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「ちょちょ……待ってくださいよ、藤宮先生!」

 藤宮先生は私を完全に無視して歩き続ける。

「待ってくださいってば! 藤宮先生!」

 藤宮先生の手を掴み、全体重をかけてなんとか引き止める。

「……口答えはしない」

 (たしな)めるように藤宮先生が言う。

「いや、今のはさすがに……! 藤宮先生の説明があまりにも非常識だから!」

「非常識だと……?」

 藤宮先生から、表情と敬語が消えた。

 鬼すら逃げ出しそうな形相の彼を前に一瞬ビビるが、ここは引いてはいけないと自分を持ち直し、負けじと藤宮先生を睨み返した。

「あ……あの言い方では、患者さんは冷静になるどころか余計に混乱してしまいます! もう一度きちんと説明を……」

 流れるように自己紹介を済ませて話を戻すと、藤宮先生は呆れたように息を吐いた。

「馬鹿なんですか」

「ば……」

(馬鹿ですと!?)

「では、質問です」と、藤宮先生は抑揚のない声で言う。

「私には質問禁じたのに!?」

「口答えも禁止したはずですが、先に破ったのはあなたですよね」

「ぐっ……」

 ぐうの音も出ない。

「彼女の病の特徴は?」

「……由美さんの場合は、急性大動脈解離A型。上行大動脈じょうこうだいどうみゃくに解離があり、治療方法はオペ一択。由美さんは慢性的な高血圧。予後も不良と思われます」

「つまり、今は血圧コントロールでなんとか落ち着いていますが、彼女はいつ爆発するか分からない爆弾を体内に抱えている」

「それはそうですが……」

「一刻も早くオペをしないと、彼女は死ぬんですよ。悠長に患者の家族に気を使ってる暇なんてないと思うのですが」

「だったら……だったらどうしてあのような説明をするんです! あの説明では患者も家族もオペに希望を抱けません。あの説明でオペをしてほしいなんて言える患者さんはいないと思います。藤宮先生なら、由美さんを助けられると思います。それなのにどうしてもう少し柔らかい言い方ができないんですか」

「できないのではなく、しないんです」

「……自分で自分の評価を下げてどうするんですか」

 藤宮先生は強い口調で言い放った。

「評価なんてどうでもいい」

「そんなことありません。患者が医師を信頼できなければ、医師は患者に最前の医療を提供できません」

 藤宮先生は目を伏せ、苛立ったように息を吐く。

「……そうですか。分かりました」

 藤宮先生はあっさりとした口調で、信じられないセリフを吐いた。

「俺のやり方に納得できないなら、音無先生があの患者を見ればいい」

「……は!? 患者を投げるんですか!? 藤宮先生の患者さんですよ!?」

「俺は患者に時間を割くことはしても、患者の家族まで見ていられない。俺はあなたと違って暇じゃない。そこまで言うならあなたが彼女たちを助けてやったらいい」

 藤宮先生は冷ややかに言い捨てて去っていった。

「嘘でしょ……」

 私は絶望的な気分で、藤宮先生の背中を見送った。

(私はこれまでずっと、あんな人に憧れてたの……?)

 拳を強く握る。

 しかし、呆然としている暇はない。一刻も早く、オペの同意書を持って藤宮先生の元に戻らなければ。


 

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