果と税収は、もはや石高以上になっている。



 その余録をトモヒデは受け取っている。

 税収の増大は報酬の増加につながる。

 手にした金でトモヒデは豊かな日々をすごしてる。

 これまでの努力を考えれば当然である。

 衰退したり崩壊した藩を救ってきたのだ。

 贅沢くらいは当然の報酬だ。



 あとは無理せずこの調子を保って欲しい。

 これがトモヒロの願いだ。

「俺が死ぬまでくらいはな」

 誰にともなくそう願いながら賑わいを見つめる。

 これがいつまでもどこまでも続くようにと。



 その願いは、ある意味果たされ、ある意味ついえることとなる。

 時代の流れと共に。



 トモヒロが成し遂げた藩の再建。

 これにより9万8000石といういささか中途半端な国大の藩は、幕末まで豊かさを保つことになる。

 トモヒロの名前は中興の祖として名を残し、後に偉人として伝記にもなる。



 しかし、海外の勢力が国に及んできた時代に、遂に終わりを迎える。

 幕末期、様々な勢力争いの中、トモヒロの子孫達は幕臣として活躍する。

 もとより奇跡の復活を成し遂げた藩として幕府も一目置く存在。

 その精神と気骨を受け継ぐ者達は、幕府の存続のため粉骨砕身の気迫でことにあたった。

 おかげで朝廷側の勢力は壊滅。

 天皇を頂点にいただくことにはかわりないが、貴族ではなく武家が中心となった国家体制を作り上げた。



 これにより国の再構築が行われていき。

 流通経路なども大きく変わった。

 トモヒロの藩は、この中で経済の中心や流通路から外れてしまい。

 割と繁栄してる地方都市の一つになっていった。

 需要が消えたわけではないが、山の産物はさして珍しくもなくなったためだ。

 似たような産物は他でも得られるようになったのも大きい。



 衰退や没落する程ではないが、幕府時代ほどには豊かではない。

 そんな地位に落ち着いていった。



 ただ、トモヒロが設立した学校。

 これが人材育成の拠点となった。

 これが発展した大学や研究施設などが、国の科学基盤を支える一柱になっていく。

 これは後の時代でも続き、国内研究機関の中では最高峰を競い続けていく。



 これはやがて小中高に大学に専門学校などを含む巨大な学園都市となっていく。

 ここから輩出される人材は、国内外に大きく名をとどろかせていく。

 この学園都市を支えることで、周辺地域の経済も保たれている。

 食料に生活用品、そして様々な工業品。

 トモヒロの時代に基礎が作られた各種産業は、学園都市に様々な文物を提供してる。



 そしてここで育った人材が後の国を支えてもいった。

 海外勢力との接触による開国。

 隣接する大国との最初の戦争。

 続くもう一つの大国との戦争。

 更に海を挟んだ遠くにある大国との戦争。

 これらを勝利に導き、国に繁栄を作り出していったのは、まぎれもなく学園都市の人材達だった。



 これもあり、トモヒデの存在は国の内外に密かに知られていった。

 国を支えた偉大なる存在。

 彼らの出身地や学び舎。

 それがほぼ一つの学園都市であること。

 これに驚嘆をおぼえる者は多い。



 そして、その礎を作ったのは誰か?

 そう思った者達は常にとある男に行き着く。



 山境トモヒデ。

 名もなき小さな藩を繁栄に導いた男。

 その後の栄光の機転となった存在。

 戦争を用いない発展の生きた見本。



 その存在は、統治のあり方を求める者達にとって最高の研究対象となっていった。

 何より、政治に経営に運営に携わる者達にとって最高の教科書となっている。



 そんな中、委細を放つ研究対象がある。

 トモヒデが残した日記だ。

 ここには政治や経営運営とは違ったトモヒデの一面が記されている。

 常に繰り返される愚痴の数々だ。

「もうやら」

「助けて」

「しにたい」

「バカバカ馬鹿、こんな贈り物をくれた人の馬鹿」

 などなど。

 こういった言葉を並べた日記は、非凡な統治者ではない、ごく普通の人間としての姿を見せてくれる。

 これには様々な者達が苦笑を浮かべ。

 そして、いつの時代も変わらない苦悩と苦労に共感をよせる。



「結局は、彼も一人の人間だった」

 誰かの放ったこの感想が、トモヒデという二元をよくあらわしてた。




 これも連載に出来たらなあと思ってる。

 時間があればね。



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ファンティアであとがきっぽいものを出した。


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ファンティアであとがきっぽいものを出した。


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