ウォードルス王国
賢者たちは長距離転移魔法陣によりストルム王国からウォードルス王国のギルドに来ていた。
「お待ちしておりました。私はギルドマスターのシアンと申します。ストルム王国国王、フェン・ウォルク様より皆様について伺っております。王城へと案内させていただきます。」
「ありがとうございます。」
白が礼を言った。そしてシアンによって王城へと案内された。
モンスターの襲撃にあったと聞いていた為、被害が甚大であると思っていたが、白たちが見た光景は何の被害も受けていない街並みだった。
城門を通り、王城内にある玉座の前の扉へやってきた。
「ブラウ・レーヴ王、賢者の皆さまをお連れしました。」
「入れ。」
扉をノックした後、賢者たちはシアンに誘導され玉座へと入って並んだ。
ブラウ・レーヴ王は金髪碧眼とアルスのような特徴があり、一目で親子であることが分かる。
「よく来た、賢者達よ。イリス女王たちから聞いているとは思うが、今一度この国の現状を話しておこうと思う。この国は今モンスターの襲撃に遭っている。それも一つの場所だけではなく、王都南部と西側にある港町の南部の二か所だ。これまでに何度か襲撃があったが、この二か所以外での被害はない。モンスター共は夜にゲートからやってきている。モンスター共の討伐とそのゲートの破壊をそなたらに頼みたい。」
「承知しました。しかし、そのゲートについてよく知らないので、何か情報はありますか?」
「そうだな、ゲートは物理的な攻撃や魔法がすり抜けてしまうという特性がある。どうやら一方通行になっているのではないかと我が国では予想されているが...我々でも多くのことは分かっていないのだ。すまない。」
「いえ、謝らないでください。突然現れた未知の現象なのですから、分からないのは当然です。それでも私たちに任せてくださるという事なので、ご期待に添えられるよう尽力して参ります。」
「そうか、そなたらが来てくれたおかげでこちら側に割いていた戦力を港町の方へ送ることが出来る。港町には“ルナ”というそなたらと同じマスターランク冒険者が居る。そちらのことはルナ殿と我が国の兵に任せ、王都南部に出現するゲートについてはそなたらに一任するとしよう。」
ウォードルス王国の現状と、ゲートという存在について話すブラウ王に対して、白は丁寧な言葉で話した。
白以外の賢者たちはそんな白の丁寧な話し方に少し驚いていた。
「...話は変わるが、アルスはどうだ。そなたらの役に立っているか?」
「勿論です。アルスk...アルスが居なければ成しえなかった事もありますし、普段から落ち着いた様子で冷静な状況判断など、私達にはなくてはならない存在です。」
「そうか、役に立てているならよい。アルスよ、カルミアやユミトは元気にしておるか?」
「はい、2人とも相変わらずです。」
「そうか、こちらの事が落ち着いたら会いに行くとしよう。それでは賢者達よ、ゲートは夜に出現するため、それまではこの国でゆっくりしていくとよいだろう。では頼んだぞ。」
国王という立場ではあるが、久々に会った自分の息子の様子が気になり、白に尋ねた。
白はアルス愛が前に出そうになるのを抑えつつ、自分たちにとってどんな存在であるかを語った。
ブラウ王は白の話に満足すると、アルスに一言応援の意を込めた言葉を伝えた。
そうして国王への謁見を終えた賢者たちはシアンにギルドが管理しているあきやに案内された。
「いや~白があんなかしこまった話し方するなんて、ちょっとびっくりしたよ。」
「アルス君のお父様の前だったし、任せられるお姉さんとして当然の振る舞いかなって。」
シエルがブラウ王と白の先程の会話を思い出しながら白に話すと、白はドヤ顔で答えた。
その事を聞いたアルスが若干呆れたように、
「やっぱりそういう魂胆でしたか。何となく予想はしてました...」
と小声でこぼした。すると何かを考えていたヘスティアが手をたたき合図をすると、皆に向けて話し始めた。
「それじゃあまずは情報収集からしていきましょうか。アルスならここの土地勘もあるでしょうし、私とアルスで行こうと思うのだけど。」
「アルスが行くなら私も~」
「2人が行くならお姉ちゃんも行くよ!」
「...分かったわ。じゃあ私達4人で行ってくるから、ソイルたちは留守を頼むわね。」
大人数で行動するとより目立つと考えたヘスティアは、最初は2人で行こうと思い提案したが、やはりというべきかエリスと白も同行すると言った。
少し考えた後、エリスと白の同行を許可しソイル達3人に留守を頼むとソイル達3人はそれぞれヘスティア達4人に対して適当な返事を返し、見送った。
それからしばらくして日が傾き始めた頃、情報収集を終えたヘスティア達4人が家に戻ってきた。
「私達の方で情報の整理が出来たから、説明するわね。まずゲートについては国王様が言っていた通り、魔法・物理攻撃が通じない。それでもおそらくは何か特別な力、例えば特異能力とかそういった力であれば破壊できるはずよ。それから、ゲートが一方通行じゃないかって話だけど、深手を負ったモンスターが戻ろうとしても戻れなかったという話があったから、ほぼ確実ね。」
「戻ろうとするモンスターもいたのか。」
「数は少ないらしいけど、ランクの高いモンスターも現れるみたいなんだよね。特に中央のゲートに多く現れるっぽい。」
ヘスティアの説明を少し聞いたところで気になる部分があったソイルが質問すると、それに対しては白が応えた。
「説明に戻るけど、王都南部のゲートは小さなものが3箇所、港町の方には大きなゲートが1か所出現するらしいわ。それと、出現するモンスターの総数と種類がほとんど同じみたいね。」
「要するにゲートの向こう側は同じ場所かもしれないってことか~。」
話を聞いていたシエルが憶測ではあるもののぽつりと言った。
先に情報を整理していたヘスティア達も同じ考えに至った様で、シエルの発言に対して頷いていた。
「そこでだけど、出来るだけゲートがらモンスターが出現し終えた状態でゲートの破壊をして貰うわ。その為に国王様には兵士達を防衛に回してもらって、私達はカモフラージュの魔法を使って待機するつもりよ。あとは誰がどこに行くかだけど、内陸側にあるゲートには防衛に適した魔法が使えるソイルと、ゲートを破壊するためにシエルに行ってもらうわ。中央のゲートにはゲート破壊のために白、それから私とゼータで行くわ。海岸側のゲートはアルスとエリスに任せるわね。」
整理した情報をまとめて作戦を立てていたヘスティアは既に準備している事と、自分たちがやることを皆に伝えた。
「え~私アルス君とエリスちゃんと別なの?」
「戦力を考えたら自然とそうなっただけで、嫌がらせとかではないわよ。それに2人は白が思ってるよりもしっかりしているのだからいいじゃない。」
「そうだよお姉ちゃん。心配しなくても大丈夫!」
「ん~エリスちゃんがそう言うなら...頑張ってね。」
言われた人員配置に不満そうにしていた白だが、ヘスティアとエリスによってなだめられた。
それとは別に、シエルとゼータがコソコソ何かを話していた。
「シエル、ソイルと一緒だからって変な事しないでね。抜け駆けは許さないから。」
「だ、大丈夫だよ何もしないって~。」
「...ならいいけど。」
「各自対処が終わり次第王都の防衛に当たるように。それじゃあ行きましょうか。」
それでも少し不機嫌そうにしていたゼータだったが、シエルから離れて白の傍に移動した。
一緒に行く者同士で集まると、ヘスティアが話しを終え、それぞれはゲート対処のために出発した。
賢者たちは夜、それぞれのゲートが発生する地点へと来ていた。
作戦通り、出来るだけ多くのモンスターたちが現れるまで待つようにし、奇襲をかけるような形となった。
まずはソイルとシエルが居る地点で戦闘が起こった。
「ラオムディテクション、ディメンショナルクレアール」
シエルがゲートを含むエリアを展開し、ソイルの目の前から多くのモンスターやゲートと共に消えた。
「フィズインクリース、エンチャントフェルス、セターレ:護衛モード」
事前に言われていたソイルは特に驚いている様子もなく、ただ戦闘の準備はしていた。
スキル空間内に入っていたシエルは、多くのモンスターと対峙していた。
「ん~あれ使った方が早く済みそうだけど、魔力がな~...まぁいっか。ディメンションブレイク」
創り出されたスキル空間が一瞬にして消えると、シエルは再びソイルの目の前に戻ってきていた。
ゲートや多くのモンスターは消えていたが2体ほど残っており、疲れた様子のシエルはよろけると、ソイルに寄り掛かった。
「あ、ごめんお兄ちゃん。」
「お疲れ、後は俺に任せてシエルは休んでおけ。」
一瞬にして数十体ほどいたモンスターをほぼ殲滅した自身の妹を労うように頭をなでると、シエルは頬を染めながらも嬉しそうにしていた。
「(ラピスソルジャーが2体、ワールドギルドに報告したらプラチナランク案件だろうな。)」
ソイルはシエルを岩陰に座らせると、近くに3つの[[rb:十字型戦略機 > セターレ]]を置き、剣を持ち残った2体のモンスターの方へと向かった。
「フェルスバインド」
片方のラピスソルジャーに対して魔法を放つと、岩でできた根がモンスターを拘束した。
そしてもう片方のラピスソルジャーの元へ向かうと、ラピスソルジャーはソイルに向けて斧を振り下ろしたため、ソイルは斧を左に回避しつつ相手の右脚を剣で斬り裂いた。
本来岩のように固いはずのラピスソルジャーの脚はいとも簡単に斬られ、ラピスソルジャーは体勢を崩し倒れかけていた。
そこから背後に回ったソイルは、振り向きざまに剣を横に振りラピスソルジャーを斬った後、コアがあるであろう部分に向けて斬り上げ、一体目のラピスソルジャーを討伐した。
ちょうどその時、拘束していたもう一体の方が拘束を解き、ソイルの方へと走ってきて斧を振り下ろした。
ラピスソルジャーの斧をソイルは片手で持った剣で防いだ。
その衝撃により砂埃が舞い地面には少しひび割れが出来ていた。
ソイルは防いだ斧をはじき返すと、剣の持ち方を変え投げ槍のようにラピスソルジャーに向けて投げ、体を破壊した。
投げられた剣は2体目のラピスソルジャーが消滅した後ソイルの手元に戻っており、ソイルは剣を仕舞うとシエルの方へ向かった。
「終わったぞ。」
「お兄ちゃんお疲れ~」
ラピスソルジャーを倒し終えたソイルにシエルが抱き着いてきた。
ソイルは再びシエルの頭を撫でると、やはりシエルは頬を赤く染めていた。
「こっちは終わったし、王都に戻るか。」
「もう少しだけ休ませて~」
「戻った後でも休めるだろ。」
「だめなの?」
「...分かったよ。」
シエルは上目使いで頼まれたソイルは断れず、少しその場に残ることにした。