第1話 社畜卒業したはずが、始業チャイムが鳴り響く
ブラック企業で働くこと、実に7年。
朝は5時出社、帰宅は終電。休日?何それおいしいの?
上司に怒鳴られ、同僚は過労で消え、俺の心はとっくにサヨナラしていた。
「……もう無理。異世界とか転生とかでいいから、とにかく……働きたくねぇ……」
そうつぶやいて、会社のソファで寝落ちした俺。
——そして目を覚ましたら、知らん草原だった。
「おめでとう!あなたは異世界に転生し、伝説のヒーローに選ばれました!」
「やった!!これで残業から解放される!!!」
……と思った俺が、バカだった。
休みゼロ、報酬ゼロ、命の保証もゼロ!?
こっちの世界もブラックかよォォォォ!!!!
でも俺には——
【社畜生活で培った異常なストレス耐性】
【そしてチート級のサボりスキル】があるッ!!
これは、“働かずに世界を救う男”の、異世界ゆるふわ労働革命物語である!
「……はぁ……」
深夜2時、俺はオフィスの隅でため息を吐いていた。
終電はとっくに消え失せ、タクシー代はもちろん自腹。今日の残業代?もちろんゼロ。上司の「やる気が足りない」講座付きで実質マイナスだ。
「このまま俺、死ぬのかな……」
なんて思いながら、会議室のソファで眠りに落ちた——。
⸻
目が覚めた瞬間、俺は直感した。
ここ、オフィスじゃねぇ。
青い空、緑の草原。鳴き声は鳥。耳元の騒音はクソ上司じゃなくて、何かの角笛だった。
「目覚めたか、勇者よ!」
振り返ると、白い髭モジャのジジイがドヤ顔で立っていた。
後ろにはピカピカの鎧の騎士と、おっぱいがバグった美少女エルフが控えている。
「勇者って、俺?」
「そうだ。お主はこの世界を救う【伝説のヒーロー】として召喚されたのだ!」
「……あー、はいはい、異世界転生ってやつですね。流行ってますもんね。」
意外と冷静な俺。もう社畜生活で現実が地獄だったせいで、多少の異世界転生くらいじゃ動じない。
「さて、ヒーロー様にはさっそく【魔王討伐】の任務がある。こちらが仕事内容の説明書だ。」
そう言って渡されたのは、**“ヒーロー業務規定”**なる分厚い書類だった。
パラ……(めくる)
【労働時間】24時間シフト制
【休日】基本ゼロ(魔王討伐完了次第取得可)
【報酬】基本無報酬、世界平和という達成感
【福利厚生】なし、命の保証も自己責任
【残業】無限、強敵の出現により増加あり
「いや、ちょっと待て。」
俺は書類を投げ捨てた。
「これ、ブラック企業より悪化してねぇか!?」
髭ジジイは当然のように頷く。
「当たり前だ。この世界には労働基準法などない。我らが王の命令は絶対、ヒーローの使命は無限!感謝しろ、崇められるだけマシだ!」
「社畜時代から進化してねぇじゃん!!!」
⸻
この瞬間、俺は決意した。
もう社畜には戻らない。魔王?知らん。ヒーロー?名ばかりで充分だ。
俺が目指すのはただ一つ——
“異世界サボりライフ、爆誕”
目指せ!週休七日!労働ゼロ!異世界自由人生活!
——しかしこのあと、ヒーロー業務開始の朝礼に強制連行されるとも知らず、俺は草原で空を見上げてニヤついていたのだった。
【続く】