夜鷹のあたしと「キング」のあなた
今はひとり。
夜鷹みたいなあたしは新宿ゴールデン街の自分の店のカウンターに立って客を待っている。
「まだ8時か…。」小さい溜め息をそっとついた。
今から仕事や人生に疲れた人を癒すためにあたしは働く。
この街で、この仕事がしたくてずっと頑張ってきた。
着物を着て、年甲斐もなく黒髪でおかっぱのあたしはいつもかわいい。
そうじゃなくても、そう思わないとこの街では生きていけない。
そう、この新宿の狭いいとおしい「ジェントル・ビースト」な街では…。
…カランカラン
店のドアが開いた。 「いらっしゃい~♪」
冷蔵庫から氷を出しながら振り向くと、店に来たのは「キング」だった。
「…。久しぶりですね…。」
…時が止まる。
キングはいぶかしげにゆっくりと椅子に座ると、重い口を開いた。
「…。いいな…。お前は。やっぱり…。」
?????
5年ぶりにあって意味がわからない。
まぁ、元々意味がわからない事だらけの人だけど…。
あたしが、びっくりして時を止めているとキングはあたしの目をじっと見つめてこう言った。
「お前…。本当にいい女になった。」
不意に畳み掛けられたキングの言葉にまた時が止まる。
あたしの鼓動は全身に響いている。
「…。ありがとうございます…。何、飲みますか…?」
「話しをちゃんと聞けよ!」
意思の強い言葉をまた畳み掛けられた。 今度は激しく。
「じゃあ、何て言えばいいんですか…?」
顔が紅く火照っていくのが自分でもわかる。
「…。5年前の事覚えているか…?
俺がお前に説教して、お前に伝わらなかった時の事だ。」
「はい。」
下を向きながら答えた。
未だにあの事件を思い出すと胸が痛い。
あの頃は…。